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19章 儚く散っていく
19-7 万能 ※ククー視点
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◆ククー視点◆
聖都の屋敷について多少の騒動があったが、ヴィンセントが俺のいるこの屋敷にレンを放置するわけがない。
なんだかんだ言ったとしても、最初からの予定調和。
俺自身はヴィンセントがノエル家の実家で暮らしてもらっても別に構いはしなかったんだが。
夕食時にはレンとヴィンセントはいつも通りの仲に戻っていた。
俺に対してはヴィンセントは渋い顔をしていたが。
さて、翌朝。
「俺の認識がおかしいのか?お前ら、台所に居座るな」
料理長が鍋をお玉でかき回しながら俺たちに言った。
と言いながらも、珈琲を差し出してくれる。王子のために用意したはずのミルクが、レンにかなりの量を使われている。今度から珈琲出すならカフェオレとかカフェラテにしろ。もしかして、だからレンは紅茶派なのか?砂糖は入れてないけど。
レンが台所に来ているから、俺も台所にいる。勉強部屋があるはずの王子もここでノートを広げている。本日はオオが教師だ。語学の勉強してる。。。人語を発音できないのに?
ヴィンセントはノエル家の馬車に連れ去られた。
クレッセの命令によって、教会へ強制連行された形だ。たぶん毎日連れ去られるだろう、休日なく。
門は魔法による自動開閉だが、必要な者はきちんと通す便利な機能持ちだ。
「そういや、レン、屋敷のお披露目会はどうする」
「やらなきゃダメか?」
「アンタは冒険者で神聖国グルシアの人間じゃないから大々的なものは必要ないだろうし、ご近所には挨拶の品を持って行ってもらったが、内輪だけのものはやった方が良いんじゃないか?ノーレンさんなんか首を長くして待っているだろ」
うんうん頷く料理長。使用人の中でこの人だけには守秘義務の魔法をかけていない。
レンの信頼と実績の証、というわけではない。面倒だからノーレンさんに報告することは報告して良いよ、まあ、言っちゃいけないことは選択できるよねー、やや脅しのレンのにこやか笑顔を添えて、というわけである。
うん、面倒だからね、あの人。。。漏らすことは漏らしてもらわないと。
「でもさあ、招待しないのに、大神官長が来そうな気がするのは何でだ?」
レンが俺を見た。何ででしょうね。
「自動開閉の門を信頼したら?」
「そんなことしたらアイツは絶対に大神官長の馬車で来る。そんな馬車を門前に放置したら、周りからこの家は何だと思われるんだろう。道に落とし穴でも掘るか」
「公道に落とし穴掘るんじゃないぞー」
レンだと普通にできるから、制止しておかないとな。
「それならいっそのこと招待してやれば?内輪な会のため明記されたドレスコードを守らなければ永遠にこの屋敷に辿り着けないとか書いて」
料理長がやや呆れ気味に提案した。コレはどこかの困ったちゃんを経験済みだな。
お忍び用の馬車とか、普段の神官服着用とか、そんなところか。護衛人数も限った方が良いだろうか。
「ノーレンさんちは公式なお披露目会もやったんだろう。どうだった?」
レン、だらけた感じであまり興味なさげに聞くのはおやめなさい。
「ああ、さすがに現役じゃないから大神官長は来なかったが、ある程度の人物は挨拶に来た。狸どもの騙し合いだよ」
「そーなるよなー」
貴族はそれだから嫌なんだ、と顔に書いてある。
神聖国グルシアには貴族はいない。が、神官を数多く出す上流階級の家が存在するので明確な区分はないが貴族みたいなものだ。神官を多く出すということはそれだけのお金を教会につぎ込んでいるということだ。さらに大神官、大神官長を多く生み出せば、それだけその家には権力が集中する。
神官を一人以上生み出した家こそが、この神聖国グルシアの聖都の一等地にいると言っても過言ではない。ただ一人だけだとそれを維持するのは難しい。
大教会につながる大通りやその周辺の通りには多くの店が並ぶが、それらの店は一等地に屋敷をかまえるどこかの家が牛耳っている。どんな大商人であろうとも金を積んだからといっておいそれと購入できるわけではない。
レンの屋敷は一等地も一等地の大教会から一等地と呼ばれる端までの、中間よりやや遠目かなという位置にある。
いきなり居を構えても、ご近所からは危険視されず、さほど重要視されない良い場所だ。
ヴィンセントのように聖都の屋敷の価値を知っている者にとっては取るに足らない場所となるが。
ノエル家に依頼しても、実家のノエル家を超える屋敷は用意されない。ヴィンセントはその事実を正確に把握しているだろうか。彼はどう考えても大神官長の屋敷を譲られるこそが、一番のレンの価値を示していると思っている。確かにそれが一番なのだが、それは神聖国グルシアにとっての一番であって、レンの希望とはかけ離れるものだ。
この聖都に住む者なら誰もが羨む一等地の大神官長の屋敷。
レンはそれを簡単に断って見せる。
それは守りたいものが明確だからだ。
「仕方ないから、最小限の範囲内でお披露目会をやるしかないかー」
「そうしてくれると助かる。料理はこっちで考えておくからさ」
料理長がノーレンさんにどれだけ急かされているのかわかるような言葉だ。
この人を雇って良かったな。雇ってないと、直接ノーレンさんかその執事が俺の元にやってきて要求していくのだろうから。。。
レンは聖都では特に活動することがない。
買い物、観光、ノーレンさんちに顔を出すぐらいなものだ。
教会や冒険者ギルド、薬師ギルド等々レンに興味ある者は多いのだが。
俺も基本的に教会での急ぎの仕事がなければ、レンが聖都にいる限り一緒に行動することを許してもらっている。
ヴィンセントが大神官への道を歩むので教会で仕事が大量に降ってくるのとは違い、俺は割と自由だ。
聖教国エルバノーンにレンが英雄姿で最凶級ダンジョンに行くことも減った。あの国はこれから段々と最凶級ダンジョンの数が増えていく。
シアリーの街やダンジョンに行く回数もそれほど多くない。
そんな今、レンが台所で思案していることはお披露目会のことではない。
書類を書き書きしている。
「めんどい。挫折しそう」
と言いながらも、書き続けている。
レンが書いているのは、王子の学園への編入手続き書類である。
角ウサギたちに王子は家庭教師をしてもらって学力には問題ない。問題ないどころかそこら辺の上級階級の令息令嬢を超えている。角ウサギたちは英雄の知識をそれぞれ分野ごとに割り振られているため、そこら辺の家庭教師よりもレベルが高い。というわけで、王子は今まで人との付き合いが制限されていたため、同じくらいの年齢の子と交流関係を広める方が良いとの判断からだ。
そして、王子も学校に通いたいと希望した。
聖都の一等地に住む上流階級の子供はほとんどが家庭教師がついて勉強しており、一等地にある上流階級のための学校へ行くのは成人前の二年間だけである。
神官になりたい者は聖都の一等地にある神官学校にそれよりも長期で通うことになる。
一等地と呼ばれる境目以降の子供やその家の仕事に関係ないとされた子供たちは、一等地に近い二等地にある学園に幼い頃から通わせる。上流階級は子供も多いので、その子のために家庭教師を雇うほどではないと判断されたり、雇う金がない場合にその学園に通わせるとされている。
一等地から通う子供たちには親が自分に家庭教師を雇わなかったという劣等感がつきまとう。けれど、二等地以降から来る子供たちは彼らを羨望の眼差しを向ける。かなり複雑な人間関係になる。
その学園はそれなりに教育水準は高いし、知人の幅を広げるには良いのだろうが、本当の上流階級の子供が通うことのない学園だ。
王子が通うとなると、この屋敷の位置は一応通える範囲だろう。
ここよりも中心地に近いと、いくら兄弟姉妹が多くとも家庭教師すらも雇えない家だと、聖都の上流階級として恥ずべき行為だと裏で言われる。
これ以外にも聖都は住むには様々な制約の多い土地だ。ノーレンさんのように隠居で住むならまだマシな土地だと思うが、現役バリバリの人間が他国から移り住むにはかなり面倒なのである。
面倒なことが大嫌いなレンがこの屋敷を購入したのだから、我々は愛されているなー。
「、、、何枚同じこと書かせるんだ」
レンは書類書きが苦手なのかな?いや、効率が悪い書類が大嫌いなだけの感じである。繰り返し少しだけ異なった長い文章を書かされると嫌になるだろう。
「あ、そうだ」
レンが収納鞄から英雄のギフトの長剣を取り出した。レンは書くことが見えているかのように速やかに書類を仕上げていく。。。戦い以外に使えるんだね、それ。。。
長剣に入ったとはいえ、レンが言っていた万能のギフトだしね。。。
聖都の屋敷について多少の騒動があったが、ヴィンセントが俺のいるこの屋敷にレンを放置するわけがない。
なんだかんだ言ったとしても、最初からの予定調和。
俺自身はヴィンセントがノエル家の実家で暮らしてもらっても別に構いはしなかったんだが。
夕食時にはレンとヴィンセントはいつも通りの仲に戻っていた。
俺に対してはヴィンセントは渋い顔をしていたが。
さて、翌朝。
「俺の認識がおかしいのか?お前ら、台所に居座るな」
料理長が鍋をお玉でかき回しながら俺たちに言った。
と言いながらも、珈琲を差し出してくれる。王子のために用意したはずのミルクが、レンにかなりの量を使われている。今度から珈琲出すならカフェオレとかカフェラテにしろ。もしかして、だからレンは紅茶派なのか?砂糖は入れてないけど。
レンが台所に来ているから、俺も台所にいる。勉強部屋があるはずの王子もここでノートを広げている。本日はオオが教師だ。語学の勉強してる。。。人語を発音できないのに?
ヴィンセントはノエル家の馬車に連れ去られた。
クレッセの命令によって、教会へ強制連行された形だ。たぶん毎日連れ去られるだろう、休日なく。
門は魔法による自動開閉だが、必要な者はきちんと通す便利な機能持ちだ。
「そういや、レン、屋敷のお披露目会はどうする」
「やらなきゃダメか?」
「アンタは冒険者で神聖国グルシアの人間じゃないから大々的なものは必要ないだろうし、ご近所には挨拶の品を持って行ってもらったが、内輪だけのものはやった方が良いんじゃないか?ノーレンさんなんか首を長くして待っているだろ」
うんうん頷く料理長。使用人の中でこの人だけには守秘義務の魔法をかけていない。
レンの信頼と実績の証、というわけではない。面倒だからノーレンさんに報告することは報告して良いよ、まあ、言っちゃいけないことは選択できるよねー、やや脅しのレンのにこやか笑顔を添えて、というわけである。
うん、面倒だからね、あの人。。。漏らすことは漏らしてもらわないと。
「でもさあ、招待しないのに、大神官長が来そうな気がするのは何でだ?」
レンが俺を見た。何ででしょうね。
「自動開閉の門を信頼したら?」
「そんなことしたらアイツは絶対に大神官長の馬車で来る。そんな馬車を門前に放置したら、周りからこの家は何だと思われるんだろう。道に落とし穴でも掘るか」
「公道に落とし穴掘るんじゃないぞー」
レンだと普通にできるから、制止しておかないとな。
「それならいっそのこと招待してやれば?内輪な会のため明記されたドレスコードを守らなければ永遠にこの屋敷に辿り着けないとか書いて」
料理長がやや呆れ気味に提案した。コレはどこかの困ったちゃんを経験済みだな。
お忍び用の馬車とか、普段の神官服着用とか、そんなところか。護衛人数も限った方が良いだろうか。
「ノーレンさんちは公式なお披露目会もやったんだろう。どうだった?」
レン、だらけた感じであまり興味なさげに聞くのはおやめなさい。
「ああ、さすがに現役じゃないから大神官長は来なかったが、ある程度の人物は挨拶に来た。狸どもの騙し合いだよ」
「そーなるよなー」
貴族はそれだから嫌なんだ、と顔に書いてある。
神聖国グルシアには貴族はいない。が、神官を数多く出す上流階級の家が存在するので明確な区分はないが貴族みたいなものだ。神官を多く出すということはそれだけのお金を教会につぎ込んでいるということだ。さらに大神官、大神官長を多く生み出せば、それだけその家には権力が集中する。
神官を一人以上生み出した家こそが、この神聖国グルシアの聖都の一等地にいると言っても過言ではない。ただ一人だけだとそれを維持するのは難しい。
大教会につながる大通りやその周辺の通りには多くの店が並ぶが、それらの店は一等地に屋敷をかまえるどこかの家が牛耳っている。どんな大商人であろうとも金を積んだからといっておいそれと購入できるわけではない。
レンの屋敷は一等地も一等地の大教会から一等地と呼ばれる端までの、中間よりやや遠目かなという位置にある。
いきなり居を構えても、ご近所からは危険視されず、さほど重要視されない良い場所だ。
ヴィンセントのように聖都の屋敷の価値を知っている者にとっては取るに足らない場所となるが。
ノエル家に依頼しても、実家のノエル家を超える屋敷は用意されない。ヴィンセントはその事実を正確に把握しているだろうか。彼はどう考えても大神官長の屋敷を譲られるこそが、一番のレンの価値を示していると思っている。確かにそれが一番なのだが、それは神聖国グルシアにとっての一番であって、レンの希望とはかけ離れるものだ。
この聖都に住む者なら誰もが羨む一等地の大神官長の屋敷。
レンはそれを簡単に断って見せる。
それは守りたいものが明確だからだ。
「仕方ないから、最小限の範囲内でお披露目会をやるしかないかー」
「そうしてくれると助かる。料理はこっちで考えておくからさ」
料理長がノーレンさんにどれだけ急かされているのかわかるような言葉だ。
この人を雇って良かったな。雇ってないと、直接ノーレンさんかその執事が俺の元にやってきて要求していくのだろうから。。。
レンは聖都では特に活動することがない。
買い物、観光、ノーレンさんちに顔を出すぐらいなものだ。
教会や冒険者ギルド、薬師ギルド等々レンに興味ある者は多いのだが。
俺も基本的に教会での急ぎの仕事がなければ、レンが聖都にいる限り一緒に行動することを許してもらっている。
ヴィンセントが大神官への道を歩むので教会で仕事が大量に降ってくるのとは違い、俺は割と自由だ。
聖教国エルバノーンにレンが英雄姿で最凶級ダンジョンに行くことも減った。あの国はこれから段々と最凶級ダンジョンの数が増えていく。
シアリーの街やダンジョンに行く回数もそれほど多くない。
そんな今、レンが台所で思案していることはお披露目会のことではない。
書類を書き書きしている。
「めんどい。挫折しそう」
と言いながらも、書き続けている。
レンが書いているのは、王子の学園への編入手続き書類である。
角ウサギたちに王子は家庭教師をしてもらって学力には問題ない。問題ないどころかそこら辺の上級階級の令息令嬢を超えている。角ウサギたちは英雄の知識をそれぞれ分野ごとに割り振られているため、そこら辺の家庭教師よりもレベルが高い。というわけで、王子は今まで人との付き合いが制限されていたため、同じくらいの年齢の子と交流関係を広める方が良いとの判断からだ。
そして、王子も学校に通いたいと希望した。
聖都の一等地に住む上流階級の子供はほとんどが家庭教師がついて勉強しており、一等地にある上流階級のための学校へ行くのは成人前の二年間だけである。
神官になりたい者は聖都の一等地にある神官学校にそれよりも長期で通うことになる。
一等地と呼ばれる境目以降の子供やその家の仕事に関係ないとされた子供たちは、一等地に近い二等地にある学園に幼い頃から通わせる。上流階級は子供も多いので、その子のために家庭教師を雇うほどではないと判断されたり、雇う金がない場合にその学園に通わせるとされている。
一等地から通う子供たちには親が自分に家庭教師を雇わなかったという劣等感がつきまとう。けれど、二等地以降から来る子供たちは彼らを羨望の眼差しを向ける。かなり複雑な人間関係になる。
その学園はそれなりに教育水準は高いし、知人の幅を広げるには良いのだろうが、本当の上流階級の子供が通うことのない学園だ。
王子が通うとなると、この屋敷の位置は一応通える範囲だろう。
ここよりも中心地に近いと、いくら兄弟姉妹が多くとも家庭教師すらも雇えない家だと、聖都の上流階級として恥ずべき行為だと裏で言われる。
これ以外にも聖都は住むには様々な制約の多い土地だ。ノーレンさんのように隠居で住むならまだマシな土地だと思うが、現役バリバリの人間が他国から移り住むにはかなり面倒なのである。
面倒なことが大嫌いなレンがこの屋敷を購入したのだから、我々は愛されているなー。
「、、、何枚同じこと書かせるんだ」
レンは書類書きが苦手なのかな?いや、効率が悪い書類が大嫌いなだけの感じである。繰り返し少しだけ異なった長い文章を書かされると嫌になるだろう。
「あ、そうだ」
レンが収納鞄から英雄のギフトの長剣を取り出した。レンは書くことが見えているかのように速やかに書類を仕上げていく。。。戦い以外に使えるんだね、それ。。。
長剣に入ったとはいえ、レンが言っていた万能のギフトだしね。。。
応援ありがとうございます!
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