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21章 幸福の時間
21-2 誓いの時間
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神聖国グルシアの聖都の大教会にある普通の通路にて。
兄弟喧嘩していたので、遠巻きにしか他の神官はいない。
「ク、ククーの指輪がどうしても外れないのはわかっていたけど、何でレンの指輪までっ」
ヴィンセントが超驚いている。
ククーの指輪が外れないのだから、俺の指輪だって外れないと予想がつくものだと思っていたけど。。。
「だって、一対の誓いの指輪だぞ。ククーを縛る指輪だ。そんな物が外れたら、ククーが自由になってしまうじゃないかっ」
「たまにレンの発言がおかしいと感じるのは私だけか?ククー」
「クレッセ、じきに慣れる」
「絶対に外れない縛る指輪をお持ちのククーさん、ご感想を」
「レンの指輪も外れないと聞いて、非常に幸せです」
「お似合いだよ、お前ら」
クレッセが呆れたように言う。
「兄さんっ、工房にある結婚指輪は、外れないようにできないのっ」
「無理だろ。アレは家紋が入っているだけのただの指輪なんだから。お前もあの工房を何だと思っている。ただの腕が良いアクセサリー工房だぞ。魔術が使える者はいないぞ」
クレッセは呆れたままヴィンセントに答えた。
「おや、呪いの指輪じゃなかったのか」
「レン、何だ、その呪いの指輪って」
「え?だって、しているだけで結婚が認められる指輪と聞いたら、呪いの指輪としか思えなかったのだが?」
以前、クレッセからそのような感じの説明を受けたはずなんだが。呪いの指輪とは言われなかったが、普通なら呪いの指輪でも呪いの指輪とは言えないだろう。
「お前ら兄弟揃って説明不足だな。レン、ノエル家の結婚指輪は贈る相手に家紋を渡す行為だ。つまり、ノエル家の紋章を身につければノエル家の一員と見なす、ということだ。対になる指輪で結婚相手がわかる、血がつながっていない赤の他人のノエル家での身分証明書みたいな役割を持つ」
「おおっ、さすがククー、説明がわかりやすい」
けれど、あの指輪のデザインにノエル家の紋章なんかあっただろうか?
「わからないようにデザインに埋め込むことができるのが、その工房なんだ。よく見ているとわかる。家紋を主張しないから上品な仕上がりになる」
あー、アスア王国の貴族でも堂々と家の紋章を指輪にしている者がいたが、アレは微妙だった。家柄を誇示しなければ何もできない坊ちゃんか、とツッコミをいれたくなるくらいだ。
本来、そういう紋章のアクセサリー類はその家の者は身につけない。その家と縁があると示したい者にその品を贈るのだ。ただ、自分より上の人間には絶対に贈ってはならないプレゼントだが。無礼である。
下の者が何か困ったときに、その紋章のアクセサリーを見せるとそれを見た者が何かしらの融通を利かせるといった類のものである。だからこそ、影響力のある地位の高い者しか作る意味はない物だ。だって、それを見せても、だから何?と言われるような紋章なら何の意味もないのだから。
「俺が直接その工房に出向いて良いのか?」
実際、今までも直接行こうか?と何度もクレッセに言ったことがあるのだが、毎回断られていた。秘密にしておきたい工房なのだろうか。聖都をダンジョン化したときに場所はしっかりと把握しているのだが。クレッセに教えてほしいと無理強いはしなかった。
「うーん、この際仕方ないだろう。指輪を預かることができないのだから。ヴィンセントも一緒に行くだろう?」
「え?ああ?まあ、一緒に行くけど」
「お前はわかっていないようだが、レンがしている指輪が外れない。一度指輪をはめないと、工房の職人がその出来上がり具合を確認できない。ということは、お前が行かないと、レンがお前の手ではなく、自分で指輪をはめてしまうということになるんだぞ」
「レン、絶対に自分ではめるなよ。ククーにもはめさせるなよ」
「はいはい」
「はいは一回で良いよ」
俺のおざなりな返事に少々寂し気にヴィンセントは言った。
「お前との結婚指輪なのだから、ヴィンセントがはめてくれないと意味がないだろ」
正論を言ったつもりなのだが、ヴィンセントが上機嫌になった。
「レンの方はククーとの指輪との調和を図っているが、一つだけで身につけても見劣りはしないようなデザインになっている。パッと見では対の指輪だと思われない可能性も高いが、ノエル家の人間だけにわかっていれば良いことだからな」
そして、クレッセが落とす。
俺のことをおかしいと評価しているのに、弟だけが幸せになるのは許せないらしい。困ったお兄ちゃんだ。だからこそ、ヴィンセントにはまだまだ休日がない。
この国では神官というのは、通常では休日がないものである。。。神に仕えている人間だから。。。
俺から見ると特に大神官長や大神官は年中無休で働いていると言ってもいい。だが、それは彼らにとって働いているという定義ではないらしい。神にご奉仕しているのである。。。
信仰心がない者には意味がわからん。
どう見ても働いてるだろー、とツッコミ入れちゃうぞ。
不定期だが、ククーには休日がある。
この国の神官ではククーの状態がおかしいとも言える。
ククーの場合は最初から国外の諜報担当だった。休日がないと、周囲にバレるのである。宗教国家の諜報員だな、と。
その名残で諜報員を辞めた今でもククーにはきちんと休日がある。
ククーは希少なギフト持ちでもあるので、手厚い保護を受けているのである。
で、クレッセ、ヴィンセント、ククーと俺の四人で馬車に乗り工房へと赴く。
一等地の外れにある工房。蔦が絡まる煉瓦の壁やら庭の手入れの仕方など趣がある。
さすがはノエル家ご用達の工房。
きっと職人も。
「ク、クレッセ様、な、なぜほ他の人を、こ、こ、ここへ?」
職人かな?壁からほんの一部分だけが見える状態だ。
「すまないが、キミたちの要望だ。組み合わせる指輪との完成を見ないと絶対に納品できないと言ったのはキミたちだろう」
「い、いや、それは、ゆ指輪を持ってき来てほしいという意味でで」
これは決して打ち間違えじゃないぞ。
つまり、クレッセが俺をこの工房に連れてきたがらなかった理由だ。職人たちは極度の人見知り。。。
「その指輪が持ち主から外れない指輪だったんだ。だから本人を連れてきた」
「そそそういうことは、さ最初に言ってくくれないと」
「私も今日知った」
クレッセが言い切った。
ものすごい長い沈黙の後、壁から手が出てきた。指輪の箱を持っている。
「ヴィンセント」
クレッセがヴィンセントに受け取るように指示した。
ヴィンセントが箱を受け取ると、手がシュッと壁に消える。
おもしろい。
ククーが俺のマントを引っ張った。ククーが首を横に振る。
おおっと、いかんいかん。ここに来たのは指輪の確認だった。
「レン、」
ヴィンセントが指輪を手に持っている。
俺の左手を取った。
「私と結婚してくれませんか」
「喜んで」
ヴィンセントは俺の返事を聞くと、俺の左手薬指に先にはまっている指輪を一度外せないか試してみた。ククーの指で散々試したことがあるのですぐに諦め、俺の指に結婚指輪をはめる。
嬉しい。
ヴィンセント、ククーとの結婚指輪が俺の指で並んでいる。
顔が緩むのも仕方ない。
と思ったら、ごつい男が三人、そばでじっと俺の指を見ていた。
「、、、」
「、、、どうだ?完成形は?満足の行く出来か?」
クレッセが三人に声を掛けた。その声で三人は一瞬にして壁に消える。。。。。
もしやこの三人は。
「納得したようだ。納品書がやって来たから、ヴィンセント、受取書にサインしろ」
影が壁のそばに見える。
コレが結婚指輪の納品ではなかったら、少々お話してみたいのに。
「レン、これから先、機会はあるだろうから、ウズウズするな。お前は追うと逃げるのに、逃げられると追いたくなるのは本能なのか?」
ククーが俺のマントを離してくれない。
兄弟喧嘩していたので、遠巻きにしか他の神官はいない。
「ク、ククーの指輪がどうしても外れないのはわかっていたけど、何でレンの指輪までっ」
ヴィンセントが超驚いている。
ククーの指輪が外れないのだから、俺の指輪だって外れないと予想がつくものだと思っていたけど。。。
「だって、一対の誓いの指輪だぞ。ククーを縛る指輪だ。そんな物が外れたら、ククーが自由になってしまうじゃないかっ」
「たまにレンの発言がおかしいと感じるのは私だけか?ククー」
「クレッセ、じきに慣れる」
「絶対に外れない縛る指輪をお持ちのククーさん、ご感想を」
「レンの指輪も外れないと聞いて、非常に幸せです」
「お似合いだよ、お前ら」
クレッセが呆れたように言う。
「兄さんっ、工房にある結婚指輪は、外れないようにできないのっ」
「無理だろ。アレは家紋が入っているだけのただの指輪なんだから。お前もあの工房を何だと思っている。ただの腕が良いアクセサリー工房だぞ。魔術が使える者はいないぞ」
クレッセは呆れたままヴィンセントに答えた。
「おや、呪いの指輪じゃなかったのか」
「レン、何だ、その呪いの指輪って」
「え?だって、しているだけで結婚が認められる指輪と聞いたら、呪いの指輪としか思えなかったのだが?」
以前、クレッセからそのような感じの説明を受けたはずなんだが。呪いの指輪とは言われなかったが、普通なら呪いの指輪でも呪いの指輪とは言えないだろう。
「お前ら兄弟揃って説明不足だな。レン、ノエル家の結婚指輪は贈る相手に家紋を渡す行為だ。つまり、ノエル家の紋章を身につければノエル家の一員と見なす、ということだ。対になる指輪で結婚相手がわかる、血がつながっていない赤の他人のノエル家での身分証明書みたいな役割を持つ」
「おおっ、さすがククー、説明がわかりやすい」
けれど、あの指輪のデザインにノエル家の紋章なんかあっただろうか?
「わからないようにデザインに埋め込むことができるのが、その工房なんだ。よく見ているとわかる。家紋を主張しないから上品な仕上がりになる」
あー、アスア王国の貴族でも堂々と家の紋章を指輪にしている者がいたが、アレは微妙だった。家柄を誇示しなければ何もできない坊ちゃんか、とツッコミをいれたくなるくらいだ。
本来、そういう紋章のアクセサリー類はその家の者は身につけない。その家と縁があると示したい者にその品を贈るのだ。ただ、自分より上の人間には絶対に贈ってはならないプレゼントだが。無礼である。
下の者が何か困ったときに、その紋章のアクセサリーを見せるとそれを見た者が何かしらの融通を利かせるといった類のものである。だからこそ、影響力のある地位の高い者しか作る意味はない物だ。だって、それを見せても、だから何?と言われるような紋章なら何の意味もないのだから。
「俺が直接その工房に出向いて良いのか?」
実際、今までも直接行こうか?と何度もクレッセに言ったことがあるのだが、毎回断られていた。秘密にしておきたい工房なのだろうか。聖都をダンジョン化したときに場所はしっかりと把握しているのだが。クレッセに教えてほしいと無理強いはしなかった。
「うーん、この際仕方ないだろう。指輪を預かることができないのだから。ヴィンセントも一緒に行くだろう?」
「え?ああ?まあ、一緒に行くけど」
「お前はわかっていないようだが、レンがしている指輪が外れない。一度指輪をはめないと、工房の職人がその出来上がり具合を確認できない。ということは、お前が行かないと、レンがお前の手ではなく、自分で指輪をはめてしまうということになるんだぞ」
「レン、絶対に自分ではめるなよ。ククーにもはめさせるなよ」
「はいはい」
「はいは一回で良いよ」
俺のおざなりな返事に少々寂し気にヴィンセントは言った。
「お前との結婚指輪なのだから、ヴィンセントがはめてくれないと意味がないだろ」
正論を言ったつもりなのだが、ヴィンセントが上機嫌になった。
「レンの方はククーとの指輪との調和を図っているが、一つだけで身につけても見劣りはしないようなデザインになっている。パッと見では対の指輪だと思われない可能性も高いが、ノエル家の人間だけにわかっていれば良いことだからな」
そして、クレッセが落とす。
俺のことをおかしいと評価しているのに、弟だけが幸せになるのは許せないらしい。困ったお兄ちゃんだ。だからこそ、ヴィンセントにはまだまだ休日がない。
この国では神官というのは、通常では休日がないものである。。。神に仕えている人間だから。。。
俺から見ると特に大神官長や大神官は年中無休で働いていると言ってもいい。だが、それは彼らにとって働いているという定義ではないらしい。神にご奉仕しているのである。。。
信仰心がない者には意味がわからん。
どう見ても働いてるだろー、とツッコミ入れちゃうぞ。
不定期だが、ククーには休日がある。
この国の神官ではククーの状態がおかしいとも言える。
ククーの場合は最初から国外の諜報担当だった。休日がないと、周囲にバレるのである。宗教国家の諜報員だな、と。
その名残で諜報員を辞めた今でもククーにはきちんと休日がある。
ククーは希少なギフト持ちでもあるので、手厚い保護を受けているのである。
で、クレッセ、ヴィンセント、ククーと俺の四人で馬車に乗り工房へと赴く。
一等地の外れにある工房。蔦が絡まる煉瓦の壁やら庭の手入れの仕方など趣がある。
さすがはノエル家ご用達の工房。
きっと職人も。
「ク、クレッセ様、な、なぜほ他の人を、こ、こ、ここへ?」
職人かな?壁からほんの一部分だけが見える状態だ。
「すまないが、キミたちの要望だ。組み合わせる指輪との完成を見ないと絶対に納品できないと言ったのはキミたちだろう」
「い、いや、それは、ゆ指輪を持ってき来てほしいという意味でで」
これは決して打ち間違えじゃないぞ。
つまり、クレッセが俺をこの工房に連れてきたがらなかった理由だ。職人たちは極度の人見知り。。。
「その指輪が持ち主から外れない指輪だったんだ。だから本人を連れてきた」
「そそそういうことは、さ最初に言ってくくれないと」
「私も今日知った」
クレッセが言い切った。
ものすごい長い沈黙の後、壁から手が出てきた。指輪の箱を持っている。
「ヴィンセント」
クレッセがヴィンセントに受け取るように指示した。
ヴィンセントが箱を受け取ると、手がシュッと壁に消える。
おもしろい。
ククーが俺のマントを引っ張った。ククーが首を横に振る。
おおっと、いかんいかん。ここに来たのは指輪の確認だった。
「レン、」
ヴィンセントが指輪を手に持っている。
俺の左手を取った。
「私と結婚してくれませんか」
「喜んで」
ヴィンセントは俺の返事を聞くと、俺の左手薬指に先にはまっている指輪を一度外せないか試してみた。ククーの指で散々試したことがあるのですぐに諦め、俺の指に結婚指輪をはめる。
嬉しい。
ヴィンセント、ククーとの結婚指輪が俺の指で並んでいる。
顔が緩むのも仕方ない。
と思ったら、ごつい男が三人、そばでじっと俺の指を見ていた。
「、、、」
「、、、どうだ?完成形は?満足の行く出来か?」
クレッセが三人に声を掛けた。その声で三人は一瞬にして壁に消える。。。。。
もしやこの三人は。
「納得したようだ。納品書がやって来たから、ヴィンセント、受取書にサインしろ」
影が壁のそばに見える。
コレが結婚指輪の納品ではなかったら、少々お話してみたいのに。
「レン、これから先、機会はあるだろうから、ウズウズするな。お前は追うと逃げるのに、逃げられると追いたくなるのは本能なのか?」
ククーが俺のマントを離してくれない。
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