解放の砦

さいはて旅行社

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7章 愚者は踊る

7-7 冒険者をする貴族とは

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 先輩冒険者ゼンさんに時間の限り様々な話を聞いた。
 正確な情報を無料で手に入れられるのは、冒険者にとっては非常に貴重な時間だ。
 砦以外での情報料は高い。

 砦では情報を集める時間があるのなら、一匹でも魔物を狩ってくれというスタンスだからである。
 他のダンジョンでは情報も金になる。自分の命を守るための情報に高額をつける。

「あ、最後に魔法学園の学生が数人でパーティを組んでいるという話がありましたが、あの人たち貴族でしょ?護衛はついてないんですか?」

「貴族でもピンキリでさ。護衛をつけられるような家なら、冒険者登録までしねえ。冒険者登録までして魔の森に入らなければならない貴族の子弟なんて、兄弟の末端も末端か、金もかけてもらえない子か、それか、没落間近な家の子だ」

「魔法学園は高い学費をかけて通うじゃないですか。それなのに?」

「見栄でその学費を払うのが精一杯なんだろ。爵位が上になればなるほど、必要な額は増えると聞いている。二年間で必要になるのは相当な金額になる。庶民ではまったく手が出せない金額だ。それなのに、上を見過ぎていて自分がどれだけ恵まれているが気づかない。だから、命を救われようとその対価を払わないクズになる」

 俺も庶民で良かったのになー。魔法学園に通わなくて済んだのに。
 俺の生活は庶民だよ。貴族らしい生活なんてしたことないよー。

「これから王都は社交シーズンになるから、やってくる地方の貴族も多くなる。街でも馬鹿が増えるから気をつけろよ」

 あー、貴族の馬鹿が増殖するんですか。。。
 困ったものだ。
 位の高い貴族は馬鹿な行動をあまりしない。足の引っ張り合いにわざわざ餌をくれてやる必要もない。
 が、貴族の末端である子爵家、男爵家には充分な教育を受けていない子供も多い。彼らは貴族が何たるかを知らずに傍若無人にふるまう。
 特に地方に行けば行くほどその傾向が強いという。
 メルクイーン男爵領なんて地方も地方だよ。

「ま、派手な馬車に乗っている奴には近づかなければ正解だ」

 それは良い見分け方を教えてもらいました。
 職員さんが終了の合図をすると、俺はゼンさんにお礼を言って別れた。
 ゼンさんは買取カウンターに呼ばれていった。

 こっそりと夜の闇に紛れて、魔法学園に向かう。
 この遅い時間になると魔法学園の前の大通りには通行人はいない。
 緊急時でもなければ、魔法学園に来る人間もいないだろう。

「お疲れ様です」

 俺は門の前に立っている門番に外出許可証を見せる。

「はっ、お疲れ様ですっ。お帰りなさいませっ」

 何で声が上擦っているんだろ、この門番。
 ああ、この学園の学生だと思っていなかったからか?慌てた?

 大きな門を開けずに、中の人間が横にある普通の大きさの扉を開けてくれる。通用口のようなものなのだろうか。
 それでも、かなり重厚な金属の扉である。

「ありがとうございます」

「いえ、いつもお帰りはこのぐらいの時間になるのですか?」

「入学式後の夜の帰りは魔物の状況によって異なるかと思います。一概に何時とは言えませんので、門番のいない時間帯があるのでしたら」

「いえ、いつも誰かしらおりますのでお気になさらず」

 気を抜いているときに、学生が帰ってきたら嫌だろうね。
 帰る時間がわかるならわかっておきたいぐらいなものだったのだろう。
 通いの学生や教職員が帰ったら、夜間なんて誰も来ないんだろうし。




 寮に帰ると、廊下には灯りが点いている。
 何の灯りかというと、魔石灯と呼ばれるものだ。名の通り魔石が動力源となり、灯りをともす。
 お高い魔道具だが、光を絞ればかなり長持ちするらしい。
 皆が使う場所は学園が魔石を用意する。

 ちなみに、砦も魔石灯である。あの城は本当に贅沢な限りの造りなのだ。
 ただし、照明はここまで明るくない。暗い感じのホテルの照明、と言えばわかるだろうか?三階以上は貴族用なのでものすごく明るくできるが、一階と二階は使用人用のフロアである。廊下も部屋もほんのりと明るいレベルである。

 俺の部屋に入ると暗いままだ。
 スイッチがあるが明るくならない。つまり部屋用の魔石は自分で用意しろということらしい。
 ま、寝るだけなので別に良いか。さっさと寝てしまおう。

 次の日の夜にはスイッチを入れると、部屋がほんのりと明るくなった。
 最低限の魔石を入れてくれたらしい。
 寮でも最低限の物であっても用意してくれるとは思わなかった。ありがたやー。
 普通は従者とかが補充するんだろうな。上の人間は部屋数も多いから魔石を調達するのも大変だな。
 俺の収納鞄に手持ちの魔石はあるが、使う気にはなれなかっただけなのだが。

 そして、暖房器具も魔石が動力源になっている。薪暖炉とかではない。
 コレも最低限の魔石がついていた。寒くはないなーというくらいには部屋が暖まっていた。
 王都の夜は冷える。
 クロとシロ様の布団で何とか凌げるかなと思っていたが、良かった良かった。
 メルクイーン男爵領の冬は、冬と言っても冬じゃない。温暖だったんだなー、としみじみ思う。


 で、朝に一回、二段戸棚を収納鞄から取り出して、中を確認する。
 王都に着いたよー、とクトフにメモを入れた時点から、差し入れとする物が増えてきた。。。
 しまいには野菜がぎゅうぎゅうに詰められていた。。。
 いや、ありがたいけど。

 そして、収納鞄に入れられて、差し入れの物が送られてくるようになった。
 俺が空間魔法をかけた収納鞄だ。砦でクトフが購入したのだろうか?

「、、、」

 詰められている中身の量が量だ。
 これは完全にクトフが送るように頼まれていないか?
 けどさー、食材が多いよね。。。
 クトフが料理してから送ってくれてもいいのに。
 残念だなー。メモに書いておこ。いつか間違って作ってくれるかもしれないし。

 そして、日に日に量が増えていく。
 この量を俺とクロで食えって?
 朝夕は出るんだぞ、この寮では。
 まだ入学式前でも食事は出る。

 そして、戸棚に収納鞄を入れてこられると、机の上に置きっぱなしにして良いものじゃない。
 この部屋には寮の従業員も清掃等で入る。ふとした瞬間に戸が開くこともあるかもしれない。
 野菜ゴロゴロとかなら別に良いんだけど。何でこんなもの戸棚に入れておくんだろうという疑問はわくだろうが。
 貴重品は置いていけない。鉄則だ。

 この寮の部屋は清掃をしてくれる。ただし、部屋の清掃を希望する学生は少ない。
 貴族の子弟は家から連れてきた者にやらすのだ。
 まあ、貴族の子弟というぐらいだから、持って来る服も備品も何もかも一流品の超高価なものだろう。そんな物を他人に触らせたくないという気持ちもわかる。従者が何人もいるのだから、その人たちが世話をすればいい。

 普通の学生は相当な額を取られているので、この学園、寮においては、通常考えられる範囲内の行為についてチップは必要ない。部屋の掃除をしてくれるからと枕銭を置いておく必要はないのである。
 もちろん、特別なことをしてもらう場合は別料金を請求される。




 入学式前日。
 魔の森に出かける前に部屋へ荷物が届いた。

「あ、」

 そうだった。
 中身を見てようやく思い出す。
 制服のマントが届く予定だったね。
 羽織ってみると、温かい。
 冬にはぴったりだ。
 そう、冬には。。。
 え?コレ、夏用、冬用とかないの?コレだけなの?
 あ、貴族様は勝手にオーダーメイドで外見だけ同じような薄くて涼しい夏用のマントを作るのか。

 夏にコレ着たくないなあ。
 魔法で細工しないとダメじゃん。
 白って汚れるよね、確実に。俺には替えがないから、やっぱり魔法をかけるしかないか。

 他の学生は、、、きっと替えも山ほど持っているんだろうなあ。。。
 羨ましい。
 捨てるのなら、俺にくれませんかね?
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