すべてを奪われた英雄は、

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19章 儚く散っていく

19-9 混乱 ※ククー視点

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◆ククー視点◆

「オレオに言っておかないとな。うちのダンジョンはゴミ捨て場ではありませんって。始末するならきちんと始末しなさいと」

 レンが文句言ってる。
 神聖国グルシアの大神官はゴミ扱いかー。うん、アイツはゴミ以下な気がする。

「酒造りの街が混乱に陥れられた。アイツは誰彼構わずヤろうとした」

「あそこでは大神官という身分もない角ウサギになったのに、生粋の性犯罪者だな」

 最初にアスア王国の王太子の子たちに迫った。姉妹だけでなく、彼女らの守りに入った長男までも誘ってキレられた。追い払われると、次に出会った角ウサギに、と次々に声を掛けた。
 五十四号の鉄拳制裁で意識を失っていたところに、イリア角ウサギが街に現れた。センセー、と呼んでやってくるイリアに五十四号が事情を説明すると、グーザルが目を覚ました途端、先生ーっ、浮気はダメですーーーーっ、と平手打ちした。。。角ウサギのカラダは非常に強化されているからな。。。グーザルは見事に吹っ飛んだ。
 ちなみに、イリア角ウサギは左耳が折れている。折れている耳は屈折の証。イリアは歪んでいたが、片耳ですんだのか。

 で、今の二匹は酒造りの街で仲良く同じ家に住んでいる。
 角ウサギになってまで追いかけてくれて、じーん、と心打たれたようだ。打ちどころが悪かったのか?まあ、歩く性犯罪者ではなくなったのなら問題ないか。
 夜にイリアで性欲が満たされるグーザルは、昼にはきちんと農業指導、計画等の仕事をテキパキとこなしている。春になり街の周囲にも農作物を植え始めた。そして、他の層の農地の使い方を見ていろいろと指示を出している。コイツも一応大神官。性欲さえ満たされれば、仕事はできる方なのだ。
 グーザル、浮気をすると痛い目に遭うのは充分にわかっただろう。
 イリアを一生大切にしてやれ。

「緑苦草を送ろう。混乱の罰として一日一本必ず食べるように言い渡そう」

 レンはグーザルに罰を課した。
 新参者のくせに我が王からのプレゼントなんてずるーい、と言って口に入れた他の角ウサギたち。吐き出したのは言うまでもない。
 レンが罰って言ったのに、どうしてプレゼントと取るのだろう。。。
 角ウサギにとってはただの不味い薬草でしかない。性欲を抑える効果なんて角ウサギには望めない。
 だから、ただの罰なのだ。
 グーザルは大人しく一日一本食べている。青汁だと思えば、、、とか言って食べている。




「へえ、イリアはその先生?と角ウサギになって、レンのダンジョンで暮らしているんだね」

「うん。王子が会いたくなったら会いに行くと良いよ」

 レンが王子に言った。
 聖都の屋敷の、台所でだ。
 料理長が珈琲ではなく紅茶を入れた。自分には珈琲をいれている。
 レンには紅茶が似合うなあ。何でだろうなあ?英雄姿は酒が似合うが、紅茶も似合うな、うんうん。
 何でお前ら台所に集合するのー?と料理長が嘆いている気がするが、レンがいるから俺もいる。レンは前の家の習慣だろう。自分で料理していたから台所にいる時間も多かった。

「あ、会いに行って良いの?」

 嬉しそうな王子の顔。

「そうだなー、王子が学校に慣れたぐらいならちょうど良いかもな。向こうも角ウサギ生活に慣れる頃だろうし」

「うん、そうだね、そうするっ。えと、レン、僕もそのときは角ウサギになれるかなあ」

 角ウサギになってみたいんだ、王子。。。
 というか、意思疎通は角ウサギ同士の方がしやすい。そういう理由、、、ではなさそうだな。一緒の姿でもう一度会いたいということだろう。

「王子の角ウサギは可愛いだろうねえ。王子限定のアイテムを作ってみるよ」

「ありがとう、レン」

「あー、角ウサギになるためのアイテムか」

 王子が持つのなら、持ちやすくなくさないような小物にするんだろうな。ちょっと羨ましい。
 レンが俺を見た。

「ククーも角ウサギになってみたい?」

「俺は遠慮します」

 レンのお手製アイテムは羨ましいが、角ウサギになりたいかというと、微妙。。。角ウサギ姿でグーザルにも会いたくない。

「残念。ククー角ウサギならずっとなでなでしてられるのに」

 それは魅力的な申し出だが、そんなことされたら俺が角ウサギから戻らなくなりそうな気がする。まだまだ神官としての仕事があるので、大神官長に小言を言われる。いや、角ウサギになっても、ギフトがそのまま使えるなら仕事しろって言われる。。。

 それはそれとして。
 王子がイリアに会いに行くのに、レンが多少の時間を置こうとしているのは、イリアに対して気を使ったものだろう。イリアは歪んでいた。先生がたとえどんな人物であったとしても、イリアが幸せだと思うのなら幸せを噛みしめてもらってからの方が良い。
 酒造りの街での人間関係や生活や仕事で、誰かの不幸を嗤わなくても自分が惨めではないことを理解できるだろう。あの街は最適だ。一番は先生に愛されるということがイリアにとって重要なウエイトを占めているのが、グーザルを知る人間には信じられないところなんだが。

 イリアが慕って先生先生と呼ぶので、グーザルはあの街で先生と呼ばれるようになってしまった。あの混乱事件はイリアが一緒にいなくて動転したためあんな行動をしてしまったんだろうと優しく解釈された。あの街の者たちは基本的に優しいからなー。あの教会長のおかげでー。
 小さい子供たちもいるので、イリアは一緒に文字を書く練習をしている。

 ついでに、人形の印はオレオがパックリと食べたときに外してしまった。専門の神官がいなくても外れるもんなんだなー。神聖国グルシアの技術もそんなものだー。

 そして、レンは教会で保管されているイリアの持ち物の一つ、絵本だけを引き取ってイリアに送った。
 教会の先生の部屋にあった一冊の絵本だ。
 それをあの街の自分の部屋で手にしたイリアは少しだけ笑って喜んだ。


「レン、ところで、グーザルやイリアの寿命はどこに合わせている?」

「ああ、普通の人間とだいたい同じ寿命だろうな。イリアの設定は王子と同じだ」

「とすると、グーザルは早々にこの世から退場するか」

「いや、うちの栄養満点魔力満充填の緑苦草を角ウサギ姿で毎日食べているからイリアより少し早く亡くなるだけだ」

「人としては超長生きだな」

 アイツは今、初老と呼ばれる年齢のはずだったんだが。。。

「そのために緑苦草を食わせてやっているようなものだ。罰にもなるし一石二鳥だ」

 イリアの幸せのために至れり尽くせり。
 超苦ーいと、あの可愛い角ウサギの顔をしかめながらグーザルは毎日食べているが、良い効果もあったのか。本人もこれだけ苦いのだから何かしらの薬効があるのだろうと思って食べている。

「王子の弟だからな。幸せになってほしい」

 王子がレンをギュッとした。
 うん、文句なく可愛い。俺がレンを抱きしめたら、ヴィンセントが飛んでくるだろうな。
 別れ別れになったとしても三つ子の兄弟。王子にも思うところはあるだろう。

 王子は事情をまったく知らないが。
 自分がまだ病気の治療でこの国に来たと思っている。
 自分の身代わりが生贄になっていることも知らない。
 そして、生贄の印が身代わりに移った今、王子は完全に元気になっている。レンが作った身代わりは病気の身代わりだと思っている。

 今の王子はイリアと先生の状況を把握しきれていないが、イリアと会えばすべてを知ってしまうだろう。
 母親は病気でなく、殺された。
 三男のアルスだけが王子として父親に迎え入れられたこと。
 俺が王子をずっと騙していたことも。


 王子がレンと会っていなければ、今はない。
 王子が生き続ける未来は、レンがいなければありえなかった。
 王子の身代わりを用意できる人間なんて他にはいないのだから。

 いつか、王子に恨まれようとも。
 これだけは言える。王子が生きていてくれて良かった、と。
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