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2章 令嬢たちは嫉妬する

2-18 花びら舞う王子様13

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「おーほっほっほーっ、我がモルト公爵家の精鋭が真犯人を連れて来て差し上げたわよっ」

 高らかに発言したのは、マーガレット・モルト侯爵令嬢。
 赤い薔薇を背負ったかのように、、、本物の薔薇が本当に空中に浮かんでいるな。。。
 サイの仕業か。
 華やかだな。

 会場の扉にズラッと並んだモルト公爵家の護衛たち。
 いきなり現れて皆が唖然としているではないか。

 桃色ドレスの一人の令嬢が拘束されている。

「お姉様っ」

「どうしてお前がっ?」

 北部地方に領地を持つ貴族の家の者たちが叫んだ。
 妹が第三王子の婚約者候補。だからこそ、この姉はこの舞踏会に入りこめた。
 王城でこんなことをしでかしたことがバレたら、お家取り潰しは免れない。
 彼らにとっては完璧な作戦だったはずなのか?

 国王の親衛隊隊長の顔が微かに歪んだ。
 それをマーガレットは見逃さなかったのか、彼に扇を向けた。

「国王陛下の親衛隊隊長殿、これが茶番劇だというのなら、そうでしょう。今回の件の原因は、この令嬢の嫉妬ですもの。ただそれだけ。ああ、みっともない」

「みっともないとは何よっ、アンタなんかに私の気持ちがわかるわけがないっ」

 マーガレットの発言が彼女の逆鱗に触れたのか、喚き散らす。
 手首を男の手で拘束されているので、彼女の自由は口だけだ。
 わざと自由が残されていることに気づかなければ、彼女の口がとまることはない。
 それが罪を認めたことと同じであることを気にもとめずに。
 ご家族の顔は真っ青だ。

「あんな女がネオ殿下の横にいるなんて信じられないわっ。私こそがあの方にはふさわしいっ。家柄も容姿も私の方が何倍もっ」

「醜悪ね。感情的になり過ぎて、怒鳴り散らす人間なんか王子妃にはなれないわ。だからこそ、貴方は第二王子の婚約者候補から外されたのよ。そんなこともわからないの?」

 マーガレットは扇を使ってヤレヤレ感を醸し出している。
 女性を煽るのが上手いのは、女性というところか。マーガレットの見下したかのような視線も彼女にとっては火に油を注ぐ結果となる。

「私がすべてにおいて勝っているのよっ。なのにっ、ソフィアっ、アンタなんか学校のあの小屋で死んでいれば良かったのにっ。どうして爆発で死んでないのよっ」

 ネオ王子の横にいるソフィア嬢は口を両手で押さえる。

 国、学校側のあの事件の公式発表は小屋の倒壊により令嬢一人が巻き込まれる恐れがあったが無事である、原因は究明中、ということにしてある。
 ソフィア・カートン伯爵令嬢が狙われたことも、爆発に巻き込まれたことも公にはしていない。
 小屋が爆発した事実は公表されていないのだ。

 噂は突拍子のないものまで様々のものが飛び交っているが。
 王子の婚約者候補たちが王城で保護されていることだし。

 この発言でキュジオ隊長の視線が動いた。

「国王陛下の親衛隊隊長を拘束しろっ」

「ぐっ」

 素早く動いたのは、キュジオ隊長が信頼する部下数名。
 国王の親衛隊隊長は床に伏せられ拘束される。

「な、何を」

「その問いは私がしたいのだがね。なぜお前はこの時点で剣に手をかけた?」

 国王が彼に問う。
 一段上にいる国王からは良く見えることだろう。

「その女の言い草が醜悪なため、つい感情的になったようです。陛下のお耳に届けていいものではない」

「口封じか?」

 国王の一言にも、彼の表情は一切変わらない。
 動じている風には思えない。
 彼が口を開こうとした、そのとき。

「あははっ、貴方だけ助かろうなんて虫がいいのよっ。私がほんの少し色目を使っただけでほいほい言うことを聞いてっ。この計画が上手くいかなかったのも貴方のせいじゃないっ。貴方がしっかりと動いていたら、私がこんなことにはならなかったわっ」

 親衛隊隊長は押さえつけている三人を跳ね除け、一瞬にして剣を抜き、令嬢の前に動いた。
 キュジオ隊長が腰に剣がないことに今さらながらに慌てた。

「ひぃっ」

 ガキンと音が響き、剣がぶつかる。

「なぜ、お前がコレを庇う?」

「愛憎のもつれってわけじゃなさそうだな」

 俺はキュジオ隊長の剣で、彼の剣を払った。
 さすがはキュジオ隊長の魔剣。
 国王の親衛隊隊長の魔剣相手でも壊れることもない。

 彼の剣は国王を守る剣だ。それ相応の重い剣のはずなのだが。

「どうも小物は利用するにしても上手くいかないな。話さなくても良いことを自分からペラペラと」

 お互いが利用して、もしもの場合に相手を犯人に仕立てようとしたのか?
 もしくは道連れに。
 首謀者は向こうだったと減刑を願い出るために?
 それとも。

「お前はバーレイ侯爵家の評価を下げるために動いていたわけか」

「はははっ、バーレイ侯爵のご令嬢にどれだけの価値があると思っているんだ、お嬢ちゃん。頭の中はお花畑かよ。最強の剣、最強の盾以外の子供なんてどうでもいいんだよ」

 彼はせせら笑う。
 俺はバーレイ侯爵家と言っており、オルレアとは言っていない。
 問題のすり替えを行うのはなぜか。
 通常は理由を隠したいからだ。
 わざとオルレアを怒らせ、追及の先を逸らすつもりだったのか。

「、、、お前は誰だ?」

 俺は彼に剣を向け、構え直す。

「、、、冷静だな。噂とは全く違うな、我がまま姫。自己紹介はしたことなかったか?私は国王陛下の親衛隊隊長で」

「国王陛下の親衛隊隊長の剣がこんなに軽いわけがない」

 彼の目が一瞬呆けた。
 そして、今までの顔が一気に崩れた。
 本気で笑った。

「はっ、ははっ、なるほどなー。剣でバレるとは、令嬢とはいえさすがはバーレイ侯爵家というところか」

「本人はどこにいる」

 その問いには薄く笑っただけだった。
 おそらく、、、生きてはいないのか。

 会場にいる者で、限りなく鈍感な者以外は国王の親衛隊隊長に別人が成りすましていることに気づいた。同じ親衛隊の仲間や国王でさえ気づかなかったということは、魔法によるものだろう。

「奴を包囲しろっ」

 キュジオ隊長の命令で、他の親衛隊隊員も騎士団も動く。

「ああ、こうなったら残念だが仕方ないかー。せっかく築いてきたものが台無しだ。まあ、お嬢ちゃんに今回の軍配は上げてやろうかね」

 口ではそう言うものの、ここのすべてを捨てることに迷いがない目だ。
 しかも、上から目線。

 何のために潜入したのか、語るわけもない。

「ここから逃げられると思うのか」

 キュジオ隊長が俺の横にやって来て、俺が持っている剣を奪ってしまった。
 そもそも、キュジオ隊長の愛剣だからね。
 ご返却せざる得ない。

「実力がある者が認められている国なら、こんなに容易くことは運ばなかっただろう。お前のような奴が第三王子の子守りじゃあ、この国の行く末も見えたものだ」

 ほんの微かに、目に感情の色が染まった。
 どこまでも冷めていながらも。

「では、ごきげんよう、また逢う日まで」

 国王の親衛隊隊長だった男は丁寧なお辞儀をした。
 風が踊ると、赤い花びらが舞った。

 いや、再会しても、本人とわからなければ意味はないと思うが。
 そのままの顔でいてくれるわけもないだろうに。
 どこの誰だかまったくわからないまま消えてしまった。
 思惑も何もかも謎のまま。

 周囲は包囲されていたのに、綺麗に跡形もなくなった。

「オルっ、何で逃がしたっ?」

 キュジオ隊長が俺に向かって言った。
 何を言っているんだろう、この男は。
 俺が最強の盾の力を使ったら、ここにいるのがオルレアではないと、全員にバレるじゃないか。
 俺はオルレアとしてここにいる。

「今宵は宴だ。後始末は明日にしろ」

 国王が手を上げると、すぐさま演奏が再開された。
 気絶した舞手たち、そして、騒ぎの令嬢が騎士団によって会場から連れ出される。家族とともに。

 そして、何事もなかったかのように舞踏会は元通りに動き始めた。

「オル、」

 手を差し出してきたのは、笑顔のサイだった。

「約束したでしょう」

 覚えていますけどね、一曲。
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