男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

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6章 いらないなら、捨てればいいのに

6-1 切り捨てるなら、切り捨てられる覚悟を持て

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「どうか怒りをお収めください」

 筆頭侍女のセイラが深く頭を下げた。
 ソファに座る俺の風呂上がりの長ったらしい髪を、他の侍女たちが拭いている。
 行動を起こさなかったが、この侍女たちも彼女と同じ考えを持っている。
 おそらくこの侍女が先に行動に移したから、自分たちはしなかった程度の違いである。

 今、手紙を燃やした彼女は、セイラの後ろで土下座している。

「セイラ、彼女には暇を与えたんだろう。なぜ、まだこの部屋にいるんだ?」

「オルレア様、貴方の怒りで彼女が立ち上がれません。どうか命ばかりはご容赦ください」

「、、、命?俺が?オルレアやお前らみたいに何もかも奪うわけがないじゃないか」

「オルレア様のことを悪く言わないくださいっ」

 一人の侍女が声を荒げた途端、地面に突っ伏す。
 オルレアが過去に何をしてきたかわかっていて、そのセリフを吐けるところは恐ろしいほど尊敬する。
 この侍女たちはオルレアとその味方以外の者を人間扱いもしたくないらしい。

「俺に就くのが嫌なら、バーレイ侯爵家に戻れと俺がこの寮に来たとき最初に言ったよね?キミたちは何も覚えていないのかな」

「ですが、何かとお世話が必要ですし」

「セイラ、お前は知っているだろう。俺はお前らなんかいなくても生活に困らない」

「そ、そうですが、オルレア様にお付きの侍女がいきなりいなくなれば怪しまれます」

「バーレイ侯爵家で不測の事態が生じたとでも言えば、何でも信じるさ」

「ならば、我々はバーレイ侯爵家に戻らせていただきますっ」

 五名の侍女が名乗りを上げた。
 オルレアが侯爵家に戻っているのなら彼女たちの仕事は守られるだろうが、オルレアがいなければ彼女たちの仕事はない。
 俺がこの寮に来た当初に戻っていれば、仕事をどうにかしてくれたかもしれないが、今さらなのである。
 最初にきちんと俺は告げたし、セイラも説明した。
 俺が言うのも何だが、バーレイ侯爵家は必要のない人間にひたすら冷たい。
 わざわざ仕事を与える価値もない人間には、オルレアが戻って来たときに代わりの者を必要な分だけ雇えばいいだけの話である。

「どうぞご自由に」

 これで六人の侍女が侯爵家からいなくなる。
 が、なぜか彼女たちはその場から動かない。

「オルレア様、四人の侍女でここを切り盛りしろとおっしゃるのですか?」

「、、、公爵家の令嬢のマーガレット嬢の侍女は学校に三人しか来ていないよ。クオ王子の従者も三人だけだよ。そもそも、学校に常時二桁も侍女がいる家が異常で、護衛とか他の者を合わせて二桁いくならわかるけど、ひどいよね」

「オルレア様に必要な人数です」

「そう」

 それをセイラと議論する趣味は俺にはない。
 オルレアやバーレイ侯爵家が必要というのなら必要だったのだろう。

「俺にはキミたちは必要ない」

「っ」

 セイラまで歪んだ顔を見せた。
 土下座のような二人の侍女はガタガタ震えだし、出ていくといった五人の侍女も膝をついた。

「貴方はバーレイ侯爵家に仇なすと言うのですか」

「何を言っているの、セイラ?」

 セイラはほんの少し表情を緩ませようとした。

「バーレイ侯爵家が俺を捨てたんじゃないか。その俺が何をしようが今さらじゃないか?成人するまではおとなしくしてようと、バーレイ侯爵の命令にここまで忠実に実行していただろう。オルレアの身代わりもしているし、第二王子の乗馬の誘いも中断して何の用事もないこの寮に戻って来たじゃないか、命令通り」

「それは、その通りですが」

「だから、キミたちが俺に守られなくても恨まないでよね。それはキミたちの選択なのだから」

「大変申し訳ございませんっ」

 セイラが自分の意志で土下座した。
 彼女は胆力があるので、俺のこのささやかな圧力ぐらいでは屈しない。

「それは次代の最強の盾としての御意志でしょうか?」

「セ、セイラ様、こんな奴に頭を下げなくとも。最強の盾に守られなくとも、この国には最強の剣がいますよっ」

 圧力を加えられてない侍女が発言した。この者もすぐに片膝をつく。
 この状況を見て、何もしないのが得策だと判断がつく者は何人いるのか。
 内心はどう思っていても、沈黙こそ最善だ。

「何を言っているの、貴方は。。。バーレイ侯爵家にお勤めするときに最初に研修されたでしょう?ウィト王国全土に結界を張っているのは最強の盾なのよ。そもそも最強の剣と最強の盾は役目が違うのよ」

 それなのに、バーレイ侯爵は最強の剣である兄クリストに辺境の地に行かせてますけどね、バーレイ伯爵の代わりに。

「そ、それでも、今の結界はバーレイ伯爵がやっているのですよね」

「気づいてないの、貴方たち?オルト様が十歳のときから、この国の結界はオルト様だけが担当しているのよ。最強の盾のオルト様に守られないということは、どういうことか本当に理解しているの?この国にいても守られないのよ」

 セイラは知っていたんだな。すでに俺がこの国の結界を担当していることを。
 バーレイ侯爵家のどれくらいの者が知っているのだろう。
 公表はしていないからな。
 外部の者はまったく知らない。

「セイラ様こそ何を言ってらっしゃるの。結界は国全体を囲んでいる。この国にいたら、どんな者でも守られるわ」

「うーん、それこそ拡大解釈の賜物だ。俺が守るのはウィト王国の国民だけで、この国にいる他国の者は除外されている。この国に重要な要人であるとか、特段の命令でもない限り。けれど、お前たちは疫病神に守られる気はないのだろう」

「最強の盾の結界は直接的な攻撃だけでなく、この国に対する呪い等の攻撃も弾いている。それがなくなれば、自分で魔法を使えない者はそれなりの魔道具を高いお金を出して購入して自己防衛をしなければならない。その意味が本当にわかっているの、貴方たち。最強の剣と最強の盾に守られているこの国は各国から相当恨まれている。他国の者たちでこの国を移動する者は少なからず何らかの自己防衛をしているのよ」

 セイラの言葉に、最初に土下座した侍女がビクンと跳ねた。
 この国の弊害は完全に他国から守られていることだ。
 国民はこの世界が、この大陸全土が安全で平和だと思い込んでいる。

 そんなわけもないのだが。

 だから、この国の者が知識もなしに国外に出ようとすると大変なことになる。
 死体でも戻ってくれば良い方だ。

「た、大変申し訳ございませんでした。不遜な態度を取ってしまい」

 土下座している侍女が声を振り絞って言葉にしていく。

「別にかまわない。貴方が俺にどのような態度を取ろうとも」

「それならば、許していただ、、、」

 侍女は言葉をとめた。
 俺は侍女を見た。
 許すわけがないだろう。

「貴方の行動については、貴方がきちんと責任を取るべきだ」

 ギリィと奥歯を噛んだ侍女の顔は醜い。
 そう簡単に許されると思ったのだろうか。
 対価は言葉だけの謝罪で許されると本当に思っているのだろうか。

「では、言い換えよう。オルレアが大切にしている手紙を侍女がゴミだと言って燃やしたら、オルレアはどうするのか?」

「、、、それは」

 セイラも口籠る。
 答えが出て来なかった。

 言えない。
 それが答えだ。

 恐ろしいほど利己的で残虐な我がまま姫が、侍女を生きて許すわけもない。

「なら、まだ優しい方だと思うが?キミたちは生きるための選択の自由が与えられている。お金で魔道具を購入すれば解決できるのだから」

「だ、旦那様に報告いたします。このことを知れば旦那様が貴方に対して処罰を」

「キミたちが何を勘違いしているのかわからないけど、バーレイ侯爵が大切にしているのはオルレアだけで、オルレア付きの侍女は代わりがいくらでもきくと思っている。今回のコレはオルレアに関係しない、貴方たちだけの責任だ。バーレイ侯爵に報告したいならとめないけど、セイラがわざわざこの場の権限で何とかしてあげようとした意味を考えた方が良いんじゃないのかな、ねえ?」

 オルレアに対してささやかな失敗をしただけでも侍女たちは、笑って許されることはなかった。
 オルレアが一言、バーレイ侯爵にあの侍女が気に入らないと口にすれば、翌朝には秘密裏に消されている。
 バーレイ侯爵家の侍女の報酬が高額な割には、頭がいい人物には敬遠される理由だ。我がまま姫のお世話という点も理由だっただろうが。

 ただし、オルレアが気に入れば、一生安泰と思われる職場だったのだろうが。
 そのオルレアがいなければ、である。
 セイラは顔を伏せた。

「、、、彼女たちが旦那様にご報告する選択をするのなら、残念ながら致し方ありません。私自身は減給の処分で済むように立ち回りましょう」

「オルレアに関すること以外で煩わしい報告をされたらどうなるかは、オルレアを近くで見ていればわかると思うけど。あの二人、そういうところソックリだし」

 そんなクソつまらねえ話で、大切で重要な自分の時間を潰すなと。

 今回はバーレイ侯爵にとって、侍女がオルレアではなく俺の手紙を燃やしたというだけの話だ。侍女たちの処分も俺もどうでもいい部類に入る。そんなものを直接報告に行けば、どんな結果になるか、火を見るより明らかだ。
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