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7章 貴方に縋る

7-11 不治の病とはその国の医師が判断する

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 盗賊団の頭領グジの話をぎゅっとまとめると。

 彼らは盗賊の集まりではなく、元々は祖国ソイ王国で全員家業を継いでいた。
 だが、グジの妹が不治の病を発症し、ご近所の仲間十三人が一致団結して、彼女を治療魔導士に診せよう、という結論になった。
 小さい街の住民たちはまるで家族のようにお互いを支え合う仲で、困ったときには助け合うのが常であるそうだ。
 どこかの家族に見せてやりたいぐらいだ。

 今のソイ王国はウィト王国と友好な関係を築いているが、残念ながら南方の他の国とは戦争をしている国である。
 治療魔導士は国に召し抱えられ、王都か戦場にしかいない。
 しかも、お金があったとしても庶民が直接仕事を依頼できない。

 そこで考えたのが隣国のウィト王国。
 ここは年中平和(最強の盾以外ね)なので、治療魔導士は市井にもいる。庶民でもお金を出せば治療が受けられる。ただし、ピンキリ、使える治療魔法の効力はその魔導士の腕次第で、値段もそれ相応なのである。

 けれど、友好国とは言っても、庶民が簡単にウィト王国には出入りできない。
 ある程度、国を行き来できる者は限られており、商人や冒険者等であった。
 商人の場合、国境付近の街の商人でもなければ、大きい商会以外は認められない。
 大きい商会に雇われてウィト王国を行き来しようとすると自由がない。治療魔導士を探す暇がなくなる。

 そこで彼らが思い立ったのが、冒険者として仲間を作ってウィト王国に行こうと試みた。
 十三人とも屈強で強面集団。
 冒険者の一団として活動を開始して、数年でグジはA級冒険者として、他はB級、C級冒険者として認められた。
 一団としてはB級と評価された。
 国外にも自由に移動できる冒険者はB級以上と冒険者ギルドでも決められているので、冒険者一団としてウィト王国に入国したのだが。

 ウィト王国に入国する前に、洗脳の魔道具を購入した。してしまった。
 魔道具販売商がグジたちの話を聞き、この案に乗るのは多少心苦しい思いをするだろうが、治療魔導士に報酬を渡さないわけではないのだろう、治療魔導士を洗脳してソイ王国に連れて来てしまえば良い、その方が確実だと言って。
 自分にもカラダの弱い家族がいるからと、涙ながらにその商人は魔道具としては安すぎる値段で売った。

 そこからは本人たちには何の自覚もなく、盗賊団の真似事のようなことを仕出かしてしまったらしい。
 そのまま行けば、王都で治療魔導士を誘拐してソイ王国に連れ去っていたのかもしれない。
 そうなれば、妹を助けたいという話だけでは終わらず、国同士の諍いに発展していたかもしれない、と。




「、、、ふーん」

「えっ、嘘っ、俺たちの旅路の感想、それだけっ?」

 頭領グジが騒いでいる。
 イオさんとマーレさんも他に感想ないのかなあという顔を俺に向けている。

 十三人もの冒険者が団体でソイ王国からウィト王国に入国したのは、グジ一行だけなので、出入国管理所を魔法の盾で調べたらすぐに分かった。
 彼らの出身地等も。

 んで、ついでにオルレア留学時にオルト・バーレイがどのように出国しているのかも調べてもらう。
 通常、最強の盾は正当な手段で国外に出ることはできない。最強の剣である兄はオルレアをつかまえるために他国へと空間転移魔法を使ったが、普通は使えない、使ってはならない手段である。
 しかも、オルレアは空間転移魔法を使えない。
 オルト・バーレイがウィト王国を出国しようとすると、普通はとめられる。どこの国境でも。

 んしょんしょ、と魔法の盾にちょっと前の資料を調べてもらうと、、、ウィト王国からはオルレア・バーレイとして普通に出国していた。
 ソイ王国にはオルト・バーレイとして入国している。。。

 盲点だった。
 この方法は可能といえば、可能だ。

 ウィト王国が発行する旅券はただの一枚の紙である。出国のスタンプとか、他国の入国スタンプを押すものでもない。
 オルレアとオルトの二人の旅券を用意してしまえばいいのだから。
 バーレイ侯爵がこの件に加担しているのだから、問題ない。
 出国する予定がなくても、金を払って二人分申請してしまえばできて来るのが旅券である。

 ちなみに冒険者ギルドが発行している冒険者カードは、国に旅券を発行させる手間が必要ない。
 グジ一行もウィト王国入国時に身分証として冒険者カードを提示している。

「実はイオの旦那が兄ちゃんのために治療魔導士を呼ぶって言ってたからさあ、その治療魔導士にソイ王国まで来てもらえないか交渉しようと思っていたんだ」

 あ、それは悪いことをしてしまいましたね。

「でも、それは無理じゃないか?イオさんが呼んだのはお、、、」

 セバス氏に口を押さえられた。
 さすがは厄介な旦那様に仕えるだけある。とっさの行動が超神速。

 王族御用達の治療魔導士が国外に出るとは思えん、もごもご。

 お口が汚れてましたよ、みたいにセバス氏はさり気にハンカチで拭いた風を装われました。にっこり笑って、話すなと目が言っている。

「オルさんも治療魔法が使えるのだから、グジさんも」

「オルくんはこの国から出られん」

 マーレさんの言葉をイオさんがブチ切った。
 やっぱり俺の身元がバレてる。
 理由を知らないグジが悲しそうな顔をしている。

「ところでその前に、騎士団がこの地域一帯を捜索しているようですが」

「おや、何かあったかな?」

 イオさんって天然なのかな?
 盗賊団を全員回収したから、あそこには何の痕跡もないとマジで信じてます?

「、、、俺の血のついたシャツと髪の毛、放置してきたでしょう。あと、魔道具の残骸も」

「、、、あ」

「、、、つい」

 ご夫婦二人とも疑問に思わなかったの?
 ゴミだと思って捨ててきちゃったのか?

「旦那様、ちょうど騎士団の者が面会を要望しております」

 使用人が呼びに来た。

「そ、そうだな。我々は何事もなく無事なことを見せつけておこう」

「そうしましょ、そうしましょ」

 逃げるかのように、二人は食堂から去った。セバスもついて行く。

「兄ちゃんは治療魔法以外も使えるんだろ?相当な腕前の魔導士なのか?だから、この国からも出られないのか?」

 給仕の者もいなくなったタイミングで、グジが小さい声で俺に聞く。
 当たっていると言えば当たっている。

「、、、俺を国に連れて行くと、妹が治ったとしても面倒ごともついてくるかもしれないぞ。それでもかまわないなら行ってやる」

「えっ、いいのかっ」

 そのおめめキラキラっ、をやめような。やる気なくすから。
 この男は何事より妹が治ることが最優先のようだ。
 後でどうなるかは知らんが。

「ただし、あの夫婦にこの件は内密にしておけ。彼らにバレたら、この話はなくなる」

「お、おう、わかった」

「あと、お前ら、警備隊ならともかく騎士団がこの地域からいなくなる前に動くと捕まるぞ」

「ええっ」

「残念ながら、お前たちの顔は何もなくとも疑わしい。特にこの地域は高級邸宅が立ち並ぶ王都近郊だ」

 しかも、叩けば埃が出てしまう身の上だ。
 イオさんたちも被害を訴え出てないが、欲望のままウィト王国のどこで何をしてきたのかは謎だ。

「ううっ、、、イオの旦那のお世話にならざる得ない」

「しばらくはおとなしくしておけ」

 給仕が戻り、デザートが出された。
 さすがは前国王夫妻。良い料理人を雇ってらっしゃる。




 冒険者カードは世界で一番偽造しにくい身分証と言われている。
 だからこそ、国家間の移動も冒険者カード一枚でスムーズに行われる。

 オルレアの身代わりは闘技大会で終わったと思ったが、ウィト王国を俺が出国するにはオルレアに扮するのが一番楽なようである。
 バーレイ侯爵のように二人の旅券を手に入れることができないので、冒険者カードに一工夫する必要がある。

 冒険者オルト・バーレイを魔法で冒険者オルレア・バーレイにして出国する。
 そして、ソイ王国に入国するときにオルト・バーレイにカードを戻す。

 いやあ、思ったより簡単だね。
 うん、オルレア・バーレイの表示にできた。何の違和感もないっ。

 銀髪のつけ毛って手に入るかな?
 血がついていてもあの長い銀髪を回収しておいてくれれば、俺が使えるように何とかしたのに。
 いざとなれば長い髪は切ったと言えるので、問題はないだろう。


 で、魔法の盾が報告してくれた。

 グジの妹の病気は、ウィト王国では不治の病でも何でもない。
 ウィト王国で普通に治療を受けられれば治るものだが、ソイ王国ではまだまだ不治の病と医師に言われてしまうものなのだろう。
 戦争といってもウィト王国から離れた国境付近の小競り合いの程度だが、怪我の治療に追われる医師の教育もそこまで進まなくなる。
 ソイ王国にもイー商会から薬が入ってきているはずだが、災害ならともかく争いのある国ではイー商会もほどほどにしか活動しない。
 ソイ王国では必要な薬が庶民には行き渡らないのが現状だ。
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