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7章 貴方に縋る
7-2 恐怖の産声 ◆ウィト王国国王視点◆
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◆ウィト王国国王視点◆
自分の息子から爆弾を投下されるとは思ってもみなかった。
連日の会議に乗り込んで来たのは、第三王子のクオ。
数人の親衛隊隊員が後ろについて来ていたが、とめる者はいなかったのか。
「父上っ、いえ、国王陛下っ。次期最強の盾のオルト・バーレイを貶めようとするのはやめてくださいっ。すでに国防の要の結界を担当している彼に対して、彼の存在を軽んじるのは非常に危険ですっ。彼がこの国を見限ったらどうするつもりですかっ」
「え?」
隣の席に座っている王太子であるルオとともにキョトンとしてしまった。
「私のところまで報告は来ておりませんでしたが、オルトは十歳の頃から国の結界を一任されているということじゃないですかっ。それを知っていながら、彼を軽んじる態度は解せませんっ。帝国の元第一皇子と婚約してしまったのもバーレイ侯爵家に対して王族の責務を果たせていなかったからじゃないのですかっ」
クオは言いたいことを言って、その場を混沌とさせて、会議の場から消えていった。
おい、それは事実か?
オルト・バーレイが十歳の頃から国の結界を担当していただと?
そんな報告、私のところにも来ていないぞ。
いや、バーレイ侯爵に報告義務はないのだが。
最強の盾が特に問題なく国の結界を維持しているのならば。それは次期最強の盾が協力していても同じこと。クオは協力という生易しいモノではなく一任と表現していたが。。。
会議に出席している貴族たちは騒然としながらも。
「どうやら情報を精査する時間が必要ですな。今日のところはこれまでにして、また明朝に集まりましょう」
モルト公爵が重々しい口調で本日の結論を述べた。
ホッとしたのもつかの間。
貴族たちによって情報を集められた明日はさらなる攻撃にあうだろう。
私もクオに詳細を聞かなければならない。
しかし、今日の会議での乱入は、王子として何をしているんだ、と怒鳴ることもできない。
暴食の魔剣のことで恨まれているのだろう。
説明しなかった私も私だが、オルレアが相手なら一、二分で勝敗が決すると思っていたのもまた事実。死にはしないと甘い考えをしていた。
暴食の魔剣の持ち出しもまた、この会議で散々叩かれた。
アレがオルト・バーレイだったから、クオは魔剣を抜く暇さえ与えられなかった。
戦い前の彼の提案も、本来ならクオの王子という立場を思いやってのこと。
オルト・バーレイが親切にもクオ王子の尊厳を傷つけないように行動したのに、国王が打ち壊した、と。
会議で貴族たちに口酸っぱく言われたわっ。
わかっている、頭では。
けれど、感情が許さない。
バーレイ侯爵は私の一歳年下だ。
クオのように同じ年齢だったら良かった。間接的には比較されても、別の学校にいれば直接比較されることはないのだから。
一歳年上だったから、惨めだったのだ。
長い間。
散々比べられた。
王太子たる者が、一歳年下の者に負け続けることがどんなにひどいものか。
どんなに努力しようと、勝つのは昔からアイツだった。
称賛はいつもアイツのものだった。
人がいつも周りにいたのもアイツだった。
そして、私の初恋のアリステラを奪っていったのもアイツだった。
私は幼馴染みのアリステラを婚約者に望んだが、昔からカラダが弱いアリステラは王妃には不適とされた。
王太子でなければ、とどんなに思ったか。
想う者とさえ一緒になれない。
それはバーレイ侯爵家だって同じはずだった。
バーレイ侯爵家なんて更に国防の要で、二人の男児を産むことが責務のような家が許すとは思わなかった。
アイツは自分の意志で両親を説得し、アリステラと結婚したのだった。
彼女の病状は悪化していた。回復を望みようもなく。
彼女は長男を産めたが、次男を産めそうにもなかった。
悪しき噂だけが流れていた。
最後にアリステラのお見舞いに行ったときに、アイツと結婚して失敗だっただろう、と言った。言ってしまった。
それでも、彼女は笑っていた。
私を守ってくれる旦那様と、可愛い子供に囲まれて毎日幸せよ、と。
同じ年齢のアリステラは私を幼馴染み以上には見てはいなかった。
それでも、私は羨ましかったのだ。
アイツとの仲を取り持っていたアリステラが亡くなって、さらに関係が歪んでいったのは私にもわかっている。
私はアイツに何もかも勝てない。
けれど、私の子供なら。
浅い考えだと笑うだろう。
貴族たちは国王としての立場を考えろと言うだろう。
この国にはバーレイ侯爵家の最強の剣と最強の盾がいなければ立ち行かない。
そんなことは百も承知している。
バーレイ侯爵が自分の息子への体罰がひどくなればなるほど、壊れてしまえと願ってしまった。
アイツが幸せになるのは許さない。
私をどれだけ苦しめたのかを知らずに。
「父上、お疲れでしたら、先にお休みになられては。後は私がやっておきますから」
執務室で王太子のルオが私を気遣って言う。
連日の会議で日常の執務が滞っていた。
現在の第二王子は私に対してやや反抗的なので、私の仕事までは動いてくれない。仕事は速いのに。
第三王子は貴族学校での後処理に当たってもらっているので、日常業務までは手伝えない。
「キリの良いところまでやったら、後は頼んでいいか、ルオ」
「失礼致します。オルト・バーレイの捜索ですが、難航しているとのことで、残念ながら消息不明のままだそうです」
入室してきた騎士団の二番隊隊長が報告しに来ているのだが。
「何の話だ?捜索とは何のことだ?」
「はい?」
二番隊隊長も疑問符を頭に浮かべてしまった。
彼はほんの数秒考えてから。
「国王陛下、恐れながら、闘技大会後にオルト・バーレイが行方知れずということで捜索し、王都郊外において彼の切られた長い銀髪と落ちていたシャツに夥しい血がついていたという報告は、闘技大会の翌日にしておりますが」
「父上、その報告は数日前にここで受けております」
小さい声でルオが告げた。
「え、」
ルオは私を見た。
「父上は捨て置けと」
ルオはより小さい声で私に告げた。
自分の身を守ることに精一杯で、重要な報告を聞き逃がしていた。
ルオの声は聞こえなかったはずだが、二番隊隊長の視線が厳しいものとなる。
「国王陛下、会議で連日ご意見ご要望が多いのは、オルト・バーレイが行方不明だからこそで、国防の要である最強の盾を失えば、最強の剣への負担は相当なものになります。ましてや今代の最強の剣クリスト・バーレイはまだ婚約も結婚もしていない身。オルト・バーレイを失えば、この国は立ち行かなくなる危険性も」
「わかっておるわっ、言われなくともっ」
声を荒げてしまった。
「お疲れなのでしょう。貴族への対策をお考えになられてきちんと眠れていないのでは、記憶もあやふやになる。父上、おやすみになってください。今夜は私が指揮を執ります」
ルオにフォローされてしまった。
二番隊隊長もその言葉には納得いかない表情だが、ルオに従う。
平時に滞りなく業務を遂行するのは当たり前で、非常時にはそれ相当の激務をこなさなければならないのが国王だ。
そう教わり、そうできると信じていた。
が、闘技大会では騎士団に避難誘導の指示さえできなかった。
自分たちが逃げることさえ。
あのとき王妃である妻は失禁して動けなくなっていた。
黒いモノの脅威がなくなった後、控室で着替えまでした。
すぐに王族の席にある椅子を処分させたくらいだ。
我々はプライドが高いだけだった。
国王であり、王妃であることの。
自分たちが危機に陥ることに対して、我々は鈍感だった。
誰かが守ってくれると信じてしまっていた。
そう、いつも誰かが。
誰かが、ではない。
この国では、最強の剣と最強の盾に他ならない。
彼らがこの国を守るのは当然と思っていた。
それは、なぜ。
そんなこと、あり得ないのに。
誰だって軽んじられたら、その国を出ていく。有能な者ほど。
寝室に戻り、その恐怖を自覚した。
彼らがこの国からいなくなることを。
嫉妬。
羨望。
それだけの感情だったはずなのに。
恐怖がようやく産声を上げた。
私はバーレイ侯爵家にどれだけのことをしてきたのか、ようやく自覚したのだ。
オルト・バーレイが無事に見つかったとしても、この国に残るはずもない。
自分の息子から爆弾を投下されるとは思ってもみなかった。
連日の会議に乗り込んで来たのは、第三王子のクオ。
数人の親衛隊隊員が後ろについて来ていたが、とめる者はいなかったのか。
「父上っ、いえ、国王陛下っ。次期最強の盾のオルト・バーレイを貶めようとするのはやめてくださいっ。すでに国防の要の結界を担当している彼に対して、彼の存在を軽んじるのは非常に危険ですっ。彼がこの国を見限ったらどうするつもりですかっ」
「え?」
隣の席に座っている王太子であるルオとともにキョトンとしてしまった。
「私のところまで報告は来ておりませんでしたが、オルトは十歳の頃から国の結界を一任されているということじゃないですかっ。それを知っていながら、彼を軽んじる態度は解せませんっ。帝国の元第一皇子と婚約してしまったのもバーレイ侯爵家に対して王族の責務を果たせていなかったからじゃないのですかっ」
クオは言いたいことを言って、その場を混沌とさせて、会議の場から消えていった。
おい、それは事実か?
オルト・バーレイが十歳の頃から国の結界を担当していただと?
そんな報告、私のところにも来ていないぞ。
いや、バーレイ侯爵に報告義務はないのだが。
最強の盾が特に問題なく国の結界を維持しているのならば。それは次期最強の盾が協力していても同じこと。クオは協力という生易しいモノではなく一任と表現していたが。。。
会議に出席している貴族たちは騒然としながらも。
「どうやら情報を精査する時間が必要ですな。今日のところはこれまでにして、また明朝に集まりましょう」
モルト公爵が重々しい口調で本日の結論を述べた。
ホッとしたのもつかの間。
貴族たちによって情報を集められた明日はさらなる攻撃にあうだろう。
私もクオに詳細を聞かなければならない。
しかし、今日の会議での乱入は、王子として何をしているんだ、と怒鳴ることもできない。
暴食の魔剣のことで恨まれているのだろう。
説明しなかった私も私だが、オルレアが相手なら一、二分で勝敗が決すると思っていたのもまた事実。死にはしないと甘い考えをしていた。
暴食の魔剣の持ち出しもまた、この会議で散々叩かれた。
アレがオルト・バーレイだったから、クオは魔剣を抜く暇さえ与えられなかった。
戦い前の彼の提案も、本来ならクオの王子という立場を思いやってのこと。
オルト・バーレイが親切にもクオ王子の尊厳を傷つけないように行動したのに、国王が打ち壊した、と。
会議で貴族たちに口酸っぱく言われたわっ。
わかっている、頭では。
けれど、感情が許さない。
バーレイ侯爵は私の一歳年下だ。
クオのように同じ年齢だったら良かった。間接的には比較されても、別の学校にいれば直接比較されることはないのだから。
一歳年上だったから、惨めだったのだ。
長い間。
散々比べられた。
王太子たる者が、一歳年下の者に負け続けることがどんなにひどいものか。
どんなに努力しようと、勝つのは昔からアイツだった。
称賛はいつもアイツのものだった。
人がいつも周りにいたのもアイツだった。
そして、私の初恋のアリステラを奪っていったのもアイツだった。
私は幼馴染みのアリステラを婚約者に望んだが、昔からカラダが弱いアリステラは王妃には不適とされた。
王太子でなければ、とどんなに思ったか。
想う者とさえ一緒になれない。
それはバーレイ侯爵家だって同じはずだった。
バーレイ侯爵家なんて更に国防の要で、二人の男児を産むことが責務のような家が許すとは思わなかった。
アイツは自分の意志で両親を説得し、アリステラと結婚したのだった。
彼女の病状は悪化していた。回復を望みようもなく。
彼女は長男を産めたが、次男を産めそうにもなかった。
悪しき噂だけが流れていた。
最後にアリステラのお見舞いに行ったときに、アイツと結婚して失敗だっただろう、と言った。言ってしまった。
それでも、彼女は笑っていた。
私を守ってくれる旦那様と、可愛い子供に囲まれて毎日幸せよ、と。
同じ年齢のアリステラは私を幼馴染み以上には見てはいなかった。
それでも、私は羨ましかったのだ。
アイツとの仲を取り持っていたアリステラが亡くなって、さらに関係が歪んでいったのは私にもわかっている。
私はアイツに何もかも勝てない。
けれど、私の子供なら。
浅い考えだと笑うだろう。
貴族たちは国王としての立場を考えろと言うだろう。
この国にはバーレイ侯爵家の最強の剣と最強の盾がいなければ立ち行かない。
そんなことは百も承知している。
バーレイ侯爵が自分の息子への体罰がひどくなればなるほど、壊れてしまえと願ってしまった。
アイツが幸せになるのは許さない。
私をどれだけ苦しめたのかを知らずに。
「父上、お疲れでしたら、先にお休みになられては。後は私がやっておきますから」
執務室で王太子のルオが私を気遣って言う。
連日の会議で日常の執務が滞っていた。
現在の第二王子は私に対してやや反抗的なので、私の仕事までは動いてくれない。仕事は速いのに。
第三王子は貴族学校での後処理に当たってもらっているので、日常業務までは手伝えない。
「キリの良いところまでやったら、後は頼んでいいか、ルオ」
「失礼致します。オルト・バーレイの捜索ですが、難航しているとのことで、残念ながら消息不明のままだそうです」
入室してきた騎士団の二番隊隊長が報告しに来ているのだが。
「何の話だ?捜索とは何のことだ?」
「はい?」
二番隊隊長も疑問符を頭に浮かべてしまった。
彼はほんの数秒考えてから。
「国王陛下、恐れながら、闘技大会後にオルト・バーレイが行方知れずということで捜索し、王都郊外において彼の切られた長い銀髪と落ちていたシャツに夥しい血がついていたという報告は、闘技大会の翌日にしておりますが」
「父上、その報告は数日前にここで受けております」
小さい声でルオが告げた。
「え、」
ルオは私を見た。
「父上は捨て置けと」
ルオはより小さい声で私に告げた。
自分の身を守ることに精一杯で、重要な報告を聞き逃がしていた。
ルオの声は聞こえなかったはずだが、二番隊隊長の視線が厳しいものとなる。
「国王陛下、会議で連日ご意見ご要望が多いのは、オルト・バーレイが行方不明だからこそで、国防の要である最強の盾を失えば、最強の剣への負担は相当なものになります。ましてや今代の最強の剣クリスト・バーレイはまだ婚約も結婚もしていない身。オルト・バーレイを失えば、この国は立ち行かなくなる危険性も」
「わかっておるわっ、言われなくともっ」
声を荒げてしまった。
「お疲れなのでしょう。貴族への対策をお考えになられてきちんと眠れていないのでは、記憶もあやふやになる。父上、おやすみになってください。今夜は私が指揮を執ります」
ルオにフォローされてしまった。
二番隊隊長もその言葉には納得いかない表情だが、ルオに従う。
平時に滞りなく業務を遂行するのは当たり前で、非常時にはそれ相当の激務をこなさなければならないのが国王だ。
そう教わり、そうできると信じていた。
が、闘技大会では騎士団に避難誘導の指示さえできなかった。
自分たちが逃げることさえ。
あのとき王妃である妻は失禁して動けなくなっていた。
黒いモノの脅威がなくなった後、控室で着替えまでした。
すぐに王族の席にある椅子を処分させたくらいだ。
我々はプライドが高いだけだった。
国王であり、王妃であることの。
自分たちが危機に陥ることに対して、我々は鈍感だった。
誰かが守ってくれると信じてしまっていた。
そう、いつも誰かが。
誰かが、ではない。
この国では、最強の剣と最強の盾に他ならない。
彼らがこの国を守るのは当然と思っていた。
それは、なぜ。
そんなこと、あり得ないのに。
誰だって軽んじられたら、その国を出ていく。有能な者ほど。
寝室に戻り、その恐怖を自覚した。
彼らがこの国からいなくなることを。
嫉妬。
羨望。
それだけの感情だったはずなのに。
恐怖がようやく産声を上げた。
私はバーレイ侯爵家にどれだけのことをしてきたのか、ようやく自覚したのだ。
オルト・バーレイが無事に見つかったとしても、この国に残るはずもない。
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