繰り返しの世界で貴方に捧げる物語 ~サンテス王国の黒き番人~

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1章 白き貴公子と黒き皇帝との出会い

1-9 嫉妬と羨望

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 それは強い嫉妬。
 竜騎士よりも、飛竜に乗れない見習の方がそれは強い。

 竜騎士と見習の間には高い高い壁がある。
 どんなに人として竜騎士になっている者よりも高い能力を持っていたとしても、飛竜に選ばれなければ竜騎士にはなれない。
 自分よりも能力が劣る者が飛竜に選ばれたら、それはそれは腸が煮えくり返るような怒りを覚える。

 なぜ、アイツが。
 どうして自分が選ばれないのだ、と。

 世話を積極的にしていても、どんなに訓練を努力しても選ばれない。

 それは恋に似ている。
 どんなに恋焦がれても、選ばれない者は選ばれない。




「くっそーっ」

 空になったジョッキをテーブルに叩きつけた。

「荒れてるねえ、お客さん」

「もう一杯っ」

「この辺にしておきな。何があったか知らないが、もう帰りな」

 この店で恰幅の良い女将に言われてしまったら、もう酒は出てこない。

「チッ」

 彼はお金をテーブルにバンっと置いて、店から去っていく。
 まっすぐ帰ってくれればいいが、と常連客である彼に対して心配する。
 女将は小さいため息を吐いたが、すぐに笑顔に戻って他の客に料理を運んだ。

 暗い夜道を歩くのは、竜騎士見習のジュー・ゼンという男だ。
 名前が出るくらいだから、多少はこの物語に関わり合ってくるのかなー?
 モブの一人だろうけど、悪役かなあ。
 なぜかと言うと人相が悪い。凶悪犯のようとまではいかなくとも、本当に竜騎士見習?竜騎士って格好良い人がなるんじゃないの?って言われてしまう人物である。

 竜騎士の見習には実は年齢の上限がある。
 明文化はされていないが、慣習として。
 竜騎士になりたい者は恐ろしいほどいる。
 しかし、クエド帝国にいる飛竜の数は限られているし、竜騎士見習に大量人数採用していたら、他の騎士やら警備やら何やらの必要な人員枠が埋まらなくなる。
 だから、二十歳までに飛竜に選ばれなければ、他の職に強制的に異動させられる。
 能力は高い人たちだからどこの部署でも部隊でも歓迎するが、やる気がないのを見せるのはNGだ。

 異動が嫌なら、皇城勤めは終了。皇城にとって、見習の存在はそれだけのものだ。

 竜騎士の見習といってもいつも飛竜と戯れているわけではなく、戦闘の訓練の他にも皇城の警備や雑用などの仕事がある。見習にも給料は出るが、高い給料は飛竜に認められた竜騎士にならないと手に入らない。

 それでも、平民にとっては見習でも高い給料に見えるのだが。

 もちろん竜騎士の給料はその働きに見合った金額なのである。
 彼らは危険と隣り合わせ。
 ただ飛竜に乗れればいいだけではない。


 クエド帝国で子供の頃に憧れた職業でダントツの一位になるのが、この竜騎士。
 男子なら一度は夢見る職業である。
 だが、倍率もさることながら、見習になるのもエリート中のエリートである。
 剣や槍、体術、魔法の他に、学業でも学年で首席、次席には入っていないとなれないとまで言われる。

 コネだけでは就けない仕事だが、実力があっても見習どまりで終わることもある。
 ちょうど運よく自分を乗せてくれる飛竜に出会う縁を得られる者だけが、竜騎士になれる。

 説明が長文になったが、要は運も大事だということだ。


 それで諦めきれないのが見習たちだ。


「俺に飛竜がいれば、、、」

 ジューは来年で二十歳になる。
 縁が結ばれなければ、異動を命じられる。
 実は平民の方が生活のために夢を諦められる。皇城での仕事は竜騎士ではなくとも豊かに生きるためには必要だから。

 彼は子爵家の次男。
 竜騎士になることができれば、長男よりも重んじられる存在になれるはずだった。
 彼は産まれた順番だけで不遇を極めた。
 学校でも何もかも兄より優秀な成績をおさめていたというのに。
 他の家では優秀な方を跡継ぎにすることもあるというのに。

 兄だけが両親に可愛がられ、どんなに賞を得ようと家族には見向きもされない。

 飛竜さえ手にれることができれば、そんな状況も。

 ジューはブツブツ言いながら、皇城にある宿舎に戻っていった。




「この子はディノって言うんですよー」

 朝から竜舎は賑やかだった。

「は、はあ」

 ルーシェですら宰相さんの言いたいことを察してしまって、渋い顔をしている。
 飛竜ボボはすでに仏頂面だ。

「あ、あのー、宰相殿、私にはボボがいますし、もう一頭飛竜の世話するのはなかなか困難かと。それに予定の一か月ほどで学校に戻りますし」

 そもそもルーシェはセリア姫との婚約が決まっていたとしても、一度サンテス王国には帰る。
 貴族学校を卒業する必要があるからだ。

 ボボはルーシェの飛竜なのでそのまま連れ帰るが、帝国の飛竜であるディノは一緒に帰ることはできない。

 本日のトトは上着の裾が長い宰相服である。
 宰相の制服なんてものはないが、宰相が好んで着る服装だと思ってくれればいい。
 綺麗にしてあるとはいえ飛竜の世話をする竜舎には似つかわしくない格好である。

「もちろん存じておりますとも。ルーシェ殿がボボとともにいるのは当然だとしても、世話担当も増やしますし、ディノはルーシェ殿を慕っておりますし、ディノの乗り手にならずとも調教師として躾を担当していただければと考えております。クエド帝国とサンテス王国では飛竜に対する考え方も態度も違いますし、お互いを知るためにディノの存在は有意義だと思いますので」

「それはそうかもしれませんが、」

 ここで宰相トトは一拍置いた。
 ぐいぐいから優しい笑顔に変わる。

 うん、宰相さん、怖いよ。策士だよ。ルーシェ、罠に引っかかるな。

「我々は今すぐに返答を求めておりません。ルーシェ殿が学校を卒業してこの国にお戻りになるのを待っておりますから、返事はそれ以降でかまいませんよ」

「宰相殿、」

 宰相さんがルーシェの手を握る。

「皇帝陛下もルーシェ殿の飛竜への態度にも大変ご興味をお持ちですので、その知識を我が国でも役立てていただければ幸いです」

 超ヤベエな。

「皇帝陛下が、」

 ほんの少し嬉しそうな表情を滲ませるルーシェ。
 宰相さんはわざと皇帝陛下を会話に出しやがった。




 宰相さんがルーシェをたらし込んでいる後方では、竜舎の世話担当や竜騎士、見習も二人の会話を聞いていた。

「クエド帝国の飛竜技術が一番だろ。何で今さらサンテス王国の知識なんか」

「アイツをこの国にとどめる方便だろ」

「そうはいっても、あの白い飛竜の色は素晴らしい。ディノの鱗は銀色だが、あの純白の輝きはそれと比べても全然見劣りしない」

 見劣りしないどころか、その白を維持するのには相当な苦労が必要なのは、ここにいる誰もが認めるところだ。
 クエド帝国の色は黒なので黒い個体がやはり人気だが、白い個体もこの皇城にはある程度の数がいる。
 その世話が大変なことは身をもって知っている。

 自国が一番だと思っているため、他国の人間を飛竜のことで直接褒めたくないだけだ。

「まあ、他国の知識や技術を知ることも、クエド帝国のためになることだ」

「お、そうだな。帝国がさらに向上するために、だな」

 裏でごにょごにょと自国を自画自賛。




「けれど、サンテス王国には何人かいますよ。調教師ならその方たちをお呼びになった方が良いんじゃないでしょうか」

 ふっ、空気を読まないルーシェ。
 良いぞ。

「、、、何人かとは?」

 宰相の背中に冷たい汗が流れる。
 宰相の計画を簡単にぶっ壊す、ルーシェ・シルコット。本領発揮だぜ。

「飛竜を多頭飼いしている家は多いですよ。サンテス王国では飛竜は権力の象徴でもありますから、爵位を跡継ぎに譲った後に飛竜をかまい倒して、三頭以上乗られている方もおります」

 はい、爆弾投下ー。
 後方でも大爆発。
 だって、クエド帝国では一人一頭が常識だから。

「さ、三頭以上、、、」

 そう、引退した者たちは時間が豊富。飛竜の世話もし放題。
 手に入れるのも飼育するのも金がかかる飛竜をサンテス王国で多頭飼いしている家は基本的に家が裕福。
 飛竜を自慢したい人間は自分が乗れなければ話にならない。
 サンテス王国では権力の象徴って言うくらいだから、自慢し合う愛好会ってものも存在するのである。

 権力の象徴だから、仕方なしに飼っているという家も多いけど。


 軍事訓練も世話も仕事もしなければならないクエド帝国の勤め人とは勝手が全然違うってことだ。
 サンテス王国では金持ちの道楽だと思っていただければ齟齬はないだろう。
 金は強い。

 それに、彼らを呼ぼうとしたところで、クエド帝国に調教師として来ない。
 愛する家族を戦闘に活用してもらいたいと思う飛竜愛好家がサンテス王国にはいないのである。
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