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5章 拗れて歪んだ恋心
5-11 庇護欲と呼ばれるものならまだ良かった6 ◆シン視点◆
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◆シン視点◆
「今日ーもっ、訓練楽しいなーっ」
大声で歌いながら訓練場に登場すると、呆れたように見るサイ、楽しそうに見るオルト、いつも不機嫌だからどんな感情で見ているかわからないキュジオがいた。
奥にも私兵団の訓練で大人が大勢いるけど。
そして、その三人の近くには。
「あ、バーレイ伯爵っ、とカーツっ」
「おはよう。今日も元気だね」
バーレイ侯爵は神経質でいつもオルトを怒っているオッサンだが、バーレイ伯爵は穏やかそうで好きだ。たまにお菓子をくれる。
その息子のカーツは二歳、弟がいない俺にはぽよぽよで斬新だ。
遊んであげているのに、すぐ泣いてしまうが。
なぜだろう。
俺が現れると、バーレイ伯爵かオルトの後ろに隠れてしまうようになった。
今もバーレイ伯爵の後ろに隠れてしまった。
「はっ、俺、最強になってしまったっ?」
「何をどうしたらそんな話になるんだ?」
冷たい目でツッコミを入れたのはサイ。
木剣でどんなに全力でブチのめそうとしても、スルリスルリと受け流される。
身長もあまり変わらず、見た目も女の子みたいなのに。
「あっ、実はサイは女の子だった?」
さらに冷ややかな目で見られて、これは違ったようだ。
こんな訓練場で頑張っているのに、女の子と間違われちゃあ嫌だよな。
「いや、サイは逞しい。間違えるなんて、何かの見間違えだ」
「、、、シン、キミも伯爵家の跡継ぎなら、発言する前に少し考えろ」
「あのうるさい姉さんたちがー、婿を取れば良いのにー」
「そういうところだ。待望の長男が産まれたのだから、少しはご両親に期待させろ」
「そんなご期待されてもー、勉強勉強言われると滅びてしまう」
「お前には必要だろ、っと、オルトは勉強しているのか?」
「うん、オルレアの後ろで」
オルトが笑顔で答えたが、サイが不穏な返答に怖い顔になった。
後ろ、って何だ?
双子なんだから、横じゃないのか?
とかいう考えなんだろうなあ、俺もそう思うけど。
オルレアは我がまま姫で有名だ。
姉さんたちがあのバーレイ侯爵の屋敷に行くなら、絶対に会うな、会いそうになったら逃げろ、と言われた。
無理難題言われたら、伯爵家では太刀打ちできないからな、と。
オルトは良い子なんだけどー、と言ったら頭を撫でられた。
「ほらほら、お話はまた後で。まずは内周を走ろうか」
バーレイ伯爵がオルト、サイ、俺を促した。バーレイ伯爵はバーレイ侯爵と違って一緒に走ってくれるんだよな。
オルトもバーレイ伯爵のときは俺たちと一緒に走る。いつもは速く走れってバーレイ侯爵に言われて、かなりのスピードで走っている。
カーツはキュジオがその辺を走らせる。
オラオラ走れー、という声が聞こえる。
キュジオはいつも不機嫌だが、剣を握らせるとカッコイイのだ。
あの赤い剣、持たせてくれないかな?
「キュジオー、その剣、持たせてー」
「あっっ」
「、、、お前、走るのはどうした?」
「抜けてきたーっ」
キュジオの赤い剣が気になったからだ。鞘から抜かないと赤い剣にはならないが。
「元気に答えても、剣を持たせてやらねえぞ」
「目を離さなくても、思い立ったらすぐに動いちゃうからなあ、シンは」
バーレイ伯爵が捕まえにきた。
「さっ、一緒に走ろう」
「赤い剣ーっ」
うぎゃーっ。
触らせろー。
「コレは魔剣なんだぞ。お前じゃ振るえもしないんじゃないか」
「正義の味方は剣を選ばないっ」
「お前、格好良いセリフだけは言えるよな。ほれ」
埒が明かないと思ったのか、鞘に入ったまま渡してくれた。
「ぐおっっ??」
落としていないのに、地面についた。
持ち上げようとしても動かない。
「うっ?」
「この剣を持つには、腕力と魔力が必要だ。どちらももう少し鍛えてから、要望は言おうなー」
キュジオは俺から剣を取り上げ、軽々と腰の剣帯に戻した。
いつもキュジオが軽々しく扱っていた剣がこれほどに重いとは。
「な、、、魔王とここまで力の差があったとは。いや、勇者も最初の一歩からだ」
「、、、勇者がラスボスに最初に会ったら最期だろ」
「ぐぬうっ、今ここでトドメを刺さなかったことを後悔すると良いっ」
「、、、勇者じゃなくて、悪役のセリフだろ、それ」
「はいはい、剣は持てたんだし、周回遅れで走ろうね、シン」
「へーい」
バーレイ伯爵が俺の背中を押した。
オルトとサイの後ろを走る。
「あの剣そんなに重かったのか?」
「うん、ビクともしなかった」
「すごいなー、キュジオ」
ん?
オルトのキラキラな賞賛がキュジオに向かうと、少しイラっとした。
俺もオルトにすごいなーって言ってもらいたいのかな?
「くっ、俺だってもう少し身長が高ければっ」
「そういう問題なのかなあ」
バーレイ伯爵が困ったように言った。
「キュジオが持っている魔剣は、魔剣が持ち主を選ぶんだ。力も剣術も魔力もある一定の水準を超えないと認められないし、どんな力の持ち主でもあの魔剣が気に入らなければ持たせてもらえないほどクセのある剣なんだよ。兄のバーレイ侯爵もあの剣には手を焼くからねえ」
バーレイ侯爵がうまく扱えないから、キュジオに譲ったんじゃねえか?
魔剣は相当高いもので、ポンポン譲れるものじゃない。
たとえバーレイ侯爵家に山ほど保管されているらしいと聞いているが、それでも赤く輝く綺麗な剣は簡単に他人に譲れる物か?何か理由がないと赤の他人には譲らないと思うなー。
「へえー、じゃあ、キュジオはやっぱりすごいんだー」
また、オルトの素直な賞賛。
なーんか悔しい。
俺ももう少し成長すれば。
もう少し剣の腕前が上達すれば。
オルトのキラキラな目が俺に向くだろうか。
夕方。
「オルー、今日うちに泊まるー」
可愛い声でオルトにねだったのは、カーツだ。
カーツはオルトの服の裾を可愛らしく引っ張っている。
「兄にも了承を得ているよ。オルト、今日はうちに遊びに来なさい」
「あ、ありがとうございます」
バーレイ伯爵が訓練場に来るときは、たいていオルトはバーレイ伯爵家に泊まりに行く。
サイは苦虫を噛み潰したような顔をしているが、それ以上何か言ったりはしない。
本当はオルトがバーレイ伯爵家に行くことが嫌なんだろうな。
「俺も行きたい」
元気よく挙手。
カーツのえーっっていう顔は受け付けない。
「よそ様の家の物を壊すと、相当怒られるぞー、金請求されるぞー」
「キュジオっ、俺はそんなことしないっ。おとなしくパジャマパーティするっ」
「どこからそんな言葉を仕入れて、、、お前の姉貴たちか?」
「その通りっ、姉さ、、、姉貴たちが女子会するとか、パジャマパーティするとかうるさいんだっ」
うん、姉貴って言う方がカッコイイな。
「うーん、でも、いきなりだとシンのご家族の方々も」
「バーレイ伯爵がご迷惑でなければ」
スッと、迎えに来たうちの従者が現れた。
いつのまにバーレイ伯爵の背後にいたのだろう。
「いや、うちは子供が数人増えても大丈夫ですけど」
「では、」
スッと鞄を差し出した。
「もしかして着替えですか?」
「ええ、シン様のパジャマや明日の着替え等入っておりますので、ご活用ください」
お前、一日でも俺が家からいなくなって欲しいって気持ちがありふれていないか?
ま、いいや。
歓喜の方が勝る。
「やったー、オルトとパジャマパーティっ」
「ずるいっ。私も行きたいっ」
おおっとぉー。
サイが大声を上げた。
こんな大声出せるんだなあと、ちょっとビックリ。
バーレイ侯爵家では絶対にありえないお泊り会が、バーレイ伯爵家では可能なのだから。
仲間外れは嫌だよな。
「じゃあ、とりあえずサイのお迎えの方に聞いてみて、それから決めよう」
バーレイ伯爵がサイに提案した。
モルト公爵家の馬車も数分後にやって来た。
そういうことなら屋敷から着替え等をバーレイ伯爵家に届けるという話になった。
「じゃあ、皆で行こうか」
「おっとまり、おっとまり、うれしいなーっ」
俺は嬉しさのあまり大声で歌う。
オルトも嬉しそうだ。
ちょっとカーツが先程サイがしていたような苦虫顔をしているが、気にしないー。
その顔は可愛くないぞー。
「あ、キュジオはどうする?」
「本日の俺の仕事は終了しました」
バーレイ伯爵の誘いの言葉に、キュジオは振り返らずにさっさと訓練場を後にした。
「今日ーもっ、訓練楽しいなーっ」
大声で歌いながら訓練場に登場すると、呆れたように見るサイ、楽しそうに見るオルト、いつも不機嫌だからどんな感情で見ているかわからないキュジオがいた。
奥にも私兵団の訓練で大人が大勢いるけど。
そして、その三人の近くには。
「あ、バーレイ伯爵っ、とカーツっ」
「おはよう。今日も元気だね」
バーレイ侯爵は神経質でいつもオルトを怒っているオッサンだが、バーレイ伯爵は穏やかそうで好きだ。たまにお菓子をくれる。
その息子のカーツは二歳、弟がいない俺にはぽよぽよで斬新だ。
遊んであげているのに、すぐ泣いてしまうが。
なぜだろう。
俺が現れると、バーレイ伯爵かオルトの後ろに隠れてしまうようになった。
今もバーレイ伯爵の後ろに隠れてしまった。
「はっ、俺、最強になってしまったっ?」
「何をどうしたらそんな話になるんだ?」
冷たい目でツッコミを入れたのはサイ。
木剣でどんなに全力でブチのめそうとしても、スルリスルリと受け流される。
身長もあまり変わらず、見た目も女の子みたいなのに。
「あっ、実はサイは女の子だった?」
さらに冷ややかな目で見られて、これは違ったようだ。
こんな訓練場で頑張っているのに、女の子と間違われちゃあ嫌だよな。
「いや、サイは逞しい。間違えるなんて、何かの見間違えだ」
「、、、シン、キミも伯爵家の跡継ぎなら、発言する前に少し考えろ」
「あのうるさい姉さんたちがー、婿を取れば良いのにー」
「そういうところだ。待望の長男が産まれたのだから、少しはご両親に期待させろ」
「そんなご期待されてもー、勉強勉強言われると滅びてしまう」
「お前には必要だろ、っと、オルトは勉強しているのか?」
「うん、オルレアの後ろで」
オルトが笑顔で答えたが、サイが不穏な返答に怖い顔になった。
後ろ、って何だ?
双子なんだから、横じゃないのか?
とかいう考えなんだろうなあ、俺もそう思うけど。
オルレアは我がまま姫で有名だ。
姉さんたちがあのバーレイ侯爵の屋敷に行くなら、絶対に会うな、会いそうになったら逃げろ、と言われた。
無理難題言われたら、伯爵家では太刀打ちできないからな、と。
オルトは良い子なんだけどー、と言ったら頭を撫でられた。
「ほらほら、お話はまた後で。まずは内周を走ろうか」
バーレイ伯爵がオルト、サイ、俺を促した。バーレイ伯爵はバーレイ侯爵と違って一緒に走ってくれるんだよな。
オルトもバーレイ伯爵のときは俺たちと一緒に走る。いつもは速く走れってバーレイ侯爵に言われて、かなりのスピードで走っている。
カーツはキュジオがその辺を走らせる。
オラオラ走れー、という声が聞こえる。
キュジオはいつも不機嫌だが、剣を握らせるとカッコイイのだ。
あの赤い剣、持たせてくれないかな?
「キュジオー、その剣、持たせてー」
「あっっ」
「、、、お前、走るのはどうした?」
「抜けてきたーっ」
キュジオの赤い剣が気になったからだ。鞘から抜かないと赤い剣にはならないが。
「元気に答えても、剣を持たせてやらねえぞ」
「目を離さなくても、思い立ったらすぐに動いちゃうからなあ、シンは」
バーレイ伯爵が捕まえにきた。
「さっ、一緒に走ろう」
「赤い剣ーっ」
うぎゃーっ。
触らせろー。
「コレは魔剣なんだぞ。お前じゃ振るえもしないんじゃないか」
「正義の味方は剣を選ばないっ」
「お前、格好良いセリフだけは言えるよな。ほれ」
埒が明かないと思ったのか、鞘に入ったまま渡してくれた。
「ぐおっっ??」
落としていないのに、地面についた。
持ち上げようとしても動かない。
「うっ?」
「この剣を持つには、腕力と魔力が必要だ。どちらももう少し鍛えてから、要望は言おうなー」
キュジオは俺から剣を取り上げ、軽々と腰の剣帯に戻した。
いつもキュジオが軽々しく扱っていた剣がこれほどに重いとは。
「な、、、魔王とここまで力の差があったとは。いや、勇者も最初の一歩からだ」
「、、、勇者がラスボスに最初に会ったら最期だろ」
「ぐぬうっ、今ここでトドメを刺さなかったことを後悔すると良いっ」
「、、、勇者じゃなくて、悪役のセリフだろ、それ」
「はいはい、剣は持てたんだし、周回遅れで走ろうね、シン」
「へーい」
バーレイ伯爵が俺の背中を押した。
オルトとサイの後ろを走る。
「あの剣そんなに重かったのか?」
「うん、ビクともしなかった」
「すごいなー、キュジオ」
ん?
オルトのキラキラな賞賛がキュジオに向かうと、少しイラっとした。
俺もオルトにすごいなーって言ってもらいたいのかな?
「くっ、俺だってもう少し身長が高ければっ」
「そういう問題なのかなあ」
バーレイ伯爵が困ったように言った。
「キュジオが持っている魔剣は、魔剣が持ち主を選ぶんだ。力も剣術も魔力もある一定の水準を超えないと認められないし、どんな力の持ち主でもあの魔剣が気に入らなければ持たせてもらえないほどクセのある剣なんだよ。兄のバーレイ侯爵もあの剣には手を焼くからねえ」
バーレイ侯爵がうまく扱えないから、キュジオに譲ったんじゃねえか?
魔剣は相当高いもので、ポンポン譲れるものじゃない。
たとえバーレイ侯爵家に山ほど保管されているらしいと聞いているが、それでも赤く輝く綺麗な剣は簡単に他人に譲れる物か?何か理由がないと赤の他人には譲らないと思うなー。
「へえー、じゃあ、キュジオはやっぱりすごいんだー」
また、オルトの素直な賞賛。
なーんか悔しい。
俺ももう少し成長すれば。
もう少し剣の腕前が上達すれば。
オルトのキラキラな目が俺に向くだろうか。
夕方。
「オルー、今日うちに泊まるー」
可愛い声でオルトにねだったのは、カーツだ。
カーツはオルトの服の裾を可愛らしく引っ張っている。
「兄にも了承を得ているよ。オルト、今日はうちに遊びに来なさい」
「あ、ありがとうございます」
バーレイ伯爵が訓練場に来るときは、たいていオルトはバーレイ伯爵家に泊まりに行く。
サイは苦虫を噛み潰したような顔をしているが、それ以上何か言ったりはしない。
本当はオルトがバーレイ伯爵家に行くことが嫌なんだろうな。
「俺も行きたい」
元気よく挙手。
カーツのえーっっていう顔は受け付けない。
「よそ様の家の物を壊すと、相当怒られるぞー、金請求されるぞー」
「キュジオっ、俺はそんなことしないっ。おとなしくパジャマパーティするっ」
「どこからそんな言葉を仕入れて、、、お前の姉貴たちか?」
「その通りっ、姉さ、、、姉貴たちが女子会するとか、パジャマパーティするとかうるさいんだっ」
うん、姉貴って言う方がカッコイイな。
「うーん、でも、いきなりだとシンのご家族の方々も」
「バーレイ伯爵がご迷惑でなければ」
スッと、迎えに来たうちの従者が現れた。
いつのまにバーレイ伯爵の背後にいたのだろう。
「いや、うちは子供が数人増えても大丈夫ですけど」
「では、」
スッと鞄を差し出した。
「もしかして着替えですか?」
「ええ、シン様のパジャマや明日の着替え等入っておりますので、ご活用ください」
お前、一日でも俺が家からいなくなって欲しいって気持ちがありふれていないか?
ま、いいや。
歓喜の方が勝る。
「やったー、オルトとパジャマパーティっ」
「ずるいっ。私も行きたいっ」
おおっとぉー。
サイが大声を上げた。
こんな大声出せるんだなあと、ちょっとビックリ。
バーレイ侯爵家では絶対にありえないお泊り会が、バーレイ伯爵家では可能なのだから。
仲間外れは嫌だよな。
「じゃあ、とりあえずサイのお迎えの方に聞いてみて、それから決めよう」
バーレイ伯爵がサイに提案した。
モルト公爵家の馬車も数分後にやって来た。
そういうことなら屋敷から着替え等をバーレイ伯爵家に届けるという話になった。
「じゃあ、皆で行こうか」
「おっとまり、おっとまり、うれしいなーっ」
俺は嬉しさのあまり大声で歌う。
オルトも嬉しそうだ。
ちょっとカーツが先程サイがしていたような苦虫顔をしているが、気にしないー。
その顔は可愛くないぞー。
「あ、キュジオはどうする?」
「本日の俺の仕事は終了しました」
バーレイ伯爵の誘いの言葉に、キュジオは振り返らずにさっさと訓練場を後にした。
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