解放の砦

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12章 蛇足なのか、後始末なのか

12-13 それぞれの行き先 ◆クトフ視点◆

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◆クトフ視点◆

 魔の大平原に神域と呼ばれる空間が広がる前に様々なことはあった。


 アミールが十五歳になる年に教会でC級魔導士と判定を受けたけど、リアムが王都の魔法学園に通うのは猛反発した。
 どう考えてもアミールが魔法学園に通うことはまったく意味がないことは俺にもわかる。が、街の住民はリアムが通ったのに、アミールを通わせないのは、、、といった意見が多かったようだ。
 あくまでも彼らは内情を知らないから言える無責任な意見だ。

 リアムはユニークスキル持ちで魔法学園に行ったので、入学金や学費等は免除。しかも、リアムは自費で行った。メルクイーン男爵家から他の費用も一切出ていない。

 男爵の子弟でC級魔導士というのは魔法学園では最底辺であり、辛い立場になる上に金だけはかかる。

 リアムは魔法学園でかかる最低限の費用の試算をアミールに渡した。
 自分ですべての金を出せるのなら行って来い、と。
 その現実を見ても、どうしても行きたいのなら家庭教師ルイ・ミミスにでも泣きつけと。

 一応、アミールは家庭教師ルイ・ミミスに相談した。
 アミールはまだ彼の正体を知らない。
 ルイ・ミミスはアミールに援助することができる。
 けれど、それはその借りをアミール・メルクイーンではなくリアム・メルクイーンが作ることを意味する。
 それ以上の成果を魔法学園でアミールが得ることができるのか、リアムに返すことができるのか、とアミールに問うた。

 街の皆さんにはリアムの魔法学園にかかる費用の試算を見せたら、仕方ないと納得してくれた。
 軽く見積もって彼らの年収十年分以上の費用を見て愕然とした。それでも最低限で、本当に切り詰めた生活をして、せっかく王都に行っても遊びもせずにお土産も買えない生活だ。
 リアムは冒険者だからダンジョンがある場所ならどこでも稼げるが、アミールには王都でお金を稼げる人脈がない。
 つまり、すべて借金に頼ることになる。
 しかも、借金はアミールではなく、リアムに行く。
 アミールには信用がないからだ。

 リアムはアミールがルーカス・ミルス公爵を動かしてもなお魔法学園に行きたいと望むなら、と最後には考えたようだったが、公爵は魔法学園の実態を知っているし、リアムやゾーイの魔法の実力も知っている。
 C級魔導士以上の貴族の子弟は魔法学園に通うことは義務だが、リアム・メルクイーン男爵が一筆書けば国王から特例が認められるのは公爵もわかっている。
 別にわざわざアミールが魔法学園に通う意味もない。
 メルクイーン男爵は特に他の貴族との繋がりを必要としていないのだから。
 というか、他の繋がりはリアムがしっかり作ってきてしまっているのだから、もう必要ない。
 それに魔法学園に通って、C級魔導士がどれだけ頑張ろうと、魔法の才能が爆発的に開花するということは原則ない。

 リアムのF級魔導士というのは教会の寄付金欲しさの虚言とまで世間に言われているが、リアムが教会で判定の儀式を受け直さないので本当の級はわかっていない。
 あのときリアムを判定した神官は転職したということだけが判明しているが、それから先は謎である。

 アミールは家庭教師に諭され、王都行きを諦めた。
 アミールはメルクイーン男爵領で領地運営に一生を捧げ、独身で終えることとなる。


 ちなみに、長兄ジャイールだが、アミールの家庭教師ルイ・ミミスと仲良くなった。
 家庭教師の正体を知ったときには、ジャイールは絡め取られた後だったようだ。リアムは適当に放置したのだが、正体を知っているためにジャイールの突撃にあったようだ。
 街の外れの王族の屋敷で、よく二人は目撃されたそうな。。。まあ、末永く仲良くしてください。。。

 父親のビル・メルクイーンは年々カラダが弱くなっていったが、書類を砦とやり取りするジャイールはたまにお菓子を持ち帰り、父親に食べさせたそうだ。そのおかげで考えていたよりは長生きした。
 言わずと知れたリアムの作ったお菓子である。父親のためだけに作ったものではないけどね、もぐもぐもぐ。あっ、クロ様、食べすぎですよっ。




 隣領のバージ・テンガラット子爵であるが、アンナ・スコーノンと結婚した。
 冬になると、砦にやって来るテンガラット子爵夫妻は仲睦まじげであった。
 子爵夫人は人形作りを砦で教えた。
 意外と冒険者に人気があったのは不思議だが。毎年好評な冬の恒例行事となった。
 テンガラット子爵はリアムにこき使われていたようにしか見えなかったけど。

 そのときに、俺のマスコットとバージマスコットが出会い、無言のお茶会をよくしていた。マスコット同士、意思疎通はできていたのかもしれない。
 子爵夫人がいれば、オブジェとして何とかなる気はするのだが。




 ナーヴァルが砦長を引退するときに、リージェンも副砦長を引退した。
 こちらは予想通り、クリス様の屋敷で暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

 俺はそれ以上のことを知らんし、どうでもいい。リアムも同じ。

 ナーヴァルとリージェンの元仲間の三人は冒険者引退とともにあの国に帰っていった。
 ゆっくり余生を暮らすんだそうな。A級冒険者で長年やって来たのだからお金は相当貯まっていることだろう。楽しいセカンドライフを。
 寂しくなったら、テッチャンさんの商会に行けば、砦とは連絡取れるんだしねえ。




 レオナルド王子は国王が病気になったため、その息子が成人するまで数年間、国王となった。
 ラーラ王妃は子宝に恵まれ、息子の一人はハーラット侯爵の養子となった。
 子供は全員ハーラット侯爵家の血筋の者だ。
 怖いから何も言わない方が良いな。

 そのおかげかどうかは知らないが、クジョー王国はわりと平和だった。
 魔物が大量発生するまでは。




 リィンも男爵位を息子に譲った後、メルクイーン男爵も多くの子孫につながれていった。
 そんな中で、大陸の状況は刻一刻と変わっていった。

 この大陸一番の大国であったグレーデン大国も魔物の被害が発生し始めると、かなりの速度で国力が低下した。
 冒険者ギルド総本部で移民の募集があった。
 ごく僅かな国民がそれに応じて、魔の大平原に向かった。


 一応、宗教国は神獣がいなくとも国はそのまま残った。
 魔の海原自体、神獣が持っていってしまったため、そこには普通の海が存在した。
 そんな荒業できるんだな、、、と思ったが、海だからこそできるとカイは謎の説明だけしてくれた。

 魔の海原さえ存在しなければ、宗教国は普通の生活ができる、、、というわけではなかった。

 しばらくは何もなかった。
 が、ダンジョンには関係なく地上に魔物が溢れ出した。
 そうなると、神獣に頼りきりで、冒険者も育成してなかったこの国はどこよりも早く滅びの足音を聞くことになった。
 どんなに神獣に祈っても、その神獣は魔の大平原に居候しているのだから。
 彼らは神獣の手を取らないことを選択してしまったのだから。


 んで、ナーヴァルやリージェンの祖国であるあの国にはリアムが率先して砦に来ないかーと大アピールした。。。
 特にラーメン屋大募集。
 砦ではなく魔の大平原にお店を持ちたい者には屋台まで無料貸し出しのオマケつき。
 ラーメン屋はどんなラーメン屋でも滅んでいいラーメン屋はないっ、という迷言つきで。

 この国からの魔の大平原への移民は多い。
 クジョー王国の民よりも多いのはリアムの熱の入れ方の違いだろうか。。。


 クジョー王国はメルクイーン男爵領とテンガラット子爵領はほぼ全員、マックレー侯爵領、ハーラット侯爵領と王領はやや多めに計画的に移動してきたが、他の領地は逃げるところがなく仕方なく行きついたと思われる者だけが流れ着いた。


 他の国々の避難民はさほどいない。
 西の果てにある魔の大平原にはS級魔物が大量にいる、というのは過去のリアムの発言である。
 わざわざそんなところに避難する馬鹿はいない、というのが神域を知らない者の行動であった。


 それもそうかと思うが、魔物が密集する中を、今でもごくごく稀に生存者が砦に来る。

「ここが人類の最後の砦と聞いて」

 どこでそんな話聞いて来た。。。
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