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8章 頼り切った者たち

8-14 ソイ王国の王都

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「人多いなあ」

「おのぼりさんと化すな、コレ」

「建物高いな」

「王都すげえ」

「迷子になる」

 迷子?
 子なの?
 迷うでいいじゃないか。
 それぞれが王都の感想を口にする。

「はぐれたら冒険者ギルドで落ち合うことにしよう」

 ソイ王国の国民であるグジたち十三人も王都には来たことがなかった。
 国土が広い国の王都なのだから、それ相応の広さがある。
 人の賑わいもウィト王国の比ではない。
 ウィト王国の王都はお上品って感じがするが、人が多いからかソイ王国の王都は雑多な印象も受ける。

「帝国の帝都はもっと盛大ですけど」

 ボソッと呟くルイジィ。
 笑顔で張り合うな。

 俺も金髪のカツラを被っている。
 白髪は高齢の者に多いが、若者では白髪も銀髪もいない。
 銀髪というのは目立つ。

「まずは冒険者ギルドにでも行くか。ある程度歩き回って土地勘を養おう」

「ああ、そうだな。まずは討伐した魔物を買い取ってもらって、この盗賊捕獲証明書を渡そう」

 グジが束になった紙を持つ。
 盗賊捕獲証明書とは、文字通り盗賊を捕獲した証明書である。
 王都内部に盗賊をそのまま入れるわけもない。
 王都の外壁の門のところで、盗賊を警備隊に受け渡すのである。
 そこで盗賊の名前が入った証明書を発行してもらって、それを冒険者ギルドに渡せば懸賞金なり何なりもらえるわけである。

 王都周辺はカモが多いと思われているのか、狩ってくださいとばかりに盗賊が出没した。
 襲ってくるのなら、捕まえるよね。
 グジたちは冒険者のなかでも強そうに見えるし、何なら馬車移動しない者の荷物なんてたかが知れているのに。
 もう少しお金を持っていそうな団体を狙えばいいのに。
 俺たちが他を助けて、ということは一切なく、盗賊たちは俺たちの一団を襲った。
 不思議な現象だ。

 盗賊でも何か緊急にお金が必要なことが重なったのだろうか。
 俺からすると商人の馬車の方がお金か、お金になりそうな品物を持っていると思うのだが。

 広い国土だから広い王都というのも頷ける。

「夕方になってしまったな」

 冒険者ギルドに着いた。
 距離的にはそこまでではなくとも、通りには人や馬車が多い。十五人でまとまって歩くのも一苦労。物売りや屋台も多く、目を奪われるし、時間がかかった。
 土地勘を養うために大通りから行こうとしたからか。

 冒険者ギルドの建物としては、大きくて荘厳な造りである。
 冒険者のためというよりは、依頼者のためという感じがする。
 ここは外壁の門の近くではなく、中央寄り。平民が自由に出入りできる地区で最も中央寄りの場所だ。
 この国の冒険者はほぼ平民なので、貴族区に冒険者ギルドの建物を建てることはできない。

 ソイ王国はウィト王国よりも身分の差が激しい。
 貴族が区別をつけたがる。

 冒険者ギルドでグジが代表してカウンターに行き、魔物の買取と盗賊の件の処理をする。冒険者ではないが、ルイジィも一緒に行かせる。監督役で。

 グジを待つ間に待合室のテーブルで王都の地図を広げる。

「お前たち、この冒険者ギルドまで道筋は覚えたな。直線で行こうとするなよ。裏通りは袋小路も多い。迷ったら混雑していても大通りに出ろ」

「おうっ」

 皆、返事だけは良いんだが。。。

「そういえば、王都で泊まる宿は決まったのか?ルイジィと相談していたようだが」

「ああ、どうするか。貴族用の宿って堅苦しいよなあ。一泊の値段も高いし」

 一応ソイファ王太子殿下に打診した。
 頼むから俺の固有魔法を他人にバラすなとお願いされ、夢幻回廊ではなく別の宿を手配するし、ルイジィというよりイーティに気を使った手段を考慮すると言ってくれた。

 さすがは王太子。国王の跡継ぎだっ。

 けれど、ソイファ王太子殿下が人好きのする対応をするわりには、この国は差別が大きいように思う。
 王都の門でも貴族専用の出入口があるし、飲食店でも貴族は奥の個室に案内され区別されている。
 大通りでも高級な馬車が優先して走っていく光景を目にする。

 貴族が平民が多い通りを歩くことは少ないようだが。。。

「待たせたな」

 グジが書類を持って来た。後ろにルイジィが含みのある笑顔でついてくる。

「魔物は量が量だったから買取価格は明日の昼に出る。盗賊の方は懸賞金を受け取った。あと、今日の宿だが、冒険者ギルドが今までの働きぶりを考えてくれて三泊ほど宿をとってくれた。全員の宿泊料は冒険者ギルド持ちだ。ここから数分の距離の宿だ」

「冒険者ギルドが考えてくれたか」

 俺が言うと。

「冒険者ギルドが動いたように見せかければうまく行くと思っていたら間違いですからね。あのイーティ様がそんな小手先の技で騙されるわけがないじゃないですか」

 ルイジィに笑顔で文句を言われた。

「兄ちゃん、一応、王都を目的地にしていたけど、三泊しかしないのか」

「、、、いやさあ、ソイ王国の国民の前でこういうのもなんだけど、ソイ王国って小国のウィト王国よりも観光地って少ないんだよね。悪いけどもう見るべきものがない」

 戦争をやっている国だから仕方ないのだけど、観光に力を入れていない国だ。
 大自然はそこら辺にあるけど、普通の人ってそこまで行こうとは思わない。道が整備されていないから。
 山岳地域の大自然は直線移動でかなり味わったから、今はお腹いっぱいである。
 歴史的建造物とか見てみたいと思うが、、、ソイ王国は観光客が行くような建物が少ないのである。

 俺、買い物ツアーってしないし。必要最小限の必需品だけで大丈夫。
 お土産を買う人もいない。あ、イーティがいるか。でも、イーティは各国に支店を持つイー商会の商会長。何を買っても微妙じゃないか?
 彼が望んで手に入らないものなんてない。

「王都は三泊で充分ってことか」

「せっかく来たのだから、皆は王都を適当に歩いて回ったら?」

 ソイ王国の王都に俺は何の思い入れもないが、国民である彼らはそうでもないだろう。
 故郷から一旗あげたいと王都に出る者も少なくないのだから。

 この国は平民のなかにも選民意識が根付いている。
 王都に昔から住む者は、同じ平民でも他の地域からの移住者を下に見る。
 グジたちの街の住民にもあった排他的思考。
 おそらく根強い思考である。
 だからこそ、南方の国と永遠とも思えるような長い間小競り合いを続けている。

 この国は俺にとってあまり居心地が良いとは思えないのだ。

 だからこそ、ソイファ王太子殿下もオルレアを永遠の牢獄に入れたのだろう。
 アレを牢獄と言うのはオルレアだけだと思うが。

 アレは快適空間だ。
 ソイファ王太子殿下が生きている間と言う制約はつくが、素晴らしい住環境だ。
 掃除洗濯、食事の準備片付け、諸々の家事がまったく必要ないが、趣味だというのならやることもできる。台所等もあるのだから。

 もし自由に出入りできなくとも、俺は食が確保されている時点でありがたいと思ってしまうのだが。。。
 ま、オルレアにそれを言っても理解できないだろう。

「とりあえず宿屋に移動しようか」

「おうっ」

 王都の冒険者たちは遠巻きに俺たちを見ている。
 関わり合いたくない、って顔をしている。

 王都の冒険者は冒険者といえども仕事内容が違う。
 この周囲にはダンジョンがないので、魔物を狩ることは少ない。
 冒険者たちは護衛や警備などを中心に請け負っていることが多い。

 けれど、貴族や大商人は自分の雇っている護衛がいる。
 冒険者はその周囲を囲う肉壁として雇われているが、その真意を気づけず自分を売り込むのに躍起になる。
 それをさらに利用する。
 歪な関係がさらに助長される。
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