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4章 貴方に捧げる我がまま
4-9 貴方に捧げる覚悟 ◆アルティ視点◆
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◆アルティ視点◆
「報告したぞ」
俺は今日のことを包み隠さず帝国へ報告した。
ルイジィ以下すべてのウィト王国王都にいる皇帝の影は再教育となった。
職員寮の部屋。
こういう事態になっても、皇帝になるための仕事は粛々と続いている。
次の書類を渡される。
「そうですか。コレでしばらく坊ちゃんともお別れですね」
「、、、喜んでないか?子守りから離れられると思って」
「たまには別の世話役に振り回されると良いですよ。ルイジィで良かったー、って涙ながらに思ってもらえれば光栄ですねえ」
「自分で言うな」
ルイジィとは俺が物心ついたときからの付き合いだ。
皇帝の影だと知ったのはいつだったか。
「帝国に帰ったら、地獄の再教育ですか。この年齢になってからじゃ、きついですねえ」
「そう思うなら、やらなきゃ良かっただろ」
書類から目を離すといつも非難の視線を向けるルイジィが、優しい目を向けていた。
「私の命と引き換えなら安いものです。けれど、、、仕方ありません。こうなってしまっては生き延びるしか手段はありません」
「そりゃ、兄上を殺害していたら、たとえお前でも父上が許さなかったとは思うが、」
机の下で、強く拳を握る。
何であんなことをした、とは聞けない。
わかっている。
俺のためだということは。
兄上が生きていれば、必ず比較される。
そして、内乱の火種を抱えることになる。
俺が皇帝でいる限り、帝国での兄上の功績も俺のものになってしまう。
恨まれないわけがない。
あんなにも皇帝の影に慕われる兄上なら、何の問題もなく皇帝になれるのではないか?
血の繋がりさえクリアしていれば、本当に兄上が皇帝としてふさわしかったのではないか?
血の繋がりがないとわかっている皇帝の影があれだけ心酔しているのなら、民衆だって兄上が皇帝になっても受け入れるだろう。
考えはグルグル回る。
それでも、ルイジィは覚悟を決めて、俺のために動いてくれたのだ。
兄上の殺害が成功していた場合、ルイジィは確実に処刑されていた。
今までの恩などまったく考慮されず。
恩赦など与えられるはずもない。
それほどまでの想いだ。
ここで腹を決めないでどうする。
「ルイジィ、俺が帝位についたときに、こき使ってやるから覚悟しておけ」
「おやおや、私は坊ちゃんのお守りに返り咲かなければならないんですか?早く独り立ちしてくださいね」
湿っぽいのは性に合わない。
皇帝の影に対する再教育がどのくらいの期間なのか、どの程度のものなのか、まったくわからないが、俺が皇帝になったら元に戻せば良いだけの話だ。
「はっ、ほんのひとときの休暇を楽しんでおけ」
「いや、休暇と言えるほど再教育は生易しいものではないのですけどね。ま、坊ちゃんの皇帝姿を楽しみにがんばりましょう」
と言って、スッと新しい書類を渡してきた。
この会話はこれまでか。
そばにいるのが、そばにいてもらえるのが当たり前だった。
帝都に帰ったらしばらく会えなくなるが、これが別れではない。
俺たち皇子も皇帝の影の一団とともに帰ることになった。
一団の予定通りであり、明後日にはここを離れることになる。
持って来た荷物はどうするのかというと、兄上の荷物だけはここに置いていく。
ウィト王国のチェック後、イー商会に引き渡すのだそう。
第八皇子は何も考えていないのか、この王都でお土産を買い漁っているようだ。
「お嬢ちゃん、」
校舎の通路の先から颯爽と歩いてきたのはオルレア・バーレイだった。
この子は俺がいなくなったとしても何とも思わないんだろうな。
いや、清々したとか思っていそう。
いつもの美しく長いストレートの銀髪が煌めいている。今日も凛として綺麗だ。
「アルティ皇子殿下、お帰りの仕度はお済みになられましたか」
「さっさと出ていってくれと言わんばかりだな」
「、、、カラダの関係をお持ちの女性職員二人と、アニエス・グロス男爵令嬢のことは帝国にお戻りになられても今後しっかりとご対応ください」
いっ?
「なぜ嬢ちゃんが知っている?」
「反対にお聞きしますが、なぜ知らないと思っているのですか?」
不思議そうな目を向けられてしまった。
え、そうなの?知らない方がおかしいの?バーレイ侯爵家ってソレが標準なの?
兄上は大丈夫?
浮気したら絶対に追及されるぞ。いや、あの兄上ならしないか。
「皇帝は一夫多妻制だ」
「存じておりますが?」
だから?という視線。
うん、痛い。
その痛いのが心地良い。
うん、ヤバいな。
「帝国に戻り、今後のことが決まり次第、迎えに来る。それくらいの甲斐性はあるぞ」
「いや、だからそれは無理かと」
「へ?」
「帝国の皇妃枠で他国の者を入れるのは一人、せいぜい二人が限度でしょう。皇帝が望んでも帝国の皇妃たちがそれを認めるわけがない。その意味が本当にお分かりか?」
この子もルイジィと同じく、最後の答えまでを伝えない。
とりあえず考えさせる。
似ているのに相容れないのは、俺に向ける目が冷たいからだ。
ルイジィはアレでも愛情をもって俺に成長を促している。
「ならば、お嬢ちゃんが正妃になってくれればすべてが解決するんじゃないか。アニエス・グロスのことも近くで守れるだろ」
「?」
お嬢ちゃんが首を傾げた。
「お?アニエス・グロスは俺がお嬢ちゃんに近づくのを阻止するために、俺に色目を使ったんだろ。お前のことが大好きだからな、あの子は。この国の野郎どもと違うのは、俺はどんな意図だろうと誘われたら手を出す。それだけのことだ」
「では、どちらにしてもいい薬になるのでは?」
うっ。
冷たい視線にゾッとしたのに、ゾクッとなってしまった。
もうこれ以上惚れさすなよー。
泣くぞ。
腕力で押し倒すことは、この嬢ちゃんに対しては不可能だ。俺よりお嬢ちゃんの方が強い。
冷たいのは愛情の裏返し、ってことはこの嬢ちゃんに限って絶対にない。
兄上の方が一歩も二歩も好意的に受け取られているのは態度を見ればわかる。
「皇妃は実家の後ろ盾が大きいものではないと潰される。あの彼女たちは平民か男爵家で、ウィト王国でも王妃になるのはほぼ不可能な身分だ。だが、お前が三人を妾として考えているのなら、彼女たちの両親がそれを許さない。そういう仕事以外でカラダの関係を持つのは、この国では結婚を前提としている」
「だから、結婚して皇妃として迎えるって」
「皇妃たちを甘く見るな。三人とも一年もしない内に殺されるぞ」
「、、、皇帝の影に守らせても、か?」
お嬢ちゃんがため息を吐いた。
「そうか、お前は彼女たちに愛情なんてものは持ち合わせていないのだな。抱けるから抱いた、それだけの関係か」
「皇妃というのは優秀な跡継ぎを産むためのものだ。快楽に溺れるのも、夢を見るのも自由だろう」
「彼女たちに打算があるのは否めない。だが、皇帝の愛だけで帝国の皇帝の正妃になるのは夢物語でしかない。どんな世界でも両親、つまり実家の力が物を言うことが少なくない。どんなに自分自身の能力が高くとも、総力戦である皇妃は一人だけでは太刀打ちできない。それに、お前も皇帝の影を勘違いしているのか?帝国のためにならない皇帝すら殺すのに、皇妃を殺すことに躊躇いなどあるわけがないだろう」
「じゃあ、やっぱりお嬢ちゃんが俺の正妃するのが一番だと思うけどー?」
物凄い目で見られた。
皇帝の影を全員土下座させ、有無を言わせず帝都に送り返すのに、影がお嬢ちゃんを殺せるわけもない。
一番の適任だと思うけどなあ。俺もこの歪みそうな愛情の行き場をなくさずに済む。
「お前は何を聞いていた?俺に両親が力添えすることは一切ない。一人だけでは太刀打ちできないと言っただろうが」
男装の麗人だからか、たまに、俺、と彼女は言う。
いつもは、私、だが。
オルレア・バーレイは両親に溺愛されている。特に父親のバーレイ侯爵に。
婚約を申し込みに行ったとき、あんなにキレられたのに。
娘の頼みでも力添えをしないなんてことあり得るか?
「お前は俺を誰だと思っている?」
「はーい、そこまででーす、オルレア殿。ヒントをこれ以上あげちゃだめですよー」
陽気な声がそこに響いた。
「ルイジィ、、、」
「報告したぞ」
俺は今日のことを包み隠さず帝国へ報告した。
ルイジィ以下すべてのウィト王国王都にいる皇帝の影は再教育となった。
職員寮の部屋。
こういう事態になっても、皇帝になるための仕事は粛々と続いている。
次の書類を渡される。
「そうですか。コレでしばらく坊ちゃんともお別れですね」
「、、、喜んでないか?子守りから離れられると思って」
「たまには別の世話役に振り回されると良いですよ。ルイジィで良かったー、って涙ながらに思ってもらえれば光栄ですねえ」
「自分で言うな」
ルイジィとは俺が物心ついたときからの付き合いだ。
皇帝の影だと知ったのはいつだったか。
「帝国に帰ったら、地獄の再教育ですか。この年齢になってからじゃ、きついですねえ」
「そう思うなら、やらなきゃ良かっただろ」
書類から目を離すといつも非難の視線を向けるルイジィが、優しい目を向けていた。
「私の命と引き換えなら安いものです。けれど、、、仕方ありません。こうなってしまっては生き延びるしか手段はありません」
「そりゃ、兄上を殺害していたら、たとえお前でも父上が許さなかったとは思うが、」
机の下で、強く拳を握る。
何であんなことをした、とは聞けない。
わかっている。
俺のためだということは。
兄上が生きていれば、必ず比較される。
そして、内乱の火種を抱えることになる。
俺が皇帝でいる限り、帝国での兄上の功績も俺のものになってしまう。
恨まれないわけがない。
あんなにも皇帝の影に慕われる兄上なら、何の問題もなく皇帝になれるのではないか?
血の繋がりさえクリアしていれば、本当に兄上が皇帝としてふさわしかったのではないか?
血の繋がりがないとわかっている皇帝の影があれだけ心酔しているのなら、民衆だって兄上が皇帝になっても受け入れるだろう。
考えはグルグル回る。
それでも、ルイジィは覚悟を決めて、俺のために動いてくれたのだ。
兄上の殺害が成功していた場合、ルイジィは確実に処刑されていた。
今までの恩などまったく考慮されず。
恩赦など与えられるはずもない。
それほどまでの想いだ。
ここで腹を決めないでどうする。
「ルイジィ、俺が帝位についたときに、こき使ってやるから覚悟しておけ」
「おやおや、私は坊ちゃんのお守りに返り咲かなければならないんですか?早く独り立ちしてくださいね」
湿っぽいのは性に合わない。
皇帝の影に対する再教育がどのくらいの期間なのか、どの程度のものなのか、まったくわからないが、俺が皇帝になったら元に戻せば良いだけの話だ。
「はっ、ほんのひとときの休暇を楽しんでおけ」
「いや、休暇と言えるほど再教育は生易しいものではないのですけどね。ま、坊ちゃんの皇帝姿を楽しみにがんばりましょう」
と言って、スッと新しい書類を渡してきた。
この会話はこれまでか。
そばにいるのが、そばにいてもらえるのが当たり前だった。
帝都に帰ったらしばらく会えなくなるが、これが別れではない。
俺たち皇子も皇帝の影の一団とともに帰ることになった。
一団の予定通りであり、明後日にはここを離れることになる。
持って来た荷物はどうするのかというと、兄上の荷物だけはここに置いていく。
ウィト王国のチェック後、イー商会に引き渡すのだそう。
第八皇子は何も考えていないのか、この王都でお土産を買い漁っているようだ。
「お嬢ちゃん、」
校舎の通路の先から颯爽と歩いてきたのはオルレア・バーレイだった。
この子は俺がいなくなったとしても何とも思わないんだろうな。
いや、清々したとか思っていそう。
いつもの美しく長いストレートの銀髪が煌めいている。今日も凛として綺麗だ。
「アルティ皇子殿下、お帰りの仕度はお済みになられましたか」
「さっさと出ていってくれと言わんばかりだな」
「、、、カラダの関係をお持ちの女性職員二人と、アニエス・グロス男爵令嬢のことは帝国にお戻りになられても今後しっかりとご対応ください」
いっ?
「なぜ嬢ちゃんが知っている?」
「反対にお聞きしますが、なぜ知らないと思っているのですか?」
不思議そうな目を向けられてしまった。
え、そうなの?知らない方がおかしいの?バーレイ侯爵家ってソレが標準なの?
兄上は大丈夫?
浮気したら絶対に追及されるぞ。いや、あの兄上ならしないか。
「皇帝は一夫多妻制だ」
「存じておりますが?」
だから?という視線。
うん、痛い。
その痛いのが心地良い。
うん、ヤバいな。
「帝国に戻り、今後のことが決まり次第、迎えに来る。それくらいの甲斐性はあるぞ」
「いや、だからそれは無理かと」
「へ?」
「帝国の皇妃枠で他国の者を入れるのは一人、せいぜい二人が限度でしょう。皇帝が望んでも帝国の皇妃たちがそれを認めるわけがない。その意味が本当にお分かりか?」
この子もルイジィと同じく、最後の答えまでを伝えない。
とりあえず考えさせる。
似ているのに相容れないのは、俺に向ける目が冷たいからだ。
ルイジィはアレでも愛情をもって俺に成長を促している。
「ならば、お嬢ちゃんが正妃になってくれればすべてが解決するんじゃないか。アニエス・グロスのことも近くで守れるだろ」
「?」
お嬢ちゃんが首を傾げた。
「お?アニエス・グロスは俺がお嬢ちゃんに近づくのを阻止するために、俺に色目を使ったんだろ。お前のことが大好きだからな、あの子は。この国の野郎どもと違うのは、俺はどんな意図だろうと誘われたら手を出す。それだけのことだ」
「では、どちらにしてもいい薬になるのでは?」
うっ。
冷たい視線にゾッとしたのに、ゾクッとなってしまった。
もうこれ以上惚れさすなよー。
泣くぞ。
腕力で押し倒すことは、この嬢ちゃんに対しては不可能だ。俺よりお嬢ちゃんの方が強い。
冷たいのは愛情の裏返し、ってことはこの嬢ちゃんに限って絶対にない。
兄上の方が一歩も二歩も好意的に受け取られているのは態度を見ればわかる。
「皇妃は実家の後ろ盾が大きいものではないと潰される。あの彼女たちは平民か男爵家で、ウィト王国でも王妃になるのはほぼ不可能な身分だ。だが、お前が三人を妾として考えているのなら、彼女たちの両親がそれを許さない。そういう仕事以外でカラダの関係を持つのは、この国では結婚を前提としている」
「だから、結婚して皇妃として迎えるって」
「皇妃たちを甘く見るな。三人とも一年もしない内に殺されるぞ」
「、、、皇帝の影に守らせても、か?」
お嬢ちゃんがため息を吐いた。
「そうか、お前は彼女たちに愛情なんてものは持ち合わせていないのだな。抱けるから抱いた、それだけの関係か」
「皇妃というのは優秀な跡継ぎを産むためのものだ。快楽に溺れるのも、夢を見るのも自由だろう」
「彼女たちに打算があるのは否めない。だが、皇帝の愛だけで帝国の皇帝の正妃になるのは夢物語でしかない。どんな世界でも両親、つまり実家の力が物を言うことが少なくない。どんなに自分自身の能力が高くとも、総力戦である皇妃は一人だけでは太刀打ちできない。それに、お前も皇帝の影を勘違いしているのか?帝国のためにならない皇帝すら殺すのに、皇妃を殺すことに躊躇いなどあるわけがないだろう」
「じゃあ、やっぱりお嬢ちゃんが俺の正妃するのが一番だと思うけどー?」
物凄い目で見られた。
皇帝の影を全員土下座させ、有無を言わせず帝都に送り返すのに、影がお嬢ちゃんを殺せるわけもない。
一番の適任だと思うけどなあ。俺もこの歪みそうな愛情の行き場をなくさずに済む。
「お前は何を聞いていた?俺に両親が力添えすることは一切ない。一人だけでは太刀打ちできないと言っただろうが」
男装の麗人だからか、たまに、俺、と彼女は言う。
いつもは、私、だが。
オルレア・バーレイは両親に溺愛されている。特に父親のバーレイ侯爵に。
婚約を申し込みに行ったとき、あんなにキレられたのに。
娘の頼みでも力添えをしないなんてことあり得るか?
「お前は俺を誰だと思っている?」
「はーい、そこまででーす、オルレア殿。ヒントをこれ以上あげちゃだめですよー」
陽気な声がそこに響いた。
「ルイジィ、、、」
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