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21章 幸福の時間

21-3 報告の時間

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 ノエル家の馬車で、ククーと俺も一緒に運んでもらう。
 クレッセもうちの屋敷で降りてきた。
 わざとか、わざとだな。 
 今回、招待状をクレッセには送ってないからな。ヴィンセントにくっついて家族枠で入るつもりだな。

 屋敷に帰ると、王子が玄関まで迎えてくれる。おやおや、勉強室を使わず王子も台所にいたようだ。台所は居心地が良いよなー。
 王子はタレタを頭にのせている。

「おかえりー」

「ただいまー、王子ー。見て見て、指輪ー」

 精神年齢がダダ下がりだ。
 結婚指輪を自慢したいお年頃なのだ。結婚適齢期を過ぎた三十六歳なので、浮かれるのは許してくれ。
 もらうのと、あげるのとでは少々違うのだ。

「ヴィンセントからもらえたのー?良かったねー、レン」

 いい子じゃ、いい子じゃ。
 頭を撫でておこう。
 メイサさんにこんなことを言ったら、表面上はものすごい笑顔で、心の中でチッと舌打ちされていそうだ。
 言う相手は選ばないとな。

「それでね、レン、僕も一生懸命作ったの。誕生日おめでとう」

 ちょっと躊躇いながらも、おずおずとプレゼントを差し出す。
 小さなタレタの人形だ。耳が良く垂れていて似ている。去年はツノ人形だったから二体目の人形である。
 即座に状態保存の魔法をかける。

「ありがとう、王子。タレタそっくりだ。可愛い」

「流れるように状態保存の魔法をかけるお前が怖いぞ」

 何を言うか、クレッセ。こんな可愛いマスコット人形を状態保存しなくて何に魔法をかけるんだ。

「姉御そっくりです。その可愛く芯の強さを表している人形は私も欲しいくらいです」

 黒い角ウサギのクロタが王子の後ろから声を出した。クロタはあの日から夕方以降はタレタにくっついてきている。昼間は酒造りの街でお仕事だ。

「、、、黒い角ウサギもいたんだな。毛艶がいいな」

 クレッセが触ろうとしたら、ふいっっとクロタに避けられ、王子の影に隠れられた。
 うちの角ウサギは誰彼構わずに撫でられるわけではない。
 手がさまよったクレッセは悲しそうだ。そうだね。俺も角ウサギに逃げられたら悲しくなる。

「実はねー、レン、タレタの人形をもう一つ作ったの。作っている最中、クロタがじっと見てるから作ってあげたくなっちゃったの。クロタにあげてもいい?」

 なんてうちの王子はいい子なの。
 あげちゃって、あげちゃってー。
 タレタがより垂れたけど、かまわないでー。頭の上にのっているから王子にはタレタの垂れ具合がわからないか。

「きょ、恐縮です、王子殿。大切に致します」

 クロタの目が潤んでいる。

「でねー、クロタが持てるようにねー、角ウサギの耳につけられるようにして見ましたー。クロタ、つけていい?」

「はっ、喜んでっ」

 クロタの喜び方が半端ない。耳がピコピコ動いて喜びを表している。
 黒いクロタの耳元に白いタレタの小さい人形が飾られる。あー、コレはコレで可愛い。状態保存の魔法、こっちにもかけておこう。クロタが俺にもペコペコ何度もお辞儀をした。喜びのあまり言葉が吹っ飛んでいる。

 俺のタレタ人形はやはりツノ人形と共に収納鞄につけておこう。小さくて可愛い。いつもはマントに隠れてしまうので他の人が見る機会は限りなく少ないのだけど。

「あ、」

 クロタの耳飾りを見て思い出す。従魔用の耳飾りを用意しなければ。すっかり忘れてたなー。
 そういや、腕のいいアクセサリー工房があったよなー。超人見知りする、あの工房。うんうん。
 材料はダンジョンから持って行けばいいかー。俺の色の魔石なら山ほどあるし、クロタと五十九号だけにあげたら嫉妬するだろうし。きっと角ウサギのなかにも職人の仕事が見たいモノもいるだろう。




 角ウサギの十六号が角ウサギ印のツアー旗をパタつかせながら、シアリーの街からの参加者を連れてきた。
 今回も内輪だけのパーティなので、シアリーの街からはビスタと爺さんだけだ。

「ご招待いただきありがとうございます。レンへの誕生日の贈り物は何が良いかと悩んだが、レンの場合、聖都でもダンジョンでも揃わないモノはない気がするんだよな。というわけで、北の執事さんにご相談のっていただいて、二頭の番の可愛い角ヒツジをご用意しました。この屋敷に持ってくるのもなんだから、レンのダンジョンの酒造りの街に置いてきたよ。子供たちに大人気になってる」

 というわけで、この場では目録をもらった。角ヒツジ二匹。
 どうやらこの二人は北の執事に異国の衣装やら食べ物やらを貢いだようだ。
 そして、この角ヒツジはコロコロ丸くて、羊毛がとれる上に羊乳までとれる。魔物だが、魔物らしからぬ穏やかさで、子供角ウサギたちを背中に乗せて遊ばせている。ちなみに、この角ヒツジも世間の角ヒツジとは別物だ。角ウサギ同様、世の中の角ヒツジはここまで可愛くないし、性別など存在しない。
 これで酒造りの街の食が少し広がる。
 うちの角ウサギたちは屋台のものも料理長が作ったものもよく食べているし、草以外の物も大好物なのだが、酒造りの街の住民は角ウサギになって食べた草の味に驚愕した。
 こんな旨い草があったのかーーーーーーっ、と。
 どこかの美食家の過剰な食表現のように、光を口から出して草の美味しさを食レポした。
 そのため、草が本当に大好きだ。人が雑草と呼ぶ種類が特に好きなんだよなー。人間のときに食べていた肉とか魚とか甘い物とかにはあまり興味がなくなってしまっている。。。しかも、今の女性陣は美肌草を大量に食べている。良いのかな、それで、と思う今日この頃。
 魔力豊富な俺のダンジョンで生えた草なので栄養自体は充分なんだけど、彼らは元々は人間だったのだから、幅のある食事をしたいと思わないのかな?
 作ろうと思えば、角ウサギ姿でも料理できるからね。彼らの家には台所もあるんだし。
 今、彼らの食卓を飾るのは草だけだ。
 ダンジョンマスターの俺が彼らの食を心配するレベルなので、家畜が増えるのを歓迎する。
 彼らは温泉では酒や牛乳も飲むし、五十四号に勧められれば酒も飲むしね。環境が整わないといけないんだろうな。

「ありがとう、二人とも。素晴らしい贈り物をありがとう」

「そりゃ、ずるいなー。普通の人間にはどう転んでも用意できないぞ。反則だっ」

 ノーレンさんがやって来た。執事さんと私兵団副団長もいる。

「人脈の違いですよー、ノーレン前公爵。というか、国の一大事にここにいて良いんですか?」

 ビスタがノーレンさんに尋ねた。一般人はアスア王国の事情など知ったことではないが、ビスタも爺さんも他国の情勢には気を払っている。

「引退した人間が出張ったところで何の意味もありはしない。うちの息子がいるんだし、国のことは若いヤツらに任せるよ。というか、聖教国エルバノーンの人形遣い殿はこの聖都にいつ来るのかね?いつまでもシアリーの街にいるわけにもいくまい」

「あー、それが、聖都の空き家が郊外にも見つからず、保留状態で。今、聖都は特に大人気の状態だからな。。。まあ、大神官長にもレンがシアリーの街で冒険者をしている間はのんびりとシアリーの街にいてくれと言われているから、言葉通りに受け取っておるよ」

 冒険者ギルドは聖都の一等地の銀行だった建物を手に入れたが、そこまでいい物件は後から聖都に来た他のギルドでは見つからなかった。神聖国グルシアだけが強力結界に守られ安全だということを確認したときにはもう遅い。聖都の一等地にある空き家は急激に埋まってしまったのだ。今や聖都の郊外でも物件を探すのは困難なので、地方都市で手に入れるところも多い。

「うちなら何個か空いてる別宅が聖都にあるが、さすがにうちからの紹介は大神官長が待ったをかけるだろうな」

 ビスタがヤレヤレ感を醸し出しながら言った。

「あー、そうじゃろうなー。イーグ家の大神官長の政敵の家からの紹介は後々面倒なことになる」

 この二人は仲良くシアリーの街で話しているが、爺さん一家の移住を許可したのはイーグ家の大神官長。政敵のリングランド家とは非常に仲がよろしくない。リングランド家はイーグ家の完全なる敵である。敵対派閥である。懐柔策は不可能であり、国民のためにならない政策には強気にノーと叫ぶのがリングランド家の大神官である。正義感あるれるリングランド家だが、融通が利かないと評判だ。いなくてはならない家だが、強すぎても困る家である。
 記憶しているだろうか?緑苦草が採取できずに困った時期の選挙に対抗馬がいたことを。あれがリングランド家の大神官である。ちなみにビスタの何番目かのかなり年齢の離れた兄である。
 ビスタはリングランド家と全くソリが合わなかったために、ビスタはギバ共和国に旅立ってしまったわけだ。
 ビスタも希少なギフト持ち。
 リングランド家に神官にされそうになったが、ククーと違いこっちはさっさと他国に逃亡してしまった。
 冒険者ギルド本部で確固たる地位を手に入れたからこそ、神聖国グルシアに戻ってこれた。ビスタは自分の生まれた国が好きだからな。

 が、冒険者ギルド本部が呼んでも聖都に行きたくない理由は仕事が多いからだけではなく、リングランド家にもあったのだ。
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