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最終章 そして、迎える春

22-3 巣立ち

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 角ウサギが続々と俺のダンジョンにやってくる。
 避難民を吐き出した後、最凶級ダンジョンをしまい、ダンジョンコアが角ウサギに化けてやってきた。
 俺が支配したすべてがやって来るようだ。。。
 まだ来れない角ウサギたちも、受け入れを打ち切らないでくださいねー、と俺に涙目で訴えてきている。
 外が悲惨な状況では、ダンジョンから出るに出れない避難民も多いだろうし、避難民を無闇に外へ放り出さなければ待ってるから安心しなさい。

 うん、四桁にはいかなくて良かったな。来た順番で番号を振っていっている。ダンジョンの入口に並んでいるから間違いのないように番号のメモを渡していってるよ。
 酒造りの街の元人間の角ウサギも加えてしまうと四桁にいっちゃうんだけどね。。。
 大所帯。。。

 今後は最凶級ダンジョンは生まれないだろうから、増えることはないだろう。
 残念とか言っちゃうと、ククーの目が呆れかえるので口には出さないでおこう。

 角ウサギダンジョンがここに爆誕。とは言っても、一般の冒険者は受け付けないけど。




 聖教国エルバノーンが崩壊した翌朝。
 俺は神聖国グルシアと聖教国エルバノーンとを扉でつなぐ。
 瓦礫の聖教国エルバノーンの王都だ。

「師匠、本当に瓦礫の山ですね。。。」

 扉で連れてきたのは王子御一行。仲間とともに、王子にスカウトされたうちの料理長もいるぞ。美味しい食事があれば、多少ハードな生活になろうとも、皆、健康のままだろう。
 だが、皆が皆、表情は暗い。
 どこにも、他の人影が見えない。生存者が最凶級ダンジョンにいるとわかっていても、崩壊したこの土地に動く者がまったくないのが怖い。
 これから復興するにしても、瓦礫のどこから手をつければ良いのか、そんな表情だ。

「うん、復元」

 俺が言うと、王城が綺麗に復活する。城壁まで元通り。

「ええええええーーーーーーーーーーっっ」

 そんな大音量で叫ばなくても聞こえるぞ。
 王子なんか全然驚いていないじゃないか。皆も王の側近なんだから、そのぐらい動じないようにならないと。
 聖教国エルバノーンの王城は何度もダンジョン化したこともあるからしっかりと記憶している。俺たちは王城の広い中庭にいる。使用した扉はちょうど中庭に面する部屋の扉だった。この部屋の扉はしばらくは神聖国グルシア用の扉となる。大教会の対策本部の倉庫につながっている。行き来できる者は限られているが。

「あー、レンならそのくらいやりそうな気がしていた」

 扉から出てきて、一言目に言ったのはビスタ。肩に小さくなった五十九号をのせている。
 ルルリ以外の爺さん一家も頷いている。もうルルリに種明かししてあげれば?ルルリだけが状況をわかっていないのは、ちょっとかわいそうになってきたよ。
 他の角ウサギも手伝って、神聖国グルシア側から物資を続々と運んでいる。
 そして、ビスタの仲間のイーゼン、センリ、リンカも箱を持って現れた。

 神聖国グルシアにいた冒険者たちも聖教国エルバノーンの復興に力を貸すが、多くの者は扉ではなくきちんと馬車にてコチラまで来る。アスア共和国で生き残った魔物たちを間引いてやって来ればなお良い。最凶級ダンジョンが閉じられれば、地上に出ている魔物を討伐すれば魔物の脅威に怯えることがなくなる。

 聖教国エルバノーンに扉で来るのは最小限の者たちだ。
 神聖国グルシアが用意した物資は後から後から角ウサギたちが運んできている。
 最凶級ダンジョンに避難した王都の住民は無事だからといって、この量が王城にあるのはやりすぎではないか?保管する場所はいくらでもあるから良いだろうけど。

「以前、王子と約束していたオマケだ。住む家があった方がやりがいもあるだろう」

「え?オマケって父上のことじゃなかったの?」

 王子が素で聞いてきた。
 王子にとって父親ってオマケなんだ。。。へー、コレは前国王には言わないでおこう。
 爺さん、笑いをこらえているけど笑ってやるなよ。。。爺さんの肩にはミニミニダンジョンの塔の置き物のミニちゃんがのっている。ミニちゃんは爺さんとともに行くことにした。マメキチはもちろんビスタと一緒にいる。

 爺さん一家とビスタとその仲間たちは聖教国エルバノーンの地方を巡る。各地の復興を手伝いながら、必要な人員や物資を神聖国グルシアや冒険者ギルドに報告する。

「レンよー、もう王子は王子じゃないぞー。アルス国王陛下だぞー」

 爺さんは俺に訂正を求めてくる。国王の子供はアルス王子一人と公表している。だから、他の名前は使えないし、使ったら、国民は王子に責任を求めてくるだろう。三つ子というのは神がその意志を示しただけに過ぎないのに。
 王子が王子であることは、ここにいる人だけが知っていれば良い。

「王子は愛称だ。王子が王子と知らないときから、俺は王子と呼んでいたのだから」

「レン、もう帰っちゃうの?」

 少し寂しそうな王子が俺に問うた。

「うん、気が向いたら遊びに来る。今、俺のところもお引越しが激しくて大変だからな」

「そうだね、仕方ないね。ククーやヴィンセントにもよろしく伝えておいて。レン、王城を直してくれてありがとう」

 ここは王子の国だ。
 今まで王子が神聖国グルシアと交渉してきた結果が、この援助物資の量に表れている。
 角ウサギたちはテント用の木材やら何やらを、中庭ではなく城門から出しやすいところに運び始めている。
 避難民が最凶級ダンジョンから戻ってきたら、まずは仮住まいのテントを。
 そして、戻ってきた人たちと、王子の仲間たちが今まで身につけた技能でこの土地を復興する。

 最凶級ダンジョンに避難していた者たちは、自分たちの持てる財産を抱えて避難した。完全に何もない状態ではない者が多い。
 自分たちの手で、自分たちの国を復興する。

「じゃあ、またな」

 俺はこの場から去る。
 俺がこの場に居続けると、この国のためにならないだろう。
 角ウサギたちも王子の手伝いまでだ。王子の指示があってこそ手伝う。
 オレオがここに来るのは一年以上先だ。
 そこまでは多少の角ウサギたちが、手伝いにここに来るだろう。俺のダンジョンには聖教国エルバノーンが故郷の角ウサギが多いのだし。

 五十九号は自分の意志でビスタについていく。
 五十九号とマメキチはビスタの良き相棒となるだろう。
 ビスタの再婚は限りなく遠のく気がするが。再婚する気がないのか?

 料理長は五十九号以外の角ウサギたちにもしっかり料理の技を教え込んでくれたので、聖都の屋敷にもダンジョンの方にも料理人角ウサギたちがいる。だが、しかーしっ、あの酒造りの街の角ウサギたちは多少他のものも口にするようになったが、ほとんどが草。草が大好きなのは変わらない。
 だから、料理人角ウサギは酒造りの街ではなくダンジョンの家の方にいる。ククーが書斎で研究しているので食事を出したり、家にやって来た角ウサギたちに様々な料理を出している。

 前国王とアルスも草食べて、美味ーーーっと騒いでいる。おっかしいな。角ウサギになった王子は草食べても、うん、美味しいよ、、、と周囲の皆に気を使った態度だったのに。。。




 王都に残っていた人々で奇跡的に助かった微かな者たちが、王城がいきなり復活したのを見て、希望を手に入れた。
 国王が神の代理人であることを思い出した。

 それまでは誰一人として生存者が見つからず、自分だけがこの世界に取り残されたような気がして、生きる意味すら持てなくなりかけていた者たちだ。この瓦礫にすべての住民が埋め潰されたと考え、誰でもいいから一人でもいいから助けたいと思いながらも、一晩中探し続けても生存者が見つからなかった。
 王都は広い。
 その上、呪いの関係者は非常に多かったため死亡し、生きている者を探すのは困難を極めた。
 最凶級ダンジョンへ避難した者たちは、さすがにまだ戻って来ていないからね。


 王子がいる王城を目指して、人が徐々に集まってくる。

 人の街は人の手で復興を遂げるだろう。
 聖教国エルバノーンも、アスア共和国も。
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