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7章 貴方に縋る
7-1 迷走中 ◆クオ王子視点◆
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◆クオ王子視点◆
目の前が暗くなりかけた。
女性のオルレアだと思っていた私のこの想いを、代わりをしていた男性のオルト・バーレイに対しても同じく持ち続けられるのか、とか自分の感情と向き合って確認する前にこんなことになろうとは。
手に持っていた手紙は、いつのまにか握ってしまいクシャクシャになっていた。
「クオ王子殿下っ、大丈夫ですかっ。気分が優れないのでしたら椅子にお座りください」
部屋に入って来て報告をした親衛隊隊員たちが私のそばに駆け寄る。
うん、駆け寄って来た。
おい、一番近くにいるお前は何でそのまま机の前で突っ立っている。
報告の衝撃で呆けている、わけでもなかった。
「おい、キュジオ」
「何でしょう」
「なぜお前はこの報告を聞いて平然としている。心配じゃないのか」
私に言われて、キュジオはため息を吐いた。
「オルは生きてはいますから」
嫌な言い方をしたな。
「それがなぜわかる?」
「国の結界が消えてませんから」
「それは最強の盾の仕事だぞ?消えていたら一大事だろうが」
「、、、今の国の結界を担当しているのはバーレイ伯爵ではなく、オルト・バーレイ一人ですよ、殿下。知らなかったんですか」
不思議そうに私を見るキュジオ。
キュジオからすると王子なのに知らなかったの?と言いたいらしい。
「そんな報告来てないぞ。父や兄のところで止まるようにされていたのか?」
「それは俺の知るところではありませんが。ただ、俺からすると、今の最強の盾は十歳の頃から結界を担当しているオルト・バーレイという認識です」
「、、、それが本当なら、もう四年も経っているじゃないか」
「、、、ですね」
呆れ果てた顔のキュジオが前にいた。
四年も?
オルトはまだ十四歳だ。十五歳で成人して、正式に最強の盾となる。本来ならそのときから徐々に国の結界の担当を緩やかに移行していくはずなのだが。
「帝国とかデント王国とかの他国は知っていたようですけどねえ」
「何が言いたい」
「いーえ、何にもぉ。ただ、帝国や大国がこの国との休戦を決定したのはあの強力な結界のせいですし、帝国がなぜ最強の盾を欲しがるのかをこの国の人間もよく考えた方がいいのでは?」
口の端で笑われた。
「あっ、イーティ・ランサス。なぜバーレイ侯爵は帝国の第一皇子をオルトの婚約者に認めたんだ」
「元第一皇子ですね」
「わかっている。わざわざ訂正しなくてもいい。話が折れる」
「イー商会の商会長として会ったらしいですよ。お高い宝飾品をもらったバーレイ侯爵夫人が喜んでオルトを売ったようですね」
滅多に営業スマイルも浮かべないキュジオが笑顔で言った。
あ、これは相当バーレイ侯爵夫妻に怒っている。
キュジオの笑顔は大概、彼の感情とは裏腹だ。
「第二王子が詳しいので、説明はそちらに求めてください」
「ネオ兄上が?、、、もしかして、ネオ兄上はオルトがすでに最強の盾の仕事をしていることを知っているのか?」
そのことを知っていたとしても、国王と王太子であるルオ兄上までと思っていた。
私が知らないのだから、と。
「独自で調べてご存じですよー。過去にオルト・バーレイを婚約者にしたいとバーレイ侯爵に直談判する程度には。お断りされていましたけどね」
「なっ」
ネオ兄上が?
「オルは知らないことですけどね。とっくの昔に潰された話です。それに、バーレイ侯爵はオルをバーレイ家の外に出すことを望んでいません。ですから、結婚後はイーティ・バーレイになるようですが」
「帝国の第一皇子が婿入りっ?」
「だから、元第一皇子ですってば。ほぼ鎖国状態のウィト王国でも他国の情報は手に入れておきましょうよ。それに、オルト・バーレイを配偶者に望んだから、第二王子はソフィア・カートンを宛がわれたんじゃないですか」
ソフィア・カートン伯爵令嬢はネオ兄上の婚約者になった女性だ。
「なぜ伯爵家の令嬢が婚約者になったのか、少し考えればわかるでしょう。第二王子は後ろ盾が弱い方が都合が良い」
内乱をさせないためだとは察したが、そんなことをしそうな兄ではないのだが。
周囲からどう見えるかも、両親が考慮した結果だろうとは思うが。
「、、、では、なぜオルレア・バーレイは私の婚約者候補に入っている?」
「それはバーレイ侯爵の我がままの賜物かと。オルレアが誰を選んでもいいように」
「は?」
「オルレア・バーレイの婚約者候補は数人います。クオ王子もそのなかの一人なだけです」
「は?」
意味がわからないのだが?
第三王子とはいえ、王子を婚約者候補のうちの一人だと?
キュジオの嫌味な笑みで、我に返った。
自分は選ぶ側だと思っていたことに、思い込んでいたことに気づかされた。
彼の目はそこまで見透かしていそうだ。
「バーレイ侯爵は愛娘のためなら何でもするということです」
「、、、第三王子がバーレイ侯爵家とつながったら、それこそ内乱の疑いを持つ者が現れるのでは?」
「残念ながら、第三王子にそこまで期待している者はこの国にはおりませんよ。良くて、バーレイ侯爵家の権力が強まるー、結婚を阻止しなきゃー、って言って他の貴族は婚約解消に励むんでしょうね」
「クオ王子殿下に対して不敬だぞっ」
親衛隊隊員の一人がキュジオに向かって叫んだ。
その者を手で制してから。
「キミの方こそ、上長に対して不敬だ。キュジオ隊長には自由な発言を私が許しているんだ。邪魔をするな」
冷ややかに言い放った。
王族に対して、正確な意見を言える者は少ない。
貴重な存在だ。
王子の意見と正反対であったとしても、それを真正面から否と言える存在は。
王族に対して奸計をめぐらし誘導する者は多くとも、直接言ってくれる者は。
「じゃあ、自由ついでに。現在、クオ王子がオルレア・バーレイの婚約者にはなり得ても、もうオルト・バーレイの婚約者にはなれない。その事実には向き合った方が良いのでは?」
「っ、」
自分からイーティ・ランサスのことを口にしても、頭が理解するのを拒否していた。
あのオルレアがオルトだったのなら、どんなに想ったところで実ることがない。その事実に。
すでにオルト・バーレイにはバーレイ侯爵の認めた婚約者がいるのだ。
「なあ、キュジオ。私が気になっているのは、オルトなのか?一度くらいオルレアだったことはないのか?」
「、、、そう思いたければ、そのように思い込んだらいかがでしょう。同一人物でも区別がつかないくらいですし」
嫌味を込めたキュジオの呆れたような態度から、おそらく、ではなく確実に、私が気になってからのオルレアはオルトだったということだ。
、、、意外と長く貴族学校に潜入していたんだな。
どれだけ危機があったんだ、あの学校には。
もしかしたら報告に上がっていないだけで、様々な危険があったのかもしれない。
バーレイ侯爵家は秘密裏に動くことも多いという。
「会議はまだ続いているのか?」
「あ、はい、まだしばらくは長引くかと」
「あー、あの国王吊るし上げ会議ね」
キュジオの呟きが正確だが、その通りなんだが、他に言い方があるだろう。
国王である父はあの日から連日会議に出席している。その出席者にバーレイ侯爵もバーレイ伯爵もいないがそのせいで余計におさまりがつかない。
当日は命の危険から意気消沈していた貴族たちも、闘技大会の翌日には息を吹き返して怒りとともに王城に押し掛けた。
魔石の腕輪の販売はワート商会のせい、ということで落ち着きかけたが、闘技大会での国王としての対応があまりにもお粗末であったことに対して攻撃がされた。
そして、国王のオルレア・バーレイへの言葉に対して、問題が勃発した。
そう、アレが本当にオルレア・バーレイなら貴族たちもただの嘲笑案件として処理したが、相手が次期最強の盾のオルト・バーレイだったのだ。
どんなにバーレイ侯爵が落ちこぼれだの役立たずだの言ってはいても、次期最強の盾である。
そして、オルト・バーレイは騎士学校卒業後の処遇が決まっていない。
騎士団一番隊において、最強の剣クリストとともに所属が決まっているとは言っても、報酬が約束されていない約束など何の価値もない。
オルト・バーレイへの対応は慎重に行わなければならないのに、あの言葉は確実に王族との関係にひびを入れた。
知らなかったとはいえ、彼にあんな言葉を吐いてはならない。
たとえ、落ちこぼれ、役立たずと言われていても、我々より彼は確実に強いのだ。
「まさか、父上はオルトが国の結界をすでに担当していることさえ軽んじているのかっ。それならば、父上に申し上げなければ」
私は思い立って席を立った。
国の結界は国の防御の要だ。それを軽んじていいわけがない。
私は父が知っているものだと思い込んで、会議の場に向かってしまった。
だって、キュジオがネオ兄上も知っているって言っていたから、国王も王太子も知っていると思うじゃないか。
キュジオはついて来なかった。
王城ではいつものことだと思っていたのだが。。。
目の前が暗くなりかけた。
女性のオルレアだと思っていた私のこの想いを、代わりをしていた男性のオルト・バーレイに対しても同じく持ち続けられるのか、とか自分の感情と向き合って確認する前にこんなことになろうとは。
手に持っていた手紙は、いつのまにか握ってしまいクシャクシャになっていた。
「クオ王子殿下っ、大丈夫ですかっ。気分が優れないのでしたら椅子にお座りください」
部屋に入って来て報告をした親衛隊隊員たちが私のそばに駆け寄る。
うん、駆け寄って来た。
おい、一番近くにいるお前は何でそのまま机の前で突っ立っている。
報告の衝撃で呆けている、わけでもなかった。
「おい、キュジオ」
「何でしょう」
「なぜお前はこの報告を聞いて平然としている。心配じゃないのか」
私に言われて、キュジオはため息を吐いた。
「オルは生きてはいますから」
嫌な言い方をしたな。
「それがなぜわかる?」
「国の結界が消えてませんから」
「それは最強の盾の仕事だぞ?消えていたら一大事だろうが」
「、、、今の国の結界を担当しているのはバーレイ伯爵ではなく、オルト・バーレイ一人ですよ、殿下。知らなかったんですか」
不思議そうに私を見るキュジオ。
キュジオからすると王子なのに知らなかったの?と言いたいらしい。
「そんな報告来てないぞ。父や兄のところで止まるようにされていたのか?」
「それは俺の知るところではありませんが。ただ、俺からすると、今の最強の盾は十歳の頃から結界を担当しているオルト・バーレイという認識です」
「、、、それが本当なら、もう四年も経っているじゃないか」
「、、、ですね」
呆れ果てた顔のキュジオが前にいた。
四年も?
オルトはまだ十四歳だ。十五歳で成人して、正式に最強の盾となる。本来ならそのときから徐々に国の結界の担当を緩やかに移行していくはずなのだが。
「帝国とかデント王国とかの他国は知っていたようですけどねえ」
「何が言いたい」
「いーえ、何にもぉ。ただ、帝国や大国がこの国との休戦を決定したのはあの強力な結界のせいですし、帝国がなぜ最強の盾を欲しがるのかをこの国の人間もよく考えた方がいいのでは?」
口の端で笑われた。
「あっ、イーティ・ランサス。なぜバーレイ侯爵は帝国の第一皇子をオルトの婚約者に認めたんだ」
「元第一皇子ですね」
「わかっている。わざわざ訂正しなくてもいい。話が折れる」
「イー商会の商会長として会ったらしいですよ。お高い宝飾品をもらったバーレイ侯爵夫人が喜んでオルトを売ったようですね」
滅多に営業スマイルも浮かべないキュジオが笑顔で言った。
あ、これは相当バーレイ侯爵夫妻に怒っている。
キュジオの笑顔は大概、彼の感情とは裏腹だ。
「第二王子が詳しいので、説明はそちらに求めてください」
「ネオ兄上が?、、、もしかして、ネオ兄上はオルトがすでに最強の盾の仕事をしていることを知っているのか?」
そのことを知っていたとしても、国王と王太子であるルオ兄上までと思っていた。
私が知らないのだから、と。
「独自で調べてご存じですよー。過去にオルト・バーレイを婚約者にしたいとバーレイ侯爵に直談判する程度には。お断りされていましたけどね」
「なっ」
ネオ兄上が?
「オルは知らないことですけどね。とっくの昔に潰された話です。それに、バーレイ侯爵はオルをバーレイ家の外に出すことを望んでいません。ですから、結婚後はイーティ・バーレイになるようですが」
「帝国の第一皇子が婿入りっ?」
「だから、元第一皇子ですってば。ほぼ鎖国状態のウィト王国でも他国の情報は手に入れておきましょうよ。それに、オルト・バーレイを配偶者に望んだから、第二王子はソフィア・カートンを宛がわれたんじゃないですか」
ソフィア・カートン伯爵令嬢はネオ兄上の婚約者になった女性だ。
「なぜ伯爵家の令嬢が婚約者になったのか、少し考えればわかるでしょう。第二王子は後ろ盾が弱い方が都合が良い」
内乱をさせないためだとは察したが、そんなことをしそうな兄ではないのだが。
周囲からどう見えるかも、両親が考慮した結果だろうとは思うが。
「、、、では、なぜオルレア・バーレイは私の婚約者候補に入っている?」
「それはバーレイ侯爵の我がままの賜物かと。オルレアが誰を選んでもいいように」
「は?」
「オルレア・バーレイの婚約者候補は数人います。クオ王子もそのなかの一人なだけです」
「は?」
意味がわからないのだが?
第三王子とはいえ、王子を婚約者候補のうちの一人だと?
キュジオの嫌味な笑みで、我に返った。
自分は選ぶ側だと思っていたことに、思い込んでいたことに気づかされた。
彼の目はそこまで見透かしていそうだ。
「バーレイ侯爵は愛娘のためなら何でもするということです」
「、、、第三王子がバーレイ侯爵家とつながったら、それこそ内乱の疑いを持つ者が現れるのでは?」
「残念ながら、第三王子にそこまで期待している者はこの国にはおりませんよ。良くて、バーレイ侯爵家の権力が強まるー、結婚を阻止しなきゃー、って言って他の貴族は婚約解消に励むんでしょうね」
「クオ王子殿下に対して不敬だぞっ」
親衛隊隊員の一人がキュジオに向かって叫んだ。
その者を手で制してから。
「キミの方こそ、上長に対して不敬だ。キュジオ隊長には自由な発言を私が許しているんだ。邪魔をするな」
冷ややかに言い放った。
王族に対して、正確な意見を言える者は少ない。
貴重な存在だ。
王子の意見と正反対であったとしても、それを真正面から否と言える存在は。
王族に対して奸計をめぐらし誘導する者は多くとも、直接言ってくれる者は。
「じゃあ、自由ついでに。現在、クオ王子がオルレア・バーレイの婚約者にはなり得ても、もうオルト・バーレイの婚約者にはなれない。その事実には向き合った方が良いのでは?」
「っ、」
自分からイーティ・ランサスのことを口にしても、頭が理解するのを拒否していた。
あのオルレアがオルトだったのなら、どんなに想ったところで実ることがない。その事実に。
すでにオルト・バーレイにはバーレイ侯爵の認めた婚約者がいるのだ。
「なあ、キュジオ。私が気になっているのは、オルトなのか?一度くらいオルレアだったことはないのか?」
「、、、そう思いたければ、そのように思い込んだらいかがでしょう。同一人物でも区別がつかないくらいですし」
嫌味を込めたキュジオの呆れたような態度から、おそらく、ではなく確実に、私が気になってからのオルレアはオルトだったということだ。
、、、意外と長く貴族学校に潜入していたんだな。
どれだけ危機があったんだ、あの学校には。
もしかしたら報告に上がっていないだけで、様々な危険があったのかもしれない。
バーレイ侯爵家は秘密裏に動くことも多いという。
「会議はまだ続いているのか?」
「あ、はい、まだしばらくは長引くかと」
「あー、あの国王吊るし上げ会議ね」
キュジオの呟きが正確だが、その通りなんだが、他に言い方があるだろう。
国王である父はあの日から連日会議に出席している。その出席者にバーレイ侯爵もバーレイ伯爵もいないがそのせいで余計におさまりがつかない。
当日は命の危険から意気消沈していた貴族たちも、闘技大会の翌日には息を吹き返して怒りとともに王城に押し掛けた。
魔石の腕輪の販売はワート商会のせい、ということで落ち着きかけたが、闘技大会での国王としての対応があまりにもお粗末であったことに対して攻撃がされた。
そして、国王のオルレア・バーレイへの言葉に対して、問題が勃発した。
そう、アレが本当にオルレア・バーレイなら貴族たちもただの嘲笑案件として処理したが、相手が次期最強の盾のオルト・バーレイだったのだ。
どんなにバーレイ侯爵が落ちこぼれだの役立たずだの言ってはいても、次期最強の盾である。
そして、オルト・バーレイは騎士学校卒業後の処遇が決まっていない。
騎士団一番隊において、最強の剣クリストとともに所属が決まっているとは言っても、報酬が約束されていない約束など何の価値もない。
オルト・バーレイへの対応は慎重に行わなければならないのに、あの言葉は確実に王族との関係にひびを入れた。
知らなかったとはいえ、彼にあんな言葉を吐いてはならない。
たとえ、落ちこぼれ、役立たずと言われていても、我々より彼は確実に強いのだ。
「まさか、父上はオルトが国の結界をすでに担当していることさえ軽んじているのかっ。それならば、父上に申し上げなければ」
私は思い立って席を立った。
国の結界は国の防御の要だ。それを軽んじていいわけがない。
私は父が知っているものだと思い込んで、会議の場に向かってしまった。
だって、キュジオがネオ兄上も知っているって言っていたから、国王も王太子も知っていると思うじゃないか。
キュジオはついて来なかった。
王城ではいつものことだと思っていたのだが。。。
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