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2章 令嬢たちは嫉妬する

2-15 花びら舞う王子様10 ◆ソニア視点◆

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◆ソニア視点◆

 クオ王子とファーストダンスを踊った後は、クオ王子は令嬢たちに囲まれてしまい、私は集団から弾き飛ばされたため自然解散となった。
 さて、予定通り自由の身となった私はオルレア様レーダーで捜す、こともなく、二曲目をマイア様と踊り始めたオルレア様をすんなりと見つける。

 ああ、格好良い。

 ほう、、、とオルレア様を見て、顔を赤らめ甘いため息を吐いてしまう令嬢たちは多い。
 相手が王妹のマイア様でなければ、嫉妬の嵐で相手の女性は憎まれていたに違いない。
 けれど、内心オルレア様と一緒にダンスしたいと思っている令嬢はわかりやすい。今現在、王子たちなんかそっちのけでオルレア様に視線が釘付けの令嬢たちだからだ。

 国王夫妻と王太子の周辺には、令嬢たちの親や親族関係が群がっている。年齢層が高めである。
 婚約者候補以外の女性も多いこの舞踏会では第二王子、第三王子に人気が集中するかと思っていたが。思った以上にオルレア様人気が高い。

 これはもしかすると、親衛隊隊員にオルレア様が装飾剣を取り上げられかねたのも、男の嫉妬か?
 あの行為は女性にモテるオルレア様に対する妬みじゃないのか?とさえ思える。
 モテない男どもよ、そんなことをするからさらにモテなくなるんだよ。
 気づけよ、そこに。

 装飾剣を持っている全員をチェックするならともかくさあーーーっ。


 オルレア様とマイア様のダンスが終了した。
 王妹のマイア様には次のダンスの申し込みが殺到する。
 オルレア様とのあのダンスを見てしまえば誘いたくなるのも無理はない。

 いいなー、男性はー。誘いたい女性を誘えて。
 残念ながら、女性からダンスを誘うのははしたないという風潮はまだまだあるのだ。
 王子には突進していくのに、本命と思しき人物には無理という謎が存在する。
 王族には相手にされなくとも擦り寄っていて損はなし、ということらしいが。

 オルレア様はマイア様から離れて、軽食のスペースに行った。
 令嬢たちの視線をものともせず、デザートを見ている。
 女性同士なのだから、ダンスを踊りましょう、と軽快にオルレア様を誘えるわけもなく。。。
 令嬢たちは頑張って視線を送っているのだが、オルレア様は全然気づいていないようだ。

 オルレア様はあの王子たちより王子様だ。
 立ち姿も美しい。
 そして、衣装がひときわ目立つ黒。

 だがしかし、別の扉を開いてしまいたくなる。
 オルレア様が本当に男だったら。
 つい、クオ王子が言っていたことに思想が引っ張られたわけではないが、オルレア様自身が男だったら。

 似合う。

 サイ・モルト公爵令息とオルレア様が並び立つと、衣装が白と黒、ちなみに差し色が青と赤。ちょうど髪色も黒と銀。
 対照的な二人だ。
 仲良く話している。
 サイ様があんな砕けた表情で誰かと話すのを見るのははじめてだ。
 柔らかく、気の許した態度は他で見られることはないだろう。

 オルレア様は女性なのだから、お似合いだと言っても問題はないのだが、これが男性同士なら。。。
 いや、これ以上考えるのはよしておこう。
 そこら辺りに出没してきたニマニマ笑顔を扇で隠す令嬢の仲間入りするのはまだまだ先でいい。

 あ、サイ様の隣にマーガレット様もいた。静かだから気づかなかった。いつもはオルレア様の前に出ると大声になるからわかりやすいのに。
 どうも固まっている気がする。王子様風オルレア様の前だからか?
 格好良すぎて声も出ないか?
 さすがはオルレア様を見守る会会長、この美しさをわかってくれる人がここにもいてくれたようだ。


 ふふふ、と心の中で笑っている最中に、第二王子がオルレア様に近づいた。
 何か話しているようだが聞こえないなあ。
 何だろう?
 デートのお誘いだったら嫌だなあ。オルレア様が第二王子の婚約者として選ばれたりして。

 こそこそ。
 会話が聞こえる位置にゆっくりと近寄ったのに、第二王子は離れていってしまった。
 事務連絡でもしていったのか?あまりにも短い時間だった。

「オルを急にパッと出てきた男に奪われるのは嫌だ」

 ぐほぉっ。

 サイ様がオルレア様に言った。
 これはもう告白と言っても良いんじゃないか?

「、、、子猫ちゃんはもう王子殿下と踊らないの?」

 オルレア様、流したーーーっ???
 微妙な位置にいる私に会話を振りましたか。。。
 サイ様の子犬のような寂しい目を放っておかれるんですか。

「あ、私は最後に踊って一緒に退場する流れになってます。途中、一回ぐらい踊れるようなら踊ろうと言われていましたが、今の状態だと、、、」

 会場の中央に目を移したが、すぐに戻した。
 王子と踊るための行列ができている。ある意味、行儀がいいのだが。あの列を差し置いてダンスを誘いに来たら、反対に怖いよ。

「オ、ル、レ、ア、」

「マイア様っ」

 つい声を上げてしまったのは私だ。背後からのいきなりのマイア様の声に驚いた。

「これはこれはマイア様」

「視線送っているのに来てくれないから迎えに来ちゃったわよ。いつまで私は他の男の相手をしてなきゃいけないのーっ」

 マイア様も凄い発言。
 ダンスですね、ダンスの相手。

「それは申し訳ございません。それでは一曲お相手願えますか」

「もちろんよ」

 マイア様が笑顔で手を出した。
 オルレア様たちが踊りの輪の中に戻っていく。

「ああいう年上の姉さん女房みたいな人がオルにはお似合いなのかなあ」

 んあっ?

 サイ様が呟いた声が耳に入ってしまった。
 それを聞いて、私はどういう反応をすれば正解なのだ?
 確かにお似合いではあるのだが、マイア様には旦那も子供もいる。
 はい、と能天気に肯定するのも違う気がする。空気が読めない子みたいじゃないか。

 頼みの綱のマーガレット様は停止中だ。
 これだけ近い位置にいるんだから聞こえているだろっ。妹だろっ、兄を何とかしろっ。口に出しては言えないが。

「こ、この曲が終わると、余興が入るみたいですよ。ちょうどそれが中間ですから、後半にはダンスに誘ってみてはいかがですか」

 誰とまでは言わないが。

「踊る約束はもうしているよ」

「ぅえっ?羨ましいっ」

 おおっと、つい本音が漏れた。
 マジで?オルレア様と?私も踊りたい。

「正直だね、キミは。騙らない人間はオルに好まれるよ」

「えっ、ホントですかっ」

「、、、助けてもらえるといいね」

 冷たい目が私を見ていた。
 打算が絡むなら、それ以上はオルレア様に近づくなという私への警告のように思える。
 言葉通りの意味ではないことは、彼の表情からわかる。

 この男に何を知られている?どこまで知られている?
 オルレア様に何か伝えたのか?

 オルレア様に向けていた優しい目はどこにもなかった。

 オルレア様だけが特別。
 けれど、それは私もだ。

 本当は打算的だった。
 オルレア様を慕う会に入ったのは。
 集団の中にいれば、集団に溶け込める。
 まるで昔からそこにいたかのように。

 けれど、仲間たちアニエスやイザベル、他の皆のオルレア様の熱を聞かされている内に、本当にオルレア様のファンになってしまった。
 彼女たちの想いが本物なら、私の想いも偽物じゃない。

 私はオルレア様を巻き込みたいわけじゃない。
 王子様のように私を救ってほしいわけでもない。
 この学校生活のなかだけでも楽しみを与えてくれたオルレア様や仲間たちに感謝しているだけだ。

 オルレア様に何かを騙ったことはない。

「おこがましいですが、私はオルレア様の手助けを少しでもしたいと思っています」

 サイ様の周囲の空気が凍った。

「キミじゃ無理だよ」

 あまりにもあっさりと。
 完全なる否定をされた。
 少しもできないと。私では無理だと。


 オルレア様が踊っているというのに、視界に入っているというのに、その光景はあまりにも遠かった。
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