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10章 秋休みは稼ぎ時
10-8 伝説のSS級に縋る ◆ズィー視点◆
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◆ズィー視点◆
冒険者ギルドグレーデン王国本部で、クマリンや本部長と職員たちとの挨拶を終えると、彼らを野に放った。
喜んで市場に走っていくリアム。
それを追いかけるバージ、ゾーイの二人、従者は別行動のようだ。
ゴウも監視役としてリアムたちについていかせた。体力的には可能だろう。
リアムも一応貴族なんだけどね。
それを感じさせない庶民的な金銭感覚。
市場での買い物の方が興味があると言わんばかりの反応。
そのまま応接室でクマリンと本部長と話す。
「彼があの白銀の辺境伯だとは。S級魔物を単独で討伐できるのなら噂もさもありなん」
本部長が茶をすすりながら言った。
彼はA級魔物の認識だったようだが。
魔物の級は一概に強さだけで決められているわけではないが、それでもS級の魔物である。
「それを知ったあの冒険者、土下座状態だったじゃないか」
「この国でも有名だからなあ、漆黒の辺境伯って。英雄譚が物語になって全世界に広まっているから」
「あの物語は知らない人がいないほどですが、クジョー王国のクバード・スート辺境伯という実在の人物だというのは一般人にはそこまで知られていないようですね。冒険者は憧れているからほどほどに知っているようですが。西にある魔の大平原が彼によって抑えられていなければ、東の国のようになっていたに違いないですからね」
魔の大平原の平定。
それは人類にとって偉業だ。
それは、その数十年後、東にある国々が魔物によって滅亡していったことによって、さらに偉大な功績となった。
漆黒の辺境伯がいなければ、西にある国々は東の国より先に全滅していたに違いない。
そして、この大陸は西からも東からも魔物によって怯える生活を人は送らざる得なかったはずだ。
魔物から世界を救った英雄として漆黒の辺境伯は描かれている。
そして、辺境伯の再来と世間で騒がれ始めた、リアム・メルクイーン。
S級以上の魔物が砦の近くに来るときしか姿を現さなかった砦の守護獣が今、リアムのそばにいる。
辺境伯の誓約獣の砦の守護獣。
すでに彼はそのクロ様と誓約を交わしている。
そして、彼は辺境伯の黒と白の双剣を扱う。
C級冒険者なのに、S級魔物を討伐する実力。
今回、彼が持っていた魔物で完全にそれが証明された。
討伐ポイントがきちんと訂正されていたならば、彼はSS級にも手が届く冒険者。
辺境伯の再来として噂され始めた彼に、勝手に憧れる冒険者はこの国でも多い。
この大陸ではすでに東から十分の一は人が住める場所ではなくなった。
すでに滅亡して名すら呼ばれない国々は総称して東の国と呼ばれている。
魔物の侵攻によって、人は東から大陸の中央へと移っていく。そうすると、東の国はさらに住めない土地に変わっていく。
魔の○○と呼ばれるダンジョンを管理しきれないとこうなるという悪い実例になってしまった。
もはや、漆黒の辺境伯が生きていたとしてもどうしようもない状況だろう。
それでも、世界は期待してしまう。
彼に。
彼はクジョー王国の年初の式典で初めて公式に姿を現した。
あの姿では本人がどれだけ否定しても白銀の辺境伯と噂されるのは時間の問題だったと思う。
国外の来賓はあの式典の会場にはいなくとも、年初のパーティの王城には山ほど招待されていたのだから。
「白銀の辺境伯って呼ばれるの、そんなに嫌ですかね?」
私は呟く。
「クジョー王国では辺境伯はただ一人だからなあ。彼は正確には男爵だし、彼もクジョー王国の人間としての考え方をするということだろ」
「俺も憧れているとは言っても、さすがに線引きはしているつもりだ。彼は物語の辺境伯ではないし、西が平定できているのだから、東も平定してくれと言うのは虫が良すぎるし、無理な話だ」
クマリンが寂しそうに言った。
理想と現実がそこにある。
漆黒の辺境伯と対比するということは、つまりはそういう期待からだ。
白銀の辺境伯と呼んでしまうのは、漆黒の辺境伯のように行動してほしいことの表れ。
今度は東を、と。
彼は西を平定する一族なのだから、そこから動けるはずがないのは知っているのに。
昨日はリアムを驚かせようプロジェクトを私は一人で計画していた。
、、、予想に反して、空間転移の魔法陣を見たときの方が驚いていた気がする。
クジョー王国では見ないものをこのグレーデン大国の首都で用意したつもりだった。
ちょっと、あの子の目の輝くところが見てみたいという好奇心でもあった。
街の建物を見ても奇抜としか映らない。崩壊しないかどうかの心配をする始末。
エレベーターもカードキーもごくごく普通に扱える。
回転レストランもどこかで行った感が漂っている。
、、、本当に初見なのか、疑いたくなる行動ばかりだった。
反対にレストランで料理し始めたときは、こちらが驚かされた。
砦の守護獣クロ様用のオムライス。魔物卵で作っていた。すでにご飯の方は調理されていたのでオムレツを作った程度だが。
ダンジョンでも使える簡易調理器具が収納鞄に入っているからといって、普通はレストランでは作らない。
持ち込みを了承してもらっていたが、、、料理までするとはレストラン側も思っていなかった。
クロ様が食べる様子が非常に美味しそうだったので、レストランの食事が見劣りしてしまった。
材料が魔の大平原の魔物肉や魔物卵、メルクイーン男爵領で収穫された食材で、ここでは高級品なのだから当たり前だが。
彼を驚かすために、最高の料理を出してもらったはずなのに。彼の料理の方を食べたいと思ってしまった。
夜景が綺麗なレストランは下の階も全フロアがレストランだ。
この建物内で各国の食べたい料理はすべて揃うと言われているほど有名なところでもある。
そして、最上階のレストランは、階下の指定した料理を運んでもらえる。
その席を予約するのが難しいと言われるほど、人気の場所だ。
リアムには大衆的なラーメン屋の方が喜んだのだろうか?
この大陸では一番の大国であるこのグレーデン大国は、何でも揃うと言われる国でもある。
お金を出しさえすれば、であるが。
それでも、手に入りにくいものがある。
それがクジョー王国の極西の砦の品物だ。
彼の誓約魔法でなかなか転売を許してもらえないのがネックらしい。
正規の卸値で購入した商会だけが自分の店で数を売ることができるのだが、極西の砦の品物を正規に販売できるのは今のところテッチャンという者の商会のみだ。
この国でも極西の砦の商品を手に入れたい者は多い。
だからこそ。
私たちはずるいことを考えている。
この大国が他国の人間から働きかけられることはあっても、他国の人間に便宜を図ることはないに等しい。
それなのに、彼にはこの国での商売の権利を与える動きがある。
彼にこの国を知ってもらい、この国を見捨てられないくらい深い付き合いをしてもらいたいと願っている。
最近、東の国で魔物の侵攻が進んでいる。
大陸の十分の一が住めなくなった。
大陸の五分の一には東の国から溢れた魔物がやってきてしまう。
農作物はせっかく育てても収穫できなくなれば、住民は無事に見える土地に移動してしまう。
東の国の惨状を見続けていて、国や土地に執着する者も少なくなってきてしまったのだ。
財産がある内に、西の土地へ移ろうとする者が多くなった。
見捨てられた土地が増えると、魔物が現れる土地が増えていく。
遠い東の国の話だと思っていたソレは、グレーデン大国にも脅威となり得る話になってしまった。
冒険者ギルドは通常、冒険者に指名依頼もできる。
制度上はリアムにも可能だ。
けれど、彼が砦の管理者であるメルクイーン男爵であるがためにその方法はとれない。
彼を国外に出そうとすると、完全にクジョー王国の態度が硬化する。
彼自身が望んで外に出たという今回のような形でなければ、国外に連れ出すことはできない。
クジョー王国の国王も大商会も貴族たちもリアムを囲いたいのだ。それをクジョー王国内の人間でさえ、砦の管理者だからこそ我慢しているし、できない。
第三者が横から出てきたら、どんなに大国であってもあの国の権力者たちは首を縦には振らない。
一時間後、ほくほく顔のリアムが、他の二人と疲れた顔のゴウを引き連れて冒険者ギルドに戻って来た。
「良い買い物ができたの?」
「ほどほどに」
「魔の砂漠より疲れた」
は?
監視役としてついていったはずのゴウがへたばって、職員に水をもらっていた。
収納鞄だから戦利品がまったくわからないけど、一時間でどれほどの買い物してきたのか?
冒険者ギルドグレーデン王国本部で、クマリンや本部長と職員たちとの挨拶を終えると、彼らを野に放った。
喜んで市場に走っていくリアム。
それを追いかけるバージ、ゾーイの二人、従者は別行動のようだ。
ゴウも監視役としてリアムたちについていかせた。体力的には可能だろう。
リアムも一応貴族なんだけどね。
それを感じさせない庶民的な金銭感覚。
市場での買い物の方が興味があると言わんばかりの反応。
そのまま応接室でクマリンと本部長と話す。
「彼があの白銀の辺境伯だとは。S級魔物を単独で討伐できるのなら噂もさもありなん」
本部長が茶をすすりながら言った。
彼はA級魔物の認識だったようだが。
魔物の級は一概に強さだけで決められているわけではないが、それでもS級の魔物である。
「それを知ったあの冒険者、土下座状態だったじゃないか」
「この国でも有名だからなあ、漆黒の辺境伯って。英雄譚が物語になって全世界に広まっているから」
「あの物語は知らない人がいないほどですが、クジョー王国のクバード・スート辺境伯という実在の人物だというのは一般人にはそこまで知られていないようですね。冒険者は憧れているからほどほどに知っているようですが。西にある魔の大平原が彼によって抑えられていなければ、東の国のようになっていたに違いないですからね」
魔の大平原の平定。
それは人類にとって偉業だ。
それは、その数十年後、東にある国々が魔物によって滅亡していったことによって、さらに偉大な功績となった。
漆黒の辺境伯がいなければ、西にある国々は東の国より先に全滅していたに違いない。
そして、この大陸は西からも東からも魔物によって怯える生活を人は送らざる得なかったはずだ。
魔物から世界を救った英雄として漆黒の辺境伯は描かれている。
そして、辺境伯の再来と世間で騒がれ始めた、リアム・メルクイーン。
S級以上の魔物が砦の近くに来るときしか姿を現さなかった砦の守護獣が今、リアムのそばにいる。
辺境伯の誓約獣の砦の守護獣。
すでに彼はそのクロ様と誓約を交わしている。
そして、彼は辺境伯の黒と白の双剣を扱う。
C級冒険者なのに、S級魔物を討伐する実力。
今回、彼が持っていた魔物で完全にそれが証明された。
討伐ポイントがきちんと訂正されていたならば、彼はSS級にも手が届く冒険者。
辺境伯の再来として噂され始めた彼に、勝手に憧れる冒険者はこの国でも多い。
この大陸ではすでに東から十分の一は人が住める場所ではなくなった。
すでに滅亡して名すら呼ばれない国々は総称して東の国と呼ばれている。
魔物の侵攻によって、人は東から大陸の中央へと移っていく。そうすると、東の国はさらに住めない土地に変わっていく。
魔の○○と呼ばれるダンジョンを管理しきれないとこうなるという悪い実例になってしまった。
もはや、漆黒の辺境伯が生きていたとしてもどうしようもない状況だろう。
それでも、世界は期待してしまう。
彼に。
彼はクジョー王国の年初の式典で初めて公式に姿を現した。
あの姿では本人がどれだけ否定しても白銀の辺境伯と噂されるのは時間の問題だったと思う。
国外の来賓はあの式典の会場にはいなくとも、年初のパーティの王城には山ほど招待されていたのだから。
「白銀の辺境伯って呼ばれるの、そんなに嫌ですかね?」
私は呟く。
「クジョー王国では辺境伯はただ一人だからなあ。彼は正確には男爵だし、彼もクジョー王国の人間としての考え方をするということだろ」
「俺も憧れているとは言っても、さすがに線引きはしているつもりだ。彼は物語の辺境伯ではないし、西が平定できているのだから、東も平定してくれと言うのは虫が良すぎるし、無理な話だ」
クマリンが寂しそうに言った。
理想と現実がそこにある。
漆黒の辺境伯と対比するということは、つまりはそういう期待からだ。
白銀の辺境伯と呼んでしまうのは、漆黒の辺境伯のように行動してほしいことの表れ。
今度は東を、と。
彼は西を平定する一族なのだから、そこから動けるはずがないのは知っているのに。
昨日はリアムを驚かせようプロジェクトを私は一人で計画していた。
、、、予想に反して、空間転移の魔法陣を見たときの方が驚いていた気がする。
クジョー王国では見ないものをこのグレーデン大国の首都で用意したつもりだった。
ちょっと、あの子の目の輝くところが見てみたいという好奇心でもあった。
街の建物を見ても奇抜としか映らない。崩壊しないかどうかの心配をする始末。
エレベーターもカードキーもごくごく普通に扱える。
回転レストランもどこかで行った感が漂っている。
、、、本当に初見なのか、疑いたくなる行動ばかりだった。
反対にレストランで料理し始めたときは、こちらが驚かされた。
砦の守護獣クロ様用のオムライス。魔物卵で作っていた。すでにご飯の方は調理されていたのでオムレツを作った程度だが。
ダンジョンでも使える簡易調理器具が収納鞄に入っているからといって、普通はレストランでは作らない。
持ち込みを了承してもらっていたが、、、料理までするとはレストラン側も思っていなかった。
クロ様が食べる様子が非常に美味しそうだったので、レストランの食事が見劣りしてしまった。
材料が魔の大平原の魔物肉や魔物卵、メルクイーン男爵領で収穫された食材で、ここでは高級品なのだから当たり前だが。
彼を驚かすために、最高の料理を出してもらったはずなのに。彼の料理の方を食べたいと思ってしまった。
夜景が綺麗なレストランは下の階も全フロアがレストランだ。
この建物内で各国の食べたい料理はすべて揃うと言われているほど有名なところでもある。
そして、最上階のレストランは、階下の指定した料理を運んでもらえる。
その席を予約するのが難しいと言われるほど、人気の場所だ。
リアムには大衆的なラーメン屋の方が喜んだのだろうか?
この大陸では一番の大国であるこのグレーデン大国は、何でも揃うと言われる国でもある。
お金を出しさえすれば、であるが。
それでも、手に入りにくいものがある。
それがクジョー王国の極西の砦の品物だ。
彼の誓約魔法でなかなか転売を許してもらえないのがネックらしい。
正規の卸値で購入した商会だけが自分の店で数を売ることができるのだが、極西の砦の品物を正規に販売できるのは今のところテッチャンという者の商会のみだ。
この国でも極西の砦の商品を手に入れたい者は多い。
だからこそ。
私たちはずるいことを考えている。
この大国が他国の人間から働きかけられることはあっても、他国の人間に便宜を図ることはないに等しい。
それなのに、彼にはこの国での商売の権利を与える動きがある。
彼にこの国を知ってもらい、この国を見捨てられないくらい深い付き合いをしてもらいたいと願っている。
最近、東の国で魔物の侵攻が進んでいる。
大陸の十分の一が住めなくなった。
大陸の五分の一には東の国から溢れた魔物がやってきてしまう。
農作物はせっかく育てても収穫できなくなれば、住民は無事に見える土地に移動してしまう。
東の国の惨状を見続けていて、国や土地に執着する者も少なくなってきてしまったのだ。
財産がある内に、西の土地へ移ろうとする者が多くなった。
見捨てられた土地が増えると、魔物が現れる土地が増えていく。
遠い東の国の話だと思っていたソレは、グレーデン大国にも脅威となり得る話になってしまった。
冒険者ギルドは通常、冒険者に指名依頼もできる。
制度上はリアムにも可能だ。
けれど、彼が砦の管理者であるメルクイーン男爵であるがためにその方法はとれない。
彼を国外に出そうとすると、完全にクジョー王国の態度が硬化する。
彼自身が望んで外に出たという今回のような形でなければ、国外に連れ出すことはできない。
クジョー王国の国王も大商会も貴族たちもリアムを囲いたいのだ。それをクジョー王国内の人間でさえ、砦の管理者だからこそ我慢しているし、できない。
第三者が横から出てきたら、どんなに大国であってもあの国の権力者たちは首を縦には振らない。
一時間後、ほくほく顔のリアムが、他の二人と疲れた顔のゴウを引き連れて冒険者ギルドに戻って来た。
「良い買い物ができたの?」
「ほどほどに」
「魔の砂漠より疲れた」
は?
監視役としてついていったはずのゴウがへたばって、職員に水をもらっていた。
収納鞄だから戦利品がまったくわからないけど、一時間でどれほどの買い物してきたのか?
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