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最終章 そして、迎える春
22-2 生存者
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「父上ー、ようこそーっ」
「、、、アルスか」
簡単な説明を聞いてはいたが、大量の角ウサギたちに迎えられるとは思っていなかったようだ。興味津々の目がこちらを向いている。
聖教国エルバノーンの前国王は辺りを見回す。
そして、自分の姿を見る。
毛の生えた丸い手をにぎにぎ。
「マジか」
半信半疑だった。
譲位の儀式前に、息子たちと違うところで生きてみないかーい?と軽い調子で、人形遣いの爺さんに誘われた。自分のヨボヨボのカラダで生きられるはずもないが、そんな夢なら見てみたいと国王も軽く、いいよー、と爺さんに返事をしてしまった。まるで昔に戻ったかのように。
「で、これが昔々に生き別れた次兄のイリアですよー。可愛いでしょーっ」
隣の角ウサギをじゃじゃーんと紹介するアルス。
おい、アルス。お前、自分の姿を見たのか。どこをどう見ても同じ角ウサギだぞ。三つ子だから、じゃなく、どの角ウサギを見ても同じだぞ。なぜか見分けはつくが。
イリアだけは片耳が折れている。わかりやすいが、その隣の男は誰なんだ。ピッタリと寄り添っているように見えるのだが。それは後で問おう。
前国王はぴょんぴょんと跳ねる。
「おい、アルス。カラダが軽いぞ。何だ、このカラダは。素晴らしいっ」
「それが角ウサギのカラダですっ。と言っても、僕も数時間前に来たばかりですけど」
アルスも前国王も枷が外れてハイテンションとなっている。
ここは俺のダンジョンの酒造りの街。元人間の皆様はもれなくこの街に来ることになる。
そして、前国王はもう一度キョロキョロ。
「キイはどこだ?無事か?うちの王城は崩れたはずだぞ」
「王子は我が王が明日にでも聖教国エルバノーンの王都に連れて行くでしょう。今日は王子が我が家で暮らす最後の晩餐です。そして、王子の誕生日です。彼らの邪魔はしないでおきましょう」
教会長が前国王に言った。教会長の後ろには元聖職者の三匹もいる。その後ろには街の住民がたむろっている。
王子が誕生日なら、イリアもアルスも誕生日である。
「明日、王都に行っても瓦礫しかないぞ。あの揺れ具合だと我が国で生存者を探すのも難しいだろう。このような無事な街があるのなら、ここで暮らすのも悪くないだろうに」
前国王は名ばかりの国王だった。国民を守る責務も生存者を探すという考えも持ち合わせていない。致し方ないのである。ただ、何かあったときの責任だけを取らされる、そんな国王だったのだ。
「大丈夫ですよ。キイはしっかりと教育を受けた上で、仲間をつれて聖教国エルバノーンへ向かいます。立派な国王として勤め上げてくれますよ」
イリアがキイを援護した。隣に先生がいる限り、イリアの精神は長い年月をかけて平和になった。
王子は角ウサギイリアと再会する前に、ククーから王子の正確な情報を教えられた。病気と騙していた謝罪と、神聖国グルシアに引き取られたときから王子には未来がなかったことも。その未来が変わったのは、王子が英雄を救ったからということも。
王子はククーの謝罪を受け入れた。
そして、王子は俺にお礼を言った。
その後、王子は俺から耳飾りを受け取って、角ウサギになってイリアに会いに行った。
彼らは七年をかけて兄弟に戻っていった。
角ウサギになった王子の感想。
皆、良く喋るんだね。知らなかったよ。である。
垂れているタレタ以外の角ウサギは良く喋る。この頃、クロタがタレタの意志を伝え始めたが、そこまで面倒になってきたようだ。。。もうクロタに一生面倒見てもらえ。
角ウサギたちは王子には筆談で意志を伝えていたからね。
俺やククーには普通に角ウサギの声は聞こえるけど、文字がなければ王子はなんとなーく雰囲気でわかる程度だった。
それでも、すごいとは思うけど。
王子は酒造りの街でも受け入れられていたが、決断は覆らなかった。
神の代理人として聖教国エルバノーンの国王となる。
「ふふふ、聖教国エルバノーンの生存者はけっこういますよ。呪いと関係ない国民は、最凶級ダンジョンに避難していましたから」
「は?」
教会長の言葉に、頭を捻る前国王。
「我が王の従魔の角ウサギであるオレオさんが、本当なら聖教国エルバノーンの国民に向かって夢枕に立ったのですが、どうもこの大陸全土の呪いに関係ない皆様の夢枕に立ってしまったらしく、我が王も、角ウサギの皆様も大慌てで各地に散らばる最凶級ダンジョンに向かいました。そのおかげで大変多くの生存者の方々がおられるわけです」
教会長は両手を組んで神に祈る。
神に祈ってるよね。
そのポーズで俺に祈らないでね。俺、神じゃないから。
俺が大陸全土の最凶級ダンジョンを支配して、うちのダンジョンコアの角ウサギたちが各地に飛んでそれぞれのダンジョンコアに説明を行った。世界が落ち着いて避難した皆が最凶級ダンジョンから出たら、各地のダンジョンコアで角ウサギになることを了承したモノはうちのダンジョンに回収することになった。
オレオ、わざとか。わざとだろう。
タレタまで手伝いに駆り出したので、オレオに文句を言っていた。
そのせいで、せっかくの譲位の儀式を生で見ることができなかった。代わりに爺さんが喜んで王城に行った。ミニミニダンジョンのミニちゃんと五十四号とともに待機。幕で隠れた国王と王子を回収した。
「詳しいことは明日、説明いたしましょう。今日は王子、イリア、アルスの誕生日。そのお祝いとともにこちらに来たお二人の歓迎会を致しましょう」
教会長が宴を宣言した。五十四号が樽で酒を持って来た。
女性陣は草がのった大皿を並べる。美肌草の割合がけっこう多いのは何も言うまい。。。
前国王はイリアと先生が番だと知って、クダを巻いた。そして、一緒の家じゃないと嫌だー、と駄々を捏ねた。
一応、イリアと先生の家のお隣を用意しておいたのだが。というか、夜はイリアと先生は励むので、一緒の家だとかなり気まずいと思うのだが。
イリアと前国王は初対面。これから父子になっていけばいい。
アルスとだって、上層部や王妃の邪魔で父子らしいことはやっていないのだから。
イリアと先生は数年前に、丘の上の教会で式を挙げた。
ここでは神には誓わない。
自分たちで番宣言をした。
角ウサギたちが参列した。俺とククーも角ウサギ王子に引っ張られていったけど。
深夜、大陸全土の被害情報が続々と大教会の対策本部へと集まってくる。
神聖国グルシアの聖都は今や世界の中心だ。
様々なギルドから、情報員から情報が流れてくる。
聖教国エルバノーンの譲位の儀式の最中に、大地震が起こった。
あの周辺国家だけの影響ではない。
大陸全土が震えた。
強力結界がはられている神聖国グルシアでも地震を感じた。
さすがに物が落ちてくるほどではなかったが、わりと大きな揺れだった。
聖教国エルバノーンは壊滅的だった。しかし、予期していたかのように神聖国グルシアはすでに支援をすることを決定している。
その隣国のエルク教国はさほどの被害がなかったのに、挟んだ宗教国バルトは聖教国エルバノーンと同程度のひどい状況であった。建物は瓦礫と化し、生存者は期待できないとされている。いたとしても、国としての機能を回復するのは難しいだろう。
シルエット聖国は元々建物や地盤が緩んでいたこともあって、こちらもかなり崩壊し、人的被害も大きい。
アスア共和国は聖教国エルバノーンと接している南東側が壊滅的なダメージを受けた。建物等の被害は大きいが、避難している者が多かった。
そして、この大陸にある国のいくつかが崩壊したことが判明した。聖教国エルバノーンからかなり離れた国もある。
「あー、呪いを大量生産していた国が道連れにされたのか」
神聖国グルシアの聖都の大教会で、対策本部の長になっている大神官長は状況を見て結論を出した。
世界はこれから復興に向かうだろう。
呪いが生産されなければ、最凶級ダンジョンは発生しないのだから。
「、、、アルスか」
簡単な説明を聞いてはいたが、大量の角ウサギたちに迎えられるとは思っていなかったようだ。興味津々の目がこちらを向いている。
聖教国エルバノーンの前国王は辺りを見回す。
そして、自分の姿を見る。
毛の生えた丸い手をにぎにぎ。
「マジか」
半信半疑だった。
譲位の儀式前に、息子たちと違うところで生きてみないかーい?と軽い調子で、人形遣いの爺さんに誘われた。自分のヨボヨボのカラダで生きられるはずもないが、そんな夢なら見てみたいと国王も軽く、いいよー、と爺さんに返事をしてしまった。まるで昔に戻ったかのように。
「で、これが昔々に生き別れた次兄のイリアですよー。可愛いでしょーっ」
隣の角ウサギをじゃじゃーんと紹介するアルス。
おい、アルス。お前、自分の姿を見たのか。どこをどう見ても同じ角ウサギだぞ。三つ子だから、じゃなく、どの角ウサギを見ても同じだぞ。なぜか見分けはつくが。
イリアだけは片耳が折れている。わかりやすいが、その隣の男は誰なんだ。ピッタリと寄り添っているように見えるのだが。それは後で問おう。
前国王はぴょんぴょんと跳ねる。
「おい、アルス。カラダが軽いぞ。何だ、このカラダは。素晴らしいっ」
「それが角ウサギのカラダですっ。と言っても、僕も数時間前に来たばかりですけど」
アルスも前国王も枷が外れてハイテンションとなっている。
ここは俺のダンジョンの酒造りの街。元人間の皆様はもれなくこの街に来ることになる。
そして、前国王はもう一度キョロキョロ。
「キイはどこだ?無事か?うちの王城は崩れたはずだぞ」
「王子は我が王が明日にでも聖教国エルバノーンの王都に連れて行くでしょう。今日は王子が我が家で暮らす最後の晩餐です。そして、王子の誕生日です。彼らの邪魔はしないでおきましょう」
教会長が前国王に言った。教会長の後ろには元聖職者の三匹もいる。その後ろには街の住民がたむろっている。
王子が誕生日なら、イリアもアルスも誕生日である。
「明日、王都に行っても瓦礫しかないぞ。あの揺れ具合だと我が国で生存者を探すのも難しいだろう。このような無事な街があるのなら、ここで暮らすのも悪くないだろうに」
前国王は名ばかりの国王だった。国民を守る責務も生存者を探すという考えも持ち合わせていない。致し方ないのである。ただ、何かあったときの責任だけを取らされる、そんな国王だったのだ。
「大丈夫ですよ。キイはしっかりと教育を受けた上で、仲間をつれて聖教国エルバノーンへ向かいます。立派な国王として勤め上げてくれますよ」
イリアがキイを援護した。隣に先生がいる限り、イリアの精神は長い年月をかけて平和になった。
王子は角ウサギイリアと再会する前に、ククーから王子の正確な情報を教えられた。病気と騙していた謝罪と、神聖国グルシアに引き取られたときから王子には未来がなかったことも。その未来が変わったのは、王子が英雄を救ったからということも。
王子はククーの謝罪を受け入れた。
そして、王子は俺にお礼を言った。
その後、王子は俺から耳飾りを受け取って、角ウサギになってイリアに会いに行った。
彼らは七年をかけて兄弟に戻っていった。
角ウサギになった王子の感想。
皆、良く喋るんだね。知らなかったよ。である。
垂れているタレタ以外の角ウサギは良く喋る。この頃、クロタがタレタの意志を伝え始めたが、そこまで面倒になってきたようだ。。。もうクロタに一生面倒見てもらえ。
角ウサギたちは王子には筆談で意志を伝えていたからね。
俺やククーには普通に角ウサギの声は聞こえるけど、文字がなければ王子はなんとなーく雰囲気でわかる程度だった。
それでも、すごいとは思うけど。
王子は酒造りの街でも受け入れられていたが、決断は覆らなかった。
神の代理人として聖教国エルバノーンの国王となる。
「ふふふ、聖教国エルバノーンの生存者はけっこういますよ。呪いと関係ない国民は、最凶級ダンジョンに避難していましたから」
「は?」
教会長の言葉に、頭を捻る前国王。
「我が王の従魔の角ウサギであるオレオさんが、本当なら聖教国エルバノーンの国民に向かって夢枕に立ったのですが、どうもこの大陸全土の呪いに関係ない皆様の夢枕に立ってしまったらしく、我が王も、角ウサギの皆様も大慌てで各地に散らばる最凶級ダンジョンに向かいました。そのおかげで大変多くの生存者の方々がおられるわけです」
教会長は両手を組んで神に祈る。
神に祈ってるよね。
そのポーズで俺に祈らないでね。俺、神じゃないから。
俺が大陸全土の最凶級ダンジョンを支配して、うちのダンジョンコアの角ウサギたちが各地に飛んでそれぞれのダンジョンコアに説明を行った。世界が落ち着いて避難した皆が最凶級ダンジョンから出たら、各地のダンジョンコアで角ウサギになることを了承したモノはうちのダンジョンに回収することになった。
オレオ、わざとか。わざとだろう。
タレタまで手伝いに駆り出したので、オレオに文句を言っていた。
そのせいで、せっかくの譲位の儀式を生で見ることができなかった。代わりに爺さんが喜んで王城に行った。ミニミニダンジョンのミニちゃんと五十四号とともに待機。幕で隠れた国王と王子を回収した。
「詳しいことは明日、説明いたしましょう。今日は王子、イリア、アルスの誕生日。そのお祝いとともにこちらに来たお二人の歓迎会を致しましょう」
教会長が宴を宣言した。五十四号が樽で酒を持って来た。
女性陣は草がのった大皿を並べる。美肌草の割合がけっこう多いのは何も言うまい。。。
前国王はイリアと先生が番だと知って、クダを巻いた。そして、一緒の家じゃないと嫌だー、と駄々を捏ねた。
一応、イリアと先生の家のお隣を用意しておいたのだが。というか、夜はイリアと先生は励むので、一緒の家だとかなり気まずいと思うのだが。
イリアと前国王は初対面。これから父子になっていけばいい。
アルスとだって、上層部や王妃の邪魔で父子らしいことはやっていないのだから。
イリアと先生は数年前に、丘の上の教会で式を挙げた。
ここでは神には誓わない。
自分たちで番宣言をした。
角ウサギたちが参列した。俺とククーも角ウサギ王子に引っ張られていったけど。
深夜、大陸全土の被害情報が続々と大教会の対策本部へと集まってくる。
神聖国グルシアの聖都は今や世界の中心だ。
様々なギルドから、情報員から情報が流れてくる。
聖教国エルバノーンの譲位の儀式の最中に、大地震が起こった。
あの周辺国家だけの影響ではない。
大陸全土が震えた。
強力結界がはられている神聖国グルシアでも地震を感じた。
さすがに物が落ちてくるほどではなかったが、わりと大きな揺れだった。
聖教国エルバノーンは壊滅的だった。しかし、予期していたかのように神聖国グルシアはすでに支援をすることを決定している。
その隣国のエルク教国はさほどの被害がなかったのに、挟んだ宗教国バルトは聖教国エルバノーンと同程度のひどい状況であった。建物は瓦礫と化し、生存者は期待できないとされている。いたとしても、国としての機能を回復するのは難しいだろう。
シルエット聖国は元々建物や地盤が緩んでいたこともあって、こちらもかなり崩壊し、人的被害も大きい。
アスア共和国は聖教国エルバノーンと接している南東側が壊滅的なダメージを受けた。建物等の被害は大きいが、避難している者が多かった。
そして、この大陸にある国のいくつかが崩壊したことが判明した。聖教国エルバノーンからかなり離れた国もある。
「あー、呪いを大量生産していた国が道連れにされたのか」
神聖国グルシアの聖都の大教会で、対策本部の長になっている大神官長は状況を見て結論を出した。
世界はこれから復興に向かうだろう。
呪いが生産されなければ、最凶級ダンジョンは発生しないのだから。
応援ありがとうございます!
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