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7章 貴方に縋る
7-5 お前がそれを言うか ◆クリスト視点◆
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◆クリスト視点◆
「何の騒ぎですの?」
「お、おまえ」
バーレイ侯爵が駆け寄る。
「義母上、ご無沙汰しております」
「あら、クリスト、お帰りなさい。お客様もいらっしゃるのね。お話があるのなら、応接間に移られてはいかが?」
崩壊した壁や半壊した机は視界に入っているはずなのに、穏やかな口調で義母上が話す。
義母はオルトとオルレアの母親だ。
私の母アリステラが亡くなって、バーレイ侯爵家に後妻として入った。
「オルレアも床に座るなんてはしたない」
「お母様ー」
オルレアは抱きつく。それを温かく迎える母親。その姿は美しいのだが。
「父上、オルレア、」
私が呼ぶと、二人はすごすごと正座に戻る。
さすがに義母も疑問符が浮かんだのか。
「クリスト、この二人は何かしたの?」
「何をしたかと端的には言えないくらい多くのことを仕出かしましたね。しばらくこの二人は謹慎して、私が侯爵代理として名代で動かなければならない事態と言えばお分かりになられるでしょうか」
「旦那様がそんな失態を?」
「バーレイ侯爵夫人、初めまして。私がオルレアの夫となるソイ王国王太子のソイファと申します。義母君とお呼びしても?」
ソイファが恭しく頭を下げた。
「あらあら、嬉しいわねー。オルレアったら、ソイ王国で素敵な人をつかまえてきたのね」
「義母上もご存じだったのですね」
「え?」
義母が私を見た。
「オルレアがソイ王国の騎士学校に留学したいというのを、旦那様が頼んでクリストの伝手でお願いしたのでしょう。こんなオルトみたいな髪型にしなくとも、綺麗な長い銀髪だったのにもったいないわ」
「義母上、ソイファはオルレアを側妃として迎えようとしてます」
私は義母に伝えた。
「あら、さすがにウィト王国のバーレイ侯爵家の娘を正妃に迎えないなんてどういうことなのかしら?あなたも黙っていられませんよね」
義母は父に同意を求めたが、素直に頷けない理由が存在する。
「侯爵夫人、頷いていただかなくてはなりません。いえ、実際のところ頷く必要もないですかね。この二人はクリストもソイ王国も騙していたのですから。ソイ王国の騎士学校に、オルレアを最強の盾オルト・バーレイとして謀って留学させたのですから、彼らは我が国にもそれ相応の償いをしなければなりません」
「ちょうど良かったではありませんか。オルトよりオルレアの能力の方が何もかも上なのですから」
「は?」
ソイファが固まってしまった。
フリーズ状態。
義母はそれが正しいと疑わないような笑顔でソイファを見ている。
解凍しろ。えいっ。
「ええっと、義母君、オルレアの能力は並以下ですよ。剣も魔法も学力も何もかも、我が騎士学校に通っている生徒の足元にも及びません。私が手助けをしなければ、ウィト王国の最強の盾の実力はこの程度かと思われ、国の友好関係も解消される危険性があるくらいでした」
「じゃあ、オルトはそれ以下なのね?まだ良かったじゃない。恥さらしのオルトが貴方の国に行かなくて」
ドンっと残っていた机の半分が消えた。
消したが正解なのだろうが、ソイファが少々壁際に避難している。
「義母上は何を言っている。オルトの実力は歴代最強の盾のなかでもトップクラスだ。父が十歳からオルトに叔父がやるべき国の結界を押しつけたのは、すでにそのときにオルトの能力が父より上だったからだ。国の結界を維持させるハンデがなければ、オルトを叩きのめせないくらいの実力差があったからだっ」
「ぐっ」
顔を歪めた父を見て、それが真実だと義母も知る。
「え?だって、旦那様はオルトは落ちこぼれ、役立たず、使えないとずっとおっしゃっていて、オルレアの方が才能も実力も上だって、長い間それが本当のことだと、、、」
最後の方は声が小さくなってくる。
「いや、そうは言ってもオルトの母親だろ?最強の盾に対して家族として温かく接してやっていたんだろ?」
ソイファ、わかっていて追い打ちをかけるな。
彼女はオルトに対して母親らしいことは何一つしていないばかりか。
「ああ、そうだな。そうは言ってもアリステラのように、影で息子を支えてくれていたんだろ」
父が言った。
更なる追い打ちを。
父は愚かだ。
私の母は強かった、誰よりも。
だからこそ、本当の意味で笑っていられたのだ。
「何を言っているのっ、あなたはっ。やっているわけがないじゃないっ。貴方がいつもオルトに落ちこぼれとか役立たずとか言わなければ、私が周囲から後ろ指をさされることもなかったのよっ。それに我が子が可愛くない母親がどこにいるというのっ。それでも、あなたが言うからっ、なぜオルレアにすべてを譲って産まれてこなかったのか言ってしまったじゃないのっ」
義母が父に叫んだ。
義母はバーレイ侯爵に付き従うことを誰からも強要された。
最強の盾になるべき次男が産まれていなかったから。
良好な関係にならざる得なかった。国のために。
「なぜそんな言葉を信じたんだ。オルトの実力は見ればわかるだろ」
父の言葉は残酷だ。
「、、、わかるわけないじゃない。私は貴方にオルトが痛めつけられる姿しか覚えていないわ」
オルトが幼い頃の記憶だ。
それ以上見る気も起こらなかったのだろう。
最強の剣も最強の盾も産まれたときから強いわけではない。
才能も持ち合わせているが、訓練によって鍛えられ磨かれる。
義母には強制したわけではないが、床に座り込んだ。
「父上と義母上、オルレアは私の許可があるまで部屋から出ないように。面会も許可制とする。謹慎中だと自覚するように。しばらく私が侯爵代理として後始末する」
「あ、それと、クリスト。実は、」
父がオルトの婚約者のことを伝えてきた。
代理ではなく侯爵位を譲りたいということを。
「何を考えているのですか、父上」
「いや、その、妻がイー商会の商会長なら大丈夫と太鼓判を押したから」
「ひっ」
じろりと義母を見たら、ソイファより怖がられた。
「そりゃ、その殺気は普通の人には怖いだろ」
「なぜ、勝手にオルトとキノア帝国の元第一皇子と婚約が結ばれているんだ。まったく不可解だ」
「ま、まあ、結婚時期によっては次期侯爵の了承が必要だと決めているから、お前が侯爵になれば、高額な違約金を払わなくても済む」
婚約を結んだ契約書類を見る。
何だ、この細かい文字は。。。
確実にバーレイ侯爵家を罠に嵌める、、、つもりはなさそうだな。
私が侯爵を継いでオルトの結婚を承諾しなければ、という逃げ道はさっさと父を引退させろ、ということなのだろう。
コレは完全にオルトのために考えられている婚約だと言ってもいい。
婚約解消しない方がオルトのためなのか?オルトはこの婚約をどう思っているのだろうか。
「あー、イーティ・ランサスと最強の盾は仲が良いよな。お互いないものを補い合える、お似合いの夫婦になる。あの二人が正式にくっつくと、国を作れてしまう危険性があるくらいだ。跡継ぎができないのが残念だが」
「ソイファ、オルトはイーティ・ランサスを気に入っているのか?」
「あれ、それを俺に聞いちゃうの、お兄ちゃん?」
ニヤニヤと笑うソイファ。
よし、殺そう。
「ごめんよー。弟のことだと一瞬でキレるのやめようよー。怖いからー」
「正直に答えたら、許してやる」
「気に入ってるも何も、この国を捨てていこうとしているじゃないかー。どう見ても。自分で稼いだ僅かな全財産はたいて購入した指輪をイーティ・ランサスに贈っているのを見て、泣けてきちゃったよ、俺は」
「何でお前が知ってる」
「そりゃ、貴族学校の中庭って覗き放題な場所だからなあ。全世界が涙したんじゃないか?」
どれだけ覗き見している輩がいるんだよ。
「って、そういう魔法はオルトがすべて排除しているはずじゃ」
「あー、国外からのはねー、問題なく国境の結界ですべて排除されてるよ。けど、さすがにウィト王国内に入り込んだ者たちの魔法は特に邪魔しない。すべての魔法を無効化するんならともかく、必要なものだけを使わせろって言われたって無理な話でしょ。この国はこの国でいろいろ魔法使っているんだし」
「それもそうか」
「おい、なぜ、オルトはこの国を捨てていこうとしているんだ。私があんなに手塩にかけて育てたのに」
父の発言に、唖然としたソイファがいた。
「何の騒ぎですの?」
「お、おまえ」
バーレイ侯爵が駆け寄る。
「義母上、ご無沙汰しております」
「あら、クリスト、お帰りなさい。お客様もいらっしゃるのね。お話があるのなら、応接間に移られてはいかが?」
崩壊した壁や半壊した机は視界に入っているはずなのに、穏やかな口調で義母上が話す。
義母はオルトとオルレアの母親だ。
私の母アリステラが亡くなって、バーレイ侯爵家に後妻として入った。
「オルレアも床に座るなんてはしたない」
「お母様ー」
オルレアは抱きつく。それを温かく迎える母親。その姿は美しいのだが。
「父上、オルレア、」
私が呼ぶと、二人はすごすごと正座に戻る。
さすがに義母も疑問符が浮かんだのか。
「クリスト、この二人は何かしたの?」
「何をしたかと端的には言えないくらい多くのことを仕出かしましたね。しばらくこの二人は謹慎して、私が侯爵代理として名代で動かなければならない事態と言えばお分かりになられるでしょうか」
「旦那様がそんな失態を?」
「バーレイ侯爵夫人、初めまして。私がオルレアの夫となるソイ王国王太子のソイファと申します。義母君とお呼びしても?」
ソイファが恭しく頭を下げた。
「あらあら、嬉しいわねー。オルレアったら、ソイ王国で素敵な人をつかまえてきたのね」
「義母上もご存じだったのですね」
「え?」
義母が私を見た。
「オルレアがソイ王国の騎士学校に留学したいというのを、旦那様が頼んでクリストの伝手でお願いしたのでしょう。こんなオルトみたいな髪型にしなくとも、綺麗な長い銀髪だったのにもったいないわ」
「義母上、ソイファはオルレアを側妃として迎えようとしてます」
私は義母に伝えた。
「あら、さすがにウィト王国のバーレイ侯爵家の娘を正妃に迎えないなんてどういうことなのかしら?あなたも黙っていられませんよね」
義母は父に同意を求めたが、素直に頷けない理由が存在する。
「侯爵夫人、頷いていただかなくてはなりません。いえ、実際のところ頷く必要もないですかね。この二人はクリストもソイ王国も騙していたのですから。ソイ王国の騎士学校に、オルレアを最強の盾オルト・バーレイとして謀って留学させたのですから、彼らは我が国にもそれ相応の償いをしなければなりません」
「ちょうど良かったではありませんか。オルトよりオルレアの能力の方が何もかも上なのですから」
「は?」
ソイファが固まってしまった。
フリーズ状態。
義母はそれが正しいと疑わないような笑顔でソイファを見ている。
解凍しろ。えいっ。
「ええっと、義母君、オルレアの能力は並以下ですよ。剣も魔法も学力も何もかも、我が騎士学校に通っている生徒の足元にも及びません。私が手助けをしなければ、ウィト王国の最強の盾の実力はこの程度かと思われ、国の友好関係も解消される危険性があるくらいでした」
「じゃあ、オルトはそれ以下なのね?まだ良かったじゃない。恥さらしのオルトが貴方の国に行かなくて」
ドンっと残っていた机の半分が消えた。
消したが正解なのだろうが、ソイファが少々壁際に避難している。
「義母上は何を言っている。オルトの実力は歴代最強の盾のなかでもトップクラスだ。父が十歳からオルトに叔父がやるべき国の結界を押しつけたのは、すでにそのときにオルトの能力が父より上だったからだ。国の結界を維持させるハンデがなければ、オルトを叩きのめせないくらいの実力差があったからだっ」
「ぐっ」
顔を歪めた父を見て、それが真実だと義母も知る。
「え?だって、旦那様はオルトは落ちこぼれ、役立たず、使えないとずっとおっしゃっていて、オルレアの方が才能も実力も上だって、長い間それが本当のことだと、、、」
最後の方は声が小さくなってくる。
「いや、そうは言ってもオルトの母親だろ?最強の盾に対して家族として温かく接してやっていたんだろ?」
ソイファ、わかっていて追い打ちをかけるな。
彼女はオルトに対して母親らしいことは何一つしていないばかりか。
「ああ、そうだな。そうは言ってもアリステラのように、影で息子を支えてくれていたんだろ」
父が言った。
更なる追い打ちを。
父は愚かだ。
私の母は強かった、誰よりも。
だからこそ、本当の意味で笑っていられたのだ。
「何を言っているのっ、あなたはっ。やっているわけがないじゃないっ。貴方がいつもオルトに落ちこぼれとか役立たずとか言わなければ、私が周囲から後ろ指をさされることもなかったのよっ。それに我が子が可愛くない母親がどこにいるというのっ。それでも、あなたが言うからっ、なぜオルレアにすべてを譲って産まれてこなかったのか言ってしまったじゃないのっ」
義母が父に叫んだ。
義母はバーレイ侯爵に付き従うことを誰からも強要された。
最強の盾になるべき次男が産まれていなかったから。
良好な関係にならざる得なかった。国のために。
「なぜそんな言葉を信じたんだ。オルトの実力は見ればわかるだろ」
父の言葉は残酷だ。
「、、、わかるわけないじゃない。私は貴方にオルトが痛めつけられる姿しか覚えていないわ」
オルトが幼い頃の記憶だ。
それ以上見る気も起こらなかったのだろう。
最強の剣も最強の盾も産まれたときから強いわけではない。
才能も持ち合わせているが、訓練によって鍛えられ磨かれる。
義母には強制したわけではないが、床に座り込んだ。
「父上と義母上、オルレアは私の許可があるまで部屋から出ないように。面会も許可制とする。謹慎中だと自覚するように。しばらく私が侯爵代理として後始末する」
「あ、それと、クリスト。実は、」
父がオルトの婚約者のことを伝えてきた。
代理ではなく侯爵位を譲りたいということを。
「何を考えているのですか、父上」
「いや、その、妻がイー商会の商会長なら大丈夫と太鼓判を押したから」
「ひっ」
じろりと義母を見たら、ソイファより怖がられた。
「そりゃ、その殺気は普通の人には怖いだろ」
「なぜ、勝手にオルトとキノア帝国の元第一皇子と婚約が結ばれているんだ。まったく不可解だ」
「ま、まあ、結婚時期によっては次期侯爵の了承が必要だと決めているから、お前が侯爵になれば、高額な違約金を払わなくても済む」
婚約を結んだ契約書類を見る。
何だ、この細かい文字は。。。
確実にバーレイ侯爵家を罠に嵌める、、、つもりはなさそうだな。
私が侯爵を継いでオルトの結婚を承諾しなければ、という逃げ道はさっさと父を引退させろ、ということなのだろう。
コレは完全にオルトのために考えられている婚約だと言ってもいい。
婚約解消しない方がオルトのためなのか?オルトはこの婚約をどう思っているのだろうか。
「あー、イーティ・ランサスと最強の盾は仲が良いよな。お互いないものを補い合える、お似合いの夫婦になる。あの二人が正式にくっつくと、国を作れてしまう危険性があるくらいだ。跡継ぎができないのが残念だが」
「ソイファ、オルトはイーティ・ランサスを気に入っているのか?」
「あれ、それを俺に聞いちゃうの、お兄ちゃん?」
ニヤニヤと笑うソイファ。
よし、殺そう。
「ごめんよー。弟のことだと一瞬でキレるのやめようよー。怖いからー」
「正直に答えたら、許してやる」
「気に入ってるも何も、この国を捨てていこうとしているじゃないかー。どう見ても。自分で稼いだ僅かな全財産はたいて購入した指輪をイーティ・ランサスに贈っているのを見て、泣けてきちゃったよ、俺は」
「何でお前が知ってる」
「そりゃ、貴族学校の中庭って覗き放題な場所だからなあ。全世界が涙したんじゃないか?」
どれだけ覗き見している輩がいるんだよ。
「って、そういう魔法はオルトがすべて排除しているはずじゃ」
「あー、国外からのはねー、問題なく国境の結界ですべて排除されてるよ。けど、さすがにウィト王国内に入り込んだ者たちの魔法は特に邪魔しない。すべての魔法を無効化するんならともかく、必要なものだけを使わせろって言われたって無理な話でしょ。この国はこの国でいろいろ魔法使っているんだし」
「それもそうか」
「おい、なぜ、オルトはこの国を捨てていこうとしているんだ。私があんなに手塩にかけて育てたのに」
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