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7章 愚者は踊る
7-18 無知は愚かに見える ◆ゾーイ視点◆
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◆ゾーイ視点◆
「ゾーイ・マックレーはここの席に座ってくれ」
一年一組のクラス委員に選ばれた俺は、放課後の委員会の招集を受けた。
指定された部屋に行くと、教室ぐらいはゆうにあろうかという部屋に、大邸宅にあるような広いテーブルが設置されている。調度品も歴史を感じる高価な物だ。
一年二組のラーラ・ハーラット、一年三組のバージ・テンガラットはすでに席に座っている。
職員に指示された席に俺も座る。
「二年一組は代理の者が出ている。王子殿下は所用でこちらには出席しない」
職員に言われて、ほんの少しホッとした自分がいた。
俺は侯爵家とはいえ、五男である。
社交界にさえ参加していないし、出席する予定もない。
入学式まで王子を見たことさえなかった。
王都の社交界には子供であっても、家の跡継ぎ、その家の事業に深く関係のある子、そして婚約者がまだいない女性は積極的に参加しなければならない。
女性は他の貴族の嫁にするために、親に連れて来られている。
ただし、高位貴族の子はほとんど婚約者が決まっているといってもいい。
けれども、他国の貴族も参加することがあるし、高位貴族の後妻として見初められる可能性もまったくないわけでもないため、嫌でも強制参加だ。
魔法学園の学生であっても、成人した者はこの冬から社交界デビューしている。
けれど、五男である自分はこの学園の学費を払ってもらえただけでもありがたいと思えと親に言われた。
隣に座っているハーラット侯爵家と違い、我がマックレー侯爵家は落ち目だ。
同じ侯爵家であっても、見栄だけでお金を捻出した我が家とは全然違うのである。
クラス委員会は最初の顔合わせ程度のものだった。
自己紹介をして、連絡事項を伝えられると終了した。
二学年のクラス委員はさっさとこの部屋を後にした。
「バージさんはリアムのところのクラス委員なのよね」
「あ、はい、ラーラ様」
この二人が配られた書類をまとめながら話を始めた。
「あの方、授業を真面目に受けているのですか?」
何だ、その質問。
「、、、私は前の席なので彼の授業態度は目にしてはおりませんが、教師からはよく指名されてますね。ごくごく普通に答えて、教師が歯軋りしたり悔しそうにしている場面は多いです」
「、、、目に浮かぶわ。」
、、、講義中、何しているんだ、その学生。
「頭も良いですからね。彼にはこんな講義は必要ないのでしょう」
「は?首席は私だ。頭が良いと言っても私には遠く及ばないだろ、その学生。どうせ三組なんだろ」
つい、声に出してしまった。
新入生代表の挨拶をしたのは俺だ。
つまり、この学年で俺の上にいる学生はいない。
憐みの目でラーラ・ハーラットに見られた。
ハーラット侯爵家の落ちこぼれに。
「、、、知らないということがこれほど愚かに見えるとは知りませんでしたわ」
「ラーラ様、、、」
困った表情を浮かべるバージ・テンガラット。
「けれど、私があの方を多くを語るのは無粋なこと。行きましょう、バージ。これから少し時間あるかしら?カフェテリアでお茶しましょう」
「は、はい、多少なら。。。」
侯爵家の人間に誘われたら嫌とは言えんよな。
「失礼しますわ、ゾーイ・マックレー様」
「あ、お先に失礼いたします」
二人は部屋から去っていく。
どういうことだ。
俺が知らないことが何かあるのか?
俺はまだこの部屋に残って後片付けをしている職員二人に視線をやる。
一人がビクッと肩を揺らした。
「事情を知っているな。どういうことだ。俺は首席ではないということか?」
「首席は別の学生でして、今回は爵位が低いということでご挨拶を辞退されたと聞いております」
爵位が低いということは三組か。
クラス委員のバージ・テンガラットではない。
とすると、クラス委員も断ったという線が強い。
そもそも、一組だったらクラス委員は俺ではなく最初にそいつに打診しているだろう。
あの二人の会話に出ていたリアムという人物である線が濃厚だ。
親や兄弟からも新入生代表として挨拶したことを褒められたというのに。
ラーラ・ハーラットはこの事実を確実に知っていた。
「首席はあの二人が話していたリアムという人物か?」
「その件は我々の口からはお答えすることはできませんので、もしどうしても知りたければ学園長にお尋ねください」
もう一人の職員が答えるのをとめ、さっさと片づけをして部屋から出ていった。
「ゾーイ様」
従者が馬車の前で待っている。
私は五男だから、従者も護衛も最小限である。侯爵家であるから家の恥にならないように多少の体裁を整えたというだけである。
寮にも入れてもらえなかった。
侯爵家用の部屋はかなり高額である。少し遠いが屋敷から通えと言われた。
王都の屋敷から馬車で通う学生というのは、ほとんどがこの学園に近い屋敷を持っている家の子供である。
馬車に乗り込みながら、御者と従者に指示をする。
「今日も冒険者ギルドに寄る」
「また魔の森に行くのですか?」
「そうしないと級も上がらないだろう」
「ゾーイ様は冒険者になるのですか?危険ですからおやめになるよう奥様もおっしゃって」
「お母様が何と言おうとマックレー侯爵家には王都でも領地でも俺の居場所はないじゃないか。ここで魔導士の腕を認めさせて、王城お抱えになるためにも実戦経験は必要だ。領地ですでにE級冒険者になっているんだから大丈夫だ」
領地にあるダンジョンで魔物討伐の経験を積んでいる。
この学園では安穏とした貴族の子弟ばかりなので、多少の魔法をすでに扱えるだけで他の学生からチヤホヤされてしまう。
実は、クジョー王国では高位貴族の出の方が、成人後の就職が難しい。
跡継ぎは長男であり、次男は補佐となるが、三男以降は領地でも王都でも仕事がない。
三男以降に仕事があるのは繁盛している大商会を持っているような家だけだ。そういう家は親族が足りないとほざく。
王城の役人にならないと、就職はかなり厳しくなる。
他の家が雇ってくれるかというと、婚姻を伴わない場合は間者を疑われたり、厄介者を押しつけて来たのではないかと勘繰られる。
親の介入があればどこかに滑り込めるだろうが、能力がまったくないのならそれも仕方がないが、A級魔導士である俺が親のすねかじりと見られるのは嫌だった。
魔法学園で高い評価を得て、王城の役人としての道を歩むのが堅実だ。魔導士として雇われるのが一番だが、事務職でも魔法騎士でもかまわない。
冒険者として一旗揚げることができれば、魔法学園での評価もさらに上がるだろう。
冒険者ギルドに降ろしてもらうと、すでにクラスメイトである三人の学生が待っていた。
俺と同じような境遇の三人だ。実家の爵位はうちより下の伯爵家だが、彼らも厳しい状況だからこそ冒険者に登録した。
入学当初から四人でパーティを組んでいる。三人は初心者のF級冒険者だが、全員A級魔導士だ。すぐに強い魔物を数多く討伐して昇級するつもりだ。
「早かったな、お前たち」
「そりゃ、委員会があったゾーイに比べたら早く着くよ」
「今日の目標も大物一頭っ」
「目標も大切だが、まずはお互い魔法の連携をしっかりしていこう」
魔法学園の制服のマントを、他の冒険者たちは遠巻きに見ている。
羨望の眼差しなのだろう。
華々しい未来がある若者を見て、疲れた彼らは嫉妬しているのだろう。
魔の森に入るために、東の門に向かおうとする。
「あーあ、掲示板に貼りだされているんだから、せめて魔物の出没地ぐらい見ていけばいいのに」
「それが魔法学園の学生だよ。アイツらに話しかけても何の得もねえからお前も気をつけろよ」
後ろから声が聞こえた。
ふっ、何も知らない愚かな冒険者たちめ。
我々には探索魔法というものがあるのだよ。
「ゾーイ・マックレーはここの席に座ってくれ」
一年一組のクラス委員に選ばれた俺は、放課後の委員会の招集を受けた。
指定された部屋に行くと、教室ぐらいはゆうにあろうかという部屋に、大邸宅にあるような広いテーブルが設置されている。調度品も歴史を感じる高価な物だ。
一年二組のラーラ・ハーラット、一年三組のバージ・テンガラットはすでに席に座っている。
職員に指示された席に俺も座る。
「二年一組は代理の者が出ている。王子殿下は所用でこちらには出席しない」
職員に言われて、ほんの少しホッとした自分がいた。
俺は侯爵家とはいえ、五男である。
社交界にさえ参加していないし、出席する予定もない。
入学式まで王子を見たことさえなかった。
王都の社交界には子供であっても、家の跡継ぎ、その家の事業に深く関係のある子、そして婚約者がまだいない女性は積極的に参加しなければならない。
女性は他の貴族の嫁にするために、親に連れて来られている。
ただし、高位貴族の子はほとんど婚約者が決まっているといってもいい。
けれども、他国の貴族も参加することがあるし、高位貴族の後妻として見初められる可能性もまったくないわけでもないため、嫌でも強制参加だ。
魔法学園の学生であっても、成人した者はこの冬から社交界デビューしている。
けれど、五男である自分はこの学園の学費を払ってもらえただけでもありがたいと思えと親に言われた。
隣に座っているハーラット侯爵家と違い、我がマックレー侯爵家は落ち目だ。
同じ侯爵家であっても、見栄だけでお金を捻出した我が家とは全然違うのである。
クラス委員会は最初の顔合わせ程度のものだった。
自己紹介をして、連絡事項を伝えられると終了した。
二学年のクラス委員はさっさとこの部屋を後にした。
「バージさんはリアムのところのクラス委員なのよね」
「あ、はい、ラーラ様」
この二人が配られた書類をまとめながら話を始めた。
「あの方、授業を真面目に受けているのですか?」
何だ、その質問。
「、、、私は前の席なので彼の授業態度は目にしてはおりませんが、教師からはよく指名されてますね。ごくごく普通に答えて、教師が歯軋りしたり悔しそうにしている場面は多いです」
「、、、目に浮かぶわ。」
、、、講義中、何しているんだ、その学生。
「頭も良いですからね。彼にはこんな講義は必要ないのでしょう」
「は?首席は私だ。頭が良いと言っても私には遠く及ばないだろ、その学生。どうせ三組なんだろ」
つい、声に出してしまった。
新入生代表の挨拶をしたのは俺だ。
つまり、この学年で俺の上にいる学生はいない。
憐みの目でラーラ・ハーラットに見られた。
ハーラット侯爵家の落ちこぼれに。
「、、、知らないということがこれほど愚かに見えるとは知りませんでしたわ」
「ラーラ様、、、」
困った表情を浮かべるバージ・テンガラット。
「けれど、私があの方を多くを語るのは無粋なこと。行きましょう、バージ。これから少し時間あるかしら?カフェテリアでお茶しましょう」
「は、はい、多少なら。。。」
侯爵家の人間に誘われたら嫌とは言えんよな。
「失礼しますわ、ゾーイ・マックレー様」
「あ、お先に失礼いたします」
二人は部屋から去っていく。
どういうことだ。
俺が知らないことが何かあるのか?
俺はまだこの部屋に残って後片付けをしている職員二人に視線をやる。
一人がビクッと肩を揺らした。
「事情を知っているな。どういうことだ。俺は首席ではないということか?」
「首席は別の学生でして、今回は爵位が低いということでご挨拶を辞退されたと聞いております」
爵位が低いということは三組か。
クラス委員のバージ・テンガラットではない。
とすると、クラス委員も断ったという線が強い。
そもそも、一組だったらクラス委員は俺ではなく最初にそいつに打診しているだろう。
あの二人の会話に出ていたリアムという人物である線が濃厚だ。
親や兄弟からも新入生代表として挨拶したことを褒められたというのに。
ラーラ・ハーラットはこの事実を確実に知っていた。
「首席はあの二人が話していたリアムという人物か?」
「その件は我々の口からはお答えすることはできませんので、もしどうしても知りたければ学園長にお尋ねください」
もう一人の職員が答えるのをとめ、さっさと片づけをして部屋から出ていった。
「ゾーイ様」
従者が馬車の前で待っている。
私は五男だから、従者も護衛も最小限である。侯爵家であるから家の恥にならないように多少の体裁を整えたというだけである。
寮にも入れてもらえなかった。
侯爵家用の部屋はかなり高額である。少し遠いが屋敷から通えと言われた。
王都の屋敷から馬車で通う学生というのは、ほとんどがこの学園に近い屋敷を持っている家の子供である。
馬車に乗り込みながら、御者と従者に指示をする。
「今日も冒険者ギルドに寄る」
「また魔の森に行くのですか?」
「そうしないと級も上がらないだろう」
「ゾーイ様は冒険者になるのですか?危険ですからおやめになるよう奥様もおっしゃって」
「お母様が何と言おうとマックレー侯爵家には王都でも領地でも俺の居場所はないじゃないか。ここで魔導士の腕を認めさせて、王城お抱えになるためにも実戦経験は必要だ。領地ですでにE級冒険者になっているんだから大丈夫だ」
領地にあるダンジョンで魔物討伐の経験を積んでいる。
この学園では安穏とした貴族の子弟ばかりなので、多少の魔法をすでに扱えるだけで他の学生からチヤホヤされてしまう。
実は、クジョー王国では高位貴族の出の方が、成人後の就職が難しい。
跡継ぎは長男であり、次男は補佐となるが、三男以降は領地でも王都でも仕事がない。
三男以降に仕事があるのは繁盛している大商会を持っているような家だけだ。そういう家は親族が足りないとほざく。
王城の役人にならないと、就職はかなり厳しくなる。
他の家が雇ってくれるかというと、婚姻を伴わない場合は間者を疑われたり、厄介者を押しつけて来たのではないかと勘繰られる。
親の介入があればどこかに滑り込めるだろうが、能力がまったくないのならそれも仕方がないが、A級魔導士である俺が親のすねかじりと見られるのは嫌だった。
魔法学園で高い評価を得て、王城の役人としての道を歩むのが堅実だ。魔導士として雇われるのが一番だが、事務職でも魔法騎士でもかまわない。
冒険者として一旗揚げることができれば、魔法学園での評価もさらに上がるだろう。
冒険者ギルドに降ろしてもらうと、すでにクラスメイトである三人の学生が待っていた。
俺と同じような境遇の三人だ。実家の爵位はうちより下の伯爵家だが、彼らも厳しい状況だからこそ冒険者に登録した。
入学当初から四人でパーティを組んでいる。三人は初心者のF級冒険者だが、全員A級魔導士だ。すぐに強い魔物を数多く討伐して昇級するつもりだ。
「早かったな、お前たち」
「そりゃ、委員会があったゾーイに比べたら早く着くよ」
「今日の目標も大物一頭っ」
「目標も大切だが、まずはお互い魔法の連携をしっかりしていこう」
魔法学園の制服のマントを、他の冒険者たちは遠巻きに見ている。
羨望の眼差しなのだろう。
華々しい未来がある若者を見て、疲れた彼らは嫉妬しているのだろう。
魔の森に入るために、東の門に向かおうとする。
「あーあ、掲示板に貼りだされているんだから、せめて魔物の出没地ぐらい見ていけばいいのに」
「それが魔法学園の学生だよ。アイツらに話しかけても何の得もねえからお前も気をつけろよ」
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