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6章 いらないなら、捨てればいいのに

6-3 自分の無力を感じるのは ◆サイ視点◆

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◆サイ視点◆

「お兄様、交流会の準備は順調なのですか?」

 放課後、妹のマーガレットとカフェテラスでお茶をしながら近況報告である。
 貴族学校という学び舎が同じでも、学年も寮も違うと会う機会は約束でもしていないと限りなく少ない。

「うーん、難しいところだね」

 学内交流会の時期が近付いた。
 暑からず寒からずの時期に開催されるこの学内交流会は、学年問わず参加できる闘技大会と言われる行事が最終日に存在する。
 記念に出場する者も少なくない。
 魔法、剣や槍等の武器、体術、薬品、何を使用してもいい。何かしらに秀でており強い者が勝つと言われている。
 たいていは最高学年の生徒が勝つが。
 闘技大会に参加しない生徒も観客として、闘技場の外では出店や他の催し物も開催しておりお祭りイベントとしても楽しめる。

 今年はオルレアに扮するオルトがいる。
 ただし、オルレアに徹してくれるのなら、私が勝つ可能性も残されている。

 学校の闘技場で行われるイベントは、王族が観覧に来る。
 第三王子がいるので、今年こそ国王夫妻が見に来るのでは?と生徒たちも浮足立っている。
 警備の問題があるので、来るのならすでに決まっていそうだが、確定してしまうと父兄の人数が膨れ上がる危険性が出るからであろう。王族の誰が来るかは表立って明らかにされていない。

 それでも、闘技大会に出場する生徒は多そうだ。

「お兄様は最高学年ですし、魔導士としての実力はすでに国家最高レベルですっ。負けるわけがありませんっ」

「褒めてくれるのはありがたいけど、言い過ぎだよ。あ、オル、ちょうど良いところに」

「ふひぃっ」

 変な声を発したのはマーガレットである。オルトのオルレア姿を見て動きがとまってしまった。
 カフェテラスのちょうど下を歩いていたオルトが見上げて、私たちを見る。

「サイ、どうした」

「学内交流会の参加申し込みは済んだのか?」

「学内交流会?」

 わかっていない顔だ。
 三学年にもなると、詳細な説明もしないか。
 あのバーレイ侯爵家の侍女たちもオルトに説明などしないだろう。
 オルトもクラスで連絡事項としては聞いているけど、よくわからないから放置のまま忘れたというところか。

「さあって、オル、こっちに来てお茶でもしよう」

「お茶ぁー?」

「お茶菓子もつけるぞ。軽食の方が良いか」

 オルが食べ物で釣られた。
 いつもだが。
 昔からだが。
 お菓子で魔法実験に付き合ってくれていた。
 この貴族学校では食事の量は足りているはずだが。

 従者に適当に購入してくるよう伝える。
 カフェテラスにつながる外階段からオルトがやって来る。

「学内交流会って、今、なーんか学内が浮足立っている行事のこと?訓練場もけっこう生徒が出てきているし」

 一応、参加者がもらう必要事項が書かれている用紙を見せる。
 オルトも目を通す。
 従者が運んできたサンドウィッチとドーナツ、パンケーキをオルトの前に並べる。
 おしゃれな盛り付けになっているので、このくらいの量ならオルトは余裕で食べられる。

「オルも参加するだろ?」

「何でもアリなんだな、この学内交流会の闘技大会って。騎士学校の闘技大会だと、それぞれの種目ごとに分かれているのに」

「種目というと」

「剣や槍、弓、体術、魔法、馬術とか、かなりの種目数があったはずだよ。騎士学校の生徒は三種目以上の参加が強制だ」

 貴族学校と騎士学校ではガチ度が違う。。。

 実際、こちらでもそれぞれの種目ごとに順位を決めればいいのだろうが、そうすると各種目ごとに有力な参加者が分散してしまい盛り上がりに欠けるのが貴族学校なのだろう。

 祭りは祭りでもあちらは将来に直結している。

「うーん、」

 片手に用紙、片手にサンドウィッチを持ちながら、オルトが悩む。

「参加しないのか」

 それはそれで寂しい。
 自分の感情でも揺れ動く。
 負けたくはないが、同じ場で戦いたいという。

「何でもありだと、オルレアの実力じゃどうにもならないんじゃないかなあ。シンにも勝てないし」

「オルレアだと絶対にシンには勝てないのか」

「一対一で奇襲なしの条件だと、百戦すれば一戦くらい。。。いや、千戦で一勝ぐらい、、、するかな?」

 奇襲なら何とかなったのか。

「その一勝の勝因は?」

「シンに落雷があったとか、シンの足元に地割れが起こったとか、馬車が突っ込んで来たとか、竜巻に巻き込まれたとか、」

「それ、どう考えてもオルレアの実力じゃないんだが」

「運も実力のうちって言うじゃないか。まあ、それぐらいのことが起こらなければ、オルレアがシンに勝つことはできないってことだ」

 酷評。
 けれど、真面目に訓練をしているシンが勝つのは当然だ。
 オルレアのファン以外は冷静に分析できる能力差である。

「あと、下剤を飲まされたとか、人質を取っているとか、」

「もういいよ。正々堂々とした勝負で勝てないってことだろ」

「男女関係なく出場可能ではあるが、オルレアが出場したところで、そこまでの魔法も使えないし予選敗退だぞ」

 このオルレアは、オルトが扮するオルレアのことではない。

「オルレア様、この学内交流会は、三日目の最終日の闘技大会だけではなく、一日目、二日目も盛り上がる行事だと聞きましたが」

 ルイジィがオルトの後ろから現れた。
 神出鬼没の影だな、ホント。

「へえ、そうなの?」

「演劇やら演奏やらクラスの出し物やら、魔法成果発表やら、様々なイベントがあるそうです。父兄も多数いらっしゃるようで。まあ、最終日の闘技大会本選が一番盛り上がる行事らしいですけど、学校イベントとしては一日目、二日目も学内を回ってみたらいかがですか」

「うーん、お金ないしなあ。賞金でも出れば多少はやる気が出るんだが」

「あー、賞金は出ませんが、賞品が出るものがありますよ」

 ルイジィが学内交流会のパンフをオルトに渡した。

「賞品?どんな?」

「コレです。創作魔法発表会の優勝者には魔法の杖を賞品として与えると」

「あー、意外と高価な杖っぽいな。提供が魔法研究所なんだね」

 魔法の杖は魔力が少なかったり、魔法が安定しない者が使う。
 オルトも私も杖は使っていない。

「でも、新しい魔法なんて生徒が生み出せないだろ?」

「この創作は創作ダンスの意味合いと同じようですよ。今ある魔法を独創的に自由に使い、組み合わせ表現する場のようです。威力はなくとも派手であれば派手であるほど、パフォーマンスとしてはお祭りらしく騒げるというものです。魔法の盾を使わなければ、オルレア様の魔力量でも何とかなるのでは」

「うーん、賞品が何も出ない闘技大会より魅力的だけどね。派手かあ」

「、、、オルは魔法の杖ほしいのか?」

 必要ないと思うけど。
 欲しいのなら贈り物として。

「高い物なら換金できるじゃん」

「、、、そう」

 予想はできたけど。
 魔法研究所は若手育成のために杖を提供するのであって、売ってもらうために賞品にしているわけではないのだが。
 言わないでおこう。
 そんな正論、オルトには必要ない。

「オルレア様が闘技大会に参加しなければ、下馬評ではサイ様、シン様、スレイ様、カーツ様の四人がそれぞれの学年で優勝候補なのではないかと言われていますね」

「へー」

 あ、オルトの返事がまったいらになった。
 その抑揚のなさに気づいたルイジィがほんの少しだけ首を傾げる。

「一年のカーツ様はなさそうですけどね」

「そう」

 ルイジィもオルトの返事でどの部分がダメだったかわかったようだ。
 確認作業までした。
 バーレイ伯爵の息子であるカーツ。
 オルトにとっては関わりたくない人物だ。
 関わりたくない人物に、ものすごく懐かれているという事実が悲しいほど存在するが。だから、オルトはカーツの視界に一切入らない努力をしている。見つかったら最後、カーツはオルトの元に飛んでくる。まるで懐いている子犬のように尻尾を振って。
 事情がなければ、ただ可愛いと可愛がれたものを。

「ところで、サイ様は創作魔法の方には参加されないのですか?」

「ああ、魔法研究所に内定が決まっている者は毎年参加できない決まりになっている。裏方で手伝えとは言われているが」

「それは好都合じゃないですか、オルレア様。せっかくですから、お祭りに参加致しましょう」

 ルイジィもオルトに気を使っているのか?
 スッと創作魔法発表会の申込用紙をオルトの前に差し出していた。

「一つぐらい参加しておいた方が良いか。コレは二日目の午後の行事なのか」

「そうです。ちなみに、闘技大会の方は今年の参加人数は多そうなので、予選は学内交流会の前にやってしまうそうですよ。つまり、本選出場する選手以外は相当なお祭り騒ぎになりますねえ」

「がんばれよー、サイー」

 感情のこもっていないがんばれが来た。
 オルトとして出場できれば、と考えるだけ嫌なのだろう。
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