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3章 妄想のなかの、理想の王子様

3-2 日々の訓練

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 マイア様に銀の鳥を使ってお茶会の返事をする。
 すぐに予定の日取りが決まった。
 ソニア嬢への日時の伝言は、侍女のセイラに連絡を頼んでおいた。すでに寮に戻っているのなら、この方が正確だし早い。オルレアが彼女の部屋に突撃するのはやめておいた方が良いだろう。周囲の目もあるし。

 部屋の中で鍛錬をする。

 寮のオルレアの部屋は広い。
 さすがは貴族学校。侯爵家のための部屋なのだそうだ。

 騎士学校では貴族等の身分は関係ない。
 支払う金額で個室、二人部屋、大部屋にわかれるだけだ。
 お金を使いたくない子供にも、侯爵家という見栄だけで個室にした、それだけの理由だ。
 オルレアと違って従者等もおらず、部屋はこの部屋に比べたら恐ろしく狭い。
 同じ双子とはいえ雲泥の差だ。

 ただ、それでも俺はあの家から離れられると思うと嬉しかった。
 両親とオルレアから離れられれば、何も比べなくて済む。
 自分とオルレアの待遇の違いを知らなければ、何も恨まなくて済む、そう思っていた。

 こんなにもまざまざと違いを見せつけられる日が来るなんて思ってもいなかった。

「オルレア様、ソニア・ガロン様から日時の了承を得ましたのでお知らせしておきます」

「ありがとう、セイラ」

 彼女は報告すると、侍女用の自分の部屋に戻った。
 この部屋は静かになる。
 俺は剣を握って、魔力を循環させている。
 この部屋の重厚な家具でもカタカタと音が鳴る。

 俺は貴族学校の訓練場でも全力で訓練できない。
 当たり前だ。
 オルレアが男子生徒と対等に剣や魔法で戦っていたら、オルレアがここに戻って来たときに大変だ。
 今までのオルレアの剣の稽古相手であった男子生徒は、俺がほんの少し力を入れたら壁まで吹っ飛んでしまった。
 それ以来、シンやスレイも剣の稽古に付き合ってくれるが、騎士学校のように訓練をするには、サイまで巻き込んで結界の魔法まで使ってもらわないとならない。サイもある程度は協力してくれるが、毎日はしてくれない。

 となると、オルレアの部屋で俺は日課の訓練を行わなければいけないが、当初はオルレアの侍女たちが猛反発した。
 オルレア様は部屋でそんなことはしないと。
 けれど、バーレイ侯爵家で落ちこぼれの俺が日々の訓練を怠ったら、最強の剣である兄にすべての負担が行くと同時に国防に支障が出かねないと説明したら、彼女たちは折れてくれた。まあ、渋々だっただろうが。
 そういうわけで、俺の訓練時間は用があるとき以外、誰もこの部屋に入って来ない。

 豪華な絨毯の上でやってしまうと、汗まみれになってしまうので、訓練用のシートを引いてみた。

 ノックの音が響く。

「オルレア・バーレイ様、寮の管理の者ですが」

 急いで顔の大量の汗を拭き、タオルを肩にかけたまま、前室から通路につながる扉を開いた。

「はい?」

「あ、ああ、オルレア様、」

 寮監である女性職員がいたが、俺が扉を開けたことに戸惑ったようだ。
 それもそうか、通常ならば侍女が対応する。

 オルレアスマイル発動っ。
 女性職員の頬が赤く染まる。
 コレで何もかも忘れてくれるだろう。
 都合が良いな、この笑顔。
 貴方に会いたくてついつい自ら出てきましたという感じに受け取られるのだろうか。

「こんな格好で失礼。それで何かありましたか?」

「し、下にシン・オーツ伯爵令息が来ております」

「シンが?仕度後にすぐに向かいます」

「わかりました。そのように伝えます」

 異性が女子寮内にいる者に会うためには、寮監に呼んでもらわなければならない。
 女子寮内に入るのは全面禁止、というわけではなく、一階の応接室までなら面会時に使用できる。

 ちなみに父親でも兄弟でも寮で会うのならその応接室までである。入寮後、家族でも男性は部屋まで入ることはできない。
 本来なら、俺はオルレアの部屋に入ることはできない規則である。

 男性寮でもそうである。女性が二階以上にある部屋まで行くことはできない。
 今は第三王子がいるから男性寮の方が警備が厳重である。

 一晩、王子が女性と二人で共にしたとなれば、責任重大である。警備の方が。つまり、キュジオ隊長が。

 さっさと着替えて、下の階に行く。
 寮監が応接室に通してくれる。

「シン、どうしたんだ?」

「おー、オル、訓練場に行くかー」

 ここでは話せない話とな。
 俺が侍女を連れてこなかったため、男子生徒と二人きりにするわけにはいかない寮監がそのまま部屋に居座るからだ。
 そういや、オルレアの侍女たちに何も言わずに出て来たな。ま、いつものことか。

「ああ、わかった。寮監殿、ありがとうございました。失礼します」

「はい、何かありましたら、お申し付けください」

 女子寮をさっさと後にする。
 一応、向かう先は訓練場の方向だが。

「で、何だ?」

「サイに呼ばれた」

「サイに?????」

 サイなら魔法で直接連絡することが可能なのに?
 この頃はあのちっこいサイが踊って知らせて来るのに?

「、、、訓練室を一室借りている。スレイもそこで待っている、らしい」

 俺の顔を見て、何を言いたいのかシンにもわかったようだが苦い顔をしている。

「お前が俺を呼びに来ている意味がわからん」

「それは俺もだ。有無を言わさずお前を呼びに行けとサイに言われた」

「シンが呼びに来るより、サイが魔法で連絡する方が早いと思うんだが?」

「俺もそう思う」

 シンも強く頷いた。

 俺たちは訓練場に着いた。
 訓練室というのは位の高いところの子弟がこっそりと訓練したいときに使うものである。
 剣だろうと、体術だろうと、魔法だろうと、使用目的は何でも可。教師の指示によるものでなければ、もちろん無料ではない。
 というわけで、俺は使ったことはない。

「オル、よく来てくれたね」

 訓練室の扉を開けると、にこやかな表情のサイが迎えてくれた。
 そこにはすでに騎士団長の息子で、一学年下のスレイもいる。
 だが、スレイの警戒心は高い。手が剣に触れている。いつでも抜けるようにしている。

 そこにはあと二人いた。

「やあ、また会えたね、お嬢ちゃん」

「キノア帝国の、、、暇なんですか?」

 椅子に足を組んで座っているアルティ第六皇子と、その斜め後ろで立っているお付きのルイジィだった。
 けど、なぜ訓練室?
 学校の応接室とかで良くないか?

「うわっ、いつもながら辛辣な言葉っ。心が痛いっ」

 いつもって、会った回数はたった二回なのだが。
 それにそんなひどい言葉を言った覚えはないな。
 首を傾げてしまうよ。

 サイを見る。

「オル、アルティ皇子殿下はそれなりの年齢だ。留学という体でこの学校に通わせるのは無理な年齢だった」

「うわー、この子もけっこうひどーい。お嬢ちゃん、お兄さんって呼んで慕ってくれてもいいんだよ」

 はい、無視無視。
 俺の兄は一人しかいません。

「サイ、ということは?」

「しばらくの間、特別講師としてこの学校にいることになった。帝国の魔法を当たり障りのない程度に教えてくれる」

「へえー」

「うわっ、興味なさそうな返事」

 だって、当たり障りのない程度なんでしょ?
 帝国秘伝の魔法とかだったら心も動くだろうけど。

「コイツの警備はもちろんいるが、各学年一人と、オルが裏で動くことになった。王城で囲っているより、この方が安全だという配慮で」

「あー、確かにー」

 あれ、各学年?
 最高学年サイ、三学年シン、二学年スレイということだろうけど、一学年の生徒がこの場にいないな。後で知らせるのかな?
 
「、、、お嬢ちゃん、本当にわかっているー?こっちの人間だけでなく、帝国の人間からも俺は狙われるってことだよ」

「んー、だから、ここなんでしょう。ここならいざとなればキュジオ隊長もいるし、守りやすい。王城の警備は一枚岩じゃないから邪魔が入る」

「オル、帝国の皇子は第一と第八皇子、そしてコイツ以外すべて亡くなった。デント王国が第四皇子の首を帝都の城に送り返したのを皮切りに、他の周辺諸国も皇子たちを殺害した。帝国の皇帝も一度に周辺国家すべてを相手にすることはないだろう」

「ああ、なるほど。じゃあ、この国に攻めてくる可能性は高いのか」

 俺が結論付けると。

「は?」

 わかってないという声が聞こえた。
 それもアルティ皇子からだ。。。

 俺はルイジィを見ちゃったよ。
 ルイジィは俺からの視線で顔を横に逸らした。

「何で皇子が一番自分の国の動向をつかんでないの?」

「馬鹿を演じていたら、本当の馬鹿になってしまったってことじゃないかなー」

 サイがにこやかに答えた。

「、、、アレって演技だったのか?」

 俺が今日一驚いたら。
 アルティ皇子が素でいじけた。

 めんどくさー。
 放っておこう。
 自分で帝国の人間からも狙われるって言ったくせに。
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