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6章 いらないなら、捨てればいいのに

6-10 参戦

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 明日から貴族学校の学内交流会だ。

 ソニアとともにマイア様と王城で会った後、女子寮のオルレアの部屋に戻って来た。
 俺がオルト・バーレイだと知っていて、ごくごく平然と女子寮の階段で別れたソニアは、俺が男だろうと何だろうと気にしないタチなのか?
 普通の貴族の令嬢なら騒ぎそうなのだが、自分の正体をバラされるのも困るからか?
 あまりにも自然だったので、こちらの方が気が引ける。。。

 ま、部屋が別々なのだから、気にしない人間はまったく気にしないだろう。
 冒険者だと宿で男女同室や同じテントで泊まっている者たちもほどほどにいる。
 男女二人を同じ部屋に入れるだけで間違いが起こると思っている人間ほど、頭のなかは発情期なのかもしれない。

 貴族は万が一にも間違いが起こってはいけないから仕方ないが。
 特に令嬢には。


 学内交流会の一日目は特に予定もない。
 お金もないので、劇や展示等の無料で公開しているところしか行けない。

 二日目の午後に創作魔法発表会。ほどほどに発表する者がいる。
 サイが発表しないので観客数は伸び悩むと思っていたが、オルレアファンクラブの三つの会が買い占めたそうな。
 買い占めたという表現は正しくないか。
 チケットは売買していないから。

 会場は闘技場である。
 本当はもう少し小さい会場で行う予定だったらしいのだが、マイア様とレオ様が観覧チケットを手に入れてしまったので王族席がある会場でなければならなくなったそうな。
 いろいろと運営側も大変なんだな。

 舞台の大きさは発表者も頭を悩ます部分だろう。
 小さい会場なら派手に見えても、貴族学校の闘技場は収容人数も多いため、中央の舞台も広い。
 大きな花火を打ち上げても、それなりに見える程度になってしまう。
 空が開けている会場では舞台だけでなく、上空も含めて考えなければ空間が狭まる。
 だが、考えもなくあっちこっちで散らばってしまえば、観客はどこを見ていいのかわからなくもなる。
 派手さだけを追求するわけにもいかない。

 午前中は魔法成果発表会だそうだ。
 自分のできる魔法のお披露目会と言ってもいい。意外と参加者は多い。
 こちらは派手さとかは関係なく、上級の魔法ほど評価されるのだが、闘技大会や他の発表会等に出る生徒は出ないので地味になる傾向があるのだそうな。
 観客はほとんどが参加者の関係者らしい。

 三日目は例年闘技場で闘技大会だけが催されるのだが、今年は本選しか行われないので午後からである。午前中は急遽催し物を加えたそうである。
 ホント運営側が大変だ。
 王族のせいで。

「オルレア様、お手紙が届いております」

 部屋に戻ると、セイラから報告があった。

「へえ?誰から」

「すべて女子生徒からのものです」

「、、、どういった内容の?」

「おそらく創作魔法発表会と闘技大会の激励、後はお時間があれば一緒にまわりませんかというお誘いなのではないでしょうか?」

「バーレイ侯爵家が断って失礼のある令嬢からは来ている?」

「そのような家からはまだ来ておりませんが」

 まだ?
 当日のお誘いか?

「が?」

「マーガレット・モルト公爵令嬢が手紙を書いては千切って捨て、また書いては、という奇行を繰り返しているということを公爵家の侍女から教えていただきました」

「、、、それを聞いて俺にどうしろと?」

「オルレア様なら王子様らしく先手を打つのではと」

「誘いがなければ、放置」

 俺、オルレアじゃないもーん。ただの身代わりだもーん。
 それまでやれない。
 さすがに公爵家だと無下に断れない、誘われれば。
 セイラも静かに頷いた。

 そういや、サイやシンやスレイはどうするのだろう。
 クラスメイトとまわるのかな?
 俺、一日目は何もないから暇だなー。
 何もすることないなー。
 金もないしなー。
 見るものも特にないしなー。
 暇だなー。
 なー。
 なー。


 、、、と思っていた時間がありました。

「オルー、やっと捕まえたー」

 人懐こい笑顔で、俺の腕を捕まえている、ガッチリと。

 コイツ、身長伸びたな。
 俺より目線が高くなった。ほんのちょっとだけどっ。
 くそっ、十二歳のクセにっ。
 成長期かっ、成長期だよっ。
 俺はあまり伸びないのにっ。

 学内交流会、初日。
 学内交流会という文字通りの生徒だけではなく、親族、卒業生、業者等のかなりの部外者が大勢来ているため、学内はかなりの人混みになった。貴族学校だから、それなりの関係者しか入場できないはずなのだが、それでも多い。
 だから、人混みのなかだったため気づくのが遅れた。
 コイツに先に気づかれたら終わりなのだ。
 なぜか足は俺の方が速いはずなのに捕まる。本当になぜだ?疑問しかない。

「カーツ、お前、一緒にまわる友人とかいないのか」

「いたって、オル優先だよー。アイツらはいつだって会えるしー」

 ニコニコ笑いながら毒吐くな、お前。
 そのアイツらは、息を絶え絶えしながらお前に追いついたのに、その言葉を聞いて嘆き悲しんでいるぞ。

「あ、俺はオルとまわるから、またねー」

 非情にもカーツはそのアイツらに手を振った。一緒にまわろうと約束していたんじゃないのか?
 友人がいなくなるぞ。

「お前なあ、腕を離せ」

「離したら、オル逃げるじゃん」

 ブー、とカーツは頬を膨らませている。

 逃げるに決まっているだろうが。
 何を当たり前のことを言っている。

「先約を優先しろ」

「いつだってオルが一番だよー。俺にとってオルがいない世界は闇だよ。オルは俺の唯一の光なんだから」

 目が半目になっちゃう。
 可愛いから格好良いに成長してきたのに、残念だ。
 そういうセリフは女性に言え。
 女性?

 首を傾げる。

 どうも周囲の視線が気になるなあ。生徒だけでなく。
 あ、俺、今、オルレアに扮しているんだった。
 男子の制服を着ていても、一応オルレアだった。

 女性を口説くセリフをコイツは口から吐き出していた。
 この状況は勘違いされるのか。

 俺は声を一段低く落として言う。

「カーツ、俺と行動したいということは貢がせるぞ」

「えっ、喜んでっ」

 えっ、喜んでっていう返事でいいの?
 頭、大丈夫?
 顔、だけじゃなく全身がものすごく嬉しそうなんだけど。子犬の尻尾がブンブン振られている気がする。

「じゃあ、広場で奢れ」

「あ、食べ物関係でいいのー?指輪とか贈っちゃうよー」

 キラキラな目で何を言うんだろう、この子は。

「指輪はもう贈ってもらったから、大丈夫だ」

「は?」

 カーツの表情が固まった。
 ちなみにこの会話は小声で話している。

「え、えっと、誰に?」

「あ?バーレイ伯爵から聞いてないのか。俺、婚約したんだぞ」

 父親から聞いていないのだろうか?
 バーレイ侯爵は国に報告しているから、もうバーレイ伯爵にも伝わっているはずなのだが。

「え、、、オルレアが婚約したんじゃなく?」

「ああ、俺が」

 と言って気づいた。
 もしかして、バーレイ伯爵は息子に黙っていたのでは、と。

 周囲に人が大勢いるのに、コイツは俺の腕をつかんだまま泣きそうになった。
 涙がこぼれる前に、俺はコイツを担いでさっさとその場を後にした。




 人がいない場所にて、コイツを落とす。
 落としたところで腕をつかむ手は離さないが。

「心臓に悪い」

 男装のオルレアが男子生徒を泣かせるより、男子生徒を担いだ方が絵にはなるだろう。
 変な噂になるのは避けたい。
 ん?担いだ方が変な噂になるのか?まあ、いいや。

「誰と婚約したの?サイ?シン?スレイ??それとも、」

 おろおろとしながらも、カーツは俺の腕を決して離さない。
 ある種の狂気すら感じるぞ。
 いや、コイツはいつも狂気の域なのだけど。

「何でその三人なんだ?イーティ・ランサスだ」

「イーティって帝国の第一皇子だよね」

「もう皇子ではないが」

 つい最近、正式に皇子ではなくなったが、皇族の一員ではある。
 それでも、皇子とは名乗れないので、彼はイーティ・ランサスとして、ランサス姓だけを名乗るようになった。

「皇子でもないなら、俺と結婚しようよっ」

「いや、婚約したと言っただろう。そもそも、俺は昔から言っているが、お前と結婚する気はない」

 俺が言うと、カーツは頬をぶくーっと膨らませた。
 そういうところが、思い通りにならないから、ただ拗ねているだけの子供に見えるんだぞ。
 誠実な結婚の申し込みにも、愛の告白にも聞こえないのは、困るくらいにカーツが幼い頃のままの言動だからだ。
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