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5章 必要とされない者
5-32 王都へ向けて出発
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冒険者ギルドの女性職員の叫び声が建物に響いたため、男性職員も慌てて受付に出てきた。
そこにいたのが俺と砦の守護獣だったため、首を傾げて女性職員を見た。
「リ、リアムさんが移転届を出すと、、、とうとう嫌気がさしてご実家を飛び出す決意を」
狼狽えながら、女性職員が男性職員に訴えている。
ああ、あの大声はそういうことか。
嫌気がさしていたのは昔からだが、俺が実家を飛び出しても砦止まりなのだが。
「いえ、魔法学園の入学が決まったので、二年間王都に行かねばならなくなりまして」
「え?」
女性職員の顔がすっと通常営業の笑顔に戻った。
「少々取り乱してしまい、申し訳なかったですね」
頬に手を当て取り澄ます。
「王都の魔の森で活動しますので、そちらの申請もお願いします」
「魔の森での活動は移転の届け出を出してもらえば大丈夫ですよ。あそこはF級冒険者も入れるので」
事情がわかった男性職員が後ろで棚から書類を出している。
「あ、従魔登録の用紙も二枚お願いします」
俺がそう言うと、男性職員は手にしようとしていた書類をヒラリと落とした。
女性職員の方がその書類をキャッチした。
「、、、従魔登録ですか?」
「はい。シロ様がその方がクロも王都で動きやすいのではと提案してくれたので」
「リアムのためなら魔物のフリでも何でもしてあげるよー」
クロが元気いっぱい答えてくれる。従魔、つまり冒険者に従う魔物という意味だから。
シロ様の分は俺の我が儘だ。
ところで、男性職員が固まったままなんだけど。
「あの?」
「それは砦の守護獣様がリアムさんと一緒に王都に行ってしまうということですか?」
「知らせがあまりにも急で、さすがに十一月の入学式に間に合わないところを、クロが学園まで送ってくれることになりまして。一週間ほどで王都に着いたら、砦に戻します」
「そうなんですね。ここから王都では馬車で一か月もかかりますからね。さすがは砦の守護獣様」
ホッとしたような顔の女性職員。男性職員は停止状態が続いている。
そんなに驚くことだったのか?
女性職員が書類を三枚カウンターに置く。
さっさと書いちゃおう。
「でっもー、僕は毎日昼食をリアムと取るよー」
「、、、それだと砦に戻って来れないのでは?」
女性職員がよろよろしはじめた。精神の消耗が激しいらしい。
砦の守護獣様の言動に翻弄されている。。。
「シロが怖いから、一応毎日砦には戻ってくるよー」
「、、、毎日。砦の守護獣様の能力は、我々には計り知れないということなのですね」
心臓が持たないと判断したのか、深く追及するのを諦めたようだ。
砦に守護獣がいなくなってしまえば、この地が心配だということもわかる。
きっとこの冒険者ギルドの職員の反応が正しいのだろう。
「はい、書類、書けました」
「承りました。では、リアムさん、道中お気をつけて」
「俺がいない間、砦から杜撰な書類がこちらに提出されることもあるかと思いますが、大目に見てやってください。では」
俺は言うことだけ言って、冒険者ギルドを後にする。
さっさと足早に去る。
「えええええーーーーーーっっ」
女性職員の先程より大きな叫び声が通りまで響き渡った。
男性職員は俺が出るまで固まったままだったなー。
「リアムさんがいない間の砦の管理者の代理は誰がするんですかーっ」
後ろを振り向かないで急ごう。
街外れで、クロが俺を簡単に乗せられるぐらい大きくなる。
馬よりは小さいが、狼よりは大きいだろう。
鞍はないが、跨ると座り心地は良い。
フカフカだ。
「リアムー、軽いよー。もっと食べないとダメだよー」
こんなところでダメ出しを食らってしまった。
「じゃあな、リアム。私の見送りはここまでだ」
シロ様はちっこいままだった。小さく手を振ってくれている。
「それでは、シロ様、いって」
言い終わらない内に、クロが走り出してしまった。
「いってきまーす」
だから、大声でシロ様に言った。
感謝の気持ちも何もかもを込めて。
俺はユニークスキルを持っていたとしても、F級魔導士。その上、男爵家である。
魔法学園でもいてもいなくてもいい存在として扱われ方が環境としてはいいだろう。
学生の間は平等を謳っていても、教師がいないところではそんなことはあり得ない。
俺の懸念材料は、俺が上の貴族には対抗できない下位の男爵家。
この領地では守られているメルクイーン男爵家だが、この領地を一歩出てしまえば関係ない。
標的になるのは目に見えている。
入学式に遅刻はしないのだから、できるだけ目立たないようにする。
それでも、精神的には辛い目に遭うのは予想できる。
王都でシロ様に会えることだけを楽しみに、日々大人しくしておこう。
その前に王都の冒険者ギルドに行って、魔の森で魔物討伐して、少しでも金を稼いでおかなくては。
クロがかなり飛ばしたので、すでに数個の領地を通過した。
西の方にある男爵領や子爵領は小さいのでかなりの数を通過しなければならない。
メルクイーン男爵領から王都までは多少蛇行しながらも大きな街道が横に走っている。クジョー王国は東西に長い国であり、王都はクジョー王国の東の端にある。
本来なら馬車で一か月の距離だ。早馬で駆けていくのならかなり縮まるが、馬も生き物。あまりに酷使したら使い物にならなくなる。途中で早馬を乗り換えていくのなら、それなりの出費になる。
「クロ、この辺で野営するか」
この街道には宿場町のようなものも数あれど、魔物を気にしないのなら野営という手段もアリだ。
基本的には護衛やお連れの人を山ほど連れていく一行が、街に入ると余計騒ぎになったり、時間が取られたりするので野営という選択を取る。
通常、俺のような単独で行動する者は外壁のある宿場町一択なのだが、この辺りもまだまだ田舎だ。
大きな都市を見かけたら入ってみたいが、外壁がある街や村に入るには、その際に身分証の確認とか時間が取られる場合がある。
今回、あまり時間がないので、残念だが観光の時間は取れない。反対に街に入って宿の客引きやら物売りやら何やらに声を掛けられるのも面倒である。
興味を引くものがないか行きに観察しておいて、二年後の帰り道に寄って行くという感じになるだろう。
街道から少し離れ、木々が適当にあるところにテントを張る。
日が落ちる前に、焚き火をする。
魔の大平原から離れれば離れるほど寒くなっていく。
この国では十月中旬を過ぎれば秋の収穫はほぼ終わっている。
これから本格的な冬になるからこそ、王都は十一月から社交シーズンになるのだ。
「そっかー、これから寒くなるのか」
寒い、と思えるほどの気候は、まだこの世界に来て体験していなかった。
クジョー王国でも雪が降る地があるのだろうか。
「リアム、何か作るのー?」
クロがすでにちっこくなって、わくわく顔で俺を見ている。
「いろいろ作って収納鞄には入れているけど、何か食べたいものがあるのか」
「オム」
「温かいホワイトシチューがあるから、それと魔物肉でも焼こうか」
聞かずとも、クロに食べたいものを聞けば、オムライス一択だったよ。
オムライスは昼に食べたじゃん。一日二食オムライスは俺が嫌だよ。
冒険者のための料理道具一式というのが砦では売られている。
基本的には砦の食堂で売られているレトルトパックを湯煎にかけるものだが、それで普通に料理もできる。小さいフライパンや鍋やヘラやお玉等もついており、ダンジョンには心強い味方である。
魔の大平原でニオイ対策をしないで本格的な料理を作ろうとしたら、確実に魔物を引き寄せるハメになるが。
他のダンジョンではそうでもないらしい。ある程度、料理も可能なダンジョンは存在している。
パンは近所のパン屋でいつものパンをけっこうな数購入して収納鞄に入れてある。
王都では普通のパンでも高いんだろうなー、と思うとついつい入れてしまった。状態保存の収納鞄なので、特に必要なければ、二年後に帰ったときにクズ親父たちに食わせればいい。
「シチュー、シチュー」
オムライスでなくとも、出してしまえば、クロは文句は言わない。
コップにシチューをよそって、スプーンを渡してやる。
「あーっ、あっつあつー」
クロがはふはふしながら具を食べている。
辺境伯の収納鞄は優秀だね。入れたときの温度がまだまだ保たれている。
クロがシチューを食べている隙に、魔物肉を塩で焼く。
星空の下で食事をとる。
一人だと寂しかったかもしれないが、クロもいる。
キャンプは前世でもやったことはなかったな。
食べ終わると、クロは焚き火のそばで横になっていたが。
「あ、そうだ、リアムー。僕の誓約者になったんだから見せてあげるよー」
とクロが言って、人化した。
その場に立っていたのは、俺の予想通りのワイルドイケメンな姿であった。
そこにいたのが俺と砦の守護獣だったため、首を傾げて女性職員を見た。
「リ、リアムさんが移転届を出すと、、、とうとう嫌気がさしてご実家を飛び出す決意を」
狼狽えながら、女性職員が男性職員に訴えている。
ああ、あの大声はそういうことか。
嫌気がさしていたのは昔からだが、俺が実家を飛び出しても砦止まりなのだが。
「いえ、魔法学園の入学が決まったので、二年間王都に行かねばならなくなりまして」
「え?」
女性職員の顔がすっと通常営業の笑顔に戻った。
「少々取り乱してしまい、申し訳なかったですね」
頬に手を当て取り澄ます。
「王都の魔の森で活動しますので、そちらの申請もお願いします」
「魔の森での活動は移転の届け出を出してもらえば大丈夫ですよ。あそこはF級冒険者も入れるので」
事情がわかった男性職員が後ろで棚から書類を出している。
「あ、従魔登録の用紙も二枚お願いします」
俺がそう言うと、男性職員は手にしようとしていた書類をヒラリと落とした。
女性職員の方がその書類をキャッチした。
「、、、従魔登録ですか?」
「はい。シロ様がその方がクロも王都で動きやすいのではと提案してくれたので」
「リアムのためなら魔物のフリでも何でもしてあげるよー」
クロが元気いっぱい答えてくれる。従魔、つまり冒険者に従う魔物という意味だから。
シロ様の分は俺の我が儘だ。
ところで、男性職員が固まったままなんだけど。
「あの?」
「それは砦の守護獣様がリアムさんと一緒に王都に行ってしまうということですか?」
「知らせがあまりにも急で、さすがに十一月の入学式に間に合わないところを、クロが学園まで送ってくれることになりまして。一週間ほどで王都に着いたら、砦に戻します」
「そうなんですね。ここから王都では馬車で一か月もかかりますからね。さすがは砦の守護獣様」
ホッとしたような顔の女性職員。男性職員は停止状態が続いている。
そんなに驚くことだったのか?
女性職員が書類を三枚カウンターに置く。
さっさと書いちゃおう。
「でっもー、僕は毎日昼食をリアムと取るよー」
「、、、それだと砦に戻って来れないのでは?」
女性職員がよろよろしはじめた。精神の消耗が激しいらしい。
砦の守護獣様の言動に翻弄されている。。。
「シロが怖いから、一応毎日砦には戻ってくるよー」
「、、、毎日。砦の守護獣様の能力は、我々には計り知れないということなのですね」
心臓が持たないと判断したのか、深く追及するのを諦めたようだ。
砦に守護獣がいなくなってしまえば、この地が心配だということもわかる。
きっとこの冒険者ギルドの職員の反応が正しいのだろう。
「はい、書類、書けました」
「承りました。では、リアムさん、道中お気をつけて」
「俺がいない間、砦から杜撰な書類がこちらに提出されることもあるかと思いますが、大目に見てやってください。では」
俺は言うことだけ言って、冒険者ギルドを後にする。
さっさと足早に去る。
「えええええーーーーーーっっ」
女性職員の先程より大きな叫び声が通りまで響き渡った。
男性職員は俺が出るまで固まったままだったなー。
「リアムさんがいない間の砦の管理者の代理は誰がするんですかーっ」
後ろを振り向かないで急ごう。
街外れで、クロが俺を簡単に乗せられるぐらい大きくなる。
馬よりは小さいが、狼よりは大きいだろう。
鞍はないが、跨ると座り心地は良い。
フカフカだ。
「リアムー、軽いよー。もっと食べないとダメだよー」
こんなところでダメ出しを食らってしまった。
「じゃあな、リアム。私の見送りはここまでだ」
シロ様はちっこいままだった。小さく手を振ってくれている。
「それでは、シロ様、いって」
言い終わらない内に、クロが走り出してしまった。
「いってきまーす」
だから、大声でシロ様に言った。
感謝の気持ちも何もかもを込めて。
俺はユニークスキルを持っていたとしても、F級魔導士。その上、男爵家である。
魔法学園でもいてもいなくてもいい存在として扱われ方が環境としてはいいだろう。
学生の間は平等を謳っていても、教師がいないところではそんなことはあり得ない。
俺の懸念材料は、俺が上の貴族には対抗できない下位の男爵家。
この領地では守られているメルクイーン男爵家だが、この領地を一歩出てしまえば関係ない。
標的になるのは目に見えている。
入学式に遅刻はしないのだから、できるだけ目立たないようにする。
それでも、精神的には辛い目に遭うのは予想できる。
王都でシロ様に会えることだけを楽しみに、日々大人しくしておこう。
その前に王都の冒険者ギルドに行って、魔の森で魔物討伐して、少しでも金を稼いでおかなくては。
クロがかなり飛ばしたので、すでに数個の領地を通過した。
西の方にある男爵領や子爵領は小さいのでかなりの数を通過しなければならない。
メルクイーン男爵領から王都までは多少蛇行しながらも大きな街道が横に走っている。クジョー王国は東西に長い国であり、王都はクジョー王国の東の端にある。
本来なら馬車で一か月の距離だ。早馬で駆けていくのならかなり縮まるが、馬も生き物。あまりに酷使したら使い物にならなくなる。途中で早馬を乗り換えていくのなら、それなりの出費になる。
「クロ、この辺で野営するか」
この街道には宿場町のようなものも数あれど、魔物を気にしないのなら野営という手段もアリだ。
基本的には護衛やお連れの人を山ほど連れていく一行が、街に入ると余計騒ぎになったり、時間が取られたりするので野営という選択を取る。
通常、俺のような単独で行動する者は外壁のある宿場町一択なのだが、この辺りもまだまだ田舎だ。
大きな都市を見かけたら入ってみたいが、外壁がある街や村に入るには、その際に身分証の確認とか時間が取られる場合がある。
今回、あまり時間がないので、残念だが観光の時間は取れない。反対に街に入って宿の客引きやら物売りやら何やらに声を掛けられるのも面倒である。
興味を引くものがないか行きに観察しておいて、二年後の帰り道に寄って行くという感じになるだろう。
街道から少し離れ、木々が適当にあるところにテントを張る。
日が落ちる前に、焚き火をする。
魔の大平原から離れれば離れるほど寒くなっていく。
この国では十月中旬を過ぎれば秋の収穫はほぼ終わっている。
これから本格的な冬になるからこそ、王都は十一月から社交シーズンになるのだ。
「そっかー、これから寒くなるのか」
寒い、と思えるほどの気候は、まだこの世界に来て体験していなかった。
クジョー王国でも雪が降る地があるのだろうか。
「リアム、何か作るのー?」
クロがすでにちっこくなって、わくわく顔で俺を見ている。
「いろいろ作って収納鞄には入れているけど、何か食べたいものがあるのか」
「オム」
「温かいホワイトシチューがあるから、それと魔物肉でも焼こうか」
聞かずとも、クロに食べたいものを聞けば、オムライス一択だったよ。
オムライスは昼に食べたじゃん。一日二食オムライスは俺が嫌だよ。
冒険者のための料理道具一式というのが砦では売られている。
基本的には砦の食堂で売られているレトルトパックを湯煎にかけるものだが、それで普通に料理もできる。小さいフライパンや鍋やヘラやお玉等もついており、ダンジョンには心強い味方である。
魔の大平原でニオイ対策をしないで本格的な料理を作ろうとしたら、確実に魔物を引き寄せるハメになるが。
他のダンジョンではそうでもないらしい。ある程度、料理も可能なダンジョンは存在している。
パンは近所のパン屋でいつものパンをけっこうな数購入して収納鞄に入れてある。
王都では普通のパンでも高いんだろうなー、と思うとついつい入れてしまった。状態保存の収納鞄なので、特に必要なければ、二年後に帰ったときにクズ親父たちに食わせればいい。
「シチュー、シチュー」
オムライスでなくとも、出してしまえば、クロは文句は言わない。
コップにシチューをよそって、スプーンを渡してやる。
「あーっ、あっつあつー」
クロがはふはふしながら具を食べている。
辺境伯の収納鞄は優秀だね。入れたときの温度がまだまだ保たれている。
クロがシチューを食べている隙に、魔物肉を塩で焼く。
星空の下で食事をとる。
一人だと寂しかったかもしれないが、クロもいる。
キャンプは前世でもやったことはなかったな。
食べ終わると、クロは焚き火のそばで横になっていたが。
「あ、そうだ、リアムー。僕の誓約者になったんだから見せてあげるよー」
とクロが言って、人化した。
その場に立っていたのは、俺の予想通りのワイルドイケメンな姿であった。
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