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4章 貴方に捧げる我がまま

4-10 貴方に捧げる願い

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「ルイジィはもう帰る仕度は済んだのか?」

 ルイジィは俺がオルト・バーレイだということを、そんなにアルティ皇子に知られたくないのか?
 どういう事情かは知らないが、あえて教えることでもない。
 しっかし、アルティ皇子はなぜ気づかないのか?
 一度オルレアだと思ったら、オルレアと思い込む病気なのか?
 自分も魔法で他人に成りすませるのに、そんなことでは簡単に騙されるぞ?

 話は変えてしまったが。

「私は常日頃、急な移動にも耐えられるように準備しておりますので」

「さすがは皇帝の影」

「それは褒め言葉なのですかなー?」

「褒め言葉ー、褒め言葉ー」

「感情が一切籠っていない褒め言葉でございますなあ。明後日にはこの国から離れてしまうというのに」

「平穏な生活がようやく戻ってきますよ」

 あー、嬉しい。

 あ、でも、まだまだ身代わり生活は続くのか。
 オルレア、早く見つからないかな。
 帝国には行っていないだろうから、彼らに聞くだけ無駄だろう。

 もうそろそろ騎士学校に戻りたいなあ。
 手持ちのお金もなくなったから、魔物討伐にも行きたいのに。

「私はこの国から離れたくありませんが、残念です」

「へー、そうなのー?何でー?」

「帝国に戻り次第、地獄が待っておりますので」

「地獄の再教育かー。でも、それを選択したのはルイジィだよ」

 ルイジィの顔は笑顔のままなのに、表情が死んでいるように見えるのはなぜだろう。

「、、、ルイジィは地獄の再教育の代わりにこの国にいろーと皇帝に言われたら、いるのか?」

「それはもちろんですとも。喜んでいさせてもらいます」

 皇帝がそんなこと言わないと思って安請け合いし過ぎだよね、ルイジィ。
 後で後悔しないでね。
 ま、後悔は後でするものだけどさっ。

「んで、ルイジィはあの三人を皇妃に迎えることはどう思っているの?」

「最強の盾の保護がない帝国国内に入ったらまず約二名ほどはすぐにお亡くなりになられるかと。この国は平和ですからなあ」

「帝国ではもう皇妃候補は出揃っているのか」

「それはすでに八歳から三十歳前半までの女性が揃っております。もう少し増える可能性もあるかと」

「八歳、」

「俺の趣味じゃないぞ。跡継ぎが決まる前から、長兄から末弟に合わせた年齢でそれぞれの家が婚約者候補を大勢差し出して来ていたんだ」

「彼女たちは他のライバルが現れたら即座に蹴落とすと?」

「今までの歴史上では属国からのお輿入れも帝都に来るまでにたいていの方は命を落とされております故」

「政略結婚の最たるものだな。他国や他家の勢力が拡大するのを許さないということか」

「妾ということでしたら皇妃たちも目を瞑っていますが、ウィト王国の者は関係を持ったら平民でも結婚以外は許さないでしょうからなあ。帝国で亡くなったとしても帝国は責任を取りませんし、戦争になるなら戦争にしたいのが帝国ですからねえ」

「戦争は面倒臭いから、どこの国相手でもやりたくないんだけどね」

 国から命令されたら、やるしかないのだけど。

 皇帝が愛ゆえにすべてから守ってくれると思っていたら大間違い。
 皇妃は皇妃としての仕事と責任がある。
 愛があれば、子供が産まれれば、何もしなくてもいいわけではない。
 自分の身は自分で守らなければならない。
 そして、帝国は皇妃同士の争いが苛烈な国だ。
 後ろ盾もない平民の女性は真っ先に殺されるだろう。
 子供たちは母親を見て戦略を学ぶのである。

 そして、帝国では自分の子供が皇帝の跡継ぎになれなければ敗北なのである。
 ウィト王国の人間はそこまでのことを考えていない。おそらく忠告したところで、何も頭に入っていかない。ヤッカミだろうと思われるだけだ。

「お金で解決できれば、こちらとしても好都合なのですけど」

 ルイジィの方がアルティ皇子より建設的な意見を持っている。
 ただし、この国は平民でも貴族でも初婚の女性は処女性が重視されてしまう。
 結婚相手が生涯見つからないということにもなりかねないし、それを偽って結婚すると離婚ではなく、最初から結婚自体なかったものと扱えるほど重いものだ。

 帝国はそこまでではない。
 意外と婚前交渉が当たり前なところがある。
 それは一夫多妻制の皇帝だけではなく、貴族や平民でもである。
 ただし、やはり結婚が前提の行為であり、その行為をしながら結婚しなかった場合はお金での解決となる。複数と関係を持つなんて皇帝以外は帝国でも御法度である。そんなことを繰り返したらすぐに家が破産する。

「意地を張って皇妃の地位にしがみついたら、国境越えたらすぐに殺されるのか」

「だって、貴方はウィト王国国民だからといって国境を越えた者まで守りませんものね?」

「戦時以外では無理な話だ。商人たちも自分たちで護衛を雇って国外に出ているくらいだ。護衛もなしに他国に行こうとするのは、この国で平和ボケした奴らだけだ。国境にはかなりの注意書きが並んでいるのだから」

「、、、戦時ならできるのですか?」

「多少ならな。戦時中、自ら国外に出るなら自己責任だが、国から命令を受けた者たちを見殺しにすることはできない」

 ルイジィが遠い目で窓の外を見た。

「ルイジィ、何を言っているんだ。そんなことできるわけないだろ。お嬢ちゃんの冗談につきあうなよ」

 アルティ皇子の言葉で、ルイジィはさらに遠くを見つめてしまった。
 目に、良い景色だなーという文字が。。。

 俺もできないことをできると言いませんが。
 確かに、オルレアにはできないけど。
 ルイジィは俺がオルトだって知っている。

「この坊ちゃん、ルイジィなしで本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫であることを祈ります」

「お嬢ちゃん、俺、ルイジィ以外に坊ちゃんと呼ぶことを許してないけど」

「でしたら、私も帝国のアルティ皇子殿下にお嬢ちゃんと呼ばれる筋合いはありませんけど」

 にっこりと言葉を返してやる。

「、、、まさか、ずっと怒っていたとか?」

「何のことでしょう?」

 にこやかーん。

「え、お嬢ちゃん、じゃない、えっ、、、と、オルレア」

「名前で呼ぶことも許しておりませんが」

 にこにこーん。

「うわーっ、ルイジィっ、完全に怒らせたっ。どうすればいいっ」

「嫌ですねえ、坊ちゃん。貴方の周りには貴方の機嫌を取る女性しかいないと思っているのですか?魔法に頼り切るのは危険だと以前も申し上げたじゃないですか」

「国に帰れば、魔法が使える。何の問題もない」

 言い切ったなあ。
 忘れてないか?

「ウィト王国の国民以外には、」

「、、、え、それって、帝国に戻ってもイキなの?」

「はい、イキております」

 アルティ皇子が驚いているが、コレに関しては別段場所限定ではないので。
 アルティ皇子に埋め込んだ魔法の盾が完全に除去されたらイキではないが、これもあえて教えることもない。
 除去されたら除去されたで、外に出された魔法の盾が外側から眺めるだけだ。

「ちなみにウィト王国の国民の基準とは?」

 ルイジィが質問してきた。まあ、気になるところだろう。自称ウィト王国国民まで魔法にかからなかったら大変だからな。

「正式な国籍を持っていることです。二重国籍でも含まれますが、国籍を失った場合や国籍偽装も該当しません」

「そう答えられると、貴方はすべての国民を把握しているという解釈になるのですが」

「さすがに産まれたばかりで国に届け出されていない者まではわかりませんよ」

「、、、でしょうね」

 ルイジィが遥か彼方を見ている。
 正直に答えただけなのに。

「つまりはウィト王国で産まれただけでは不充分で、国に出生の届け出した者ということですね」

「そうそう。そういや、ルイジィって妻子はいるの?」

「何を言っているんだ、ルイジィは昔から俺のそばにいて」

「はい、おりますよ。孫も一人います」

「ええええーーーーーーーっっ」

 アルティ皇子の叫び声が響いた。
 何でお前が驚き叫ぶんだよ。
 学校の警備員が飛んで来てしまったじゃないか。
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