解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
159 / 291
7章 愚者は踊る

7-21 バタバタは続く

しおりを挟む
 なーんか今日は朝から騒がしい。
 魔法学園ではバタバタと動き回っている者がいるようだ。

 ま、俺には関係ないかー。
 自教室で講義開始を待っていた。
 バージが前の扉から教室に入ってきた。

「今日、一時限目、自習だって」

「いきなりー?」

「あー」

「仕方ないんじゃないか。この教員、生活指導も兼ねているんだろ」

 事情通がいそうだな、このクラス内には。

「はい、リアム、自習の課題プリント」

「あ、ありがと」

 欠伸をしていたところをバージに見られた。
 最後の一枚のプリントを受け取る。

「眠そうだね」

「昨日、冒険者ギルドでゴタゴタしていてねえ。帰るのが超遅くなった」

「へえ、隣いい?」

 学生が座る席はほぼ固定されてきているが、どこに座っても自由である。
 講義のときは一番前が良くても、自習ならばバージも席はどこでも良いのだろう。

「どうぞ」

 バージはプリントを持って席を移ってきた。

「冒険者ギルドでゴタゴタって、うちの学生のこと?」

 バージの言葉に、俺は首を傾げる。

「いや、討伐ポイントのことで問い合わせていた。低く評価されていたから調査を依頼していたら遅くなった」

「あー、冒険者ギルドでもそんなことあるんだ。大変だね」

「情報伝達はしっかりしてほしいよなー」

 自習の課題プリント書き書き。意外と簡単で良かった。
 残りは自由時間と化する。何しよっかなー。

「実はさー、ここの学生が三人、魔の森で迷子になってさー。今朝、見つかったんだよ」

 声を小さくしたバージが俺に追加の情報を与えてくれる。
 教室内も課題プリントをグループで一緒にやっている学生たちで騒がしくなっている。

「へえ、馬鹿はどこにでもいるんだな」

「、、、それがさ、入学生代表で挨拶した学生って覚えている?ゾーイ・マックレーという一年一組のクラス委員なんだけど、実はその学生がリーダー的存在だったのに、残りの三人を魔の森に置いてけぼりにしたとかで問題になっているんだ」

「、、、ゾーイ・マックレー?」

 どっかで聞いたな。
 どっかじゃなくて、昨晩だよ。聞きたてホヤホヤだよ。
 砦にお土産にしようとしている冒険者だよ。
 睡眠不足って、お肌に悪い、、、じゃなかった、頭の回転も鈍るね。

 そういや逃げた三人がいたな。
 すっかり門番に確認するのを忘れていたが、基本的に冒険者は自己責任だ。

「それの何が問題なんだ?その三人も冒険者なんだろ」

「え?だって、リーダー的な人物に置いていかれたらどうしようもないだろう」

「はて?置いてけぼりされてもどうにか対処するのが冒険者だろう。囮にされたのならともかく、一人でも生き残る術を持っていないと、魔物にヤられて仲間が全滅ってこともあり得るぞ。そもそも、あの三人が泣き喚いて、戦意喪失して逃げ出したんだ。可哀想にゾーイ・マックレーは一人取り残され、魔法がきかない魔物に魔法で直接攻撃して吹っ飛ばされていたんだよなー」

 しみじみ。

「、、、詳しいね」

「いやー、魔の森であまりにも大声で呪文唱えているし、あの四人、餌になって魔物をおびき寄せているとしか思えなかったからさー。大物が寄って来ないかなーと思って、ついつい見ちゃった。生きていて良かったね、その三人も」

「、、、現役冒険者はそういう感想になるんだね。知らなかったよ」

「え?バージは違うの?どういう感想を持つの?」

 意見交換は大切だよね。貴族だとどういう感想を持つんだろう。

「つまり、リーダー的存在ってことは、部下の三人にも責任を持っている。ゾーイ・マックレーは経験者なんだろ?だから、三人の家から管理責任を問う声が上がってきているらしい」

 ああ、ミソはリーダー的存在ってところか。本当に実力があるのなら、、、といってもやっぱり冒険者って自己責任だよなあ。誰と組むかは自分で決めるのだし。
 貴族って何はなくとも責任問題で追及しそうだな。弱みを見せるととことん追い込まれるってヤツか。

「うーん、俺からするとE級冒険者とF級冒険者なんて五十歩百歩。どちらも初心者初級者レベルで変わらない。しかも、魔の森には魔法がきかない魔物がうようよしているのに、魔導士だけのパーティなんだから馬鹿しかいない。けどさー、それも適材適所だよね。魔の森の魔物にはきかなくても、ゾーイ・マックレーの攻撃魔法って威力が絶大なんだよ。魔の大平原に来てくれないかなー。あのぐらいのA級魔導士なら歓迎するのになあ。お土産として持って帰りたいなー」

「お土産、、、私も課題プリント終わったから、教員室に提出しに行かないか、リアム」

 バージが立ち上がった。
 おやーん?雰囲気が何か有無を言わせない感じだぞ。

 ずるずるずる、と腕を引きずられて教室を出た。意外と強いな、バージくん。。。

「はあーーーー、で、どこに向かう気だ?」

「学園長室かなあ」

「何で」

「事実を事実として、魔法学園が認識した方が良いと思って」

「えー、俺、この件に関しては、冒険者ギルドにも魔法学園にもマックレー侯爵家にも言わないでおくって言っちゃったんだけどー」

「、、、リアム、ゾーイ・マックレーを助けたんだな」

 わかっちゃった?
 他の第三者には話さないとは言ってないからなあ。

「出世払いしてもらおうと思って。貴族の圧力があろうと、誓約魔法なら逃げられないからね。お金でもお土産でも俺にとっては損はない」

「はいはい。そのゾーイ・マックレーくんが教員に呼び出されて事情聴取されているけど、一人の意見だとそれが事実であっても、単に言い訳に聞こえてしまうんだ。事の顛末を学園長に話せ。俺が課題プリントは提出しておくから」

 俺の課題プリントはバージに奪われ、俺は学園長室にポイされた。
 バージくん、怖いよ、キミ。
 立派な指導者になれるよ。。。
 キミも砦に来る?

 バージは跡継ぎだから僻地に来るのは難しいかなー。




 しっかたないので、学園長に説明した。
 証拠として誓約魔法の刻印も再生してあげた。
 そして、アイツらは学生として魔の森に入ったわけではなく、冒険者として入ったのだからすべて自己責任だということも伝えた。

 門番にあの三人のこと聞くぐらいはしても良かったんじゃ、という学園長の問いに。
 忘れてた、と答えた。加えて、聞くのは任意であり、冒険者としてパーティが分断されることはあり得ることで、待ち合わせも何も決めてない方がおかしい、と言っておいてあげた。
 つまり、ゾーイ・マックレーだけに責任があるわけではない。四人が四人ともそれぞれに責任があることを自覚しなければならない。
 自覚できないのなら、冒険者なんかできやしないので、やめてしまえ。


 学園長が俺の名前を伏せて、昨日ゾーイ・マックレーを助けた冒険者に事情を聞いたということにして、すべてを終わらせた。
 事実がわかれば、魔法学園に押しかけて来たあの三人の家を学園長が黙らせるのは容易かったようだ。

 ということを翌日、いらんのに、学園長が俺に報告までしてくれた。
 学園長室でお茶と菓子まで出してくれている。こんな高級な菓子を出すくらいならラーメンを出前してもらえませんかね?あの店は出前してないので無理ですけどね。

「マックレー侯爵家から救助した冒険者宛に礼状が来た」

「え?借金踏み倒すって?」

 いけないなー。誓約魔法もあるのに。息子さんを魔の大平原に連れ去っても良いのかなー。

「キミの耳には礼状がどう聞こえたんだろうな。五男だから、命の値段を払い終えるまで冒険者としてこき使ってやってくださいという主旨のようだよ」

「おお、それは素晴らしい。砦にお土産にできる」

 ということは、ゾーイ・マックレーくんはバカ正直に事実と誓約魔法の刻印のことを伝えたんだね、ご両親に。
 他の貴族から騒がれてしまったら、両親も放置できないだろうけど。
 さすがに侯爵家。誓約魔法まで踏み倒すことはできないと悟ったか。

「キミは王都に冒険者をスカウトに来たのかね?」

「いや、全然。けれど、俺の攻撃魔法はショボいんですよねー。あんな高火力な攻撃魔法を何発も打てる人材なら、是非ともお土産に持って帰りたい。砦にはB級魔導士はいるんですけどねぇ」

「まあ、王都でも三男以下は就職難だから、スカウトされる人間もいるんじゃないか?ゾーイくんと一緒にいたあの三人はどうなの?」

「あ、実力を伴わないA級魔導士はいりませんから」

「けっこうキミ、キツイこと言うよね」

 冒険者は自己責任ですからね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...