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19章 儚く散っていく

19-10 お披露目会 ※ククー視点

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◆ククー視点◆

「何だ、この、細かすぎるドレスコードは」

 神聖国グルシアの聖都の中心部にある大教会、その大神官長の執務室で招待状を見て唸っていたのはヴァンガル・イーグ大神官長だ。

「しかも、馬車の種類とかならまだしも、護衛の数だけじゃなく護衛や御者の指名までされちゃってるよっ」

「愛されてますねー、大神官長」

 信用されていないとも言う。もちろんそれだけじゃなく、ズラズラと条件が並び馬車が通る道順まで指定されている。英雄のギフトの長剣を抱えてレンが書いてしまった招待状だ。こうなるのも仕方がない。

「ふーん、で、クレッセにも渡したのか」

「ヴィンセントが持って行きましたが、来るかどうかはわかりませんよー?」

 レンはクレッセが招待してなくてもヴィンセントの家族枠で来るから招待状を書いたのだけど。
 どうもノエル家の当主とクレッセはあまり家に呼びたくない枠に入っているようだ。

 大神官長は豪華な椅子の背もたれに体重を預ける。

「アイツは来るだろう。レンと繋がりを持っていたいと願うのはアイツだけじゃないが。クレッセにはヴィンセントがいるから、そこまで慌てなくともよいと思うが」

 あーーーーー、そういうことか。レンは追われると逃げる性質を持つ。クレッセがレンに好まれない理由はそこなのか。顔はヴィンセントと似ているし、魔力高い人大好きなのもヴィンセントと変わらない、にもかかわらず。
 レンは逃げたら逃げたで罠を仕掛けるのも忘れない。俺たちが諜報員時代に散々苦しめられてきた結果がここにある。





 レンの屋敷の内輪のお披露目会、当日。
 大神官長はしっかりと招待状に書かれている条件を守るようだ。が、華美なノエル家の馬車で来たのはクレッセだった。
 レンが玄関先で迎えて、キラキラ煌びやかな本人の前で舌打ちをしていた。
 次やったら後はないぞの意志表示である。
 未来の大神官長殿にそんな態度をとれるのはレンだけだ。
 ノエル家から来た使用人も、クレッセについてきた護衛たちも表情は崩さないが、内心青ざめている。

「せっかくのレンの屋敷のお披露目会なのだから、礼節をわきまえないと。普段使いの地味な馬車で来るのは失礼だろう」

「クレッセ、わかってて言うのなら、後はないぞ。大教会で絶賛売り出し中のお前がそんな馬車で来る意味がわからないほどのお間抜けさんなら滅ぼすぞ」

 あ、超笑顔のレンがしっかりと意志を口にした。

「もうーーー、レンったら怖いんだからーーー。はい、これ、引っ越しお祝い」

「この埋め合わせは、お前が今日の大神官長の相手をしろ」

「う?ええっ、そんな」

「それはそれはありがたい。次の大神官の一席を担う可能性のある若人にご相手してもらえるとは」

 ちょうど後ろから大神官長がニヤつきながら馬車から降りてきた。大神官長の馬車はレンの言いつけ通りお忍び用の馬車でも一番質素な馬車で来た。まあ、一つでも条件を違えたら屋敷に辿り着かない、永遠に聖都を彷徨えとまで書かれていたら従うだろう。
 だからこそ、条件を守った大神官長にはご褒美が貰えたのだ。
 そして、察していながらもワザと行動してしまったクレッセには罰を。レンの今回の罠はわかりやすかったのになー。
 大神官長はお祝いをレンに渡すと、ずるずるとクレッセを連れて屋敷に入って行った。

「おおっと、大神官長まで来ているとは。。。大神官長より遅くなってしまったとは。ヤバいな、これは」

「貴方がいつまでも準備をしないからですよ、ギルド長」

 最後の馬車から降りてきたのは、薬師ギルドのギルド長と副ギルド長である。副ギルド長のクッキィ氏はレンが繋いだ扉でシアリーの街から直接この屋敷に来ていたが、来なさそうなギルド長を不安に思い迎えに行ったのである。ご苦労様です。
 来なさそうだからこそレンも招待したのだろうけど。。。
 今回は警備がしっかりしているシアリーの街の薬師ギルドの副ギルド長室に扉を作って、シアリーの街からの参加者をレンが連れてきた。この扉は彼らが一度全員帰ると元に戻る仕様である。
 シアリーの街からの参加者はビスタ、爺さんとその一家、クッキィ氏となる。爺さんと大神官長との顔合わせという意味も込められている。
 聖都の参加者は先ほど来た人々と、ノーレンさんとその御一行ぐらいなものだ。
 冒険者ギルドのギルド長はこの場に呼んでないので、絶対に後で苦情が来ると思うぞ。行きたいと熱望する人には招待状を出したくないというレンの姿勢を感じる。ノーレンさんたちは呼ばないと余計にうるさいから呼ぶのである。


 招待客が揃い、ウェルカムドリンクをお客は受け取って、広間の思い思いの場所にいる。顔を合わせたこともない人々もいるからな。角ウサギの従魔組四匹はお客のような顔をして飲み物を飲んでいる。ダンジョンから来た角ウサギたちは黒い蝶ネクタイをして給仕の手伝いをしている。彼らは我が王と一緒の席にいるのではなく、裏方に回ることを自ら望んだ。せっかくだから参加しない?と聞いたら、恐れ多い、という返事をいただいた。
 ヴィンセントや王子もそれぞれ挨拶に回っている。

「小さな可愛いお嬢さんもいるとは。キイくんのご友人かな?」

「え?あ、いえ、私は聖教国エルバノーンから来ましたルルリと申します。今はシアリーの街で冒険者をしております」

 ルルリは冒険者とは思えないきちんとした礼をする。聖教国エルバノーンでは上流階級の人間だ。小さくとも礼儀もしっかりと身についている。今日は可愛いワンピースでの登場だ。両親も見ていて微笑んでいるぞ。
 背格好から王子の友人として呼ばれたと勘違いされても仕方ないとは思うが、ルルリが王子と会うのははじめてだ。

「ああ、聖教国エルバノーンの人形遣いの。私はアスア王国のノーレン。英雄の養父と言えばわかりやすいかな?」

 ノーレンさんはやっぱり喰えない人だな。誰も人形遣いとは言ってないぞー。

「えっ、英雄のっ。あの、不躾な質問で失礼だとは思いますが、英雄は今も生きているんですかっ。ご存じでしたら教えていただけないでしょうかっ」

 ルルリはノーレンさんに深々と頭を下げた。
 ルルリの大声でその場にいた周囲の人間すべてが固まった。
 そうだった。
 この場にいるルルリだけは、レンを英雄だとは認識していない。そして、人形遣いの爺さんからは英雄を探すように言われて、シアリーの街にいたのだった。みーんな、そのことを忘れていた。
 レンがルルリから見えない位置でノーレンさんに、腕でバツの印を出している、笑顔で。
 その笑顔の意味は、面白がってバラしたら、バラしたヤツはどうなるか覚えておけ、である。
 皆さんに正確な意味が伝わったようなので、ここからルルリの前でレンを英雄呼びするヤツはある意味で英雄と言えよう。

「お嬢さん、英雄の生前、養父とはいえ家族としての繋がりは薄かった。けれど、我が息子の英雄の亡き地の神聖国グルシアに来て、いつも近くにいるような気がする。だからこそ、私もこの地で暮らすことに決めたんだよ」

 気がする、ではなくて、近くにいますからね。
 この人も挑戦者だよな。レンの笑顔が濃くなっているよ。

「そうですか。ノーレン様、お話し辛いことを尋ねてしまい申し訳ございません」

 ルルリはまた深々と頭を下げる。
 ノーレンさんはレンと身振り手振りで意志の疎通を図っている。こんな子を騙すなんて可哀想じゃないか、とか、ルルリが知った後どう行動するか責任が取れるのか、国に帰ろうとか言ったらどうする、とか、応酬している。しかも、ルルリが頭を下げた一瞬で。器用だな、お前ら。

「いやいや、そうだ、甘いものは好きかね?ここの料理長はアスア王国のお菓子も作れるんだ。美味しいよ」

 ノーレンさんの言葉にルルリはチラリと母親を見る。小さく頷かれると、甘いものに吸い寄せられていった。
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