解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
206 / 291
9章 お人形さんで遊びましょう

9-7 不穏な昼食の誘い ◆バージ視点◆

しおりを挟む
◆バージ視点◆

「さあって、バージくん、お腹空いたねー。お昼だよー」

 あえて言うが、リアムが私を昼食に誘ってくれたことはない。
 同じ教室で講義を受けているのに、今でも一緒に寮の厨房に行こうとしてくれたことはないのだ。
 私はいつも置いていかれる。
 私が勝手にリアムの昼食の場に押し掛けて行っている状態だと言っても過言ではない。

 ニコニコと笑顔のリアム。

 いや、何かあるだろ。
 ない方がおかしい笑顔だ。

 バッと身を翻して教室外に逃げる。

「ゾーイ、逃げたぞ」

 笑顔のままのリアムが普通の声で言った。
 廊下に風が舞った。
 攻撃魔法ではない。この校舎では攻撃魔法は使えないことになっている。そう、攻撃魔法は。。。

 柔らかい風でふんわりとカラダが持ち上がった。

「バージ、馬鹿なことをするなあ。リアムから逃げられると本気で思っているのか?」

「うう、、、リアムの手下め。講義が終わってすぐに駆けつけるとは。。。」

 優しい風でゾーイの元に引き寄せられる。
 ゾーイにお姫様抱っこされてしまった。
 くそっ、近くで見てもやっぱりイケメンだな。

「いや、俺がお前を捕まえないと、もっとヤバいことになる気がするのは俺だけか?」

 リアムが手段を選ばないとどうなるか?
 私はどうやって追い詰められるのか?
 確かに怖いな。
 たまに魔の森の魔物が可哀想になるときがあるくらいだから。
 リアムが設置する魔法での数々の罠。つまり、魔法を無効化する魔物たちの特性を存分に発揮した罠である。
 例えば、切った木々を魔法で支えておく。そこに魔法を無効化する魔物たちが通るとあら不思議、大木が薙ぎ倒され魔物が下敷きになる。絶命しなくとも、かなりのダメージを与えられる。
 落とし穴もまたしかり。落とし穴の上の地面を魔法で支えておく。俺たちは駆け抜けられるが、魔法を無効化してしまう魔物が通ると穴に作った槍のような棘にぐっさりと突き刺さる。

「そんなことするわけないじゃないかー。バージには健やかに育ってほしいと思っているんだからさあ」

 健やかに?育ってほしい?
 普通に歩いて近寄ってきた笑顔のリアムの発言がわからん。

「まあ、さっさと場所を移そう」

 場所は寮の厨房。
 リアムが変な笑顔を浮かべなければ、普通に来ていたに違いない場所。

「ごっはん、ごっはん、リアムのオムライスー」

 すでに砦の守護獣のクロ様が待っていた。
 コロコロと卵を転がしている。

「今日はスペシャル魔物肉ステーキのせオムライスだっ」

「おおーっ」

 と両手を上げてクロ様が喜んでいるが、クロ様はリアムの作った食事なら何でも喜ぶのだそうな。。。
 つまり、このスペシャルなオムライスが用意されたわけは。

「はい、バージの分」

 にっこりと笑うリアムが怖い。
 笑顔のリアムって割と珍しい。
 その笑顔も悪くはないのだが、普段を知っていると裏に何かあるだろ、としか思えない。

 リアムは料理も素早い。
 ステーキも包丁で食べやすいサイズに切っている。

 すぐに次のオムライスにとりかかる。
 リアムは出来上がった分から先に食べろというが。
 もちろん、クロ様はすでに食べ始めているが。

 うみゃうみゃと。

 クロ様の姿は見ているだけなら和む。

「はい、ゾーイ」

 突っ立っているとすぐに次が出来上がる。

「バージ、とりあえず食ったらどうだ?」

 ゾーイがリアムの使っていた道具を洗っている。
 そう言うゾーイはリアムの分が出来上がるのを待っている。

「はい、できた。食べるぞ」

 リアムが第三食堂のテーブルに移ると、ゾーイも洗い物を中断する。

 魔物肉は高価だ。日常的に食卓に並ぶのは上位貴族でも選ばれた家の者だけだろう。
 うちは子爵家なので、魔物肉が出るのは祝いの席ぐらいだ。
 しかも、この魔物肉は現時点では入手が困難な魔の大平原の魔物肉。

 以前リアムは自分が狩っていた魔物肉を使っていたらしいが、今はクロ様が魔の大平原で討伐した魔物肉を使っている。
 クロ様のお口には王都の魔の森の魔物は合わないということなのだが、王都で出る魔物肉は魔の森のものだ。
 私も美味しいと思って王都で食べていた。

 魔物肉は美味しい。
 けれど、リアムが作る食事で上には上があることを知る。
 魔の大平原の魔物肉は、魔の森の物より美味しい。

 そういうことを知ることができる幸運は、子爵家では少ない。

「あのー、リアムさん、視線が痛いんですけどー」

 グサグサと突き刺さっている。

 頼みごとをするならしてくれ。
 秋休みのことか?
 それとも、試験か?卒業論文か?
 はたまた?

「ごちそうさまー。今日も美味しかったよー、リアムー」

 クロ様が食べ終わった。小さいサイズで先に食べ始めるので早い。
 いつもなら食べ終わったら、くるりんと姿を消すのだが。。。
 テーブルの上に座ったままちっちゃいおめめが私を見ている。

 ニヨりんっ。

「バージは魔法学園卒業後、極西の砦に来る気ある?」

「それは、旅行とかで?」

「ないのかあ、残念だな」

 リアムの判断が早くない?
 私はまだ行くとも行かないとも言ってないんだけど。
 リアムと違って、詳細な事情も聞かない内に判断できないんだけど。

 じっとリアムが私を見ている。
 リアムがこういう視線を他人に向けることは珍しい。

「リアム、何が言いたいんだ?」

 リアムが思案顔だ。笑顔ではなくなった。
 ゾーイは、、、普通にオムライス食ってるな。いや、魔物肉が美味いのはわかるけど。

「バージは呪術と聞いてどう思う?」

「急に言われても。。。今は絶えたもので、扱える者がいない。呪いというのは、犠牲がつきまとい割に合わない、とか」

「うん、そうだな。実際のところ、お前と俺は知り合って日が浅い。信頼度も俺の方が低いというのはわかっている。この時点で俺がこの発言をすることはバージに嫌われても仕方ないというのも覚悟の上だ。それでもなおバージには自分の意志で生きていてほしいと俺が願っているのはとりあえず知っていてほしい」

「へ?」

「お前は呪術に侵されている。今すぐにどうこうというわけではないが、そのままにしておくと操り人形になる日はそう遠くない」

 リアムが言った。

 荒唐無稽。

 と私はリアムに言いたかった。一笑したかった。
 なのに。
 私はオムライスを食べる手を一時中断した。

「なぜ、そんなことを?」

 私が聞くと、リアムは私の目を見た。
 探る目をしている。

 そして、見透かされている。

「テンガラット子爵家は知らないと思っていたのだが、、、」

 リアムは腕を組んで椅子の背もたれに体重をかけた。
 ゾーイが肉を食べながら私を見る。

「お?そうなのか?」

「バージは心当たりがある顔をしている」

 リアムの洞察力は本当に怖い。
 私が何か嘘をついても、すぐにバレるような気がする。

 操り人形。

 その言葉に反応してしまった。 
 幼い頃から、彼女は彼女の姿を模した人形を持っていた。
 幼い彼女が人形を抱えている姿は可愛かった。

 秋休み前にこの王都に来た彼女は私を模した人形も持っていた。
 私の特徴をとらえながらも、見た目は可愛らしい人形だ。
 彼女の人形と一緒に抱えている姿は、微笑ましいと感じるだけのものだったのに。

 それなのに、その見た目とは裏腹に、両親も私もその人形に禍々しいものを感じていた。
 幼い頃からの婚約者が作った人形だが、薄ら寒いものが漂っている。

 彼女の人形と私の人形は何が違うのか。
 父が彼女を婚約者として紹介した伯爵家に問い合わせているが、答えはもらえていない。

「どうやら情報の擦り合わせが必要だ。どうせマックレー侯爵もすべての情報を俺に渡しているわけではないだろう。最善は何かを考えよう」

「マックレー侯爵?」

「うちの父がお前の婚約者が呪術系の一族だと知らせてくれた。その家が出している報告書ではすでに呪術を扱える者はいないということだったが、お前の婚約者は使えるようだ。テンガラット子爵家は間に伯爵家を挟んでいるが、クインザー侯爵家の傘下だ。父も表立って対立はしたくないが、クインザー侯爵の力は削いでおきたいところなのだろう」

「今の侯爵家勢力図はハーラット侯爵の次はクインザー侯爵だからなあ。貴族ってホントに面倒だな」

 そう言うリアムこそ貴族なのだが。
 しかも、メルクイーン男爵家はこのクジョー王国の貴族で別格に位置している。

「そして、その思惑にはすでにハーラット侯爵も一枚噛んでいる。バージと婚約解消した後はその婚約者に魔法研究所の研究員の席を用意している」

「つまり、国は呪術系の技術も研究を続けるということか」

「本当に全世界からなくなれば良いのだが、どこかでその技術が生きているとすれば、知らなければ国は対策もできない。ただ、研究にはかなりの監視がつくだろう」

 魔法研究所の研究員というのは実質、管理監督しやすくするための職だということだ。
 かなりの自由が制限される。

「バージ、幼い頃からのつきあいの婚約者殿に愛情を持っているのはわかる。出会って一年にも満たない俺の言葉が信じられないのもわかる。が、バージの意志がなくなるのは俺は黙って見てられない」

 ほんの少し胸に温かいものが広がる。
 私は友人宣言しているが、リアムはどうだろうと思っていた。

 リアムが私の意志がなくなるのを阻止するために動いてくれているのがわかる。

「、、、さっきからリアムの話を聞いていると、私が婚約者を優先させるように聞こえるんだけど?」

「、、、え?」

 リアムが呆けた顔になった。

 確かに婚約者アンナとは長年の付き合いであるが、やはり家同士の付き合いだからだ。
 恋愛感情がそこにあるかというと、同じ年齢だが可愛い妹という範囲の感情であるのは否めない。
 彼女は人形をいつも抱いているし、容姿、行動ともに幼い気がしてならないのだ。

 領地の屋敷では頻繁に会うが、彼女と会わなくて良い王都で過ごす冬は毎年、ほんの少しホッとしている自分がいた。

「ああ、そうか、バージが優先させるのはテンガラット子爵家か。不都合が大きければ婚約解消も検討に入れるのか」

 うん、リアムには誠心誠意言葉を尽くさないと伝わらないということが良くわかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...