解放の砦

さいはて旅行社

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8章 愚者は踊り続ける

8-3 それは、過去形で話される

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 俺も自分のオムライスを食べる。うんうん、いつもの味だ。

「ごちそうさまー。リアムー、今日も美味しかったー」

 クロが早々に食べ終わる。

「それは良かった」

「あ、そうだ。拾った卵、料理長にこっちに送ってもらったよー。白菜も山ほど僕のお供え棚にあったから、それも渡しておいたけど」

「ああ、白菜いらないんだけど」

「一番立派に育った白菜をリアムに供えるんだって、街の連中が頑張って山積みにしているよー。料理長があの収納鞄に入る個数に間引きしているぐらいだからー」

 、、、アレでも少ないくらいなのか。
 品評会場になっているのかなあ。

「いや、もう白菜はいらないんだけど、どうにかできないかな」

「貼紙でも貼ったらー?白菜は受け取り拒否って」

 そのまま書いたら、持って来てくれた人たちが泣きそうだ。
 クトフが全部、砦で消費してくれたら良いのだが。。。味噌汁の具にでもしてくれよ。

「婉曲にお断りするか」

「ああ、そういえば、大量の白菜って言ってたね。どのくらいあるの?」

 バージがオムライスから顔を上げた。

「百個超えた時点で数えてない」

「、、、八百屋かっ。いや、八百屋でもそんなに扱っていないか。白菜農家かっ」

 ツッコミに迷いが出たなあ。
 冬だから、皆、白菜作っちゃっているんだよねえ。売り物以外では家庭ではお漬物に大量にしているようだけど、、、ここで漬物は作りたくないなあ。収納鞄があるから取り出さなければそのまま腐らないし。

「リアム、オムライスすごい美味しかった。これもリアムのところの食材なのか?」

 ゾーイが完食していた。
 綺麗になった皿を見ると、気分がいいよね。

「ああ、魔の大平原でクロが拾った魔物卵で作ったオムレツと、俺が討伐した魔物肉も炒めたケチャップライスを組み合わせたオムライスは美味しいだろう」

 俺が言うと、ごふっとゾーイの従者と御者が吹いた。

「うわ、すごい豪華な食事だった。残りはもっと噛みしめて食べよう。コレが魔の大平原の魔物肉かあ、ジューシーだなあ」

 小さく切った魔物肉ですまないねぇ。オムライス用のケチャップライスだから、そこまで肉を主張させる大きさではないからなあ。

「さすがは、リアム。高価な物をさり気なく出すとは」

「リアムのとろとろは最高だよねー。さすが僕の嫁ー」

 むぎゅー。クロを押し潰しておこう。

「誓約したんだから、僕の嫁じゃないかー」

「シロ様とも本誓約しない限り、まだクロとシロ様の嫁ではないだろう」

「時間の問題じゃーん。リアムがあのシロの願いを断れるわけがないじゃーん」

「うっ」

「あ、うっ、て言った、この人。リアム、シロ様ってどなたですかー」

 バージ、追及するなよ。

「、、、砦の守護獣だ」

「リアムは砦の守護獣の嫁なの?」

「正確には違う。誓約者だ」

 誓約内容を推察すると、恐らく似たようなものなのだろうが。もしかすると結婚の誓約よりも縛られるものかもしれない。シロ様が説明を渋っているからなあ。大人になって冷静な判断ができるまで待っていた気がする。

「リアム、砦の守護獣というのは、あの辺境伯の誓約獣か?」

 ゾーイの追及の手も来たか。

「そうだ、このクロと、今は砦にいるシロ様だ」

「、、、うん。あのS級魔物を押さえつける威圧で信じるしかないけど」

「このちっこい姿はリアムが気に入っているからこの姿なんだよー。前はもう少し大きい姿で砦をうろついていたんだよー。巨大化もできるんだよー」

 むぎゅー。ちっこい身長をさらに潰そう。

「ふっ、こっちの方が可愛いんだから、可愛い方がいいだろ」

「あ、リアムが開き直った」

「俺がシロ様に敵うわけがない。いつもはツンツンシロ様なのに、人化シロ様は超イケメンの甘々シロ様に変わるなんて俺が対抗できるわけがない」

「あー、リアムって甘やかされるのに慣れてなさそうだな」

 バージ、人を正確に分析するな。

「溶ける」

「溶けるのかあ」

「メルクイーン男爵領では砦の守護獣は信仰の対象だ。砦の守護獣が俺を嫁々言っていたら、外堀は埋まっているようなものだ。俺には縁談も来ないし、モテないし」

「へえ、、、でも、嫌でもないんだろ」

「シロ様は母上の次に好きだからな」

 ん?
 クロ以外の空気が固まったような気がするが。
 クロはいつも通りニヨニヨしているだけだ。

「じゃあ、僕は帰るよー。リアムも砦の仕事は無理しない程度にしておきなよー」

「睡眠時間はしっかりとるよ。お肌に悪いからなー」

 クロはあっさり消えた。
 コレもいつものことだ。
 さて、食べ終えた食器を片付けるか。

「リアム、先程の発言は、、、」

「うん?お肌に悪い?」

「じゃなくって、リアムはマザコンなのか?」

 ゾーイが言葉を選ぼうとしているのに、バージが直球で聞いてきた。

「俺の母上の素晴らしさを聞きたいのか?」

 夜通し話すぞ。

「いや、いい。遠慮しておく」

「それは残念。永遠に語り続けられるのに」

「うわあ、そこまでか」

「ああ、母上は素晴らしい女性だった。人としても冒険者としても尊敬し憧れる人物だった」

 語り尽くせぬ素晴らしさだ。

「昔は砦の冒険者にも極度のマザコンとか、母上至上主義とかいろいろ言われていたが、今は砦でもそれを覚えている者は少ないだろうな」

 砦には新しい冒険者が増えた。
 昔からいる冒険者たちも記憶は風化されているだろう。

 俺には一生消えることのない大切な思い出だが。

 俺は皿を集めて、ゾーイの従者と御者の食器も下げようとした。

「あ、我々は自分で」

「いえ、大丈夫ですよ。まとめて洗った方が早いですから」

「では、手伝います」

「ありがとうございます」

「あ、いえ。こちらこそ大変美味しいものをいただきまして、ごちそうさまでした」

 そんな大量の食器でもないので、すぐに洗って片付いた。

「明日からは我々は昼食持参で参りますので、リアム様はお気になさらず」

「そうですか。じゃあ、白菜でもお持ち帰りください」

「え?」

 馬車で来ているのなら、五個ぐらい持って帰ろうぜー。十個でもいいんだぜー。
 ぎゅむぎゅむ。
 困った顔の御者さんに押し付けておいた。




 午後もサクサクと書類を仕上げていく。
 なぜだか、ゾーイの御者も書類の整理に参加してくれている。
 クトフが片っ端から適当に書類を詰めて送って来るから、整理してくれる人がいてくれる方がありがたいことはありがたいのだが。
 男爵家用の部屋でも五人いても狭い気はしない。
 貴族学校の寮の部屋は、一番狭いとされている部屋でもかなり広い。
 さすがに砦長室には到底及ばないが。
 従者用の部屋は書類で埋まってしまっている。
 これをすべて処理しないと終わらないのだが、まだまだ送られてきているのが厄介だ。
 クトフ、、、どれだけ送ってくる気なの?
 砦長室が書類で埋もれているっていうくらいだから、まだまだなんだろうな。。。
 誇張表現であってほしいのだが。

 ゾーイは御者も馬車で待っていても手持無沙汰だからというが、マックレー侯爵家に帰らせれば?
 どうせゾーイはこのままこの部屋に泊まるんだろうから。


「じゃあ、私はもう帰るよ」

 書類の分類も一段落ついたようだ。バージが夕食前に帰ろうとする。
 クトフも砦の夕食の準備で忙しい時間だから、書類も送られてこなくなった。

「では、我々はバージ様を送ってきます」

「そうしてくれ。で、明日も朝一で迎えに行ってくれ」

「ゾーイ、お前なあ、俺も忙しいんだよ。年初のパーティはお前も行くんだろう。衣装合わせとか最終打ち合わせとか家で何かないのか?」

「マックレー侯爵家では恙なく準備をしております」

 ゾーイの従者が答えた。

「優秀な家臣団っ、羨ましいっ」

 バージが叫ぶ。
 確かに。
 子爵家と侯爵家では抱える者が違うのは致し方ない。

「リアムはどうなんだ?」

「俺?あの腹黒侯爵が何かやっているんじゃないか?」

「ハーラット侯爵家に丸投げかー」

「仕方ないだろ。俺が参加を返事したわけじゃないんだから」

「跡継ぎでもなければ、出席は年初パーティぐらいなものだからなあ。三日間も続くが、いろいろな催し物もあるようだぞ」

「え?三日もパーティするの?国王ってアホなの?」

「うわあ、、、急に不敬なことを言っている。貴族の出の者も出席できるから、人数が人数なんだよ。パーティにも入れ替わり立ち替わり客が来る」

「あ、じゃあ、俺も顔を出したらすぐ帰れば良いか」

「、、、すぐ帰らせてくれれば良いけどな」

 ゾーイがため息とともに言った。
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