解放の砦

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5章 必要とされない者

5-21 どうしようもない ◆ルイ視点◆

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◆ルイ視点◆

 王都でリアム・メルクイーンの株が王子より上なのは周知の事実だ。
 嫉妬、羨望、どちらを王子が抱えていたにしても、王子が砦にしてしまった行動は王子の株を下げる。
 そして、王子はさらに拗らせることになる。厄介だ。

 だが、リアムを陥れたいがために国民の命を危険に晒すのは論外だ。

 愚かな王子として、砦の一件はすでに高位の貴族には知れ渡っている。
 国王は火消しに必死になっている。

「ルーカス、久々だな。もっと王城に頻繁に来てほしいのだが」

 応接室に入ってきた国王は、私に言った。

「国王陛下、ご無沙汰しております」

「堅苦しいな。昔みたいに呼んでほしい。信頼できる者しかこの場にはおらん」

「お兄様も元気そうですね」

 にこやかに呼び名を変える。
 私と兄の仲は、貴族たちが噂しているほど悪くない。
 兄の子供が産まれた時点で、私は次の王にはならないことを表明している。
 だからこそ、この国では争いがない。

 だが、王の子に王としての素質がなければ、私が担ぎ上げられるのは必然である。
 兄とはかなりの年齢が離れている。親子だと言ってもおかしくないくらいに。

 けれども、兄は一時しのぎであっても、私に国王になってほしくない。
 今の私は結婚もしていないし、子もいないが、私が国王になってしまってから子供が産まれたら、次期国王は私の子供になってしまう。兄の子が国王になることはなくなる。

 兄としては、我が子可愛さに国王の座にしがみつくこととなった。
 私が王の座に固執しなければ、兄弟仲が冷え込むことはない。

「今日は何用だ?いつでも来てほしいが、お前が来るのは何かないと来ないからな」

「魔の大平原の砦のことで」

 単刀直入に切り出す。

「、、、ああ、伯爵には使いの者をやっている。ある程度の金額で納得してもらうことになるだろう。お前が言いたいこともわかるが、息子はまだまだ勉強途中だ。もう少し長い目で見てくれ」

 私の言いたいことが何一つわかっていない。

「国王陛下としては砦に対してどのように対応されるおつもりで」

「何のことだ?砦には伯爵が罰金を払うことで決着がついている」

 本当の被害者に何もしないのは愚の骨頂である。

「黒幕に気づかれていないと本当に思っているのですか?彼は今回の件で次期国王を完全に見放しました。今、対応しなければ、彼は貴方でさえ見放しますよ」

「ははは、見放されるとどうなる?」

 危機感がない笑顔だ。

「砦を守っている者がいなくなるか、砦を守るために邪魔なものを排除するか、どちらかの選択になるでしょうね」

「、、、メルクイーン男爵がその選択肢を選ぶとは思わないが」

「砦を守っているのは、男爵の三男です。現男爵ではありません」

「男爵には四人も息子がいる。彼が欠けても」

「男爵の息子で冒険者は彼一人です」

 私の返答に、国王はため息を吐く。

「長男を冒険者にしていなかったとわかったときは、男爵位を譲るのが嫌で時間稼ぎをしたのかと思ったが、ハーラット侯爵が言った通り三男の方が冒険者としても砦の管理者としても優秀だ。確かに、男爵の子を見る目は正しい。無用な跡継ぎ争いほど不毛なものはない」

 ということに世間ではなっている。
 男爵の三男リアム・メルクイーンを他の貴族や王族、大商会に奪われないために、他の子供を冒険者として育てなかったのだろうと。
 普通、三男であれば、どこかに婿として出される。リアムなら買い手など山ほどいるだろう。魔物販売許可証の書類を国に通しただけでも、彼はあらゆる大商会から引く手数多の存在になる。
 砦以外にも欲しいと思っているところは多い。が、動けるところはどこもない。

「彼は今、砦を守るためにメルクイーン男爵領が自治領になることを望んでます。もし、貴方が砦を守るのに必要のない人間と見なされれば、彼は貴方を切り捨てる判断を簡単にするでしょう」

「自治領か。今も権利的にはかなり近いものだと思うが?」

「今の国王のうちに絶対なるものが欲しいそうです」

「それが見放されたという判断になるわけか。息子が王になるのなら、その前に予防線を張っておきたいというところか。それを考えると現メルクイーン男爵は何も主張してこなくて静かだったな。冒険者でない男爵というのも国の駒としては扱いが楽だったか」

 私は国王を見た。
 国王は私の目を見た。

「ああ、わかっている。メルクイーン男爵は歴代の当主が冒険者だったからこそ、戦力の要望を国にしてこなかった。王都には魔の森があるからS級以上の冒険者を魔の大平原には出せん。だからこそ、歴代男爵のかなりの別の要求を国は飲んで来たんじゃないか」

「けれども、今まで国は砦にそれなりの横槍を入れてきた。砦が今後も魔物の巣窟からの壁となってもらいたいのなら、リアムは砦に必要不可欠。砦の守護獣共々失ったら、S級以上の魔物が国土に溢れ出す」

 魔の森の比ではない。
 魔の大平原の奥地には恐ろしい数のS級以上の魔物がいた。
 それらが奥地にとどまっているのは、砦に守護獣がいるから。

 その砦の守護獣はリアムを気に入った。
 もし、リアムが砦を去ったら、一緒についていくのではないだろうか。
 リアムがクジョー王国から去って行ってしまったら。
 この国は、この大陸の東の地方のようにダンジョンに喰い尽くされるだろう。

「リアムは誓約魔法の使い手です。納得しない返事も、約束を破るための誓約も通用しません」

 王族や貴族が良くやる、そんな約束をしてましたっけー、ととぼけるのは難しい。彼は日常的に誓約魔法を使う。

「誓約魔法の使い手か。ならば、魔法学園に入学するために王都に来るな。そのときに話し合いの場を作るしかないか」

 ちょっと渋々感があるが、国王が譲歩した。
 だが。

「来ませんよ」

「え?何で?C級以上の魔導士は入学は義務だ。例外はないだろ」

「F級だそうです」

「、、、は?」

「F級」

 私は繰り返す。
 私も同じような反応をクリスにしたから仕方ないが。

「どこの世界に誓約魔法を使えるF級魔導士がいるんだ?誓約魔法はB級以上でないと使えないはずだろ。しかも、B級以上だとしても適性がないと難しいのが誓約魔法だ」

「私も同じようなことを言いました」

 クリスはリアムに誓約魔法の刻印で再生してもらった。
 神官はしっかりとF級と言っていたのを聞いた。
 クリスがしっかり聞いてしまったのだから確かだろう。。。

「はあー、クソ教会め。せっかくの話し合いの機会を。。。寄付金目当てか。メルクイーン男爵家じゃ払うのは難しいだろ」

「極西の砦の話を聞いて、取れると思っちゃったんじゃないですかねー?」

「ああ、砦の商売が軌道に乗っているからか。。。信仰心がない者には判定の儀式の最低限の寄付金すら出したくないんじゃないか?」

 リアムは自分のお金を出したくなかったようだし、クリスが男爵家を突っついたから教会に向かったぐらいだし。
 クリスもリアムはB級以上は確実だと思っていたようだ。
 あの教会の神官めー、侯爵家領地の神官を連れて来れば良かったーっ、とさえ言っていた。

「ええっと、国王権限でリアム・メルクイーンを魔法学園に入学させられないか?」

「リアムが男爵領にいる限り、リアムの了承が必要です。強制はできません」

 間。

「ちょっと中央教会にお使いに行ってくれないかなあ」

 国王は近くにいた者に手で指示をする。一人が扉から出ていった。

「あと二年間は猶予があると思ったんだが」

「けれど、貴方の息子が一学年上になることを忘れないでくださいね。反対に良かったのかもしれませんよ。王都で直接会って何かしたら、やり返されますよ。冒険者は基本的に殴られたら殴り返せの世界ですから」

「王族や貴族だって直接的な手段ではないにしろ同じだろう」

「王子が砦にしたことをリアムが報復するのなら、一発や二発ぐらいで収まればマシなんじゃないですかー?貴方が効果的な手を打たないと、あの子は殺せないのなら廃嫡させるぐらい企てますよ、合法的に」

「マジかあー。息子はA級魔導士なんだけどなあ。F級魔導士に殴られたら目が覚めたりしないかなあ」

「余計にやさぐれたりしませんかね?」

 今でさえ拗れているのに。
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