上 下
96 / 207
6章 いらないなら、捨てればいいのに

6-8 笑顔にはもちろん裏がある ◆ソニア視点◆

しおりを挟む
◆ソニア視点◆

 今回の闘技大会の処罰対象者は何もオルレア様の試合に乱入したあの三人に限ったことではない。
 貴族学校でそれなりの礼儀を学んでいるはずの生徒たちが、なぜかハメを外す。
 警告だけでは済まず、処罰対象になれば親にも連絡が入る。
 魔法による治療を受けても、親に連絡が入るけどね。治療費の請求で。生徒自身が全額払うことができるのは、ごく僅かだろう。

 いい気味だ、と思ってしまうのは私だけではあるまい。

「オルレア様は順当に本選へ勝ち進んだわね」

「ソニア、ずるいー。予選が終わるまで、オルレア様が予選に参加していること教えてくれないなんてー」

 アニエスが頬を膨らませて抗議する、くらいなら可愛らしいのだが。
 オルレア様がいない場所では般若のよう。。。
 絵に残しておくか?魔除けになりそう。

「、、、受付にも守秘義務があるのよ。そもそも、噂が噂だったのだから真偽を確かめに予選を見に来れば良かったじゃない」

 手間を惜しんだ、アニエスが悪い。
 番号による対戦表は掲示板に貼り出されているが、そもそもオルレア様が何番なのか知らなければ、その対戦表は意味をなさない。妨害防止の対戦表なので仕方ない。
 目撃者もオルレア様が有名過ぎて、腕章の番号を覚えている者がいなかった。

「予選は五会場もあるのに、探せるわけないじゃないっ」

 ついでに言うと、その五会場に闘技エリアがそれぞれ三から十ほどある。予選の闘技エリアはそれぞれ同じ大きさだが、観客席がない会場の方が闘技エリアに部外者が飛び込んでくる危険性の高いことが判明した。来年も予選があったら会場設営に考慮してもらいたい。

「そんなときのためのオルレア様を慕う会じゃないの」

 呆れ果てる。人海戦術すれば、探せないわけではない。
 アニエスが思いつかなかったわけじゃないのよ、って顔を今さらしているが遅い。

 オルレア様は実力であのシード枠に入った。
 けっこうな逸話を作ったので、令嬢とはいえバーレイ侯爵家の者は強い、と無事に認識された。
 今まで訓練場で行われていた朝練も、単なる接待稽古ではなかったんだなあと、かなりの生徒が見方を変えたようだ。
 オルレア様本人がやっていたのは正真正銘の接待稽古に間違いないと思うが、それはそれ。

 けど、アニエスらオルレア様を慕う会のメンバーが、オルレア様が強いのは当たり前よ、という態度を見せるのはちょっと私には微妙なのだが。
 戦っているのは、オルレア様じゃないのだから。
 最強の盾がどんな命令を受けてこの学校にいるのかは私にはわからないが、オルレア様が戻って元通りになったとき、すべての名声がオルレア様のものになるのを良しとするのか。
 オルレア様も当然とばかりに、当たり前のように受け入れるのだろうか。

 最強の盾とオルレア様の実力の差は恐ろしいほど開いているのに。

 オルレア様は理想の王子様、皆でわーきゃー騒ぐアイドルみたいな存在だ。推しといっても良い。
 理想の王子様と言えども、私の恋愛対象ではない。
 あくまでも理想の王子様像である。

 そして、実際、最強の盾の戦う姿は美しい。
 見惚れる。

 ただ私の最強の盾に対する感情が恋愛感情かと問われると、これまた否と答えられる。
 オルレア様が憧れなら、最強の盾に対する感情は何なのだろう。

 二人が別人だとわかっているからこその葛藤、というのは特にない。
 どちらも我々の理想の王子様像を演じているのだから。
 最強の盾と話すことが多い今だと、最強の盾の素がわかる。

 私には逆にオルレア様の素の方がわからないのだ。

 彼女は貴族学校に入学する前は我がまま姫と裏で言われる通り、かなりの残虐性を持った我がままをやりたい放題叶えていた。
 それが素だとしたら、さすがに残念だと言わざる得ない。
 けれど、学校に入学したからといって、急に性根が改善することなどあり得るだろうか?

 おそらくオルレア様にはお近づきにならない方がいい。
 その願いはアニエスとは真逆なのだろう。アニエスはオルレア様にお近づきになりたいと切に願っている。
 オルレア様は私にとって憧れの存在。
 遠く離れたその位置がちょうど良い気がする。


「ちょうど良かった。ソニア嬢、今、大丈夫かな」

 最強の盾が現れた。
 いつもの白い制服姿だ。
 アニエスは可愛いお顔に戻っている。

 本日は、学内交流会前日。
 午後からは授業がなく準備で騒がしいが、貴族の子弟である生徒は家の者に指示をするだけだ。
 忙しく動き回っているのは爵位の低いものであったり、使用人たちだ。
 演劇とか演奏を自分でやらざる得ない者たちは練習に余念がないが、裏方にいる使用人の方が大変だったりする。

 オルレア様を慕う会で展示をする我々も、借りている教室の飾りつけを終え、通路で担当教師が来るのを待っていたところだ。ちなみにイザベルは教師を呼びに行っている。

「オルレア様、どうかなさいましたか」

「マイア様に呼ばれたんだけど、何か知ってる?」

「衣装のことではないのですか」

「創作魔法発表会の衣装は受け取ったよ」

「あ、そちらではなく」

 私の言葉に、最強の盾も思い当たったようだ。
 元々貴族学校にいなかった最強の盾は特有の情報には疎いところがある。
 衣装も彼にとってはどうでもいい分類に入っているのだろう。

「まさか闘技大会の方も制服じゃないのか」

 以前、マイア様とのお茶会のときに一張羅で参加する生徒もいるって話をしていたと思うけど。
 どうでもいいことは忘れるのか。

「たいていの生徒はわりと派手な衣装を身につけて参加されますね。というか、観客の方も派手なドレスを着る令嬢たちも多いですよ」

 昨年は予選もないから、弱い者ほどド派手な衣装を好んだ。衣装しかアピールできる部分がないのか、とツッコミ待ちかと思うくらいだ。

「、、、その衣装のことだと思う?」

「このタイミングで呼ばれたのならその可能性が高いかと思われます」

「、、、うーん」

 オルレア様が考え込んだ。
 アニエスが憂いを含んだ表情も格好良いと思っているのが、彼女のうっとりとした表情でよくわかる。

 オルレア様がゆっくりと私を見た。
 ニッコリと王子様笑顔で。

 ぎょっ。

「ソニア嬢は明日の準備で忙しい?」

 キラキラっ。

 最強の盾の言いたいことがわかる。
 王城までついて来てー、と言われていることを。

 ぎょぎょっ。
 アニエスの冷気が怖いわ。

 くぅっ。
 最強の盾、わざと笑顔全開にしているだろっ。
 最強の盾が私にこんな輝かしい笑顔を向けるわけがない。

 が、この顔には弱い。

「オルレア様っ、大丈夫です。後は教師がチェックするのを待っているだけですから。会長のアニエスに任せますっ」

「えっ」

 アニエスが本気の驚きを全身で表現した。

「子猫ちゃん、ソニア嬢を借りて良いかな?」

 キラキラキラーン。
 笑顔が眩しい。
 アニエスがオルレア様の笑顔に勝てるわけがない。

「、、、どうぞ、いくらでもお使いください」

 私はアニエスの何なのだろう?下僕でも使用人でもないんだが。

「ありがとう、アニエス嬢」

 オルレア様がアニエスに微笑むと、アニエスが数歩後ろによろける。通路が広いので壁にはぶつからない。

 オルレア様の過剰摂取は危険です。
 オルレア様は用法・用量を守って正しくお使いください。

 後でイザベルに聞いたら、アニエスは壁に向かってブツブツ言っていたそうな。
 確認に連れてきた教師と二人で怖がったそうな。

 、、、はじめての名前呼びだったからなあ。




「悪いね、一緒に来てもらって」

「いえいえ、アニエスを丸め込んだのはオルレア様ですしー、闘技大会の衣装ならば、是非とも事前に見ておきたいですしー」

「、、、そう言ってもらって助かるよ」

 おや?
 コレは私の真実の心の声だったのだが。
 最強の盾はどのように受け取ったのだろう。

 王城からの迎えの馬車が学校玄関口にすでに来ていた。
 最強の盾と私は馬車に乗り込んで王城に向かった。
 マイア様がいつも通りの微笑みで、王城の応接室で待っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

七彩 陽
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...