解放の砦

さいはて旅行社

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8章 愚者は踊り続ける

8-6 正直な感想

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 このクジョー王国の貴族にとって、色は重要である。
 ハーラット侯爵家は白。
 白馬に乗った王子様風クリスには最適な色であるが、腹黒侯爵には似つかわしくない。
 顔は似てるのに。。。

 新年早々、クリスが寮の部屋に来た。
 寮内に残っている学生の多くも年初パーティに参加するようで寮も騒がしい。
 実はこの年初パーティ、年明けのカウントダウンからやっていたそうだ。
 王都も騒がしく、あらゆる広場で催し物をしている。
 この年初パーティだけは招待されたならば今は貴族でなくても参加できる。
 たいていは貴族の出の者が出るが、つまり貴族の後ろ盾がなければ、王城は招待状を出さない。
 何か問題を起こしたときは、後ろ盾の貴族が後始末を行うため、親族内でもむやみやたらに招待状を出してもらうということはしないようだ。

「やりすぎじゃないか?」

「うわっ、リアム、カッコイイ、、、昨日の姿よりカッコイイ」

 ゾーイがキラキラした目で俺を見ている。
 ハーラット侯爵家の使用人が持って来た姿見で確認するが、髪には銀の髪飾りがついている。
 使用人の皆様、渾身の力作に仕上げましたって顔で俺を見ないで。昨日よりキラキラにされている気がする。

「キミはそのイヤーカフを外す気はないんだろ。なら、髪飾りぐらいつけさせろ」

「と言って、クリス様は俺の耳に何をつけているんですか?」

「私とお揃いのイヤリング」

 クリスも両耳に同じ銀のイヤリングをつけている。
 こういうときのにっこりとした笑顔は腹黒侯爵そっくりだ。

「何を企んでいる」

「ははは、もしものときのためだよー。ただの保険だよー」

 クリスは完全に白の衣装だ。縁取りも刺繍もすべて白。白に白だから目立たないと思いきや美しく主張している。艶やかな白ってあるんだなあ。クリスの白馬に乗った王子様を体現する素晴らしい衣装だ。
 いっそ白馬に乗ってしまえ。

「ゾーイもカッコイイぞー。俺もそっちの色の方が良かった」

 紺とか黒とか暗色の方が良いよね。
 ゾーイが照れてる。従者も頑張りましたという表情だ。

「えー、リアムはマックレー侯爵家の方が良いのー?」

「暗い色の方が汚れが目立たない。王城で出される食事を気ままに味わえる」

「うん、定番のリアムの感想で嬉しいよ」

「けど、辺境伯といったら黒だろ」

 クバート・スート辺境伯は軍服のような黒を着用していた。筆頭執事くんが辺境伯は黒が似合うーーーっってベタ褒めしていたからなあ、日誌で。。。

「あー、リアムが黒を着たら、意外性も何もないからねえ。辺境伯との対比?」

「黒に白って安直な」

「銀も入れてみましたよー」

「嫌がらせか」

「兄が許可を取っているよ」

「、、、腹黒侯爵め」

 ゾーイが複雑そうな顔をして俺を見ている。
 それをクリスは見咎めた。

「リアムこそ、私たちに対する嫌がらせ?」

「当たり前だろ。俺はハーラット侯爵家も王弟の権力も必要ない。砦に邪魔になるものは徹底的に排除する」

「えー、そこの彼は砦に持ち帰るんでしょー。マックレー侯爵家は良いのー?」

「、、、クリス、ゾーイはマックレー侯爵家だから持ち帰るんじゃない。俺とともに砦を守るA級魔導士だからお持ち帰りするんだ」

「ゾーイはマックレー侯爵家の五男だよー。魔導士だったら私だって役に立つじゃないかー」

 クリスは何を言っているんだ。コイツの最優先事項は街の住民や砦じゃない。

「お前は兄の命令には逆らえないだろう?そんなヤツ、砦に入れられるわけがない」

「そこのゾーイはリアムの何だよー。何でそいつは砦に入れるんだ?」

「仲間だからだ」

 砦を守ってくれる強い者なら大歓迎だ。
 クリスが視線をゾーイに向けている。
 ん?
 俺もゾーイを見ると。

「リアムー」

 抱きつかれた。

「仲間って言ってくれて嬉しいよ」

 はい、ハーラット侯爵家の使用人と、ゾーイの従者からひどい視線を俺が受けている。
 せっかく綺麗に整えたのに申し訳ございません。。。
 ゾーイが俺から離れた途端、マントをササッとなおされた。ゾーイも従者になおされている。

「えー、それで私はただのお客扱いなんでしょー」

 なぜクリスはブーたれているんだ。

「クリス様は砦の上客ですよ。お得意様ですよ。妹ちゃんのためだとはいえ、あんなぼったくりレベルの靴を購入してくださるのはクリス様しかおりませんよー」

「バカにされているようにしか聞こえないのはなぜだ」

「クリス様には感謝しておりますが、腹黒侯爵への恨みは消えてませんからね。たとえ合法な行為であったとしても」

「あー、だから、私が五千万払うって言ったのに」

「ハーラット侯爵家からの援助なんて受け取ったら、後で何か言われたとき断れないじゃないか」

「そんなこと言わないのにー」

 ということは口だけなら言える。
 誓約魔法にしたところで、コレは意味がない。
 対価なしに助けてくれた相手を無下にできる人間は少ない。

 だから、砦ではお礼の気持ちの酒一杯で人を救えるのである。対価なしにお互いに救い救われる関係は、このクジョー王国では砦しか存在しない。

「ゾーイも砦では俺を助けてくれ。魔の大平原では救おうが救われようが命の値段は必要ない。お礼の酒一杯で皆、助け合う」

「、、、俺はリアムに命の値段の誓約魔法まで結ばれているんだが」

「あの一件が魔の森ではなく魔の大平原でだったら良かったねー」

 クリス様が苦笑いを浮かべた。

「あー、キミ、大変だね。最初からリアムに気に入られていたんだ。一学年には王族も公爵家もいないから、ハーラット侯爵家に対抗できる家はマックレー侯爵家のみ」

「いやいや、攻撃魔法がきちんとA級魔導士の実力だったからだよ」

「なんだかんだ言っても、リアムはイケメンを選択するよね」

 クリスの言葉に俺は疑問符を浮かべる。

「イケメン?」

「キミの奴隷も、ナーヴァルのところの補佐たちも、キミの大親友も結局はイケメンじゃないか」

「、、、確かにうちの奴隷たちはさらにキラキライケメンしてるし、クトフも成長したら可愛い系からカッコイイ系になってしまいましたが、ナーヴァルは極悪顔ですよ?顔で選んでいたらリージェンを砦長にしているんじゃないですかね?」

 俺がリージェンを砦長にすることはないが。

「、、、はっ、ナーヴァルは見慣れ過ぎていて失念していた。リアム、ナーヴァルを砦長に任命したとき熱でもあったのか?」

「おおぅ、ものすごい言われよう。どっちに対して失礼なんだか、もはやわからない発言だな。ナーヴァルは冒険者として有能で、他の冒険者たちから一番慕われているんですよ。書類仕事ができなくとも、彼がいたことによる砦での功績は大きい」

「功績というと?」

「酒一杯で、命を救い合う。コレはナーヴァルがいてくれたからこそ、砦で成し得たことだ。砦長というのは精神的な支えになる部分だ。魔の森のように凶悪な金額で助けるヤツらではない。俺は砦の冒険者を誇りに思っている」

「凶悪な金額、、、」

 わかっていて誓約魔法を結んだんだー、という二人からの視線が痛いぞ。

「せっかくのゾーイを砦に連れて帰るためだ」

「キミのその行動、完全に狙った獲物を逃がさないためのものだよね」

「自分の意志で選択しないなら、強制の方がいいじゃん。どうせ借金のカタに魔法学園卒業したら、そのまま連れ去るつもりだったし」

 A級魔導士が道端に落ちているなら拾っちゃうよね。
 死ぬ前に拾わないと。

「、、、うん、キミがイケメンだったのが運の尽きだったね。まあ、自分の意志で選択できたのなら、それが一番だけど。キミは今日もリアムのそばを離れる気はないのだろう」

「もちろん」

 ゾーイが意志の固い返事をした。

「それなら頑張って、うちの兄の凶悪な視線に耐えてくれ」

「うっ」

「腹黒侯爵は精神をギリギリと削って来るからなあ。本当なら会わないのが一番良いんだが」

「さすがに今日は来るよ。王城で会う手筈になっているよ」

「はーーー、やだやだ」

「リアム、実の弟の前で正直な感想を言わないでくれるかな」

「あーーー、会いたくない」

「、、、」

 クリスが悲しそうな笑みを浮かべていた。
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