解放の砦

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12章 蛇足なのか、後始末なのか

12-1 ただいま ◆クトフ視点◆

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◆クトフ視点◆

 やれやれ。
 後は蛇足だとして、あそこで話を終わらせちゃったよ、リアムは。
 王子が丸くなってめでたしめでたしといったところなんだろうけど、リアムにとっては。。。
 俺の冒険はまだまだ続く、って感じで終わる話にしてうやむやで逃げるな。
 リアムは母親以外の家族や他のことはどうでもいいやー、と思っているかもしれないけど。
 話は終わってないぞ。

 というわけで、後始末として、他の人間が話を続けるしかなくなった。。。




「リアム、お帰りー」

 イヤーカフの通信の魔道具で聞いていた通りの日時に、リアムは砦に帰って来た。
 ちょうど昼過ぎだったので、出入口まで迎えに出た。
 魔法学園の卒業式は十月初旬に終わったはずなのに、砦に戻って来たのは十二月の頭。
 クジョー王国内の観光やらゾーイのご実家やらに行ったのだろう。
 他のヤツらは魔法学園は十月いっぱいまであり、一か月馬車に揺られて帰ってきたと思っているはずだから問題ないけど、俺もあえて何も言わないけど。一年間旅行していたことも。

 戻ってきた時期はこれから忙しくなるシーズンだからちょうど良いのか。

「ただいまー、クトフーっ」

 馬車から降りたリアムは俺に抱きついた。。。

 二年前に比べて成長したなあ。
 身長も伸びて、俺よりは低いけど、それに筋肉もしっかりついているんじゃないか。昔もそれなりについてたけど、家でちゃんと食べているのかなという不安があった。
 うんうん、逞しくなって帰って来たなあ。

 んで。
 前後の目が怖いんだけど。後ろの目は想像だが、振り返りたくもない。

 前はゾーイ・マックレー。
 魔導士らしいというより、冒険者の格好だ。
 本当にリアムはイケメンが好きだな。。。
 知っていたが、再確認した。
 顔だけじゃないんだろうけど、顔が良ければすべてを許しがちなリアム。

 従者と御者の二人もこちらにお辞儀している。
 こちらこそ今後よろしくお願いします。ぺこぺこ。

 後ろは、、、特に視線が鋭いのは、ナーヴァル砦長と、アミールだ。
 俺からは見えないんだけどね。
 もちろん、リアムが抱きついたのが俺、ということだけではない。
 リアムが男を連れ帰ったからである。その男に対しても、視線が厳しいわけだ。

「おっかえりー、リアム、王都のお土産はー?」

「第一声がそれか」

 リージェンが手を差し出して待っている。
 二年で全然成長してない者がいる、とリアムは思っているのだろう。

 リアムがベチンとその手を叩く。
 場は和んだが。。。
 その後ろにはリアムを一目見たいという新しく砦に来た者たちも多くいる。
 通常の冒険者たちは基本的に魔の大平原で魔物討伐中だ。
 俺、リアムが帰って来る日時、砦長室にしか報告していないはずだったんだけどなあ。何でこんなに出迎えの人数が揃っているんだろう。

「後で砦長室で出してやるから待ってろ。っていうか、それを言うために起きて俺を待っていたわけじゃないだろ」

「えー、リアムの顔を見るためだよー。つれないなー」

 リージェンにケッとした嫌そうな顔を向けられるのはリアムだけじゃないか?
 これでも一応副砦長で、A級冒険者だ。
 顔は良いのだが、それを上回る性格。
 本来なら、リージェンは夜勤だ。今、起きているわけがない。もう一人の夜勤組である補佐はこの場にいないぞ。

「真相は?」

「誰よりも早くリアムを捕まえて、夜のための光の矢のスクロールを作ってもらおうと。腹黒侯爵はお高いんだもん」

 それが正規の値段らしいが。
 リアムがいることによって、感覚が麻痺しているだろ。そもそも、魔法のスクロールというのはどんなささやかな魔法でもそれなりに高い。教会の結婚の誓約魔法のスクロールでさえ寄付と称してかなりお高いのだから。

「ああ、それぐらいなら俺が作るよ。材料はあるのか」

「うん、あるよー。キミがリアムが連れ帰って来た男ー?」

「ゾーイ・マックレーだ。B級冒険者でA級魔導士だ。よろしく頼む」

 侯爵家ということをこういう場で言わないところがリアムの好感度を増すんだろうな。
 リアムもB級冒険者に昇級している。

「俺がシロ様と誓約したら、ゾーイとも誓約するんだ。俺の旦那になるんだよー」

 ナーヴァル砦長とアミールが崩れ落ちた。
 うん。
 リージェンがこの場にいたのは、絶対に光の矢のスクロールのためではない。
 ナーヴァルにトドメを刺すためだ。

 リアムのゾーイに向ける笑顔でも見せて、失恋を確定させてやるためだ。

 リアムは柔らかい笑みを浮かべるようになった。
 昔のように母親に向ける笑顔ではないけど、、、艶も出てきた気がするな。

「クトフも考えてくれた?」

 うっ。
 その艶のある笑顔を向けられた。
 そりゃ、落ちる。落ちないわけがない。
 今まで考え悩んでいたのが嘘のように、リアムを見て結論がついた。

「ああ、誓約を受ける」

「ありがとう、クトフ」

「そうなる気がした。ライバルとしては一人でも少ない方が良かったが、リアムを支える者として今後ともよろしく頼む」

 ゾーイがほんの少し嫌そうな顔をしながらも、俺に手を差し出した。
 リアムを支える者として、握手。
 羨ましそうな顔をするな、リアム。。。誰に対しての表情なんだ?え?交りたい?

「わっ、私も兄上を支えたいですっ」

 慌ててアミールがアピールしてきた。
 が。

「ただいま、アミール。今日からは俺が砦の管理者に戻るから、これからは家で勉強できるぞ。家庭教師ルイ・ミミスもこっちの腹黒侯爵邸で平常運転になるようだし」

 リアムはポンとアミールの頭に手を置いた。
 安定の弟扱い。
 嬉しいけど悲しい、複雑なアミールの胸の内。

 で、あのアミールの家庭教師は、王弟で、ルーカス・ミルス公爵だったんでしょ?
 上の人間って暇なのか???

 後で聞いたところによると、街の外れの保養地には王族の屋敷があるのに、この人がハーラット侯爵邸にいるのは、腹黒侯爵が最愛の妹のために質のいい使用人を揃えているからだった。。。その妹ちゃんは王都に居続けるのだが、今はクリス様がそのままこちらの屋敷に居着いているので使用人はそのままの体制である。

 ちなみにその王子妃である妹ちゃんは可愛い男児を産んだ。
 この国も安泰である。

「ところで、何でこんなに冒険者がここにいるんだ?」

「そりゃ、お前を出迎えるためだろ」

「今日は魔の大平原って平和なのか?」

「通常運転だぞ」

「、、、」

 リアムが言いたいこともわかる。
 砦の冒険者も人数が増えてどうにかなるようになってきた証だと思え。
 さすがに魔物がヤバかったら、砦長も補佐も黙っていない。

「よお、リアム、久しぶりだな」

「ゼンさん、王都から本当に来たのか。社交辞令だと思った」

「わー、ひでー、俺はいつでも本気だぜー。一か月前あたりからお邪魔しているぞー」

「つかぬことを聞きますが、ゼンさんのお仲間は連れてこなかったでしょうね」

 リアムは真面目な顔でゼンさんに確認している。
 なんとなく話は聞いているが、それほどなのか。

「冒険者ギルドには絶対に移動先は言うな、匂わせるな、ということは言ってある」

「だといいですけど。厄介ごとは持ち込んでほしくない」

 そこまで酷いお仲間なんですか。冒険者としての腕は良いとは聞いていましたけどね。それ以外が問題なんですね。。。
 後日、そのお仲間が乱入して来て、砦が騒然となった話は割愛する。
 え?割愛なの?という顔をゼンさんがしていても、割愛。
 死人は出なかった。それでよし。
 彼らはリアムの説得に応じて、王都に帰っていった。
 誘導なのか、洗脳なのか、裏では議論が交わされたが。。。

 名前が出ない登場人物は適当なのだ、リアムにとっては。テッチャンさんの奥さん以外は。


 砦の出入口にシロ様とクロ様がいた。
 リアムがこよなく愛するちっこい姿である。

「シロ様、ただいま」

「おかえり、リアム」

 今日はツンツンしてないですね、シロ様。
 久々過ぎて態度を忘れちゃったのかな?

「えー僕にはー、リアムー」

「クロ、数分前まで一緒にいたのをもう忘れたのか?お昼ごはーんってねだって食べたことも忘れてしまったのかなー?」

 もうお昼過ぎだからね。。。

「本当ならもう少し早く帰ってクトフくんの手料理を食べたかったのに」

「夕食を楽しみにしててよ」

 俺の言葉に、リアムは笑顔を浮かべた。


 リアムはごくごく普通に俺たちにただいまと言った。
 砦に戻って来た。ゾーイの従者も荷物を運び始めている。その場にいる冒険者も手伝っている。

 弟のアミールの心境は複雑だろう。
 あの家にはもう帰らないのかと尋ねたり、帰って来てほしいという言葉を言うことができなかった。
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