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6章 いらないなら、捨てればいいのに
6-22 医務室にて ◆キュジオ視点◆
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◆キュジオ視点◆
「あーやれやれ、林檎でも食べます?」
俺の言葉に、目が覚めたクオ王子がついつい頷いてしまったので、仕方ない。
俺はナイフで林檎の皮をむいたが、ナイフに突き刺したままクオ王子に渡そうとすると、クオ王子の目が皿にのせて渡せと言っていた。
目は口ほどに物を言う。。。
「ほい」
「ありがとう」
良い子のクオ王子はフォークで林檎を食す。
俺は残った半分を皮もむかずに、ベッド脇でそのまま齧りつく。
「毒見か?」
「食べたくなったから、ついつい」
「クオ王子殿下、打撲の治療は魔法ですでに済んでおりますが、カラダで痛いところはありますか?」
副隊長のバロンが確認する。
確認も魔法をかけた治療師に任せておけばいいのに。
可哀想に、壁際で突っ立っているだけじゃないか。
「いや、大丈夫だ」
クオ王子がベッドの上でカラダを動かして異常がないことを確かめた。
「どのくらい気を失っていた?」
「三十分ほどです。もう決勝戦も始まってます」
バロンが答えた。
決勝戦のことまでは言わなくとも良いのに。クオ王子が見に行くと言いかねないじゃないか。
もうこのまま寮に戻るか、王城に行くかしてもらいたいのに。
親衛隊や騎士団がいるところで動き回りたくないのだ、こちらは。
面倒だから。
「、、、そうか」
俯き加減の視線。
それもそうか。
惚れた女だと思っている相手に秒で負けたんだからな。しかも、吹っ飛ばされて。
ま、クオ王子が傷心しようとも、こちらにはどうでもいいことなのだが。
キュッとシーツを握っていようとも。
「確かにキュジオもバロンも私が負けると予想するわけだ」
うーんと、バロンも予想していたわけか。
正体を知っていれば、当たり前だが。。。
対戦相手がオルレア本人に戻らない限り、あの結果は見えている。
見えているんだが、バロンぐらいはシラを切っても良かったんじゃないか?
慰めにはならないし言えないが、オルレア本人だったらどうやってもクオ王子が勝っている。
オルレアがクオ王子に余裕で勝てるのは、アレが最強の盾だって言っているようなものだぞ。
俺はクオ王子が即座に負けてもらわないと責任取る立場だからこそ言ったのだが。
だって、どう考えたって平民の隊長を追い出すための暴食の魔剣じゃん。
アレが一番穏便に済ます最適解だったと俺も思うわー。
クオ王子の魔力を一滴も魔剣に食わせなかったんだしー。
クオ王子相手なら、普通の剣だけでもオルトは瞬殺できただろうしー。
うん、オルトに惚れているならその事実だけでもクオ王子は苦悶の表情を浮かべそうだから何も言わないでおく。
で、廊下が何やら騒がしい。
バタバタと走っている音が聞こえる。
クオ王子がいる医務室に連絡が入らないということはそこまでの事態ではないと思うが。
それとも、決勝戦が終わったから、国王夫妻が帰るために下っ端の騎士たちが走っているのだろうか。
「何事でしょうか、キュジオ隊長」
「決勝戦でも終わって、国王たちが帰るんじゃねえ?帰りの馬車や警備の準備のために騎士たちが走ってんじゃねえのか」
「、、、いや、それにしてはうるさいんじゃないかと」
バロンが苦笑いを浮かべた。
闘技場の医務室なんてものは、王族も使うことがあるので設備は整っているが、怪我しようと病気しようと即日どこかに移されるものだ。緊急の手当用の部屋であり、ずっとここで治療し続ける部屋ではない。治療師が魔法でどうにもならない生徒なら、とりあえず学校の医務室なり病院なりにさっさと移される。
バロンが医務室の扉を開けて、外に出る。しっかりと扉を閉めて。
そこら辺を走っている騎士を捕まえたかな?
声までは聞こえないが。
「クオ王子殿下、キュジオ隊長、大変です」
大変です、とか言いながら、その表情は無表情なのだが?
先程とは違い、表情が死んでいるのだが。
態度も表情も全然大変そうに思えないので、大変ならもっと慌てようぜ。
「現在、闘技場の観客全員に避難指示が出されてます。多少の混乱はあるものの一部を除いて避難は順調に進んでいると」
「、、、バロン、その原因も聞いているんだろ?」
「観覧席に十三体の黒いモノが急に発生したと。どうやら闘技場前で売っていた魔石の腕輪が原因だということで、その商会長を捕まえたところらしいです」
「、、、なあ、その十三体の黒いモノへの対処は誰がしているのか?」
「黒いモノに触れると人も吸収されるようです。あの騎士は何も言いませんでしたが、それが答えでしょうね」
「はあーーーっ、誰も対処できてねえってことかよ、国王の親衛隊も騎士団も大勢あの場にいるはずなのに」
「ヤバいですね」
「ああ、ヤバいな」
バロンが俺を見た。
死んだ目で。
「違いますよ。あのオルレア殿は王族がいる場では緊急時でも許しを請わなければ抜剣できないじゃないですか」
「あ、」
そうそう。
そんな規則があった。
最強の剣、最強の盾は緊急時なら通常の魔力以上の力を出せるのだが、王族がいる場では許可が必要である。
バーレイ侯爵家がむやみやたらに力を振るうのを禁じているのだ。
だからこそ、オルトはこの学校でオルレアを超える魔力を使わない。バレるから。
オルトがオルトとして自分の通常の魔力を使える場所というのは限られている。
バーレイ侯爵家、騎士学校関連、魔物発生地域。
魔法の盾で常時発動しているものはその限りではないらしいが。
この国全土を把握する魔力測定器の測定方法は俺にはよくわからないが、国の結界に使用している魔法の盾の魔力には反応しないらしい。
本当によくわからない。あれこそ、膨大な魔力量を使用していると思うんだが、俺は。
「クソっ、クオ王子がこの場にいるんだから国王夫妻がいなければ、緊急案件として盛大に戦えたものを」
名前を隠したまま。
国にはバレるが、生徒にはバレなかっただろう。
「何を言っている?」
クオ王子が首を傾げながら問うた。
わかってない奴には、説明してやる時間も義理もない。
「じゃあ、俺も行って救助の手伝いでも」
「ダメですよ、キュジオ隊長。我々はまずクオ王子殿下を場外に運ばないと」
バロンがとめやがった。
「は?」
「俺たちはクオ王子殿下の親衛隊です。残念ながら、クオ王子殿下を安全な場所に移してからの対応となります」
「そんなのすべてが終わっているじゃねえか」
「、、、いえ、すでに、もう親衛隊や騎士団で対応できていない時点で、彼が対処しているのではないかと。どんな場でも彼が一人いれば充分ですので、我々が出ていったところで何もやることはないと思いますよ」
「すでに手遅れってことか。クオ王子がいて安全な場所ってどこだ?」
「この敷地が貴族学校ということで、観客の避難先は校舎、講堂あたりでしょう。とすれば、校舎の医務室あたりが言い訳であろうとも通用するかと」
「ああ、言い訳ねえ。けど、国王があの場にいて、何の指示もしてなければそれこそ無能の王様だ。国王の責任の方が重い。吹っ飛ばされていたクオ王子の責任なんて問題にもなりはしねえ」
「だといいですけど。彼がその黒いモノを鎮圧した時点で、それを持ち込んだ犯人に焦点が当てられますよ。我々にはどうでもいいことですが」
クオ王子は校舎の医務室に連れて行っておく方がいいか。あちらの方には多少の入院まで可能だ。何て言ったって貴族学校なのでそれなりの施設がある。
「彼?」
「はいはい、王子ー、上着着てー、いや、羽織ってー」
上着をキッチリ着ているより羽織っているだけの方がまだまだ吹っ飛ばされた治療中に見えるもんなあ。
あっちでちゃんとした治療を受ける予定です体で行く。
闘技場の外にいる貴族たちに絡まれたら大変だ。
わかっていないクオ王子を促す。
医務室の治療師は右往左往している。そりゃそうか。この医務室に重傷者が担ぎ込まれても誰もいないということになったら大変だ。だが、闘技場が危険なら、自分も避難したいよな。
「職務に命をかける、とかそういう心意気でも持ってなけりゃ、クオ王子の治療を校舎の医務室で行うから、心配なので自分もついて行く、治療が必要な者は校舎の医務室まで来い、とか目立つように書き置きしておけば?」
治療師のオッサンがキラキラした目で。
「はいっ、そうしますっ」
いい返事をした。
闘技大会の後処理が大変そうだな。。。
「あーやれやれ、林檎でも食べます?」
俺の言葉に、目が覚めたクオ王子がついつい頷いてしまったので、仕方ない。
俺はナイフで林檎の皮をむいたが、ナイフに突き刺したままクオ王子に渡そうとすると、クオ王子の目が皿にのせて渡せと言っていた。
目は口ほどに物を言う。。。
「ほい」
「ありがとう」
良い子のクオ王子はフォークで林檎を食す。
俺は残った半分を皮もむかずに、ベッド脇でそのまま齧りつく。
「毒見か?」
「食べたくなったから、ついつい」
「クオ王子殿下、打撲の治療は魔法ですでに済んでおりますが、カラダで痛いところはありますか?」
副隊長のバロンが確認する。
確認も魔法をかけた治療師に任せておけばいいのに。
可哀想に、壁際で突っ立っているだけじゃないか。
「いや、大丈夫だ」
クオ王子がベッドの上でカラダを動かして異常がないことを確かめた。
「どのくらい気を失っていた?」
「三十分ほどです。もう決勝戦も始まってます」
バロンが答えた。
決勝戦のことまでは言わなくとも良いのに。クオ王子が見に行くと言いかねないじゃないか。
もうこのまま寮に戻るか、王城に行くかしてもらいたいのに。
親衛隊や騎士団がいるところで動き回りたくないのだ、こちらは。
面倒だから。
「、、、そうか」
俯き加減の視線。
それもそうか。
惚れた女だと思っている相手に秒で負けたんだからな。しかも、吹っ飛ばされて。
ま、クオ王子が傷心しようとも、こちらにはどうでもいいことなのだが。
キュッとシーツを握っていようとも。
「確かにキュジオもバロンも私が負けると予想するわけだ」
うーんと、バロンも予想していたわけか。
正体を知っていれば、当たり前だが。。。
対戦相手がオルレア本人に戻らない限り、あの結果は見えている。
見えているんだが、バロンぐらいはシラを切っても良かったんじゃないか?
慰めにはならないし言えないが、オルレア本人だったらどうやってもクオ王子が勝っている。
オルレアがクオ王子に余裕で勝てるのは、アレが最強の盾だって言っているようなものだぞ。
俺はクオ王子が即座に負けてもらわないと責任取る立場だからこそ言ったのだが。
だって、どう考えたって平民の隊長を追い出すための暴食の魔剣じゃん。
アレが一番穏便に済ます最適解だったと俺も思うわー。
クオ王子の魔力を一滴も魔剣に食わせなかったんだしー。
クオ王子相手なら、普通の剣だけでもオルトは瞬殺できただろうしー。
うん、オルトに惚れているならその事実だけでもクオ王子は苦悶の表情を浮かべそうだから何も言わないでおく。
で、廊下が何やら騒がしい。
バタバタと走っている音が聞こえる。
クオ王子がいる医務室に連絡が入らないということはそこまでの事態ではないと思うが。
それとも、決勝戦が終わったから、国王夫妻が帰るために下っ端の騎士たちが走っているのだろうか。
「何事でしょうか、キュジオ隊長」
「決勝戦でも終わって、国王たちが帰るんじゃねえ?帰りの馬車や警備の準備のために騎士たちが走ってんじゃねえのか」
「、、、いや、それにしてはうるさいんじゃないかと」
バロンが苦笑いを浮かべた。
闘技場の医務室なんてものは、王族も使うことがあるので設備は整っているが、怪我しようと病気しようと即日どこかに移されるものだ。緊急の手当用の部屋であり、ずっとここで治療し続ける部屋ではない。治療師が魔法でどうにもならない生徒なら、とりあえず学校の医務室なり病院なりにさっさと移される。
バロンが医務室の扉を開けて、外に出る。しっかりと扉を閉めて。
そこら辺を走っている騎士を捕まえたかな?
声までは聞こえないが。
「クオ王子殿下、キュジオ隊長、大変です」
大変です、とか言いながら、その表情は無表情なのだが?
先程とは違い、表情が死んでいるのだが。
態度も表情も全然大変そうに思えないので、大変ならもっと慌てようぜ。
「現在、闘技場の観客全員に避難指示が出されてます。多少の混乱はあるものの一部を除いて避難は順調に進んでいると」
「、、、バロン、その原因も聞いているんだろ?」
「観覧席に十三体の黒いモノが急に発生したと。どうやら闘技場前で売っていた魔石の腕輪が原因だということで、その商会長を捕まえたところらしいです」
「、、、なあ、その十三体の黒いモノへの対処は誰がしているのか?」
「黒いモノに触れると人も吸収されるようです。あの騎士は何も言いませんでしたが、それが答えでしょうね」
「はあーーーっ、誰も対処できてねえってことかよ、国王の親衛隊も騎士団も大勢あの場にいるはずなのに」
「ヤバいですね」
「ああ、ヤバいな」
バロンが俺を見た。
死んだ目で。
「違いますよ。あのオルレア殿は王族がいる場では緊急時でも許しを請わなければ抜剣できないじゃないですか」
「あ、」
そうそう。
そんな規則があった。
最強の剣、最強の盾は緊急時なら通常の魔力以上の力を出せるのだが、王族がいる場では許可が必要である。
バーレイ侯爵家がむやみやたらに力を振るうのを禁じているのだ。
だからこそ、オルトはこの学校でオルレアを超える魔力を使わない。バレるから。
オルトがオルトとして自分の通常の魔力を使える場所というのは限られている。
バーレイ侯爵家、騎士学校関連、魔物発生地域。
魔法の盾で常時発動しているものはその限りではないらしいが。
この国全土を把握する魔力測定器の測定方法は俺にはよくわからないが、国の結界に使用している魔法の盾の魔力には反応しないらしい。
本当によくわからない。あれこそ、膨大な魔力量を使用していると思うんだが、俺は。
「クソっ、クオ王子がこの場にいるんだから国王夫妻がいなければ、緊急案件として盛大に戦えたものを」
名前を隠したまま。
国にはバレるが、生徒にはバレなかっただろう。
「何を言っている?」
クオ王子が首を傾げながら問うた。
わかってない奴には、説明してやる時間も義理もない。
「じゃあ、俺も行って救助の手伝いでも」
「ダメですよ、キュジオ隊長。我々はまずクオ王子殿下を場外に運ばないと」
バロンがとめやがった。
「は?」
「俺たちはクオ王子殿下の親衛隊です。残念ながら、クオ王子殿下を安全な場所に移してからの対応となります」
「そんなのすべてが終わっているじゃねえか」
「、、、いえ、すでに、もう親衛隊や騎士団で対応できていない時点で、彼が対処しているのではないかと。どんな場でも彼が一人いれば充分ですので、我々が出ていったところで何もやることはないと思いますよ」
「すでに手遅れってことか。クオ王子がいて安全な場所ってどこだ?」
「この敷地が貴族学校ということで、観客の避難先は校舎、講堂あたりでしょう。とすれば、校舎の医務室あたりが言い訳であろうとも通用するかと」
「ああ、言い訳ねえ。けど、国王があの場にいて、何の指示もしてなければそれこそ無能の王様だ。国王の責任の方が重い。吹っ飛ばされていたクオ王子の責任なんて問題にもなりはしねえ」
「だといいですけど。彼がその黒いモノを鎮圧した時点で、それを持ち込んだ犯人に焦点が当てられますよ。我々にはどうでもいいことですが」
クオ王子は校舎の医務室に連れて行っておく方がいいか。あちらの方には多少の入院まで可能だ。何て言ったって貴族学校なのでそれなりの施設がある。
「彼?」
「はいはい、王子ー、上着着てー、いや、羽織ってー」
上着をキッチリ着ているより羽織っているだけの方がまだまだ吹っ飛ばされた治療中に見えるもんなあ。
あっちでちゃんとした治療を受ける予定です体で行く。
闘技場の外にいる貴族たちに絡まれたら大変だ。
わかっていないクオ王子を促す。
医務室の治療師は右往左往している。そりゃそうか。この医務室に重傷者が担ぎ込まれても誰もいないということになったら大変だ。だが、闘技場が危険なら、自分も避難したいよな。
「職務に命をかける、とかそういう心意気でも持ってなけりゃ、クオ王子の治療を校舎の医務室で行うから、心配なので自分もついて行く、治療が必要な者は校舎の医務室まで来い、とか目立つように書き置きしておけば?」
治療師のオッサンがキラキラした目で。
「はいっ、そうしますっ」
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