解放の砦

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7章 愚者は踊る

7-33 呼び出しても ◆学園長視点◆

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◆学園長視点◆

 ラーラ・ハーラットが学園長室に飛び込んできた。

「S級魔物が一学年の校外学習中に現れました。S級魔物は討伐されましたが、教員二名が亡くなりました。負傷者はいませんが、失神している者がおり、自力で動けない者も多くいます。東の門へ馬車を動かしてください」

「S級魔物がっ」

 私は詳しい話は馬車を動かした後で聞くことにして、魔法による拡大音声で動ける教職員は東の門へ動くように指示を出した。医務室の治療師も動くように指示する。
 そして、私の拡大音声を聞いた一学年の学生の家の馬車も動いていた。

 今日は校外学習だ。お召し物が汚れる可能性があるとして、特に上位の貴族の学生には早々に家の馬車が来ていたのだった。
 魔法学園の馬車よりも早く東の門についていたようだが、その家の者、乗せても取り巻きぐらいしか一緒に乗せていかなかったと報告を受けた。まだ乗せられるスペースがあったとしても。
 本当に彼らには困ったものだと思っていたが、まあ、他の者を乗せるのは貴族としては無理だったのだろう。
 嘔吐、失禁等をしていたのなら。。。


 ラーラくんに詳細を聞いた。
 彼女が見た光景を。
 冒険者リアム・メルクイーンが他の学生を黙らせて指示し、A級冒険者に目くらましの魔法を撃たせながら、S級魔物を撃破したとかなりの褒め言葉とともに語ってくれた。

 コレ、けっこう美化されていないかな?

 リアム・メルクイーンは自分の身を挺して、皆を守るということはしないだろ。
 この学園の学生なら、魔物に喜んで差し出すくらいだと思う。
 となると、リアムくんは勝算があったということか?S級魔物に?




 学園に戻ってきた教員に詳しいことを聞く。二組、三組の担任は遺体を安置するとすぐに来てくれたが、魔法理論の教師はなかなか現れなかった。
 、、、まあ、S級魔物に遭ってしまったら仕方ないか。たとえ教師でも人は人だ。恐怖は恐怖だ。
 着替えてからしか来れないよね。
 甥のヴァリも加えて、学園長室でまずは彼らから話を聞く。

「東の門の旗は何色だったのかね」

「赤でした」

 グルガン・ゲートはすんなりと答える。

「恥ずべきことながら、私は東の門から入るときにそこまで見ていませんでした」

「私も魔法実技の教師と一組の担任が進んでいったので、学生たちと一緒に普通に入ってしまいました」

「あっ、私は一番後方にいましたので、皆の者を止めるには難しい位置でしたっ」

 なぜかグルガン・ゲートが慌てて付け足している。
 その後もグルガン・ゲートは言い訳がましいことを言っていた。
 その理由はリアムくんが持って来た誓約魔法の刻印を再生したときに知った。

 教師陣は他の学生から話を聞いてもらうことにした。
 面談をすませた学生から家や寮に帰ってもらう。

 私はリアムくん、ゾーイくん、バージくんを学園長室に呼んだ。
 呼んだのになかなか来なかった。
 魔法の拡大音声で呼び出したのに。。。
 彼らが学園長室に来たのは、昼の休憩が終わった後だった。

「、、、リアムくん、できれば最初に来てほしかったな」

「講義の時間以外は俺の自由ですから」

 ああ、そうでした。以前、そういう誓約をしていました。

「緊急事態のときは、できれば時間をズラしてもらいたいなあ」

「緊急事態はS級魔物が討伐された時点で終了しています。そして、東の門に学生全員が無事戻れたことですし、ラーラ様が先に魔法学園に一報を入れたはずです。俺の今回の報告は緊急事態には含まれません」

 うわー、この子には口で勝てる気がしない。

「事の次第を最初から最後まで説明してもらいたいのだけど」

 すっと誓約魔法の刻印がされている革の切れ端を渡された。

「ありがとう」

「では、再生後にまた呼んでください。最初から最後までは長いので」

 三人は学園長室を後にしてしまった。
 ヴァリと二人で聞く。聞くしかない。
 これ、倍速とかないのかなあ。最初から最後まで、と確かに言ったよ。要約して教えてくれれば良かったのに。。。
 ヴァリが紅茶をいれてくれた。

 私とヴァリはメモを取りながら聞く。
 リアムくんの会話を聞いていると、ヴァリと顔を見合わせる機会が増える。

「頭が痛くなりそうだ」

「コレは実質リアムくんが一人で討伐してますよね」

「クロって誰だ?」

「従魔らしいですよ。冒険者ギルドに従魔登録しています」

「ああ、だから召喚か」

「S級魔物を魔法学園に一時預かり、ですか。コレは暗に冒険者ギルドに回すなって言ってますね」

「冒険者ギルドに買い取ってもらった方が、討伐ポイントも増えるだろう?冒険者は評価につながるんじゃないのか?」

「どうもリアムくんは昇級にこだわっていないみたいですね。この辺りは応相談でしょう。王族に高く売れという意味合いかもしれません」

「そりゃ、できるだけ高く売らないと。リアムくんに命の値段の請求をされたら、この人数はヤバいぞ」

「、、、それは国王にどうにかしてもらいましょう。ここは王立魔法学園なので」

「それもそうだな。金以外の要求もあるかもしれないし」

「それは、、、あるでしょうね」

 ヴァリの含みのある返答に、私もとまってしまった。 
 あるに決まっている。王子のことだろう。砦には厄介者だ。
 私も二年一組と一年三組は、万が一にでも廊下でさえすれ違わないような講義を組んでいる。




 次に学園長室に来たのは、リアム一人だった。

「再生終わりましたか?」

「数分前に終わったよ」

 今から甥と対策会議するところだったよ。
 すぐに来たのは、余計な対策をされることを嫌ったのだろうか。
 にっこりと笑顔なのが怖い。営業スマイルだとわかっていても。

「S級魔物は魔法学園が預かっていいのか?」

 甥のヴァリがリアムに尋ねる。
 まずはヴァリが交渉してくれるようだ。うん、私が次に出ても良い返事はもらえないだろうから、ヴァリ頑張れ。

「できるだけ高く売ってくれれば。取り分は九対一で」

「ふむ。なぜ一割も魔法学園に譲ってくれるんだ?リアムくんの総取りでもいいはずだろう」

「魔法学園の学生がS級魔物を討伐したということで、学園側は特定の名前を出さない、その条件で売却先を探す手数料として一割を出す。遺族への補償やうるさい学生たちの親に向けて必要なんだろ」

「冒険者としての評価は良いのか?S級魔物なら相当な討伐ポイントがつくだろう?」

 リアムがヴァリを見た。

「S級魔物は討伐ポイントが高すぎるんですよね。今までの努力が無駄になるので、俺は討伐ポイントを受け取りたくないですね。学園が討伐部位を冒険者ギルドに渡して、俺以外の一学年の学生の冒険者に割り振っても良いですよ」

「いや、それはやめておこう。別の火種になりそうだ。それと、、、我々と学生たちの命の値段を交渉しないのか?」

「ああ、」

 もの凄く含みのある、ああ、だな。
 ヴァリがリアムに深く頭を下げた。

「あの場にキミがいなければ生存者は誰もいなかった。本当にありがとう。まずは礼を言う」

 私も慌てて頭を下げた。
 本来なら、最初に言うべき言葉だった。

 学生が魔物に一人でも殺されていたら。
 全員が殺されてもおかしくない状況だったのに、一人でも殺されていたら彼らはうるさく言うだろう。

「リアム、キミは国王と交渉していることがあると聞いたが」

「、、、そうか。ここは王立魔法学園だったな。貴族の子息息女なら命の値段は国家予算並みになるのか」

 うわー、いらん情報をリアムくんに与えるんじゃない。

「なら、王族にはキミがS級魔物を討伐したことを伝えても良いか」

「、、、いや、国王だけだ」

 王族ではなく国王限定。
 王子にも知ってもらった方がいい気がするけど。

「それと、クロというのは砦の守護獣なのか?」

 ヴァリはリアムに尋ねた。

「キミに呼び捨てで呼ばれる筋合いはないねー」

 ヒュッと空気が冷えた。
 この部屋に重圧が加わった。
 コレは序の口だと思ったが、実感してわかる。あのとき学生たちはさらに恐ろしいほどの重圧を感じたはずだ。

「ああ、クロ、どこから現れるんだ?」

「リアムの服のなかからー」

 襟から黒い毛で覆われている小さい顔を覗かせている。
 クリクリおめめは可愛いのだが、威圧に関しては可愛らしさは微塵もない。
 リアムは圧なんかまったく感じていないようだ。

「本当に神出鬼没だなあ。現れるときはせめて肩にのれ」

「ぎゅむむーっ。リアムの服のなか、気に入っているのにー」

 リアムに両腕で潰されている。。。楽し気な笑顔だが。
 あの、砦の守護獣、なのか。

「入ってくるのは良いけど、いきなりこの中に現れるのはナシだ」

「クロ様、でよろしいでしょうか」

「そうだねー。リアム以外はそう呼んでるよー」

 ヴァリの問いに小さい手が賛成の挙手をしているかのようだ。

「あ、学園長、とりあえず勘違いしているようなので言っておきますが、この砦の守護獣であるクロがいたから、俺がS級魔物を討伐できたんですよ。まさかC級冒険者の俺がごくごく普通にS級魔物を討伐できるわけがないじゃないですかー」

 リアムは笑って言った。
 私はとりあえず唾を飲み込んでおいた。
 C級冒険者は普通、S級魔物と互角にヤり合うことはできないんだぞ、リアムくん。。。そのクロ様が現れる前の魔法以外の爆音を私たちが刻印で聞いていないと思っているのかな???

 で、リアムは私の手から誓約魔法の刻印がついた革の切れ端を取ってしまった。

「学園長が聞いたのですから、もう必要ないですよね。後はお二人の教師の美談にでも仕上げてください。死者に鞭打つこともないでしょうから」

「、、、感謝する。リアム・メルクイーン、魔法学園は国王との交渉の場ではキミに味方すると誓おう」

「、、、それはありがとうございます」

 ヴァリの言葉に、リアムは立ち上がって深い礼を見せた。
 えっと、その交渉の場ってヴァリも参加してくれるんだよね?
 私はリアムくんが国王と何を交渉しているのか一切知らないよ。
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