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7章 貴方に縋る
7-8 残酷な欲望
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お金を手に入れて、冒険者専用の勝手口から再び王都の外壁の外に出る。
もちろん門番はいるのだが、顔見知りのおっちゃんたちは冒険者カードを確認するでもない。
ゆるゆるーんなのでありがたい。
もちろん見知らぬ冒険者にはキッチリ対応するが。
この方向で近くの街に行くとすぐに居場所がバレる危険性があるので、違う方角に歩く方が良い。最終目的地は帝国なのだが、直接向かうワケにも行くまい。
わざわざこっちの門から出ているのに、何でそっちに?と思わせた方が追跡にも迷いが生じるだろう。
そういや、と思い出す。
第二王子とともに乗馬した高級邸宅が並ぶ近郊の方から抜けていこうか。
あちらは警備がしっかりしているが、道を外れなければ何の問題もない。
通りを歩いている者に対して、失礼な振る舞いもしない。お忍びの貴族たちも多いので。
あまりにも不審者だったら仕方ないけど。
、、、俺、不審者に見えないよね?
魔物の返り血がシャツについているが、砂埃ですでに白いシャツが灰色になっているが、青銀色のズボンも随分みすぼらしい色に汚れてしまっているが、髪も銀髪とは程遠い汚れ塗れになっているが、、、立派な不審者じゃねえか?
魔物討伐帰りの冒険者として見られているならともかく、高級住宅地ではどう見ても。
着替え持ってきてない。
お金もできたから買えば良かったんだけど、ついつい節約志向が高いので、どこかで宿をとったら水で洗えばいいやと思っていた。
マイア様から贈ってもらった物だから、ものすごい質が良いし、動きも邪魔しない。
自分で買うとなったら、相当な金額を積まなければならない代物だ。
上着は来ていなくて正解だったのかもしれない。
アレを着ていると、どう見ても貴族の坊ちゃんにしか見えない。
慣れてきたとはいえ冒険者の目は厳しいものを向けただろう。
王都に入り直すとなると面倒だから、次の街で買おう。
王都は物価も高いし、、、という言い訳をしながら歩いていく。
朝食用の適当なパンは買っておいたので、もぐもぐ食べながら歩く。
王都とはコレでお別れだと思っても、特に何の感慨もない。
てくてくてく。
ここって警備が厳重だったはずじゃあなかったっけ?
何で一台の馬車がガラの悪いヤツらに囲まれているわけ?
朝、わりと早い時間とは言っても、この地区一帯警備しているよねぇ?
木々が適度に生い茂っているとはいえ、見渡せないわけでもないし。
「はははっ、まったくよお、甘ちゃんが多くて助かるぜえっ、この国のお貴族様にはよっ」
「護衛もつけずに馬車を走らせるなんざあ、襲ってくださいと頭下げているかのようだぜ」
大声で説明ありがとう。。。
彼らの狙いの馬車は辻馬車のような庶民が使うようなものではなく、シンプルだが上品な作りだ。乗っているのは、貴族かそれに類する人物と誰でも推測できる。
護衛が馬車の中にも一人もいないのは、一人御者台に座っている御者がどうしようかと困惑の表情を浮かべているのでわかる。
御者も馬車を捨てて逃げ出すわけにはいかない人物が馬車に乗っているのだろう。
けれど、馬車が向かう方向を塞がれ、周囲を囲まれてどうしようもない状態に陥っている。
いかついが強そうには見えない人たちなんだけど、多勢に無勢。
うーん。
どうしようかな。
警備の人に引き渡すのも事情も素性も聞かれてしまうからなあ。
「おう、兄ちゃん、何見てやがるんだ」
あ、見つけられてしまったか。
隠れてもいなかったが。
「兄ちゃんもこの国に目をつけたのか?」
「緩い国だからなあ。中に入り込めさえすれば、やりたい放題なのがいいよなあ」
「仕方ないなあ。人手が足りないから、仲間に入れてやるよ」
あれ、俺ってそっち側なの?
そう見えるの?
俺を見る御者の顔が怯えているのだが。。。
自分で思っている以上に、汚い?
魔物の返り血のせいか?そう思いたい。
正義のヒーロー気取りかっ、とか言われなくとも、せめて通行人程度に見られたかったなあ。
「兄ちゃんも金を奪いたいとか、人殺しをしてみたいとか、女を襲いたいとか、いろいろ溜まってんだろっ。素直になれよ」
「欲望に飲まれちゃえよー」
「欲望?」
そういやこの人たち、頼まれもしないのにベラベラ喋ってくれるな。
頭が緩い人なのかな?と思ったが、どうも様子がおかしい。
ガタイの良さげな中心人物は少々後ろにいて、彼らを指示を出しているようだが。
「金も女も俺たちのものにしたいよなっ」
「おおっ、俺たちのものにっ」
「まずはその馬車に乗っている者を血祭りに上げろっ」
「おおっ」
一人の掛け声に集団が同意する。
成功しそうだから気が大きくなっているのとは違い、何だろう。何かが変だ。
「やっちま」
「洗脳の魔道具?」
ボソッと呟くと、言葉を中断して中心人物が俺を見た。
「何だ、この存在を知っている者がこの国にもいたのか」
、、、手に持っているのが、そうだったんですかね?
あてずっぽうで言っただけだったのですけどね。
周囲の人たちはいいように使われているだけなのか?
それなら、馬車の人たちを洗脳しちゃえば良くない?
お金を差し出してくれるように。
その方が簡単だよねー。
「はははっ、そんな簡単にはいかない。強い力には制限があるもんだ。強い欲望を持った人間にしか洗脳が効かねえんだ、この魔道具は」
俺の視線を読んだかのように説明してくれた。ノリノリで。
、、、欲望を増幅する魔道具だったようだ。
洗脳が効かない人間がいる、というよりは、こちらの説明の方が納得する。
貢ぎたい人間って、そうは存在しないからなあ。
この人物は洗脳の魔道具として売りつけられたようだが。
「この兄ちゃん、よく見れば好みの顔をしてるじゃねえか」
馬車を囲んでいる一人が俺の顔を見て近寄って来た。
本当にこの国の者ではないらしい。
さすがに俺の顔を知らなくても、オルレアの顔は知っている。
平民ですら、絶対に近寄るな、と注意される残虐我がまま姫だ。王都では有名な顔なのである。。。
「俺のモノで昇天させてや、ぶっ」
俺はイーティ以外に抱かれる気はないぞ、と思って殴ったら、一撃でその場に倒れてしまった。
うん、やはり強くない。
手を出してしまったから、彼らの攻撃対象がこちらに向いてしまった。
馬車の進行方向には数人残っているが、矛先は完全にこちらになった。
「可愛い顔しているからって舐めやがって」
?
「屈服させてみたくなるじゃねえか」
?
「俺のモノがなければ、イケないカラダにしてやるぜっ」
俺に言っているのだろうか?
俺に向かって言っているが。
増幅された欲望が性欲に傾いたのですかね?
まあ、この人たちはヤれれば男性でも女性でもいいのかもしれない。
そういう人たちなのだろう。
「チッ、お前だって澄ました顔しているが、性欲あるんだろ、その若さならっ」
「っ、」
ならず者の中心人物が魔道具を操作している。
俺が手を伸ばす前に。
「ぐっ、」
重い負荷がかかる。
俺に、俺だけに、その魔道具の最大出力を向けた。
そんな使い方をすれば、即座に魔石がダメになるだろうに。
それは、その本人がそのとき強く思った欲望を増幅させる。
女、金、暴力、、、それを言葉で巧みに誘導して、他人を従わせたり、扇動したりする魔道具でもあるが。
「なっ、」
男たちが俺を見てどよめく。
俺は自分の喉元に魔剣をあてていた。
生温い血が首元から流れて来る。
「なっ、何やっているんだよっ、コイツっ」
シャツが俺の赤い血で染まっていく。
俺はずっと、ずっと死にたいと思っていた。
だって、この世は残酷だからだ。
力があっても、誰にも認められない。
もし、もう少しだけでもあのとき俺に実行力があれば、俺は辛い思いなどあれ以上味わわずに済んだのに。
死にたい、とずっと思っていた。
手を差し伸べないのなら、殺してくれればいいのにと。
もちろん門番はいるのだが、顔見知りのおっちゃんたちは冒険者カードを確認するでもない。
ゆるゆるーんなのでありがたい。
もちろん見知らぬ冒険者にはキッチリ対応するが。
この方向で近くの街に行くとすぐに居場所がバレる危険性があるので、違う方角に歩く方が良い。最終目的地は帝国なのだが、直接向かうワケにも行くまい。
わざわざこっちの門から出ているのに、何でそっちに?と思わせた方が追跡にも迷いが生じるだろう。
そういや、と思い出す。
第二王子とともに乗馬した高級邸宅が並ぶ近郊の方から抜けていこうか。
あちらは警備がしっかりしているが、道を外れなければ何の問題もない。
通りを歩いている者に対して、失礼な振る舞いもしない。お忍びの貴族たちも多いので。
あまりにも不審者だったら仕方ないけど。
、、、俺、不審者に見えないよね?
魔物の返り血がシャツについているが、砂埃ですでに白いシャツが灰色になっているが、青銀色のズボンも随分みすぼらしい色に汚れてしまっているが、髪も銀髪とは程遠い汚れ塗れになっているが、、、立派な不審者じゃねえか?
魔物討伐帰りの冒険者として見られているならともかく、高級住宅地ではどう見ても。
着替え持ってきてない。
お金もできたから買えば良かったんだけど、ついつい節約志向が高いので、どこかで宿をとったら水で洗えばいいやと思っていた。
マイア様から贈ってもらった物だから、ものすごい質が良いし、動きも邪魔しない。
自分で買うとなったら、相当な金額を積まなければならない代物だ。
上着は来ていなくて正解だったのかもしれない。
アレを着ていると、どう見ても貴族の坊ちゃんにしか見えない。
慣れてきたとはいえ冒険者の目は厳しいものを向けただろう。
王都に入り直すとなると面倒だから、次の街で買おう。
王都は物価も高いし、、、という言い訳をしながら歩いていく。
朝食用の適当なパンは買っておいたので、もぐもぐ食べながら歩く。
王都とはコレでお別れだと思っても、特に何の感慨もない。
てくてくてく。
ここって警備が厳重だったはずじゃあなかったっけ?
何で一台の馬車がガラの悪いヤツらに囲まれているわけ?
朝、わりと早い時間とは言っても、この地区一帯警備しているよねぇ?
木々が適度に生い茂っているとはいえ、見渡せないわけでもないし。
「はははっ、まったくよお、甘ちゃんが多くて助かるぜえっ、この国のお貴族様にはよっ」
「護衛もつけずに馬車を走らせるなんざあ、襲ってくださいと頭下げているかのようだぜ」
大声で説明ありがとう。。。
彼らの狙いの馬車は辻馬車のような庶民が使うようなものではなく、シンプルだが上品な作りだ。乗っているのは、貴族かそれに類する人物と誰でも推測できる。
護衛が馬車の中にも一人もいないのは、一人御者台に座っている御者がどうしようかと困惑の表情を浮かべているのでわかる。
御者も馬車を捨てて逃げ出すわけにはいかない人物が馬車に乗っているのだろう。
けれど、馬車が向かう方向を塞がれ、周囲を囲まれてどうしようもない状態に陥っている。
いかついが強そうには見えない人たちなんだけど、多勢に無勢。
うーん。
どうしようかな。
警備の人に引き渡すのも事情も素性も聞かれてしまうからなあ。
「おう、兄ちゃん、何見てやがるんだ」
あ、見つけられてしまったか。
隠れてもいなかったが。
「兄ちゃんもこの国に目をつけたのか?」
「緩い国だからなあ。中に入り込めさえすれば、やりたい放題なのがいいよなあ」
「仕方ないなあ。人手が足りないから、仲間に入れてやるよ」
あれ、俺ってそっち側なの?
そう見えるの?
俺を見る御者の顔が怯えているのだが。。。
自分で思っている以上に、汚い?
魔物の返り血のせいか?そう思いたい。
正義のヒーロー気取りかっ、とか言われなくとも、せめて通行人程度に見られたかったなあ。
「兄ちゃんも金を奪いたいとか、人殺しをしてみたいとか、女を襲いたいとか、いろいろ溜まってんだろっ。素直になれよ」
「欲望に飲まれちゃえよー」
「欲望?」
そういやこの人たち、頼まれもしないのにベラベラ喋ってくれるな。
頭が緩い人なのかな?と思ったが、どうも様子がおかしい。
ガタイの良さげな中心人物は少々後ろにいて、彼らを指示を出しているようだが。
「金も女も俺たちのものにしたいよなっ」
「おおっ、俺たちのものにっ」
「まずはその馬車に乗っている者を血祭りに上げろっ」
「おおっ」
一人の掛け声に集団が同意する。
成功しそうだから気が大きくなっているのとは違い、何だろう。何かが変だ。
「やっちま」
「洗脳の魔道具?」
ボソッと呟くと、言葉を中断して中心人物が俺を見た。
「何だ、この存在を知っている者がこの国にもいたのか」
、、、手に持っているのが、そうだったんですかね?
あてずっぽうで言っただけだったのですけどね。
周囲の人たちはいいように使われているだけなのか?
それなら、馬車の人たちを洗脳しちゃえば良くない?
お金を差し出してくれるように。
その方が簡単だよねー。
「はははっ、そんな簡単にはいかない。強い力には制限があるもんだ。強い欲望を持った人間にしか洗脳が効かねえんだ、この魔道具は」
俺の視線を読んだかのように説明してくれた。ノリノリで。
、、、欲望を増幅する魔道具だったようだ。
洗脳が効かない人間がいる、というよりは、こちらの説明の方が納得する。
貢ぎたい人間って、そうは存在しないからなあ。
この人物は洗脳の魔道具として売りつけられたようだが。
「この兄ちゃん、よく見れば好みの顔をしてるじゃねえか」
馬車を囲んでいる一人が俺の顔を見て近寄って来た。
本当にこの国の者ではないらしい。
さすがに俺の顔を知らなくても、オルレアの顔は知っている。
平民ですら、絶対に近寄るな、と注意される残虐我がまま姫だ。王都では有名な顔なのである。。。
「俺のモノで昇天させてや、ぶっ」
俺はイーティ以外に抱かれる気はないぞ、と思って殴ったら、一撃でその場に倒れてしまった。
うん、やはり強くない。
手を出してしまったから、彼らの攻撃対象がこちらに向いてしまった。
馬車の進行方向には数人残っているが、矛先は完全にこちらになった。
「可愛い顔しているからって舐めやがって」
?
「屈服させてみたくなるじゃねえか」
?
「俺のモノがなければ、イケないカラダにしてやるぜっ」
俺に言っているのだろうか?
俺に向かって言っているが。
増幅された欲望が性欲に傾いたのですかね?
まあ、この人たちはヤれれば男性でも女性でもいいのかもしれない。
そういう人たちなのだろう。
「チッ、お前だって澄ました顔しているが、性欲あるんだろ、その若さならっ」
「っ、」
ならず者の中心人物が魔道具を操作している。
俺が手を伸ばす前に。
「ぐっ、」
重い負荷がかかる。
俺に、俺だけに、その魔道具の最大出力を向けた。
そんな使い方をすれば、即座に魔石がダメになるだろうに。
それは、その本人がそのとき強く思った欲望を増幅させる。
女、金、暴力、、、それを言葉で巧みに誘導して、他人を従わせたり、扇動したりする魔道具でもあるが。
「なっ、」
男たちが俺を見てどよめく。
俺は自分の喉元に魔剣をあてていた。
生温い血が首元から流れて来る。
「なっ、何やっているんだよっ、コイツっ」
シャツが俺の赤い血で染まっていく。
俺はずっと、ずっと死にたいと思っていた。
だって、この世は残酷だからだ。
力があっても、誰にも認められない。
もし、もう少しだけでもあのとき俺に実行力があれば、俺は辛い思いなどあれ以上味わわずに済んだのに。
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