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7章 貴方に縋る

7-10 盗賊になる動機

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「兄ちゃん、俺でもさすがに傷つくぜえ、その反応は」

 はっ。
 ついつい壁際まで逃げてしまった。
 だって、強面の顔が、お願いっ、おめめきゅるるんっ、ってしたら逃げるよね。
 何でそんな態度を取った?
 自分を鏡で見たことないのか?
 気持ちが悪いだけじゃないかぁっ。
 承諾してくれようとしていたヤツも世界の果てまで逃亡するぞ。

 一応、話は聞くけど。

「ええっと、誰を治療したいんだ?」

「そうだね、彼の話は長くなるから、昼食を一緒にしながらにしよう」

 旦那が質問を遮った。
 俺は誰というのを答えてくれるだけで良かったのだが。
 詳細な説明文はいらないのだが。。。

「キミはまず身なりを整えさせてくれ、セバス」

「はい。では、オル様、こちらにどうぞ」

「え?」

 セバスの腕力では俺は動きもしないはずなのだが、ぐいぐいと押されていく。
 この人、聞き分けのない旦那様と奥様に苦労させられてきた臭がするぞ。
 腕力ではない謎の力の使い方を見た気がする。

 別の部屋に連れて行かれた。

「お風呂に入ってください。その間に着替え等ご用意させていただきますので。それとも、お一人では湯船に入れないほどのやんごとない家のご出身とか?」

「いえ、一人で大丈夫です」

「それは良かった。この家には使用人がそこまで多くはありませんから。中に石鹸等入浴に必要なものは揃っておりますから、ご自由にお使いください」

 セバスは営業スマイルの微笑みを浮かべて、会釈して出ていった。

 圧が怖い。

 ここで逃げたら許さんぞ、って顔でした。
 おとなしく風呂に入ろう。
 脱衣場で下を脱ぐ。上半身は裸だったから。

 盗賊に仲間と思われるほど汚れているようだし。
 くすん。

 じゃぶじゃぶじゃぶ。
 これでもかというくらい汚れを落としました。
 いい湯でした。

 脱衣場に戻ると、タオルと着替えが一式置いてあった。下着とか靴とかも。よくサイズわかるなあ、というよりこの家にあったなあ。新品のようだ。
 貴族が着るような、質の良い黒の上下である。騎士学校の制服に似ているな。

 で、汚れた元の服がないなあ。
 どこに消えたのか?
 捨てられたのか?
 洗えば使えるのに。

 全裸でうろつくわけにもいかないから、用意されたものを着るしかない。

 貴重品はちっこい魔法の盾がこっそり隠れて隠し持っていた。
 身元がわかる冒険者カード等を不用意にズボンのポケットに入れておかなくて良かった。

 タオルで髪の毛をごしごし拭く。
 ハサミがあれば適当に切ってしまうのだが。

 魔法の盾がハサミをキランと輝かせている。

 、、、どこから持って来たんだか。
 適当に指示を出して切ってもらった。
 魔法の盾が満足げな顔をしているなあ。盾に顔なんてないんだけどね。
 これでオルトの髪型に戻った。
 あの髪を伸ばす魔法は頭皮を傷つけるらしいから、二度と使ってほしくない。
 ハゲたくない。切実に。

 魔剣を腰に携えて、部屋を出る。
 そのまま消えようかと思ったけど、扉の外にセバスが待っていた。。。

「、、、オル様、こちらです」

 一瞬だけ間が空いたが、すぐに案内を始めた。
 セバスは御者だけでなく、様々なことをこの家でやっているようだ。本当は執事とか?家令とか?

 セバスが扉をノックして開けた。

「旦那様、奥様、オル様をお連れしました」

「待っていたわー、、、」

 奥様が立ち上がったところで固まった。
 もしかして、オルレアの顔を知っている?
 いや、絶対に知っているだろう、貴族ならば。

 はい、モロバレ。
 身分証を隠したところで何の意味もない。
 上半身裸で男だってわかっていたのだから、双子の弟だってわかっただろう。

 あ、本当に俺、汚かったんだなあ。
 彼らの態度から風呂に入るまでは全然気づかれてなかったに違いない。
 汚かった方が素性はバレなかったんじゃないか?

「お、おう、兄ちゃん、見違えたなあ。美人さんじゃねえか。襲おうとしたアイツらの正気を疑ったが、うん、まあ、仕方ない」

 いや、それは普通に魔道具のせいにしておこうよ。
 他人の性癖は見ないフリしていた方が身のためだよ。

 アレは欲望を増幅する魔道具。無から有は生まれない。ない欲望は増幅できない。
 洗脳する魔道具だと思っていれば、誰も傷つかない。

 この人はソイ王国の出身と言っていたので、オルレアの顔なんて知らない。
 是非とも知らないままでいてくれ。
 銀髪だからって、バーレイ侯爵家の人間だってことも知らなくていい。
 この国では常識であったとしても。

 そこまで広くない食堂のテーブルには老夫婦と頭領が座っている。
 家族で食事をするための食堂なのだろうか。

「まずはオルくんに我々を助けてくれた礼を言いたい。ありがとう。で、私はこの家に住んでおり、マーレの夫をしているイオだ。是非ともイオと呼んでくれ」

 姓は言わないと?
 とはいっても、言わないからこそなんとなーく予想がつくのだが。
 引退した前王夫婦って何て名前だったのか覚えていないが、どこぞかの王族の男性の名前って、〇オってつけてたよね。
 気さくな王族もいたもんだ。
 気づいてしまえば、マーレさんはマイア様に似ているんだよ。
 いや、逆か。
 マイア様がマーレさんに似ているのか。

 姓を名乗らないということは、、、どういうことなのだろう。
 どんな意図があるのやら?

 俺のことをオルと呼び続けるのなら、俺も彼らの自己紹介に従おう。

「イオさん、礼には及びません。別にお二人を助けようと思って助けたわけじゃありませんので」

 正確な情報を彼らに与える。

「オルくんがどんな意図で彼らと戦ったのかはわかりかねるが、結果的にそのおかげで我々は助かった。その御礼としては少ないが、その服を受け取ってもらいたいし、食事も一緒にしてもらいたい」

 イオさんがにこやかに笑う顔は、あの国王に似ている。
 ついつい嫌そうな顔をしてしまった。

「奥ゆかしい人もいるんだな、この国には」

「どう都合よく解釈したら、そんな感想になるんだ?」

 頭領の考えが、俺には理解ができない。
 イオさんに席を勧められる。
 セバスさんたちが食事を運び始めたので、仕方なしに席に着いた。

「食事を振る舞ってくれるというのだから、ありがたく頂戴すればいいのに」

「、、、そういう考え方の人もいるよね」

 否定はしないが。
 何かを与えてくれる人には必ず裏がある。無償で何かを他人に与えることなど誰もしない。親ですらしないのに。

「俺より若いのに、どれだけ過酷な人生を歩んできたんだよ、兄ちゃんは」

「俺が若いって認識しているのに、何で兄ちゃん呼びを改めないのですか?」

 俺が汚れ過ぎていて、年齢不詳だったというのならともかく。
 どこかのお嬢ちゃん呼びと似通ったものを感じる。。。

「なんとなく、愛称だよ、愛称的な。おうおう兄ちゃんってよく言うだろ」

「ならず者が他人に絡むときに使われるようですねえ」

 庶民はともかく、貴族が兄ちゃんと言っている例は皆無である。言っていたら教育係に即座に直される案件である。

「ま、兄ちゃんは出会いこそあんな格好をしてはいたが、その顔立ちなら良い生まれだと思う、、、が、聞いてくれ。俺たちはソイ王国で普通に家業を継いでいたんだ」

 あの盗賊団のトップとして俺に説明をするために、ここに頭領がいるのだろう。
 イオさんたちが事情を聞いた際に、すべて説明されているはずだ。
 だからこそ、イオさんたちが彼らをここの警備隊に突き出さないという選択をとったのだろうし。

「俺の妹が一年ほど前に不治と言われる病にかかっちまってな。ただ不治といえども、腕のいい治療魔導士がいれば治る可能性があると医師に言われた。けれど、うちの国では治療魔導士は国のお抱えで、王都にいるか戦場にいるかのどちらかだ。しかも、質が良いとは言えないし、庶民が直接治療を依頼できるものでもない」

 この人の妹か。。。

 ソイ王国に放っている魔法の盾に情報収集に動いてもらうか。
 あ、三枚ほどで良いよ。全部動かなくて良いからね。悲しそうな顔するな。顔ないのに。動きで感情がわかるのも考えものだ。
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