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2章 令嬢たちは嫉妬する

2-5 王城の迷子4

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「あの坊ちゃんの素性を知っていたのか?」

 シンに尋ねられた。
 中庭での即席訓練会は解散して、王城でオルレアに宛がわれた部屋でお茶を飲んでいる。
 キュジオ隊長は後ろで一応立っている。

「レオ・ホップか?セイラが一目見てわかった」

「さすがはバーレイ侯爵家の筆頭侍女。じゃあ、何で親元に連れて行かなかったんだよ」

「反対に聞くが、俺があの子を親元に連れて行ったらどうなると思う?」

「、、、シンキングターイムっ、ってヤバいなっ。親元で出て来るのは王族たちだった」

 バーレイ侯爵令嬢のオルレアが保護したのに、オルレアが王城にいるというのに、侍女のセイラやキュジオ隊長に任せてしまうと王族に対して非常識な対応となってしまう。

 反対に今の俺が連れて行くと王族の前に出るのに男装の制服のままというのも微妙な話だ。
 緊急だったので、とか、一早くお知らせしようとして、とか言っても繕い切れるものではない。
 普通の子供の迷子とは格が違うのだ。恐ろしいことに。

 その点、レオの名前だけでは誰だか思い当たりませんでしたー、という言い訳の方がまだ相手に納得されやすい。
 隣国に嫁いだ王妹の息子の顔を知っている者は、まだこの城ではごく僅かだ。
 一応、王城という家の中にはいるんだし、子供の相手をして遊んでましたーという方が妙な疑いを持たれない。。。

「けど、何でお前は中庭で剣の訓練をやっていたんだ」

「騒いでいたら見つけてくれるだろ。迷子を捜している奴らが」

「あー、何も考えていないわけじゃなかったんだね。良かったよー。あー、お茶がうまい」

 シンは俺のことを何だと思っているんだろう。
 迷子を親に差し出せないのなら、見つけてもらうしかあるまい。

「ただ、俺のこと五十七番隊の隊長にまで見破られたのは謎だ。俺、そんなに演技ヘタか。学校のご令嬢たちは何も言って来ないのに」

「いやあ、五十七番隊隊長にバレたのは演技がどうこうって話じゃない。木剣で真剣を相手にしていれば、さすがに剣の腕前がわかる者にはわかる」

 キュジオ隊長が後ろでうんうん頷いているのが雰囲気でわかるぞ。
 子供に真剣を持たせていたと言ったところで、もちろん長剣ではない。重い剣ではあの子の腕力では持ち上がらないので軽くて短めの剣である。

「けど、俺が剣を持っていたら切っちゃうしなあ」

「いや、木剣同士でいいじゃないか」

「相手の木剣が耐えられないからなあ」

「、、、そんなのオルだけだ」

 呆れたようにシンが言ったが、たいていそうなるから仕方ない。真剣同士でも相手の剣を折ってしまうこともある。

「でもさー、オル、コレも一時しのぎじゃないか?」

「一時しのぎ?」

「王妹からお礼に食事でもーとか、お茶でもーとか誘われるんじゃないか。そうなると、男装のままというわけにはいかないだろう」

「見つけたのは五十七番隊になるから、俺が見つけたわけじゃないだろ」

「いや、どう報告されるか考えても、バーレイ侯爵令嬢が保護してくれていた、ということになると思うよ。しかも、王城はレオ坊ちゃんの剣の師匠を探すことになりそうだ」

「それも仮だろ。王妹が出産で里帰りだとしても長くとも一年程度だろ」

「あれ?こっちで出産するために帰って来たのか?」

「違うのか?それならレオ坊ちゃんもしばらく国に帰れない理由としては充分だろ」

「理由としてはあり得る話だが、そうではない気がするぞ」

 キュジオ隊長が話に割り込んで来た。
 本当の護衛はツッコミって入れないんだけどね。

「今、隣国のデント王国は少々きな臭い。第一王女が実権を握り、国王夫婦を幽閉しているのではないかとも噂されている」

 それが本当なら子供とともに王妹は避難してきたということだ。旦那を国に置いて。デント王国の王弟でもある旦那の公爵は国に対する責任もあるから一緒には来れないようだ。

「実の親子じゃないのか?」

「実の親子だからといってわかり合えるわけでもないだろ。実際のところ、デント王国が落ち着くまではこの国にいるんじゃないか」

 ノックの音が響き、セイラが対応している。
 扉を閉めて前室から戻って来た。

「オルレア様、国王陛下より本日の夕食のお誘いです。レオ様を保護していただいたお礼にと」

 セイラと目が合う。
 一瞬の沈黙の後。

「セイラ、ゴホゴホ、オルレアは中庭で動きすぎたせいで汗をかき、カラダを冷やしてしまいました。ゴホゴホ、風邪気味なので他の方々にうつすとご迷惑になりますのでお断りを。ゴホゴホ」

「下手な演技だなー」

「右に同じ」

 (・д・)チッ
 正直者めっ。
 俺、風邪を引いたことがないから、わかんないっ。体調管理は昔からしっかりしていたからっ。

「体調不良としてお断りしておきます。無難ですが、何度も使える手ではありません。それと、ご友人同士だということは存じておりますが、皆様の距離が近すぎます。この王城内はどこに隠し通路があるかわかったものではございません。オルレア様に対して適切な距離をお願い致します」

「あ、はい」×2

 同じソファに座っていたシンが向かいのソファに移り、俺が座っているソファの背もたれに腕を置いて寄りかかっていたキュジオ隊長は斜め後ろに戻った。
 この部屋にはセイラ以外の他の侍女たちもウヨっているから、男女間でも何の問題もないと思うが。
 ここにいるのは事情を知っているバーレイ侯爵家の侍女たちだ。

「じゃあ、俺はお見舞いに来た体で、見ず知らずの迷子を押しつけて悪かったな、と謝罪しながら」

「俺は護衛だから。普通に夕方にかけて体調が悪化していったようです、との報告を」

 ここが口裏を合わせる場になっている。

「見舞いが来たら、侍女に見舞いの品だけ受け取らせて帰らせればいい」

「来ないだろ、見舞いなんて。たかが風邪に」

「一応、ここは王城内で、今は暇な貴族令嬢たちがウロウロしている。オルレア様の一大事ーって言って飛んでくるぞ」

「オルレアは友人たちに大切にされているんだな」

「アレらは友人と言うよりはファンだろ」

「、、、基本的なことを聞くけど、オルレアにこの貴族学校で友人と呼べる人物はいたのか?」

 なぜか沈黙が帰って来たんだが。
 セイラ、お前もなぜこの部屋から出て行こうとしているんだ。




 シンの予言通り、俺は夜に早く寝ただけなのに、山ほどの見舞い品が来ていた。
 セイラが侯爵家として恥じない対応をしておいてくれるらしいので任せた。
 贈り主はすべてこの王城に缶詰めされている貴族令嬢たちだ。
 王城内で出会ったら、お礼を口頭でも伝えなければならないので、セイラが作った一覧を一応見ておく。

「あ、ソニア・ガロンもこの王城に来ていたんだ」

「ソニア・ガロンって誰だっけ?」

 なぜかオルレアに宛がわれた部屋にいるサイ・モルト。
 優雅にソファに座っている。
 サイは王城にいる妹マーガレットに会いに来たんじゃないのか?あのツンデレ妹に。

「オルレア様を慕う会の会計、ガロン伯爵の一人娘」

「ふーん」

 まったく興味がない返事だ。
 オルレア様を慕う会の会長アニエス・グロスがこの王城に来てなければ問題ないが。
 あの子はどうも苦手だ。できれば、避けたい人物だ。

「こほんっ」

 セイラが後ろで咳払いをした。

「こほんっ、こほんっ」

 非情にわざとらしい咳だが。

「セイラ、風邪なら薬でも飲んで休んだら?」

「、、、風邪ではございません。私の目には貴方がたが抱き合っているようにしか見えないのですが」

「オルの魔力は居心地が良いから」

 サイがゆるーんとセイラに答える。寛ぎ切っている。
 サイもシンと同じく長い付き合いだからなあ。色々な素を見せられる仲だと思ってもらえているのは単純に嬉しい。
 ソファで座って贈答品一覧を見ている俺に、もたれかかって腕を回しているサイ。まあ、抱きついているように見えなくもないか。

 で、斜め後ろにはきちんとキュジオ隊長もいる。今回は沈黙を貫いているが。

「シン様にもお伝えしましたが、オルレア様として適度な距離を保っていただき」

「事情を知らない者たちには認識阻害の魔法がかかるようになっているから大丈夫だよ」

「、、、そ、そうですか」

 サイが普通に答えて、セイラが普通に負けた。
 キュジオ隊長の顔を背けているが、肩が細かく揺れているなあ。

「オルレア様、お手紙が届いております」

 侍女がトレイにのせて持って来た。
 差出人は、、、国王陛下じゃねえか。

 道理で手を触れずにトレイにのせてきたわけだ。

 読みたくないけど、読まないわけにはいかない。
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