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3章 妄想のなかの、理想の王子様

3-7 帝国の皇子4

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「第一皇子がイーティ殿下で、第八皇子がリューティ殿下ね。帝国の皇子は人数が多くて覚えられなかったから、良かったわ」

 ここは王城の応接間。
 場所を移して、帝国の皇帝が非公式に王妹マイア様と話している。
 この場では、マイア様と皇帝だけがソファに向かい合って座っている。

「跡継ぎ争いは第六皇子の勝利で終了だ。第一皇子が第六皇子にこの地で剣の勝負を挑み破れた。第八皇子は戦おうともしなかった。それで終わりだ」

「けれど、跡継ぎ争いに敗れた皇子は、勝利した皇子が皇帝に即位するときには生きてはいない。そんな者たちをこの国で面倒見ろとおっしゃるの?」

「私の血を引いていないのだから、実際のところ彼らは皇子ではない。この国で使い物になるのなら、正妃の死後に我が国に呼び寄せることも可能だろう」

「使い物になった後に返せと言われてもこちらは困るのよね」

 マイア様が扇で口を隠す。
 そりゃそうだ。苦労して使えるようになってから奪われるのなら、何もしない方が良い。

「帝国に帰るのもこの国に留まるのも、それは本人たちの選択に任せる。だが、私の血を引かない者が帝位についてもろくなことにはならない」

 第一皇子と第八皇子はようやく自分の立場が理解できたようで、かなりおとなしくなっている。
 正妃に真実を隠されたまま、皇帝になろうとしていたのに。

 この国に彼らを連れてきたのは、生きたまま正妃の手から逃すためか。
 息子ではなくとも、息子として育てていたのだから、多少の情は移ったということか?
 他の五人の皇子は他国で殺されたというのに。

 だが、疑問は残る。

「皇帝陛下、質問してもよろしいですか?」

 聞きたいことがあるので聞いてみた。
 皇帝の後ろには先程一緒に来た魔導士たちも並んでいる。
 実力的には皇帝一人で彼ら全員よりも強いと思うが。魔導士の護衛は必要なのかと疑問に思うくらいだ。

「何だ」

「第一皇子と第八皇子の父親をご存じなのですか?」

「そんなことか。知っているが、すでにこの世にはいないぞ」

 どちらに始末されたんだか。

「他の皇子の父親もソイツだ。魔法で私の姿を完全再現していた。正妃の企みに協力しない皇妃も騙されたくらいに」

「立場が違えば、良い影武者となったでしょうに」

「ふっ、それもそうだな。ところで、お前はアルティをどう思う?」

 何だ、この質問。

「皇帝の器としてなら、まだまだ未熟なのではないでしょうか?」

「くっ、だから、惚れさすなっ」

 アルティが苦悶の表情を浮かべる。
 未熟って言葉で惚れるのか?コイツは。

「では、人としては?」

「羨ましいですね。恵まれていて」

「ん?お嬢ちゃん、俺が羨ましいのか?まったくそんな素振り見せてなかったけど」

「ルイジィ殿のような優秀な部下が一人でもそばにいれば、この世界は生きやすいものとなりますから」

「おお、それはそれは、その言葉は純粋に嬉しいですな」

 喜びの笑顔がルイジィから漏れた。

「それは俺が羨ましいんじゃないくて、俺の周囲が羨ましいんじゃないのか?」

「同じことですよ、アルティ皇子殿下」

「、、、其方はアルティが帝国に戻るとき、一緒に来る気はないか?我が国では実力ある者は重用するし、友人たちも一緒に来たいというのなら歓迎するぞ」

「私がいる前でうちの国の者を引き抜こうとしないでくださいね」

 マイア様が皇帝をとめるが。

「正当な評価を与えない上に、自由をも奪う国なら捨ててもかまわぬと思うが?それが嫌なら、この国の歪んだ部分を改めるべきだな、ウィト王国の王妹殿下よ」

「貴方には言われたくないわね、キノア帝国の皇帝陛下」

 狐と狸の化かし合いか?
 国の上にいる人間同士としては、話し合いは良好に進んでいると思うが。
 二人とも笑顔で話している。

「、、、父上は貴殿たちを知っているようだが、名を尋ねたい」

 イーティ第一皇子が俺たちに近づいてきて言った。
 年齢は三十歳手前のはずだが、外見は若く見える。アルティ第六皇子と二、三歳しか変わらないようにも見えてしまう。

「ただの観客ゆえ、捨て置きください」

「其方、意外と根に持つタイプだな。他国の者に介入されたくなくて、あの場ではああ言った。すまなかった。さすがに父上が現れる場にいる者がただの観客ということはあるまい」

 、、、?
 最初の印象と違うな、この皇子。
 皇子はバカを演じている方が、帝国では本当に生きやすいのか?
 全員なの?バカを演じているのは?本当のバカがわからなくなるよ?

「この子はー、オルレア・バーレイよー。バーレイ侯爵家のご令嬢よー。お隣はサイ・モルトー、モルト公爵家のご令息よー」

 マイア様が間延びした声で他己紹介してくれた。
 皇帝とルイジィが生温かい笑みを湛えているが。

「バーレイ侯爵家の、、、ご令嬢?」

 実際のところ、オルレアを知らない者が俺を見たら令嬢に見えるのだろうか?
 男子の制服を着ている者を女性に見てもらえるのか?
 髪が長い者なら、男性でも多い。

 イーティ第一皇子が俺の頭の天辺から足の爪先まで見た。

 そして、なぜか視線をアルティ皇子に移す。
 次に自分の父親を見る。
 そして、俺に戻す。

「、、、ふむ。事情はまだわかっていないが、よろしく頼む。そのお姿のときはオルレア殿とお呼びした方がよろしいのか?」

 この人、アルティ皇子より賢いのではないか?
 いや、相当賢い。断言。
 周囲の状況からも冷静な判断をしたようだ。
 皇帝はニヤニヤ笑っているし。
 ああ、だから、生かす判断をされたのか?

 手を差し出してきたので、握手する。

「はい、そのようにお呼びください、イーティ皇子殿下。けれど、残念ですね。皇帝と血のつながりがあれば皇太子に相応しいのは貴方だったでしょうに」

「過分な評価を恐れ入ります。母の実家の後ろ盾がなければ、何もできない操り人形ですよ、私は。母の目も完全に閉じていただいたようで助かりました」

「いえいえ、どういたしまして」

 他国の偵察魔法なんて、都合がいいようにしか利用しない。
 第一皇子が第六皇子に剣でやられたあたりで、キュッと見えなくしてしまった。

「では、そろそろ我々はお暇しよう。我が妻がキレる頃合いだろうからな」

 皇帝が言うと、後ろにいた魔導士たちが魔法陣を展開し始めた。

 あ、この王城は空間転移の魔法も無効化するはず。
 皇帝がニヤリと笑う。

「このくらいの防御で帝国の空間転移魔法が失敗するわけもない。あ、キミは手出ししないでね。キミが介入するとさすがに失敗するから」

 皇帝が慌てて俺をとめた。
 帝国の皇帝をこのままウィト王国に留めておきたくないので、誰も邪魔しないのだが。
 ちゃんと帰り道も開いているよ。
 本当は息子たちも連れ帰ってほしいのだが、彼の地が落ち着くまでは彼らが帰ることは難しいだろう。

 この魔導士たちは護衛というよりも、空間転移の魔法を使うためだけに連れて来たのだろうか。
 なんとなーくそういう気がしてしまうのは、魔導士全員が魔法の詠唱をしている。

 帰りは雷鳴が轟くこともなく、ごくごく普通な魔法陣が出来上がった。

「では、また会える日を楽しみにしている」

 皇帝が別れの挨拶している最中に、こっそりと魔導士が裏でルイジィに荷物を渡している。
 、、、どうも第一皇子と第八皇子の着替え等らしい。はじめからこの国に押しつける気で来ているじゃねえか。

 魔法陣が消えると、すべてが何事もなかったかのような元の部屋に戻る。
 コレで俺のすることは終わったな。
 さて、学校の寮に戻ろう。

「ああ、オルレア、皇子たちはまとまっていた方が楽だから、イーティ殿下も学校で面倒をみてもらうわ。リューティ殿下は一学年に留学扱い。今晩は王城にお泊りいただくけど、明日からよろしくね」

「、、、マイア様」

 面倒なこと、人に押しつけてませんか?

「明日のお茶会も楽しみにしているわね」

 マイア様がにこやかに笑った。
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