解放の砦

さいはて旅行社

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3章 闇のなか

3-17 だから、胡散臭いんだって

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 この世界は素材そのままの味が美味しいと思っていたのだが、地域差があるのだろうか。
 俺はこの男爵領から離れることはないだろう。
 冒険者としても砦から離れることになれば、他の領地のダンジョンに行くしかないが。
 ここの隣接する領地ならば、素材の質も似たり寄ったりだろう。

 きっと王都は土も水も汚れているんだな、きっと。王都に近づくにつれて環境が悪化しているに違いない。
 その代わりに、ここより様々なものが発展しているのだろう。
 でも、味が劣るのに、王都や自分の領地からの食材をわざわざ運んできて食べなければいけないのは、王都崇拝者か、嫌がらせか、領地の食材を消費しなければならないからか。

 どれでもいいか。
 きっと彼らなりの理由があるのだろう。
 元々の味が劣るとは思ってもみなかったけど。

「同じ魔物肉でもこの砦のが美味しいことが周知されれば、少しは売れるかも」

 ちょっと期待しちゃうかもー。
 ま、今でも街の皆はなにかと何かの記念と称して魔物肉を購入してくれている。ありがとう。でも、無理しないでね。街の皆の家計を圧迫したいわけじゃないからねー。魔物肉は王都でも貴族や大商人向けだからねー。

「リアムくんと呼んでいいかな?キミが魔物の販売許可証の書類を書き上げたんだよね?あ、私のことは是非ルイと親愛を込めて呼び捨てにしてくれ」

 うわー胡散臭い。

「いくら親愛込めて呼んでも、所詮は偽名のくせに」

「え?」

 おっとー、また口が滑ったー。子供の口にはストッパーがないぞー。

「はい、ごちそうさまー。クロ、アミール、食器を片付けるよー」

「リアムー、美味しかったー。また食べたいー」

「クズ親父たちがいないときにねー。あ、忙しくないときに砦の厨房をクトフに借りれば良いか」

「リアムー、愛してるー」

 クロが俺の頬にへばりついた。そんなに半熟とろとろオムライスが気に入ったのか。

「はいはい」

「魔の大平原で魔物卵、拾ってくるー」

「うう、クロ様ずるい。兄上の料理、、、」

「クズ親父たちがいないときになー」

 弟にも同じことを繰り返した。クズ親父たちにはただ焼いただけ、ただ茹でただけの食事で充分だ。小さく上品に皿に盛りつけられていたら何の文句も言わない。後は近所のパン屋のパンを切ってカゴに入れておけばいいだけだ。

「ははは、キミは家族仲が悪いことを、私に隠さないねー」

「隠したって、すでに知っているんだろ」

 じゃなきゃ、クズ親父たち三人を昼食会でこの家から遠ざけない。
 ルイ・ミミスは頷きもしないが、その笑みが肯定を表している。

「確かにルイ・ミミスは表舞台用の仮の名前だけど、本名は私の主人の侯爵にしか教えないんだ。ごめんねー」

 表舞台ねえ。。。本業は裏の人なのか?
 この男爵領では裏稼業しても儲からないから姿が見えないけど、王都では山ほどいるんだろうなー。
 砦が儲かるようになると、湧いて出てくるんだろうな。対策しておかないといけないな。

「、、、ミミスさん、それを俺に言ったからといって、俺にはどうしようもないでしょう」

「わー、せめてルイさんにしてよー。姓で呼ぶのは悲しすぎるー」

「何でそんな人がこの辺境にいるんだか」

「それを言うなら私の方だよ?リアムくん。何でキミぐらいの子供があの魔物販売許可証の分厚い書類を書けるの?正攻法で攻めてきて突破したのはリアムくんくらいだよ?数多くの大商会の猛者どもがあの書類に挑戦したけど、結局はあの魔物販売許可証を高いお金で買ったよ。お金がない者から不公平だと文句が出ないように、王族は言い訳用のあの小難しい分厚い書類を用意しているだけなんだから」

「俺もアレ書くのに、かなりの月日を費やしましたが。魔物肉だけでも認められるように書き上げましたが?」

「だからね、アレを書いたのが皆、男爵家の長男だと思ったんだよ。八歳児が書いているとはさすがに誰一人王都でも思っていなかったよ。リアム・メルクイーンが跡継ぎで、悔しいがそんな跡継ぎがいるのならメルクイーン男爵領は安泰だと思われたみたいよ」

「へー、そうですかー。俺は三男なので、成人したらこの家を出ていきますけどねー」

「へえ?出ていっちゃうの?」

「母上がいないこの家に残っていたって、働き潰されるだけですからねー」

 今もそうだし。
 アミールが俺の服の裾をギュッと握った。数年もすれば、弟も兄離れしてしまうだろう、悲しいけど。アミールはあのクズ親父とも二人のクソ兄貴たちとも普通に会話しているのだ。
 食器を洗い終えて、拭いて片付けた。

「ああ、まだ時間がありますね。ルイさん、ちょっと良いですか」

「ん?何かな?もしかして口封じー?」

 何か口封じしなければならないことを俺は言っただろうか。
 そう言いながらも、ルイは俺に素直について来る。クロは俺の肩にのって、アミールも俺について来る。
 着いた先はクズ親父の執務室だ。

 防犯もへったくれも考えていないクズ親父は鍵さえもしていない。金目のものは一切ないけど。だから、前の家庭教師も入りたい放題だったのだ。
 それは俺にもだ。
 クズ親父は自分で掃除しないから、俺を入れないようにしたらゴミ溜め状態になるだけだけど。。。
 せめて、書類が入っている棚には鍵をかけておいた方が良いと思うぞ。本人には絶対に忠告しないけど。

「とりあえず、これとこれと、これか」

 ファイルを取り出し、ルイに見せる。

「、、、これを私に見せて、どうしてほしいの?」

「クズ親父が領地にとってもクズ領主だったということを第三者が知っているという安心を俺が得る」

「私が悪用しないとは考えない?情報をどこかに流して、この男爵家を潰そうとするとか」

「この領地が欲しい人間がいるのなら、すでに大勢の人間がこの領地に押しかけている。本来、この領地の税金の多くは魔物対策で砦に使われるべきものだ。だからこそ、国に納める税金も軽減されている。にもかかわらず、クズ親父が税金の多くを投入しているのは不必要な保養地の整備と、偽証された魔物被害の補償だ」

「保養地の整備が不必要といわれると、私たちには痛いものがあるし、魔物被害が偽証されたと言われてもねえ」

 ルイがファイルを見ながら考え込んでいる。
 彼にはまだ魔物被害が偽証であるという実証がない。
 それでも、コイツはこの帳簿を見て理解しているのだ。

「ああ、だから知っているだけでいい。頭の片隅に幼い子供が何か騒いでいたなーというぐらいの認識で構わない」

「怖い子供だねー、リアムくんは」

「誰かが何かをしてくれるなんて思っていない」

 俺は言った。
 ルイ・ミミスも侯爵家に益になるとなれば、動くこともあるのだろう。
 わざわざこんな辺境の地に、しかも家庭教師として探りに来ているのだ。

 問題は、何を探りに来たのか、だ。

 また、砦の守護獣を捕まえようという動きでも出ているのだろうか?
 辺境伯から領地を引き継いだメルクイーン男爵家の歴代当主の日誌も砦には残されている。王族の間者が冒険者として砦に入り込んでいたことが書かれていた。
 S級冒険者さえ砦に一度も寄越さないのに、砦の守護獣まで奪おうとしていた。
 だが、人間に捕まるような彼らではない。
 というか、そういうヤツらの前には姿さえ現さなかったらしい。


 ん?
 ふと、気づく。
 俺は彼らに対して人質になり得るのだろうか?

 今のクロにはなったとしても、人間では太刀打ちできないだろう。

 クロは冗談のように食べちゃおうかとか、焦土にしちゃおうかとか言うが、できないことでは決してない。わかりづらいが本気のときが多い。

 そのぐらいには、俺は想われているのだろう。
 この小さい手が俺から離れていかないように願ってしまうのは、母上を失ったせいなのだろう。
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