解放の砦

さいはて旅行社

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2章 そして、地獄がはじまった

2-23 ふっかふかやでー

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 家に帰って、自分の部屋に入ろうとしたが、一度扉を閉めた。

 ん?

 今、何が見えただろう。
 床が白いもので埋め尽くされていた気がしたが。。。

 恐る恐る扉を開けると、、、ああ、そうだ、クロとシロ様の抜け毛を部屋で干していたんだった。
 外で干すと風に飛ばされる危険性があったため、陰干ししていた。

 部屋の中央でしぼんでいたはずの、洗った抜け毛。
 敷物の上にできるだけ広げて置いていたのだが。。。それがもこもこ膨らんでいる。俺の胸ぐらいの高さの白い山になって敷物からはみ出しまくってる。
 ふんわりフワフワ、このまま包まれたい気持ちがいっぱいだが、作業を優先しよう。

 とりあえず、最初の計画通り二枚の掛け布団が作れそうだ。
 縫い合わせていた大きい布はすでに用意されている。俺の手縫いなので、多少イビツな線もあるが、この家にはミシンがないので許してほしい。ルンル婆さんの家で借りれば良かった。。。母上にこの布団を贈るのは少々微妙かもしれない。
 中身を適当にクロとシロ様の抜け毛を混ぜて詰め込んでみた。
 二枚でも余るかもしれないと思った膨らんだ抜け毛の量だったが、等分に布団の中身をつめつめ入れて、その入口を縫い合わせて中身を均一に整えると、二枚の掛け布団が良い感じに仕上がった。


 あっさりと布団らしきものが作れたので、母上がいる台所へ向かう。
 母上はあのクズどもが昼食に食べた食器を洗い終わり、食事の準備をしている。
 この世界、水道はないんだよ。井戸だよ、井戸。水汲みも大変なんだよ。砦には水路が走っているけど。
 井戸はご近所との共同井戸だが、村長宅ぐらいの大きさしかない領主の家の近くに井戸は存在する。母上は冒険者だから、苦も無くやってのけるが、年配の女性には一苦労な重労働なのである。
 それなのに、井戸からの水汲みも手伝わず、水をただ消費するだけの馬鹿には死ねと言いたい。

 基本的にうちは台所の水は母が汲んできてしまうが、かけ湯用の水は俺が魔法で井戸から汲んでくる。
 お風呂のかけ湯は冒険者である母上と俺が先に使う。というより、かけ湯とは書いているが、本当は我が家ではかけ水である。
 薪で温めることも可能だが、貧乏な男爵家なので、毎日大量の水を薪で温めるのは不経済である。
 砦では冒険者のために薪でかけ湯にしているが、もちろん、かけ水が好きな者もいるので両方置いてある。
 街では薪はタダではない。そこら辺の木を勝手に切り倒したら、犯罪である。
 わざわざカラダを洗うために、お金を出して大量の薪を買う者は街では少ない。木々が生い茂る田舎の出の者が、かけ湯を使っていることの方が多い。かけ湯が贅沢、かけ水が当たり前、というのは常識ではなく生まれ育った地によって違う。この辺りは割と温暖な土地なのでかけ水でも問題ない。

 俺は母上のために魔法でお湯にする。かけ水をかけ湯にする。
 母上の前にクズどもが入っても、水のままだ。というより、水も入れてないときもある。
 俺は母上のために用意しているのだ。
 だから、ヤツらも学んだらしい。そして、ヤツらは俺をいないものとして扱っているので、俺に何も言わない。
 俺に言ったところで、ご自由にお使いください、と言われるだけだ。かけ湯にしたいなら自分で用意しろ、である。ヤツらのために用意なんかするわけがない。
 この風呂場で薪を使っていないのは、一目瞭然だ。

 今のかけ湯をする順番は、母上、俺+弟、クズどもが適当に、ということになっている。
 多少冷めたところで、カラダにかけるのはお湯の方が良いだろうからな。井戸の水は意外と冷たい。飲むときはその冷たさが心地良いのだが。
 湯舟に人が浸かるわけではないので、水は必要な分を足していく水瓶のような感じだ。日本の風呂とは全然違う。砦の方は使う人数が人数なので、複数人が湯に浸かれるんじゃないかなー、と思う広さがあるけど、かけ湯用のものに浸かっている人間を今まで見たことはない。あの湯に浸かったら白い目で見られること間違いない。
 この世界で贅沢に湯に浸かるのは使用人が大勢いる貴族とかで、部屋に設置された個別のバスタブだけなのだろう。
 俺もたまには湯船に入りたい気持ちもある。たまには温泉いきたいーというぐらいの気分であるが。シャワー派だったから、日常的にはかけ湯でも問題ないんだけど、砦の三階以上の貴族用の部屋にはバスタブがついているので、母上に浸かってもらうのはどうだろう?入浴剤ってこの世界にもあるのかな?貴族は使っていそうだよな。魔物の少ない日にはゆっくり湯船に浸かってもらうのも良いんじゃないか?覗きは許さないが。


 んで、話を戻す。

「昨日、クロとシロ様からわけてもらった抜け毛で掛け布団が二枚できました。母上、一枚使いますか?」

 母が野菜を切る手をとめて、俺を見た。
 明るい表情ではない。

「恐れ多くて、寝れる気がしないわね」

 それもそうか。
 砦の守護獣クロとシロ様は、砦に関わる者にとって畏怖の対象でもある。
 S級以上の魔物を簡単に倒せる強者。
 彼らは砦の守護獣として、いてもらわなければならない存在だ。
 人間の敵となったら、脅威となるのは砦の守護獣たちの方である。
 だからこそ、敬う対象である。ある意味、信仰対象と言っても良い。

 母上も同じである。
 俺を間に挟んで、多少話すようになったということだが、俺がいないとクロとシロ様とは話すこともできないらしい。仲良くなる、という次元ではないようだ。

 母上にこの布団は快適な睡眠を与える機能は備わっていそうだが、残念ながら精神的な理由なら仕方ない。

「冒険者に不眠はいけませんね。フカフカに仕上がってますが、残念です」
 
 その俺の言葉に、じっと俺を後ろから見ている目がある。
 期待をしている目がある。

 母上がいらないのなら、僕は?僕には?という視線が突き刺さってくる。

 二歳児がカトラリーを頑張って白い布で拭いて手伝ってくれているのである。
 このまま良い子で育ってほしい。
 せっかくできてしまった布団なので、押し入れに入れておくのも忍びない。
 母上も俺に小さく頷いた。

「アミール、大切に使えるか?」

 俺が言うと、アミールは花が咲くように笑顔になった。

「もちろんですっ。兄上、ありがとうございます」

 よしよし。頭を撫でておいた。
 二歳ならまだ砦の守護獣の凄さを認識するには早いだろう。怪獣大決戦を見た後でも、すっごーいとは思っても、どれだけ凄いかを正確に把握するにはまだ幼い。母上と違い、スヤスヤと快適な睡眠が約束されることだろう。

「おニューのフワフワ掛け布団が手に入ったんだ。夜、もう俺の布団に潜り込まなくても大丈夫だな」

 二歳児に、ちょっとイジワル。

「あ、兄上。。。うう、たまには、、、たまには兄上と一緒に寝たいです」

 ちょっと俯き加減でねだられた。

「じゃあ、たまには、だな。もう少し大きくなったら、毎日ちゃんと一人で寝ろよー」

 弟も大きくなったら、兄上となんか寝てられるかーっ、一緒に寝ていたのなんて黒歴史だーーーっと思うようになるんだろうな。それもそれで寂しいので、今のところはたまには寝てやろう。




 夕食後、アミールの部屋に掛け布団をもって行くと。

「すっごい弾力ですっ。ふっかふかですっ。すごいです、兄上っ」

 我が弟が布団に弄ばれている。。。
 ぽよぽよ上にのって、コロコロしている。
 まあ、コレ、掛け布団だから、カラダの上にかければスヨスヨ寝られることだろう。
 しばらくしたら、掛け布団の上で動かなくなった。
 はい、おやすみー。素晴らしい効果だ。きちんと掛け布団にしてやる。


 俺も母上の仕事を手伝った後、しばらくしてベッドに横になろうとする。
 掛け布団を捲ると。
 なぜか、俺のベッドでクロとシロ様がスヨスヨと寝ていた。。。
 シロ様、酒瓶を抱き枕にするな。クロに巻き込まれたか?

 砦はどうした?距離は近いけど。
 川の字で寝ろと?寝てるのを起こすのも忍びないので間に寝るけど。

 言いたいことはあったが、とりあえず今日はクロとシロ様の隙間に入っておにゅうの掛け布団で寝た。
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