解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
221 / 291
10章 秋休みは稼ぎ時

10-5 馬車に揺られて

しおりを挟む
 夜景が売りのレストランの料理はまあまあ美味しかったんじゃない?
 値段を見ると、俺は庶民的な店に行きたくなるだろうけど。
 だから、絶対にメニューなんて見ない。ズィーとゴウにおまかせだ。
 これは俺たちの歓迎の場なんだから。
 俺の血の涙や血反吐が見たいわけじゃないはずだ。

 この世界って、上流階級と庶民の差って超絶なほどに存在している。格差がどこまでも広がっている。
 物乞い、貧民などもどこの大都市でも存在している。富める者はとことん裕福で、貧しい者はとことん貧しい。
 生まれた家ですべてが左右されることも珍しくない。
 国や教会や上流階級の人々に助けられることもない。
 彼らに助けられるのを待つより、自分で動いた方が助かる道が存在することを知っている。
 この世界の人たちは強い。

 この一食がどれほどの金額か、聞かない方が幸せだ。
 ふうぅーーー、深いため息。。。

 夕食のことはすべて忘れよう。
 すべてを忘れたら二人に悪いか。
 恩だけは覚えていて、後は忘れよう。

 明日から仕事頑張るぞー。




「クジョー王国からグレーデン大国まで一瞬なのに、総本部からこの国の本部までがほどほどに時間がかかるのは、なぜ?」

「馬車で移動しているからだよー。貴重な魔石を日常的な移動に使うわけにはいかないからさあ。さすがに魔石を使うのは緊急時ぐらいだよ」

 朝食後にホテルから馬車に詰め込まれ、ズィーが馬車の中で説明してくれる。ゴウも一緒である。
 俺たちはもらった三冊のガイドブック?で、この国の観光地を学んだ。

『おのぼりさんのためのグレーデン大国』
『これで貴方も事情通~グレーデン大国編~』
『首都攻略』

 さて、この三冊のうち有益なガイドブックはどれだったでしょう。

 答え『首都攻略』

 コレかよっ、と四人でツッコミした代物。タイトルから小説かと思ったよ。首都の情報満載だった。

『おのぼりさんのためのグレーデン大国』が小説だった。。。これこそガイドブックだと思ってた。観光名所は抑えているし意外と面白かったので、一晩で読んでしまったよ。。。

『これで貴方も事情通~グレーデン大国編~』は、夜のガイドブックだ。主に男性向け。ゴウはコレをよく用意したな。利用しているからかな?
 バージ、使う?あ、首を横に振った。婚約者もいないのに。
 従者くんは?え?従者くんって既婚者なの?まだ、若いよね?少し年上なくらいだよね?こんなところに一か月もいていいの?いいの?ホントに??
 相手もマックレー侯爵家で働いているそうな。

 一応、砦の諸規程も作ったので、家族で安心して来てね。配偶者は砦に来ること了承しているんだよね?それとも、単身赴任?まあ、砦に向かう少し前になったら確認しよう。一年で決心も変わるかもしれないし。今、聞いて心変わりされたら悲しいし。


 というわけで、俺たちはホテルのフロントでも簡易地図やパンフレットをもらった。
 お勧めの観光地やレストラン等も聞いた。市場とか庶民的な店は冒険者ギルド本部がある正門近くの大通りあたりや外壁に近い方が多いらしい。
 この首都のそばのダンジョンは中級以下の冒険者が集う。魔の大平原や魔の森から比べるとレベルは下も下になる。この国にあるダンジョンはその辺りのレベルが多い。
 大陸の中心部で安全だからこそ、この国に冒険者ギルドの総本部がある。

 南側に接する隣国の砂漠の国が魔の砂漠だからこそ、かもしれないが。
 砂漠の国はすべて広大な魔の砂漠である。生き残った少数の国民はすべてダンジョンの中で暮らしていると言っても過言ではない。

 グレーデン大国では砂漠の国に何かあれば、すぐにS級冒険者を手配できるようにしていると見ていいだろう。

 いつか魔の砂漠にも行って、神獣と誓約者にも会ってみたい。
 ま、この一か月は書類作業に専念するから、さすがに行ける機会はない。
 一年のブラブラ旅で行ければいいなー。

「リアムくん、どこに行こうとしている?」

 馬車を降りたら、ついフラフラと市場の活気につられて。
 あっちでは屋台が賑わっているなあ。
 人だかりがあちらこちらにできている。

 ズィーに肩をがっしりと取り押さえられた。

「ゾーイくん、この子から目を離さないようにね」

「離したことはありませんよ」

「、、、冒険者ギルドのグレーデン大国本部を紹介したら自由時間を取るから」

 ゾーイの返答はスルーの方向か。

 あ、そうだった。
 冒険者ギルドで魔物を買取してもらわないとここの通貨が手に入らないんだった。
 さすがに大都市の市場や屋台で物々交換はしてもらえない。
 買い物する前に冒険者ギルドだね。
 建物自体は総本部に比べたらものすごく小さい。クジョー王国本部と比べてもかなり小さい。首都なのに?総本部が近くにあるからだろうか?

 考え事をしている間に、ずるずると建物内部に引き摺られていっていた。

「おはようございまーす。ズィーさん、見回りですか?」

 受付カウンターにいた職員さんにズィーさんが声をかけられた。
 冒険者が冒険者ギルドに来るには少々遅い時間か。依頼票を見ている冒険者もいることにいるが、少ない。
 時間が時間だから、買取カウンターにも冒険者が誰もいない。

「おはよう、本部長はもう来ているか」

 ズィーさんが職員さんと話している隙に、買取カウンターに行くぜっ。
 スッ。

「すいません、魔物の買取お願いしたいんですけど」

「あ、はい。こちらにどうぞ」

 買取カウンターの上に手で指示された。確かに買取カウンターは一段低くなって広めになっているけど。。。

「え?」

 番号札とかもらって、倉庫とか一時的な置き場とかに持っていくんじゃないの?
 買取であって、討伐部位だけを持って来たわけじゃないよ。
 解体してあっても、ここに積みあがるかなあ?肉も買い取ってくれるんだろうし。

「え?」

 俺の反応に買取カウンターの職員さんも疑問を浮かべる。

「、、、リアム、何を売ろうとしている?」

「ここの通貨が必要なので、普通に魔物を」

 おっやー?ズィーさんの細い目がより細くなった。

「魔の大平原や魔の森の魔物を基準に考えるな。ここではB級魔物の買取が最たるものだ。冒険者が討伐してくる魔物もこのカウンターにのるくらいのものが多い」

「、、、ここじゃ、冒険者は稼げないんですね」

「この辺りじゃ、稼ぎたい冒険者は魔の砂漠の方に行っている。で、何級の魔物を出そうとしていた?」

「現地のお金が足りなくても悲しいから、とりあえずA級魔物でも売っておこうかな、と」

 職員だけでなく、冒険者ギルドにいた冒険者もざわついた。
 ん?何だろう、この反応。

 B級魔物だと何度も冒険者ギルドに足を運ばなくてはいけない可能性もある。乗合馬車で来るにも余計な金がかかってしまう。
 そして、そもそもお土産代として渡された通貨はクジョー王国のものだ。お土産を買うためにはこの国の現金を多めに手に入れておかなければ。皆、グレーデン大国のお土産が欲しかったんだね。人数が人数だから意外と大金だったよ、俺にとっては。ゾーイやバージにとってはそうでもないだろうけど。

「どこの魔物だ?」

「魔の森で討伐した魔物ですよ。解体はしていますが、別の場所のものは買取できませんか?」

「いや、喜んで買い取ろう。とりあえず、裏の倉庫に行こう」

 ズィーさんが買取カウンターの職員さんそっちのけで移動しようとする。

「ちょっと待ったぁっっっ」

 何のちょっと待ったコールなのかな。。。
 若い男性の冒険者の一人が大声で叫んだ。そこまで広くない室内、そんなに大声出さなくとも聞こえるよ。

「C級冒険者がA級魔物なんて何の冗談だっ。手ぶらのクセにここで現物見せてみろっっ」

 あー、超うるさい。
 無視していいかな。
 と思って、奥に進もうとしたが、ズィーさんの足はとまったままだ。

 、、、ズィーさんの細い目ってどこまで細くなるの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...