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4章 貴方に捧げる我がまま
4-13 貴方に捧げる後悔
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ウィト王国の王都から帝国の皇子たちが去る当日になった。
皇子たちは昨日の内に王城に挨拶に行った。
一応、本日の学校では第三王子が立会人となっているが、学校から出発するとそのまま帝国に向かう。
いつのまに用意したのか、豪華な馬車が三台も増えている。皇子が一人一台乗っていくのだろうか。
来たときは荷馬車に騎兵だったのに、どこから調達したのやら。
「ハニー、しばしの別れが辛いよ。何かあったらイー商会に逃げ込んでね。従業員には言ってあるから」
イーティが俺の両手を握って言った。
従業員に何と伝えているのだろう。
男装のオルレアが来ると言ってあるのか、それとも?
怖くて聞けない。
「オルレアっ、別に商会に行かなくとも、何かあれば王城に来ればいい。私が助けになる」
クオ王子の言葉は、オルレアなら助けるという意味だ。
オルトがいくら助けてくれと泣いて叫んでも、この国の者は見て見ぬフリだ。
誰も助けてくれないし、お前の方が悪いと決めつけられる。
この国の者はバーレイ侯爵こそが正しい。
「ありがとうございます、クオ王子殿下。お言葉だけでも感謝いたします」
オルレアとしてお礼を言わなければいけないのは苦痛だ。
苦痛になってしまった。
オルレアの身代わりなんてしたくない。
それでも、騎士学校を卒業するまでは侯爵家の命令に従わなければならない。
このまま逃げ出せれば、と考えてしまう。
イーティについて行きたいと言えれば良かったのに。
無策で国外に出ようとするのならば、それはただの重荷になる。
イーティに背負わせてはいけない。
せっかく帝国の皇子たちがすべてを精算して、帝国の行く末を決める道を選んだのに。
「積み荷のチェックもすべて完了しました。いつでも出発が可能です」
ということを皇帝の影の一人がイーティに言った、アルティ皇子ではなく。
「アルティ」
「兄上、こちらはもう別れを済ませている。大丈夫だ」
アルティ皇子が返事をした。
第八皇子も見送りに来た他の生徒たちと別れを惜しんでいたが、頷いた。
もう、別れの挨拶は良いのか?
「アルティ皇子殿下、ルイジィとの別れの挨拶も終わりました?」
「は?」
アルティ皇子もルイジィも俺を見た。
おや?皇帝はサプライズにしたのかな?
「ルイジィを再教育するのは面倒だからと、再教育の代わりにアルティ皇子が皇帝になるまで、今回の迷惑料としてルイジィを俺がこき使っていいよー、と帝国の皇帝が」
「何だとーーーーっ、あっ、ホントだ、クソ親父っ」
アルティ皇子が皇帝印のついた書類を俺からひったくってマジマジと見た。
いくら見ても書いてある内容は変わらないよ。
「大盤振る舞いでありがたい」
「ハニー、全然そんなこと言ってなかったじゃない」
「いや、ルイジィにはともかく、皇帝が誰にも伝えてなかったことが不思議なんだけど」
ルイジィは再教育やだーって言っていたくらいだから聞いてなかったにしても、事務連絡は帝国の誰かにしておこうよ。書類がなかったら誰も信じてくれなかったじゃん。
「つまり、坊ちゃんが速やかに仕事を覚えて皇帝にならないと、私はこの地で一生を終えるということに?」
「早く本気で仕事やれってことなんだろうけど」
視線が集まったアルティ皇子の顔が歪む。
「あーっ、わかったわかった。ルイジィ、最速で皇帝になるから、この国で俺を待ってろ。すぐに迎えに来てやる」
「はいはい、お待ちしております」
ルイジィがほんの少し嬉しそうな表情になった。
しばらく俺の元にいることになっても、ルイジィはアルティ皇子のための影である。
アルティ皇子の言葉が純粋に嬉しいのだろう。
「では、坊ちゃん、いってらっしゃいませ」
ルイジィが深々と頭を下げた。
「ああ、いってくる」
アルティ皇子が言った。
そのまま身を翻し、振り返らずに馬車に乗った。
ルイジィにはその背中は頼もしいものと映っているのだろうか。
「またね、ハニー」
「それぞれ別の馬車に乗るのか?」
「いや、私はアルティと同じ馬車に乗るよ。帝都に着くまでに仕事をある程度片付けなければならないからね」
イーティが指導役か。ルイジィがいないからな。
それと、二人が一緒なら皇帝の影もおいそれと襲えないだろう。
「ん?」
イーティの服の裾を引っ張る第八皇子。
この行為が可愛いと思うかどうかは人による。
「兄上、同じ馬車に乗っていいですか?」
「いいけど、仕事するからつまらないぞ」
「書類を並べるくらいなら手伝います」
「うん、ありがとう、リューティ」
頭をポンポンして、イーティは第八皇子とともに馬車に向かう。
これでお別れだ。
イーティは馬車の前で振り返って、俺に手を振る。
馬車の扉が閉じられると、すぐに出発した。
馬車が学校の門から去っていく。
馬車が遠ざかり、見えなくなる。
寂しい。
「オルレア様、泣いてもよろしいのですよ」
ルイジィは俺の横にいた。
泣いてもどうにもならないことを知っている。
ここに残されたルイジィも泣きたいのだろうか。
笑顔のままで堪えているのだろうか。
「女子寮は男性は入れない。マイア様が手を回してくれて、ルイジィが使っていた職員寮の部屋をそのまま使えるようになっている」
「ということは、名目上は護衛ですかな?」
「ああ、オルレアの護衛ではないが」
「そうでしょうね。貴方が騎士学校に戻るときは私もついて行きますので」
いつ戻れるかが疑問だが。
我がままが長引けば長引くほど先に延びる。
バーレイ侯爵家は本当にオルレアを捜索しているのか?
我がままを許しているだけではないのか?
「ルイジィは俺の指揮命令下であって、バーレイ侯爵家が言うことは何一つ聞かなくて良い」
「おや、そうですか」
「何を小声で話している?」
クオ王子が近寄って来た。
そのまま校舎に戻れば良いのに。
キュジオ隊長が半目で俺たちを見ているじゃないか。
「事務連絡です。ルイジィ殿はこのままウィト王国に残るので」
「帝国とは国交もないのに連絡係として残ったところで意味があるのか。それこそ、皇子が一人残って条約交渉でもしていったら良かったんじゃないか」
俺は目を細めた。
帝国のことをまったく理解していない者がここにもいた。
跡継ぎがここに残るわけもないが、跡継ぎではない皇子がここに残ったところで意味はない。
第一皇子と第八皇子には皇帝の権力はなくなったのだから。
「それこそ時期尚早です。重要なものこそお互いの国でしっかり準備をしなければ。ルイジィ殿は私の監視下に入ります。ご心配なく」
私というのはオルレアではないが、わざわざ彼に言うことでもない。
ルイジィのことはマイア様から俺が引き受けている。
「オ、」
「それでは失礼します、クオ王子殿下」
クオ王子が話す前に遮った。
すでに見送りに来た客は校舎に戻っていき、学校の警備員も解散した。
俺もこの場にいる必要はない。
足早に校舎に入った。
「さて、私を救ってくれたオルレア殿は、何がご要望なのでしょうか」
「救った?そんなに再教育は大変な訓練なのか」
「それぞれの影の実力に応じた再教育になりますので、」
「ああ、上の者ほど大変なのか」
ルイジィの実力は皇帝の影で最上級だ。
、、、表情が微笑みで固定されているルイジィの顔が真に綻んだのは、まさか?
すぐに迎えに来てやると言われたからではないのか?
深く考えるのはやめよう。
せっかくの別れの場面が台無しだ。
この国に残って最強の盾の管理下に置かれるよりもなお、再教育が嫌だったからとは思いたくない。
「ルイジィはアルティ皇子の後始末をやりながら、俺に協力してもらう。帝国の機密情報を流せとは言わんから安心しろ」
「それは助かります」
「ルイジィが流さなくても、知っているから」
「、、、でしょうな。ところで坊ちゃんの魔法の盾は、最強の盾の意志でどうにでもなるものなのですか?」
「体内に入り込んでいるのだから、アルティ皇子の暗殺だって可能ではある」
やらんけど、それぐらいのことは可能だということだ。
「私を帝国に帰さないということは、それに対処させないつもりだったのでしょうな」
やや非難めいた口調だが。
、、、もしや、帝国で生きたまま血を全部抜いて対処できる魔導士ってルイジィだったのか?
ルイジィ以外対処できる者って帝国にいないの?
いても、信頼できない者なのか?
ルイジィが見張っていないとアルティ皇子を暗殺しちゃうような?
「ルイジィも帝国に帰るまでは、アルティ皇子に魔法の盾があった方がなにかと不安がないのでは」
「それはそうですがねえ。まあ、第一皇子にも魔法の盾を渡したのなら、帝国内にどうにかできる者は誰もいないということです。機会はあの一回限りでしたねえ」
アルティ皇子のためなら何だってできるのがルイジィだが、無駄なことはやらない。
皇子たちは昨日の内に王城に挨拶に行った。
一応、本日の学校では第三王子が立会人となっているが、学校から出発するとそのまま帝国に向かう。
いつのまに用意したのか、豪華な馬車が三台も増えている。皇子が一人一台乗っていくのだろうか。
来たときは荷馬車に騎兵だったのに、どこから調達したのやら。
「ハニー、しばしの別れが辛いよ。何かあったらイー商会に逃げ込んでね。従業員には言ってあるから」
イーティが俺の両手を握って言った。
従業員に何と伝えているのだろう。
男装のオルレアが来ると言ってあるのか、それとも?
怖くて聞けない。
「オルレアっ、別に商会に行かなくとも、何かあれば王城に来ればいい。私が助けになる」
クオ王子の言葉は、オルレアなら助けるという意味だ。
オルトがいくら助けてくれと泣いて叫んでも、この国の者は見て見ぬフリだ。
誰も助けてくれないし、お前の方が悪いと決めつけられる。
この国の者はバーレイ侯爵こそが正しい。
「ありがとうございます、クオ王子殿下。お言葉だけでも感謝いたします」
オルレアとしてお礼を言わなければいけないのは苦痛だ。
苦痛になってしまった。
オルレアの身代わりなんてしたくない。
それでも、騎士学校を卒業するまでは侯爵家の命令に従わなければならない。
このまま逃げ出せれば、と考えてしまう。
イーティについて行きたいと言えれば良かったのに。
無策で国外に出ようとするのならば、それはただの重荷になる。
イーティに背負わせてはいけない。
せっかく帝国の皇子たちがすべてを精算して、帝国の行く末を決める道を選んだのに。
「積み荷のチェックもすべて完了しました。いつでも出発が可能です」
ということを皇帝の影の一人がイーティに言った、アルティ皇子ではなく。
「アルティ」
「兄上、こちらはもう別れを済ませている。大丈夫だ」
アルティ皇子が返事をした。
第八皇子も見送りに来た他の生徒たちと別れを惜しんでいたが、頷いた。
もう、別れの挨拶は良いのか?
「アルティ皇子殿下、ルイジィとの別れの挨拶も終わりました?」
「は?」
アルティ皇子もルイジィも俺を見た。
おや?皇帝はサプライズにしたのかな?
「ルイジィを再教育するのは面倒だからと、再教育の代わりにアルティ皇子が皇帝になるまで、今回の迷惑料としてルイジィを俺がこき使っていいよー、と帝国の皇帝が」
「何だとーーーーっ、あっ、ホントだ、クソ親父っ」
アルティ皇子が皇帝印のついた書類を俺からひったくってマジマジと見た。
いくら見ても書いてある内容は変わらないよ。
「大盤振る舞いでありがたい」
「ハニー、全然そんなこと言ってなかったじゃない」
「いや、ルイジィにはともかく、皇帝が誰にも伝えてなかったことが不思議なんだけど」
ルイジィは再教育やだーって言っていたくらいだから聞いてなかったにしても、事務連絡は帝国の誰かにしておこうよ。書類がなかったら誰も信じてくれなかったじゃん。
「つまり、坊ちゃんが速やかに仕事を覚えて皇帝にならないと、私はこの地で一生を終えるということに?」
「早く本気で仕事やれってことなんだろうけど」
視線が集まったアルティ皇子の顔が歪む。
「あーっ、わかったわかった。ルイジィ、最速で皇帝になるから、この国で俺を待ってろ。すぐに迎えに来てやる」
「はいはい、お待ちしております」
ルイジィがほんの少し嬉しそうな表情になった。
しばらく俺の元にいることになっても、ルイジィはアルティ皇子のための影である。
アルティ皇子の言葉が純粋に嬉しいのだろう。
「では、坊ちゃん、いってらっしゃいませ」
ルイジィが深々と頭を下げた。
「ああ、いってくる」
アルティ皇子が言った。
そのまま身を翻し、振り返らずに馬車に乗った。
ルイジィにはその背中は頼もしいものと映っているのだろうか。
「またね、ハニー」
「それぞれ別の馬車に乗るのか?」
「いや、私はアルティと同じ馬車に乗るよ。帝都に着くまでに仕事をある程度片付けなければならないからね」
イーティが指導役か。ルイジィがいないからな。
それと、二人が一緒なら皇帝の影もおいそれと襲えないだろう。
「ん?」
イーティの服の裾を引っ張る第八皇子。
この行為が可愛いと思うかどうかは人による。
「兄上、同じ馬車に乗っていいですか?」
「いいけど、仕事するからつまらないぞ」
「書類を並べるくらいなら手伝います」
「うん、ありがとう、リューティ」
頭をポンポンして、イーティは第八皇子とともに馬車に向かう。
これでお別れだ。
イーティは馬車の前で振り返って、俺に手を振る。
馬車の扉が閉じられると、すぐに出発した。
馬車が学校の門から去っていく。
馬車が遠ざかり、見えなくなる。
寂しい。
「オルレア様、泣いてもよろしいのですよ」
ルイジィは俺の横にいた。
泣いてもどうにもならないことを知っている。
ここに残されたルイジィも泣きたいのだろうか。
笑顔のままで堪えているのだろうか。
「女子寮は男性は入れない。マイア様が手を回してくれて、ルイジィが使っていた職員寮の部屋をそのまま使えるようになっている」
「ということは、名目上は護衛ですかな?」
「ああ、オルレアの護衛ではないが」
「そうでしょうね。貴方が騎士学校に戻るときは私もついて行きますので」
いつ戻れるかが疑問だが。
我がままが長引けば長引くほど先に延びる。
バーレイ侯爵家は本当にオルレアを捜索しているのか?
我がままを許しているだけではないのか?
「ルイジィは俺の指揮命令下であって、バーレイ侯爵家が言うことは何一つ聞かなくて良い」
「おや、そうですか」
「何を小声で話している?」
クオ王子が近寄って来た。
そのまま校舎に戻れば良いのに。
キュジオ隊長が半目で俺たちを見ているじゃないか。
「事務連絡です。ルイジィ殿はこのままウィト王国に残るので」
「帝国とは国交もないのに連絡係として残ったところで意味があるのか。それこそ、皇子が一人残って条約交渉でもしていったら良かったんじゃないか」
俺は目を細めた。
帝国のことをまったく理解していない者がここにもいた。
跡継ぎがここに残るわけもないが、跡継ぎではない皇子がここに残ったところで意味はない。
第一皇子と第八皇子には皇帝の権力はなくなったのだから。
「それこそ時期尚早です。重要なものこそお互いの国でしっかり準備をしなければ。ルイジィ殿は私の監視下に入ります。ご心配なく」
私というのはオルレアではないが、わざわざ彼に言うことでもない。
ルイジィのことはマイア様から俺が引き受けている。
「オ、」
「それでは失礼します、クオ王子殿下」
クオ王子が話す前に遮った。
すでに見送りに来た客は校舎に戻っていき、学校の警備員も解散した。
俺もこの場にいる必要はない。
足早に校舎に入った。
「さて、私を救ってくれたオルレア殿は、何がご要望なのでしょうか」
「救った?そんなに再教育は大変な訓練なのか」
「それぞれの影の実力に応じた再教育になりますので、」
「ああ、上の者ほど大変なのか」
ルイジィの実力は皇帝の影で最上級だ。
、、、表情が微笑みで固定されているルイジィの顔が真に綻んだのは、まさか?
すぐに迎えに来てやると言われたからではないのか?
深く考えるのはやめよう。
せっかくの別れの場面が台無しだ。
この国に残って最強の盾の管理下に置かれるよりもなお、再教育が嫌だったからとは思いたくない。
「ルイジィはアルティ皇子の後始末をやりながら、俺に協力してもらう。帝国の機密情報を流せとは言わんから安心しろ」
「それは助かります」
「ルイジィが流さなくても、知っているから」
「、、、でしょうな。ところで坊ちゃんの魔法の盾は、最強の盾の意志でどうにでもなるものなのですか?」
「体内に入り込んでいるのだから、アルティ皇子の暗殺だって可能ではある」
やらんけど、それぐらいのことは可能だということだ。
「私を帝国に帰さないということは、それに対処させないつもりだったのでしょうな」
やや非難めいた口調だが。
、、、もしや、帝国で生きたまま血を全部抜いて対処できる魔導士ってルイジィだったのか?
ルイジィ以外対処できる者って帝国にいないの?
いても、信頼できない者なのか?
ルイジィが見張っていないとアルティ皇子を暗殺しちゃうような?
「ルイジィも帝国に帰るまでは、アルティ皇子に魔法の盾があった方がなにかと不安がないのでは」
「それはそうですがねえ。まあ、第一皇子にも魔法の盾を渡したのなら、帝国内にどうにかできる者は誰もいないということです。機会はあの一回限りでしたねえ」
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