解放の砦

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5章 必要とされない者

5-9 魔の大平原での行方不明

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「二番」

 ビーズとの通信を切った後、すぐさま俺はペンダントを握って言った。

「あ?誰だ」

「リアムだ。ナーヴァルか」

「っ、ああ、そうだ。リアム、どこにいる?」

「今はB級冒険者担当エリアにいる。ビーズから連絡が入ったが、E級、F級冒険者の班が一つ見当たらないと聞いたが」

「ああ、砦の見晴らし台から探しているが見当たらない。ということは、C級冒険者担当エリアを抜けて、B級冒険者の方まで行っている危険性がある」

「砦から見当たらないとすると、その可能性は高い。だが、C級冒険者にまったく会わずにここまで来れるだろうか?」

 残念ながら、E級、F級冒険者は子供が多いため、走りも遅い。そんな班編成で数の多いC級冒険者の目を掻い潜れるほど素早く行動できるだろうか。C級冒険者が彼らを見たら、砦の方へ戻れと忠告するはずだ。
 そもそも、D級冒険者が一人ついているのは、そういう無謀や危険なことを防ぐためだ。

「お前たちもE級、F級冒険者の班を見たか?」

「いいえ、見てません。あんな小さい子供たちがこんなところをウロチョロしていたら目立ちますって」

「確かに」

 奴隷さんたち三人はA級冒険者になっており、ビッシュたち五人B級冒険者とのパーティとなっている。
 そのため、彼らの担当は砦から奥地に一直線に伸びる位置のB級冒険者担当エリアからA級冒険者担当エリアとなっている。
 一番魔物が通るのが、実はこの奥地から砦に向かう直線ルートである。
 餌に向かってまっしぐらコースなのである。 

 担当エリア自体は狭いが、かなり過酷な場所である。
 三人は嬉々として魔物たちを始末していくが。

「ナーヴァルは砦で待機。見晴らし台から探索を頼む。俺はこのままB級冒険者担当エリアで探してみる」

「わかった。他のB級冒険者にも連絡を入れてみる」

 ナーヴァルが通信を切った。
 状況がわからない。
 だが、解せないし、彼らが本当にB級冒険者担当エリアに入っていたら、すでに死んでいてもおかしくない。
 彼らの戦力ではB級魔物どころかC級魔物にすら遭ったら最後だ。
 魔の大平原でも砦の近くだから、彼らは安全をある程度確保しつつ魔物を討伐して経験を蓄えられる。

 あの班にはA級冒険者ビーズの息子のリースもいるし、他の数人も慎重な者がいたはずだ。
 おかしい。
 誰かが奥地に行きたいと駄々こねても止められる人員はいる。

「人為的なものを感じるなあ」

「そうだねー」

 足元を見る。
 ニヨニヨニヨニヨ。

「、、、」

 ちっこいクロがニヨニヨしていた。
 あ、コイツ、何か知ってる。でも、教えてくれないか?
 いきなり現れたということは、面白くなりそうな気配でも感じたか?

「クロ、もっしかしてさー、彼らの居場所知ってるー?」

「うん、知ってるよー。レッドラインまで飛ばされた」

「はっ?」

 クロが俺の問いに素直に答えるのが珍しいが、答えが答えだった。
 ニヨニヨなクロが俺の頭にのる。
 コレはクロの冗談ではない。
 クロは俺が移動すると思ったから頭の上にのったのだ。

「ビッシュら五人はここで待機。魔物が来たら討伐してろ。ルー、レイ、ロウ、行くぞっ」

「はいっっっっ」

「はいぃぃぃ」

 元気いっぱいな返事が三人で、弱々しい返事が五人だ。
 キミたちはB級冒険者なんだから、B級冒険者担当エリアに単独でいても充分な実力はあるはずだ。後はA級魔物が現れないことを祈る。

 俺たち四人はさらに奥へと駆け出した。

「飛ばされたということは空間転移魔法か?人為的なものでクロが肯定しているから、変な魔道具が砦に持ち込まれたか。あの班の誰かが手にしているということか」

「さすが、リアム様。たったこれだけの情報でそこまで深読みできるとは」

 ルーが走りながら感心している。
 空間転移魔法もおざなりな発動なら、俺もできないわけではない。
 その場合、どうなるかというと肉体が欠けるか、場所の特定などされない、という不完全なものだ。
 強敵に囲まれ四面楚歌でどうにもならない状況なら、一か八かでやってみる価値はあるかもしれない。

 つまり今回はそういうことだと推測される。
 黒幕は消えるのが砦の冒険者なら、誰でもいい。
 空間転移で何人飛ばされようが、無事だろうが何だろうが、どこに移動しようが関係ない。
 騒ぎになりさえすればと考えているのなら。

「彼らが不用意に動いてないことを祈る。S級魔物と遭ったら瞬殺されている」

「う、そうですね」

 三人も浮かない顔になる。さすがにA級冒険者のこの三人だって、S級以上の魔物とは戦う気にならないだろう。

「ビーズっ」

 俺は通信のペンダントを握る。

「誰だ、何かわかったか」

「リアムだ。ビーズ、至急レッドラインに向かえ。お前の方が距離が近い。ただし、気配は消していけ。S級以上の魔物に気取られるな」

「あ、ああっ、わかった。急ぐ」

 すぐに通信が切れた。
 息子のことならば、皆まで言わずともすぐに理解できるのだろう。

 A級冒険者担当エリアにいる者の方が距離は近い。単独行動をさせるのは危険極まりないが、レッドラインに近づく人数は少なければ少ない方が良い。
 そして、ビーズにはそこに行く理由がある。
 俺は頭の上のクロを手でつかまえ、上着のなかに詰める。襟の部分からウニョっと顔だけ覗かせる。

「僕も気配を消せってー?仕方ないなあ」

 わかってくれて何より。
 クロが上機嫌なニマニマ顔になっている気がする。声もウキウキしている。

 クロはともかく黒幕にとって面白い展開になっていないことを、本当に願うしかない。


 レッドラインと言っても、線が引かれているわけではない。
 それ以降はS級以上の魔物の住処である。
 そのレッドラインに立ったからといって、S級魔物の姿がすぐに見えるわけではない。
 彼らの縄張りに入り込む、その意味を。
 A級、B級冒険者はよくわかっている。自分が獲物になるという感覚を。

「ビーズの姿もありませんね」

 レイが声を落として俺に言った。

「さすがに広すぎるからな。A級冒険者でもレッドラインをギリギリに走ってもかなりの時間はかかる」

 とは言っても、ビーズも目星をつけているのは砦から直線で結ぶ周辺だろう。
 クロはニマニマしているだけで、アドバイスはなし。
 遠見の魔法を使う。
 密かに感づかれないように最小限に。
 遠見の魔法でもS級以上の魔物になると目が合ってしまう。目が合ったら最後、戦闘開始だ。

 俺は肩を揺らして、ヒュッと息を飲んだ。
 見つけたのが横の位置なら良かったのに。レッドラインの線上の付近なら。
 彼らがいたのは、レッドラインを越えて、さらに奥地。

 まだ無事なのは、彼らは息を潜め、姿隠しの魔法を使っているからだ。
 D級冒険者が危険を察して、異常を感じた途端すぐに魔法をかけたと思われる。そうでなければ、彼らが生きている説明がつかない。
 ただひたすら息を殺している。
 誰かが救いに来ると信じて。
 限界が来るまで。

「リアム様、」

「お前たちはここにいろ。ビーズが来たら足止めしておけ。S級魔物が来たら即座に逃げろ」

「なっ」

 異を唱えようとしたルーの口をレイが押さえる。この場所で大声は御法度だ。死にたいと言っているようなものだ。

 ゆっくりとゆっくりと慎重に歩みを進める。
 レッドラインからかなり遠い。
 それもそのはず。肉眼では見えない距離だ。
 焦ったら終わりだ。

「リアムと二人っきりー。デート、デート」

 緊張感がないものがいるが、気にしてはいけない。

 彼らが俺に気づいた。
 声をあげようとしたF級冒険者の口をD級冒険者が手で押さえた。
 その行動は正解だ。
 けれど、D級冒険者はほんの少し安堵の表情を浮かべている。C級冒険者の俺が来たところで、なのだが、その安堵は命取りだ。
 ナーヴァルでさえ怪我を負ったときはこの奥地から砦に帰還するのに他のA級、B級冒険者の手助けが必要だった。
 それがE級、F級冒険者たちなら、一人一人の実力は怪我をしたナーヴァルよりも数段どころか相当劣る。

 この奥地も奥地では魔法は最小限にしなければならない。D級冒険者は姿隠しの魔法を全力でかけていたのだろうが、このぐらいだったから彼らも助かった。魔導士の素質があったのなら、彼らはS級魔物に感づかれてすでに餌になっていただろう。

 彼らのそばに寄った。
 小さい声で指示を出す。

「話すな。俺が来た方向へ静かに一列でゆっくりと進め。足音を出すな」

 あえてここがどこだか言わない。憶測と事実は違う。事実を突きつけられて正気を保っていられるなら、ここの危険性をまったく感じない鈍感な者だけだ。
 砦のそばの魔の大平原とは違い、空は重い。そして、霧も出ていないのに視界も悪い。レッドラインを越えると奥地に入ったときよりも、より重く淀む。雨が降るわけでもなく嵐でもないが、前触れのような恐ろしさを含む。

 D級一名、E級とF級合わせて八名の九名の班である。だいたい十名前後の班が多い。

 彼らはゆっくりと歩を進める。
 俺は最後に立つ。
 立ち止まったまま動けなくなった。

 ゆっくりと巨体の影が揺らめいた。
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