解放の砦

さいはて旅行社

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2章 そして、地獄がはじまった

2-14 魔法教室でもしてみるか

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 E級冒険者三人が俺の代わりに俺の仕事をするので、俺が彼らの代わりに雑用当番になったことを、本日の雑用当番の皆に伝えた。他はE級冒険者二人に、F級冒険者六人である。
 食事の後片付けはすでに終わってしまっている。

「あのー、俺たちの仕事、残してもらえますか?」

 手を挙げて発言するF級冒険者。偉いなあ。誰に教わったんだ?
 この子は俺と同じ班になって一緒の雑用当番になったことがあるのだろう。
 残せと言われれば残すけど。俺が代わるべき分はE級冒険者の三人分だけだ。

「雑用当番が早めに終わったら、それなりに自由時間ができるだろ?休憩とか鍛錬に使えばいいんじゃないか」

「そうですけど、俺たちがこの砦にいられるのは雑用当番もしているからです。俺たちは冒険者としては半人前で魔物討伐もサポートがあってこそできるものです。休憩や鍛錬は自分のためだと思うので、本来、雑用当番をしているはずの時間は砦のために使いたいんです」

 あ、この子は孤児だから砦に来た者か。
 自分の立場をハッキリと自覚している。十歳前後の子供でも状況を把握できる者は把握できるのだ。

「なるほど。あのE級冒険者三人よりも良い発言をするなあ。よしよし。この中で魔法を使える者はいるか?」

 誰も手を挙げない。
 何を言い出すんだろうという表情をしている者が多いが。

「では、少しでも魔法に興味ある者は?」

 全員が手を挙げた。E級冒険者二人もしっかりと挙げている。

「この砦には魔導士と呼ばれる者は少ない。少しだけなら魔法を使える者もけっこういるが、もしものために魔力を温存している者が大抵だ」

 冒険者が泊まっている部屋は一階から二階だ。
 実は、城の使用人部屋があるのが一、二階である。辺境伯の自室や貴族用の客室は三階より上にある。一室が超広いし、天蓋付きのベッドまで備え付けられており、各部屋にトイレや浴室まで完備されている。
 冒険者でありながら貴族である者は非常に少ない。
 差別化を図るためにA級、B級冒険者に貴族用の客室に移ったらどうかと提案したことがあったが、断られた。一か月の滞在費は同じで良いよと言ったのに。

 使用人部屋もランクがある。上級使用人の部屋はここが使用人部屋?と思うほど広く、トイレと浴室がついている。
 下のランクの使用人部屋は、一人部屋ではあるが割と狭いし、共同トイレ、風呂も共同かけ湯場を使う。E級、F級冒険者はこちらを使う、が、トイレはともかく、お湯を部屋に持って行くのが面倒なA級冒険者も共同かけ湯場を使っている。
 この地方の風呂は、お湯に浸からない。砦の貴族用の浴室にはバスタブがあるので、余裕がある者は浸かる習慣もあるのだろう。
 シャワーがないので、手桶でお湯をカラダに数回かける程度。
 それでも、気候のせいか、冒険者の汗も汚れも流せる不思議。
 一か月ほど魔の大平原の奥地に遠征に行った冒険者たちも臭ってないのだ。

 各部屋に浴室がついていても、自分で自室の浴室にお湯を持ってきたりするのは面倒なので使われていない。
 風呂に浸かるのは貴族の贅沢。お湯を運ぶ使用人がいるからこそできることだ。
 魔導士で魔力が余っていたりするとお湯に浸かったりしていることもあるみたいだが、ごく少数派だ。

 排水はどうしているかというと、この砦では魔の大平原に垂れ流している。
 汚水は消えてしまうのだ。ちなみにゴミも。
 魔の大平原に魔物用の罠を仕掛けても次の日にはなくなっている。というのを逆手に取った排水処理である。
 その点において、街や村と比べると、非常に便利である。

 が、魔の大平原では自分の周囲にない物は消えてなくなる。ということは、何かを落としたときには当日に拾いに行かないと綺麗に消えてなくなるということでもある。注意しよう。

「さて、冒険者が使ったこの汚いお部屋ですが」

 俺は使用されている一室の部屋を開けて、現状を把握する。
 本日の清掃やシーツの洗濯がいらない者は扉の取っ手に何でもいいので布を巻いておく。自分の服などの洗濯は有料なので、下で貸し出している番号付きの洗濯カゴに入れて部屋に置いておくと、定額で洗濯する制度だ。洗濯にこだわりがある者はこの洗濯カゴ制度は使わないで、自分で行う。

「こちらにちっこいホコリがあります」

 皆が部屋の内部を見て、ホコリを確認する。

「通常はホウキで掃き掃除ですが、魔法だとこのように浮きます」

 優しい風でふわっと浮かす。

「この砦の図書室は皆に解放されており、魔法書も読み放題です。魔法には適性もありますが、ささやかな魔法は使える者も多いので、まずはこのような軽い物から動かしてみよう、やってみようと思うことが大切です。いきなりこんなベッドを動かそうとしてもまず無理です」

 無理と言っておきながら、俺はベッドも少しだけ持ち上げ、下からホコリやゴミを攫う。あ、コインがあった。机の上に置いてあげておこう。

「風の魔法を使えると、このようにベッドの下や棚のホコリやゴミも、多少の魔力だけでさほどの労力がいらなくなります。では、このホコリを風によって木の葉が舞うイメージで動かしてみましょう」

 全員がいっぺんに同じホコリに向かって魔力を込めると、誰の魔法が効いたのかわからないんだけど?
 けれど、ほんの数センチ小さくふわっと浮いただけで、この八人は大騒ぎになった。

「ううう動いたっ」

「すごいっ」

「だ、誰の魔法が効いたんだ?」

 だから、全員で同じホコリにやるとそれがわからないんだって。
 わちゃわちゃ。
 あまりにも興奮して話せない者もいるが。

「で、でも、この中の誰かが魔法を使えるってことだよねっ?」

「日常的に魔法を使うイメージを持つことで、小さい魔法は使えることがあります。この風の魔法もここにいる一人が使えるのかもしれないし、全員が使えるのかもしれないし、もしくは全員が協力したから使えたのかもしれない。ただ、自分がどんなに努力しても使えないからといって落ち込むことはなく、適性が風ではなく、水や他のものの可能性があるわけです。地道に挑戦すること、そして広い視野を持つことが、自分に合った魔法を見つける近道かもしれません。なので、とりあえず、それぞれ違うホコリで動くかどうかやってみては?」

 八人はそれぞれ小さいホコリを見つけて、手をかざして念を送るように蹲った。
 うん、事情を知らずにこの部屋を見たら、何かの宗教儀式のようにも見えてしまう。。。
 C級冒険者の部屋とはいえ、そこまでは広くない。
 A級冒険者の部屋で一番汚れているのはリージェンだが、夜勤だったので今からお休みするところだろう。お邪魔してはならない。冒険者なので夜に行動する者たちも少なからずいる。その者たちの部屋は自分で掃除して、シーツや洗濯物を朝、部屋の外に出しておく感じだ。

 本日はシーツ替えの日でもある。
 さて、皆がホコリに夢中になっている隙に、魔法でシーツ、洗濯物の回収、部屋の清掃を済ませる。綺麗なシーツを各部屋にのベッドにセットする。シーツの交換は週に一回が標準料金内。さらに頼みたい場合は別料金となる。冒険者の部屋なので、ホテル並みの綺麗さは必要ない。そこまで神経質な人間は冒険者ができないのだ。

 で、残念ながら、そこではホコリが動いたかどうだかわかるほどの動きをする者はいなかった。協力したのが功を奏したのなら、何人かは風をささやかにでも扱える者がいた可能性もある。

「じゃ、シーツ、洗濯物を回収しているので洗濯場に行きましょう」

「え?いつのまにっ」

 皆がホコリと睨めっこしている間にだよ。彼らが睨めっこしていたホコリも回収した。
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