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6章 いらないなら、捨てればいいのに

6-20 売られた喧嘩は買うもの ◆ソニア視点◆

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◆ソニア視点◆

「ああっ、オルレア様、格好良いっ」

 さすがはマイア様。オルレア様の長くて美しい銀髪によく似合う青銀の衣装を作られる。かなりの小物や刺繍で飾られているが、派手ではなく上品な仕上がりだ。
 長く床につきそうな青いマントもまたオルレア様に似合う。

「本当に美しいわ」

「ああ、映像に残したい。宮廷魔導士がいるのなら、魔法で撮っておいてくれればいいのに」

 イザベルが言ったが、宮廷魔導士はそんなことのためにいるわけではない。
 警備とかのためだろう。
 国王夫妻もいることだし。

 クオ王子も舞台に上がると、国王から言葉があった。
 さすがに息子には一言かけるのか、と思ったら。

 オルレア様に対して。

「我が息子、クオの胸を借りて、善戦するよう努めなさい」

 何を考えとるんじゃっ、この馬鹿国王っ。
 ふざけるなっ。
 クオ王子が最強の盾の胸を借りるんじゃろがっ。
 がおおーーーっ。火を噴くぞーーーっ。ふざけるなーーーっ。
 オルレア様を軽んじる発言に国王といえども近くにいる令嬢たちとともに、私は怒りでぎゃあぎゃあ吠えていた。
 私が座る観覧席からでは何を言っても、歓声と同化してしまうと気づいたのはかなり後のことだが。

「そういうセリフはクオに勝てるようになって、いや、善戦できるようになってから言いたまえ」

 国王は肘置きに体重をかけて、オルレア様を見下すかのように言った。
 天誅ーーーーっ。
 国王にあるまじき、人を見下す態度っ。
 何を考えているんだっ、奴はっ。
 バーレイ侯爵家を軽んじた態度を見せれば、この国では国王ですら危ういというのに。

「こ、これから戦うお二人に、国王陛下から激励の言葉をいただきました。では、準決勝を」

 司会者が慌てて準決勝を始めようとしたが。

 オルレア様の目が怖かった。
 一瞬、すべてが沈黙した。
 歓声もなく、何かの物音すらしなかった。

 オルレア様は笑顔を浮かべた。
 余裕の笑みとかではなく、オルレア様の演技を続行したのだ。
 コレはもう身代わりの鏡のような御方だ。

「クオ王子殿下、」

 オルレア様が口を開いた。
 剣帯から外した鞘に入ったままの剣を手に持っている。

「私がこの魔剣を置いて戦うのなら、クオ王子殿下もその魔剣を置いてはいただけませんか」

 オルレア様の申し出は尊いものだ。
 お互い魔剣がなければ実力での戦いとなる。

「はっ、オルレア・バーレイ、そんな魔剣が王子の魔剣と同等と思うな。実力の差があるからと言って無駄なあがきを」

 それを言ったのは国王だった。
 オルレア様から笑顔が消えた瞬間だった。

 最強の盾は感情も押し殺し、魔力も押し殺しているが、かなりキレている。
 目が据わってしまった。

 ああ、本当に国王はオルレア様に扮しているのが最強の盾だということを知らなかったのだなあ。
 知っていたら、煽ることは言わないはずだ。
 せっかく最強の盾がオルレア様として提案してくれたのに。
 この場を穏便に済ませる方法を。

「なるほど。国王陛下はクオ王子殿下の自由に決定する意志を無視すると」

 最強の盾がクオ王子を見た。
 クオ王子の手は魔剣の柄に触れている。

「馬鹿な父親を恨め」

「それは」

 会話を続けようとした舞台上の二人だが、司会者が断ち切った。

「それでは準決勝第二試合っ、開始っ」

 国王がこの場は不問とすると言いながらも、もはや司会者も会話を続ける危険性を悟ったのだろう。

「暴食の魔剣が私の魔剣より優れている事実はどこにもない」

 オルレア様は魔剣の柄を握っているが、鞘から抜かなかった。

「え?」

 え?と言ったのはこの場にいるすべての者か。

 一瞬で勝敗がついた。
 場外の壁に、クオ王子が叩きつけられていた。
 爆音とともに。

 オルレア様が舞台で魔剣を振り回したらしき姿勢をとっていたことから、状況がわかるのだ。
 それを肉眼で何が起こったかしっかり見えた者はいたのだろうか。

 一瞬の静寂。

「審判、」

 魔剣を剣帯に戻したオルレア様が促したことで、正気に戻る者たち。

「オルレア・バーレイ勝利っ」

 大歓声が起こった。
 だが、すぐに。

「宮廷魔導士っ、暴食の魔剣を回収しろ。法令に基づき王城でしかるべき厳重な管理をしろ」

 オルレア様が舞台上から指示を出した。

 暴食の魔剣。
 それはこの国では一度王城の管理下に入ったら、表に出てはいけない魔剣の種類ではなかったのか。
 暴食と悪食の魔剣は世に出れば国を滅ぼす。
 それは持ち主だけの責任では済まされない。

 持ち主の魔力や生命力で足りないこれらの魔剣は周囲の人間にも手を伸ばす。
 それでも足りなければ、辺り一面を焦土のような土地と化してしまう。
 何もかも食らい尽くし、小国なら一瞬にしてすべてを食べ尽くされる危険性を持つ。

 だから、国の管理が必要な魔剣なのである。
 もし国王の勝手な王命によって、国民を危険に晒していた事実が世に出れば。

「本当に暴食の魔剣を王子に持たせていたのか」

「国王陛下が何てことを」

 魔剣事情を知っている者が生徒の親族関係にいるらしい。
 彼らの声は小さいながらも伝わってくる。
 実際、貴族で高位の者、高齢の者や武器に詳しい者なら、この国での魔剣の主な管理先は王城か、バーレイ侯爵家なのだということを知っている。
 そして、王城が管理するのはバーレイ侯爵家にとって持っていても何のうまみもない魔剣の類なのである。
 管理するのは大変で、表に出すことができない代物。
 国家の安寧を脅かす魔剣。
 だからこそ、税金で管理することにしたにもかかわらず、こんなことを国王自ら仕出かすとは。

 さざ波のように国王陛下を怪しむ声が聞こえ始める。


 そんななか、オルレア様は深い礼を国王夫妻にした後に舞台から降りた。
 一瞬、憎々し気にオルレア様を国王が見ていなかったか?
 周囲のざわめきも聞こえないほどに?

 自分の息子のクオ王子が担架で運ばれているというのに、安否の確認さえせずに、息子の敗北だけを気にする国王というのは。。。
 オルレア様の機転で息子が死ななくて良かったとは思えないのか?




「ねえ、アニエス」

 返事がまったくない。
 横を見ると、、、じぃっとオルレア様を見つめ続けるアニエスの姿があった。
 舞台の横にいるシン・オーツとまた話し出したらしい。同学年の男同士で話が一番合うのかもしれない。

 んで、何の反応も返さないコイツこそ、誰の声も耳に入っていない。

「ねえ、イザベル、決勝戦はオルレア様とサイ・モルト様ね」

 その向こうにいるイザベルに声をかけた。
 一瞬で終わってしまったが、オルレア様は連戦となるのでとりあえず休憩を入れる。

「そうね。どちらが勝つかしら、オルレア様頑張って、と言いたいところだけど、サイ・モルト様が相手だと難しいのかもしれないわね」

 イザベルの言う通り、オルレア様が勝つのは難しいかもしれない。
 今の準決勝、最強の盾はクオ王子との対戦で魔力を一切使っていない。
 完全に筋力だけで剣を振り回し、クオ王子が一撃で壁まで吹っ飛ばされただけなのだ。

 だが、最強の盾がオルレア様の魔力量だけで決勝戦を戦うのは制約が重すぎる。
 サイ・モルトとの戦いは魔法での応酬になるのだろうから。


 休憩時間が終了して、司会の声とともに舞台にオルレア様が上がる。

「オルレア・バーレイっ」

 オルレア様が笑顔で周りに手を振ると、多くの令嬢たちが顔を赤らめる。
 男装の令嬢だということを知っているよね、キミたち。
 オルレア様が最強の盾だということは知らないはずなのに、まさに恋愛に侵された瞳になっている。

「サイ・モルトっ」

 司会が声を上げると、サイも舞台に上がった。
 こちらは魔導士のローブ姿だ。今日は長い黒髪を後ろで束ねている。
 二人で舞台に立っていると。

「ああっ、嫌になるほどお似合いっ」

「、、、ソニアー、夢を壊すようなことを言わないでえ。オルレア様、まだお嫁に行かないでくださいー」

 あ、イザベルの目が怖いっ。
 アニエスの耳が聞こえていなくて良かった気もする。
 いや、二人とも男なんだけど。
 うん、男なんだけどね。
 皆は知らない事実なんだけどね。。。
 お似合いじゃないか?

 二人が国王夫妻に礼をすると、すぐに決勝戦が開始された。

 サイも上級魔法を連発したり、オルレア様も魔剣でサイの魔法を叩き折るとか、二人とも楽しそうに戦っていた。
 オルレア様は長いマントを翻しながら、華麗に舞っていた。
 観る者も楽しめるこれぞ決勝戦という戦いなのだが、やはり制限が強い方が分が悪い。
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