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19章 儚く散っていく

19-5 凄さ ※ノエル家紹介の使用人視点

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◆ノエル家紹介の使用人視点◆

 で、昼前に旦那様、ククール様、キイ様がこの屋敷に着いた日のこと。
 旦那様とキイ様とは初顔合わせだ。
 旦那様をレン様と呼ぶようになり、レン様があの料理長と意気投合している。レン様はアスア王国の英雄といえども冒険者。フランクな態度が好みらしい。使用人が呼び捨てで呼ぶのは気が引けるどころの騒ぎではないが。

「ああ、ノーレン前公爵が抱えている私兵団も使用人も一筋縄ではいかない人間たちばかりだ。祖国から連れてきた者はかなりの爵位持ちもいる。ノーレン前公爵に惚れて、祖国の地位も捨ててアスア王国についてきた者たちであり、彼らに教育を受けた子供たちも曲者揃いだ。普通に仕事をしていたら取って食うわけでもないから、アイツらは放っておけ」

 ククール様から説明が入った。
 うおっ、何それ。
 本当なら使用人を携えている側の人間なわけだ。レン様を気軽に呼び捨てにできるわけだ。俺、料理長と気軽に話していて良いのかな?アディ家からの二人とはまだまだ壁があり事務連絡以外は話したことがないので、料理長としか話せないんだけど。




 この屋敷は一階が玄関、待合室、簡易応接室、食堂、台所、使用人部屋等が並ぶ。二階が客を迎えるのに最適な広間、応接室、客室、そして、レン様が使用するはずの執務室、書斎、キイ様の勉強室が中心である。三階は寝室が並ぶ。その配置は主寝室がレン様、普通ならその妻が入る隣の部屋がヴィンセント様、この二部屋は中で扉で繋がっている。他にキイ様、ククール様の寝室がある。部屋はそれなりに余っているが、そこまで広い屋敷ではないので掃除は楽だ。
 ノエル家の屋敷は相当広く、兄弟姉妹の人数も多く、訪れる客も少なくなく、使用人の数もそれ相応に多かったので管理は大変だった。役割分担された仕事でさえ忙しかった。しかも、魔力が強い一家なので、魔術の練習や兄弟喧嘩で頻繁に物を壊された。コレ、俺の給料何年分?といった高価な物が壊されることも多かった。
 この屋敷では使用人は四人、一人は料理人なので、三人で屋敷内の管理をする。深く狭くではなく、浅く広く全体的にやらざる得ない。困ったことに使用人頭がいないので、指示命令系統としてトップから直接指示が来ることになってしまう。クレッセント様から呼ばれただけでもビクビクしていた俺なのに。自分で考えて行動しろってことなんだけど。

 お引越しの荷物はすべて搬入済みだ。すでに生活するのに問題ない状態になっている。ちなみに使用人のもすべて終了している。
 だが、この屋敷には絵画やら置き物やらの飾りがない。屋敷を購入したばかりだから何もないのか、飾らない主義なのかは判断がつかない。掃除は簡単だが、魔術でやるのであろうがなかろうがさほど変わりはない。

「あー、そういうの飾った方が良いのかなー?」

 後ろから話しかけられた。
 あれ?俺の思考読まれた?いや、何もない廊下の壁を見ていたからきっと表情を読まれたんだろう。

「レン様、第三者は屋敷だけを見て判断しますが、訪問客は内部の装飾品を見て判断される方も多いようです。三階はともかく、玄関付近と二階あたりには何か配置されてもよろしいかと」

「へえ、じゃあ冒険者らしく剣とか盾とか槍とか並べた方がわかりやすいかな」

「わかりやすいとは思うが、さり気に主張するぐらいでちょうどいいと思うぞ。ほら、このぐらいで」

 ククール様が出てきて、俺に剣やら盾やら槍とかを渡してきた。レン様の考えを先回りして読んできている。。。

「それ、ギバ共和国で買って来たものかー。ククーにあげたやつじゃん」

「向こうで寝かせておくより飾っておく方が良いだろ。まだまだあるから、欲しいって言って来た馬鹿には気前よくあげろ」

 ククール様も口が悪いな。

「馬鹿にあげるのはもったいない気もするが、それぐらいの購入金額か」

 剣を見ると刃は潰してある。飾りの剣か。屋敷の装飾品としては申し分ない。しっかし、この剣もそれなりの金額がするはずなのだが、それぐらいの購入金額かと言えてしまえるのはすごい。

「飾るくらいなら、僕が欲しいー」

 キイ様も廊下に出てきた。振り回すしぐさをしているので、剣を持ちたいのだろう。少年時代、俺も剣に憧れたものだが、この国ではあまり剣士は重要視されていない。教会の護衛になろうと志しても剣だけでは軽んじられる。魔術魔法が使えないとかなり厳しい。
 可愛い角ウサギ四匹も王子の後ろからついてきている。

「うーん、王子はまず木剣を軽々振り回せる筋力をつけないと難しいだろうな」

 この辺りは英雄であり冒険者なんだろう。武器を持たせるにはそれ相応にカラダも鍛えなければならないということか。

「木剣じゃ何も切れないよー」

「え?切れるぞ?」

 うん?
 あれ?レン様、何言ってるの?
 ククール様が諦めのため息を吐いている。
 レン様の、俺を見て何でお前は首を傾げているんだっていう表情は何?
 え?俺の認識の方がおかしいの?

 レン様が収納鞄から木剣を取り出した。

「レン、ここで振り回すな。庭に出ろ」

 ククール様がとめた。
 とめて正解だと、庭に出てわかった。
 木を一本、木剣でぶっ倒した。。。マジか。。。
 なるほど、コレが英雄の力か。

 その木剣を見せてもらったが、打撃にしか使えないものだ。指をどんなに擦ろうと全然切れない。横にある木に勢いよく木剣を打ち付けてみたら、簡単に弾き返された。
 俺の次にキイ様も振り回した。そりゃ、試してみたくもなるか。
 キイ様はすぐにへろへろになった。この木剣は意外と重い。子供たちが遊ぶような軽い木剣ではなく、鍛えるためのしっかりとした木剣である。

 あ、倒された木をどうにかしなければ、と横を見ると。
 角ウサギたちがもしゅもしゅ食べていた。

「あ、切り株の方の根っこの部分も忘れずに食べてくれ」

≪了解ー≫

 光の文字で耳が垂れている角ウサギがレン様に返事をした。
 木が一本、葉や枝だけでなく幹まで見る間になくなっていく。割と太い木だったのに。姿形がなくなるのも時間の問題だった。
 美味しそうに食うなー。

「アンタは食事のナイフでも木を切りそうで怖いよ」

「ナイフだと長さが足りないからなー。魔法も使っていいなら可能だぞ」

 規格外だな。
 倒木の騒音でご近所の使用人が数名確認に来てしまった。細木だったら何の反応もはなかったのだろうが。




 耳の垂れた角ウサギが目を細めてのんびり庭で日光浴をしていた。ほんの少し耳が大きいのや小さいのは庭を駆けずり回っている。庭が嬉しいのかな。

「超可愛いなー」

≪あら、そう、ありがと≫

 光の文字で返事までしてくれる。
 そういやポケットに飴が入っていた。包み紙を取り出すと。
 じーっと角ウサギが見ている。

「食べるか?」

 うんうんと頷く角ウサギ。
 包み紙を外して、口に入れてやる。

≪甘くておいしいわねー。たまにはお菓子も良いわねー≫

「お菓子も食べて大丈夫なんだな。食べられないものはないのか?」

≪私たちは雑食だから、草だけじゃなく肉でも魚でも何でも食べちゃうわよー。食べ物なら何でもありがたく貰っちゃうわよー。で、後ろ後ろ≫

「え?」

 俺が振り返るとそこには、何で一匹だけにイイモノ与えているのー?もちろんくれるんだよねー?という目をした角ウサギ二匹がいた。

 ううっ、身ぐるみ剥がされるかと思った。
 タレタがレン様の従魔を紹介してくれた。庭にいない一匹はキイ様とのお勉強タイムなのだそうな。。。
 今は手のひらサイズだが、普段は抱き心地の良いぬいぐるみサイズになるそうだ。レン様が魔力で大きさを調整しているらしい。

「へえ、すごいなー」

 素直に感心。

≪私たち四匹は主の従魔だけど、他のは臣下だから気をつけてね≫

「え?」

≪臣下だから≫

 重要だから二度言った???




 この職場、なかなか面白いんじゃないかと思えた日の夕方、ヴィンセント様もこの屋敷に着いた。
 実は、俺はノエル家の使用人と言えどもヴィンセント様とはあまり関わりがない。クレッセント様と同じ神官になるため、神官学校の寮に入ってしまったし、俺より年齢が少し上のヴィンセント様と話す機会は幼少期にもほとんどなかった。
 ヴィンセント様が神官になって実家に戻ってきた頃には、俺は別の兄弟担当になっていたので、俺を認識しているかさえ謎である。

 そこで、玄関の騒動。


 ヴィンセント様ーーーーーっ。


 と、叫ばなかった俺を褒めてあげたい。
 三人の使用人ももちろん玄関にいた。
 レン様が本当に悲しそうにしていた。

 俺でさえレン様の凄さを認識できていたのに。
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