解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
250 / 291
11章 善意という名を借りた何か

11-4 一番強いのは誰? ◆ゴウ視点◆

しおりを挟む
◆ゴウ視点◆

「胃が痛いっ」

 ズィーからそんな言葉を聞くようになるとは。
 常にどんな苦情処理も顔色も一切変えずに淡々とこなす細目の苦情処理のエキスパート。
 そんなズィーの表情が歪んでいる。。。

 胃薬をそっと勧める。
 俺が持ち歩いていたわけじゃなく、従者くんからの差し入れだ。

「懲罰委員会か、、、終わったな、アイツらも」

 胃薬をそんなに飲んでも、カラダに悪いだけだよー。
 用量は守りなよー。

 冒険者ギルド総本部の懲罰委員会。
 一般職員で知る者は少ないが、決して形骸化しているわけではなく、この懲罰委員会に名前が上がったら最後、円満な自己退職で話がつく。

 つまり、証拠がなければこの懲罰委員会に書類を提出することさえ許されないほど、けっこうハードルの高いものである。ただし、ハードルが高いがゆえに、完全に黒と断定される証拠が出たら、もはやその職員は閑職でさえ冒険者ギルドにいることはできない。
 そもそも、通常の仕事の範囲内ならば上司が部下をやんわりと諭すなり、軌道修正したりして懲罰委員会まで利用されることはない。上司がグルだったり、責任を回避するために立場が弱い者に押しつけたり度を越した場合に出てきてしまうことが多い。
 組織内の膿を出すための必要な委員会である。今回のような案件にぴったりだな。

 ただし、今回はリアムが動いたから公になったが、このようなことは冒険者ギルド内で山ほどあるに違いない。

 なぜ職員ですら知らない者が多い懲罰委員会をリアムが知っていたのか。
 リアムだからな、で、この頃済ませようとしている自分が怖い。

 リアムはヤバいほど速攻で懲罰委員会に書類提出していた。
 もはや止める間もないほど。
 証拠を押さえた時点で、リアムの手には別の紙が用意されていたのを気づいたのはバージとゾーイと従者くんのみだ。
 その証拠書類を確保したその足で、懲罰委員会の書類を提出に行かれてしまった。
 俺もインもアウも後ろについていっただけだったよ。

「コレでリアムを敵に回したら最後だってことがよくわかったことだろう。総本部の連中も」

「一日で総本部中に噂も広まってしまったよー」

「砦の管理者リアム・メルクイーンが総本部に書類改善に来ているって話も盛大に広まっていたはずなのに」

「白銀の辺境伯とお近づきになりたい者たちも多いからねー」

 ただただ東の国の魔物をどうにかしてほしいという欲望で。
 漆黒の辺境伯の英雄譚と重ねて。 

 冒険者ギルドでもあの土地の惨状に心を痛めている者は少なくない。
 多くの冒険者を派遣しようとしても、多くの冒険者に断られる。
 誰だって、命の危険しかない、というか生きて帰って来れない場所に行こうとは思わない。
 冒険者は慈善活動で冒険者をしているわけじゃないのだ。


 彼らにはリアムの容姿が知られていなかった。
 白銀の衣装をいつも着ていると思われていたようなのが笑える。
 救いを求めているクセに、相手の顔すら調べようとしない。

 だから、冒険者の服装であるリアムは、砦の管理者は冒険者であるという情報があるにもかかわらず、しかも双剣を腰にぶら下げているにもかかわらず、白銀の辺境伯リアム・メルクイーン本人だとは思われていなかった。
 総本部の建物内ですれ違ったことのある職員は多い。なのに、気づかれていなかった。

 今回、リアムが大勢の前で自分自身の名前を出してしまったことで、顔バレした。
 が、あの立ち回りで、リアムの仕事の邪魔をしたら合法的に消される、という話も広まった。
 十五歳とは思えないあの迫力も、あの態度も、あの口も、敵うと思える人がいるのなら戦ってみて欲しいくらいだ。彼が正義感だけであの場にいたわけではないことを、あそこにいた者は全員が気づいた。

 そして、懲罰委員会を知らなかった職員も、その名称からなんとなーくどんな存在か感づいたようだ。

「カラダを張ってとめろよ、SS級に一番近いS級冒険者なんだから」

「、、、え、冗談きついぞ、ズィー。リアムの肩に触っただけでも、ゾーイの目が恐ろしいものに変わるのに」

 リアムとゾーイは将来を約束した仲とは聞いていた。
 魔法学園卒業後、リアムがゾーイを砦にお持ち帰りする仲だと。
 それでも、バージも従者くんもいるのでお互い距離は置いているのだが、職場や人の目があるところ以外ではイチャついているらしい。。。

「ゾーイだけなら何とかなるだろ」

「反対にゾーイを押さえたら、リアムが黙ってないぞ。リアムの執着はゾーイ以上だぞ。あの二人はそういう点でもお似合いなんだぞ。あの二人を一人で対応できるか。俺、せっかく冒険者に戻れるのに、こんな建物内で死にたくない」

「、、、あの二人を相手にすると死ぬのか、S級冒険者でも」

「死ぬよ、死ぬ。社会的にも、心も、カラダも、滅する」

「砦の守護獣が出て来ない時点でそれじゃ、どうしようもないじゃないか」

「そう、俺じゃどうしようもない。リアムをとめる術はない。カラダを張ってとめられない以上、口で勝てるわけもない。職員がこれ以上何か波風を立たせないことを祈るだけだ」

 懐柔策ってリアムに効果あるのか?
 ラーメン屋が親戚にいればなあと思う今日この頃だが。。。
 そういや、ズィーもあの国で動いていると聞く。
 ズィーはあの国でけっこう恨まれているからなあ。いや、あの国以外でもかなり恨まれているが。関係修繕からやらないといけないからなあ。
 ズィーなら時間をかければどうにかしてしまうだろう。

「まあ、不幸中の幸いと言えば、騒いだのが大陸の東の担当の部屋だったことだな。アレで何の見返りもなくアホみたいに魔物から東の国を救ってー、って言う馬鹿が冒険者ギルド職員から生まれない」

「教会あたりは言いそうだけどね。救世主として人類をお救いください、とか」

「それ、リアムの前で言ったら、まずはお前と家族で魔物の前に行って来いとか言いそうなんだが」

「それぐらいで済めば良いよねー」

 俺がそう言うと、ズィーは乾いた笑いを浮かべた。

「当たり前のように誰かが救ってくれると思っている者たちが、リアムの前に湧いて出て来ないことを願うが」

「多数が集まる式典では難しいんじゃないかー。先見の巫女の件ではこの国の上層部の誰もが感謝している。が、先見の巫女のことをどうにかできたのならば、東の国もどうにかできないかと言いそうだ」

「全然違うものだが。リアムの場合、無茶振りされても応酬できるが、相手もそれ以上の手痛い報復を返されるとは思うまい」

「神に祈るように縋るんだろうね。助けてください、白銀の辺境伯、って言って」

 祈りたくなる気持ちもわかるが、彼は人だ。

「その白銀の辺境伯というのも、リアムにとっては地雷だからな」

「意外とリアムには地雷が多い気がするなー」

 母親以外の家族の話も地雷。
 そして、クジョー王国の王子のことも気軽に話せる話題ではない。

「仮定の話をするのはあまりしたくはないが、母親さえ生きていれば、リアム・メルクイーンは今と全然違った人物だったかもしれないぞ」

 もし母親が生きていれば。

 失ったものは取り戻せない。
 そんなことは悲しいほど、痛いほどわかっている。

「ところでゴウ、確認なんだが、お前、本当にあの衣装で式典に出るつもりなのか?」

「採寸も終わったし、式典に間に合うって言っていたぞ。やめておいた方が良いのか?」

 ズィーは生温かい細い目で俺を見ていた。

「いや、言った通りただの確認だ。お前が気に入ったのならとめる気はない」

「白と銀の衣装だから、そこまで派手ではないだろう。カッコイイのにリアムがやめた理由がわからないほどなんだが?」

「うん、まあ、そういうことにしておこうか」

 いつもと違い、歯切れの悪い受け答えをズィーにされたような気がする。
 あ、俺にあの衣装は似合わないと言いたかったのだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...