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18章 綻びの春
18-7 緩やかに ※ビスタ視点
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◆ビスタ視点◆
寒さが緩んできた。
もう神聖国グルシアでも春の扱いだ。
春だが、レンはまだ冬眠中だ。
なかなか冒険者ギルドに出てきてくれない。
一週間に一度は冒険者ギルドに顔を出すという約束はすでにどこかへ行ってしまった。
だが、夕方になって、ようやくレンも冒険者ギルドにやって来た。
聖教国エルバノーンから人形遣いの爺さん一家が、ここ神聖国グルシアのシアリーの街に到着した。
ルルリが超喜んで母親に抱きついていた。旦那さんと爺さんが手持無沙汰だ。まあ、爺さんは爺さん人形でルルリのそばにいたのだから両親に譲れ。
嬉しく笑うルルリを見たリンカが涙ぐんでいた。
「良かったねー、ルルリちゃん」
「そうだなー」
棒で答える。
俺もイーゼンもセンリも同じ気持ちだと思うぞ。
お前はルルリの何なんだ?
爺さん一家はしばらくの宿屋はルルリと同じところを取る。それから先は、たぶん一家でシアリーの街から離れることになるだろう。彼らは聖教国エルバノーンの人間だ。通常ならば入国許可が簡単に下りるわけがない。
レンは今後どうする気だろう。神聖国グルシアの建国祭の後は本拠地を聖都に移してしまうのだろうか。
「ほい、ビスタ」
レンが何か小さいものをつまんで俺の手にのせた。
「何だ、これ?」
「爺さんに持たせていた塔の置き物のミニミニダンジョンであるミニちゃんが生み出したマメキチ、ルルリの母親が命名した」
「神官殿のピアスの飾りに似てる気がするけど」
小さい小さい極小サイズの塔の置き物、なくさないためにはキーホルダーとかにするのが良い気がするけど。
「ミニちゃんが生み出したのは良いけど、自分自身にマメキチを回収できなくなったというオチになった。ミニちゃんが背負っていたり、頭にのせていたりしていたけど、動きが制限されるから、俺が里子に出すことに決めた」
俺に預けることに決めた、ってことね。
手にのせたちっこいのがお辞儀しているようにも見える。そして、爺さんが持っている塔の置き物が嘆き悲しんでいるように見える。アレがミニちゃんか。。。親は里子に出すことを反対している様だぞ。
「まだまだやれることは少ないけど、連絡は取れる。身近な人物を見て勝手に成長していくから気をつけろ。爺さんのところのミニちゃんは爺さんに似てしまった」
なんか爺さんに似ることを歓迎していない口ぶりだね。
「それを言うなら、マメキチは俺に似るんじゃないか」
「残念になりそうで悲しい。是非とも反面教師にしてほしい」
正直な感想を本人に言うな。
「が、ビスタ、お前は俺と連絡を取りたいときに取りたいんだろ」
「じゃあ、神官殿のように左耳ピアスの飾りにするのはどうだ?」
レンがものすごく嫌そうな顔をしている。
俺がアスア王国の慣習を知らないと思うのか。
その顔、俺も傷つくぞ。神官殿は良くて俺はダメなのか。
「マメキチはミニちゃんから生まれたから、ククーのピアスのように大人しくしていない。すでにある程度の性格づけがされてしまっている。細い鎖をつけてやるから、マントをとめたり、アクセサリーとして身につけろ」
ヤレヤレ感を醸し出すな。
「独り立ちできて良かったなー、マメキチ」
レンが言うと、マメキチは喜んでいるようだ。外見は何も変わっていないのだが、なんとなく俺にもわかる。が、その親は子離れしていなさそうだぞ。
レンがチェーンをつけて俺のマントをマメキチでとめた。
そう、春になっても神聖国グルシアは寒い。まだまだマントの季節だ。
爺さんなんかは、春?何を言っているんだ、コレはまだまだ冬だろ、と言いたげだ。爺さん人形を通してじゃ寒さなんか伝わらなかったようだ。
これでも神聖国グルシアでは春なんだ。これを春と言い張らないと春という季節がないのだ。
「これでお前が聖都に行っても連絡が取れるな」
「俺の冒険者としての本拠地はシアリーの街のままだけどな」
「、、、は?」
「俺のダンジョンがシアリーの街の近くにあるのに、聖都で冒険者をやるわけがないだろう」
住まいは聖都、職場はシアリーの街なのか?
普通の人間には不可能なことだ。レンは普通の人間じゃないからなー。
自覚あるのかな?
「じゃあ、まだまだシアリーの街にいるのか」
「お前こそ、聖都の本部に呼ばれているのではないのか」
今はレンという大義名分がシアリーの街にいる。ギルド長なんかは英雄を野放しにしておくなと俺に口酸っぱく言っている。
レンの住まいが聖都に移ったら、俺にも聖都に移れと言うだろう。レンの場合、冒険者をシアリーの街でやると言っても、週に一回でも街に来ればいい方だ。聖都の方での出現率が高くなれば、俺に対するギルド長からの圧は高くなる一方だろう。
イーゼンとセンリがリンカを抑えている。
ルルリやその家族に迷惑をかけないように。
仲間三人は俺がシアリーの街からいなくなったら今後どう動くだろうか。
「、、、お前はまた残念なことをやろうとしているのか?今度はきちんと話し合え」
メイサ嬢との二の舞を踏まないように、仲間と向き合え。
レンの目が忠告してくれた。
宿屋の食堂で、ルルリの家族歓迎会が適当に開催された。
自由参加である。
宿泊しているのが大部分が冒険者なので、何でも騒ぎたいのだ。
ただ今回、食堂からは一品多めの夕食が提供された。珍しいこともあるものだ。
盛り上がるための酒代は自分持ちなのだが、レンが酒を一樽持って来た。早い者勝ちである。クセがある酒で飲む者を選びそうだが、宿泊している冒険者たちは喜んで飲んでいる。食堂に入り切らない者たちはグラスだけ借りて先に酒を飲んでいる。
「レンも食べていくのか?束縛さんは平気なのか?」
レンがシアリーの街で夜も行動していると心配になる。
冒険者に厳しい門限がある謎。
しかも、レンは英雄で、大の大人である。
束縛さんはレンを信用していないのか。。。行動を信用してないのか?
「夕食は作ってきたし、角ウサギたちもいる。爺さんたちがこの街に来た歓迎会だから、参加しないと爺さんが拗ねるだろ。そっちの方が面倒だ」
その通りだ。
ルルリは両親と一緒のテーブルで食事をして嬉しそうだ。家族団欒。
その横のテーブルのリンカは少し悲しそうだが。いつもルルリと同じテーブルで食事していたからな。リンカと共にイーゼンとセンリも同じテーブルだ。
で、爺さんは俺たちの前に座っている。ルルリとせっかく会えたのにー、と嘆いている。塔の置き物のミニちゃんと一緒に飲んで嘆いている。ああ、ソックリだ。レンが言った通りこいつらソックリだ。
マメキチはテーブルの上にちょこんと俺の近くにいる。小さくとも酒は飲むらしい。ミニちゃんと違って、小匙一杯ぐらいのものだが。
爺さんは爺さん人形を通してルルリとは会えていたんだから、団欒の時間は両親に譲れ。
「英雄よー、儂もあっちの席に座りたいんじゃが。ルルリと仲睦まじく食事がしたいんじゃが」
「爺さんは今まで人形でルルリのそばにいたんだから、ちったあ気を使え。これから先はずっと一緒にいるんだろうが」
レンも俺と同じことを考えている。
「それもそうだがー」
「そういや、爺さんがこっちに来たということは、聖教国エルバノーンの最凶級ダンジョンの英雄活動は?」
レンが英雄姿で活動する国として聖教国エルバノーンを選択したのは、爺さんがいるからだった。そして、今は英雄出現の噂は聖教国エルバノーンに集中している。
アスア王国が聖教国エルバノーンの英雄の噂は真実ではないと公式発表したにもかかわらず、他国から聖教国エルバノーンに訪れる要人は少なくならない。
「しばらくしたら縮小方向で考えている」
「そうか」
それが意味しているところを察せない俺ではない。
「もうそろそろ建国祭か」
「八年に一度の大祭だからな。この街でも盛大に祝う。聖都の方がさらに賑やかだが」
「いや、人込みは遠慮する」
このとき俺はレンだからな、としか思わなかった。
寒さが緩んできた。
もう神聖国グルシアでも春の扱いだ。
春だが、レンはまだ冬眠中だ。
なかなか冒険者ギルドに出てきてくれない。
一週間に一度は冒険者ギルドに顔を出すという約束はすでにどこかへ行ってしまった。
だが、夕方になって、ようやくレンも冒険者ギルドにやって来た。
聖教国エルバノーンから人形遣いの爺さん一家が、ここ神聖国グルシアのシアリーの街に到着した。
ルルリが超喜んで母親に抱きついていた。旦那さんと爺さんが手持無沙汰だ。まあ、爺さんは爺さん人形でルルリのそばにいたのだから両親に譲れ。
嬉しく笑うルルリを見たリンカが涙ぐんでいた。
「良かったねー、ルルリちゃん」
「そうだなー」
棒で答える。
俺もイーゼンもセンリも同じ気持ちだと思うぞ。
お前はルルリの何なんだ?
爺さん一家はしばらくの宿屋はルルリと同じところを取る。それから先は、たぶん一家でシアリーの街から離れることになるだろう。彼らは聖教国エルバノーンの人間だ。通常ならば入国許可が簡単に下りるわけがない。
レンは今後どうする気だろう。神聖国グルシアの建国祭の後は本拠地を聖都に移してしまうのだろうか。
「ほい、ビスタ」
レンが何か小さいものをつまんで俺の手にのせた。
「何だ、これ?」
「爺さんに持たせていた塔の置き物のミニミニダンジョンであるミニちゃんが生み出したマメキチ、ルルリの母親が命名した」
「神官殿のピアスの飾りに似てる気がするけど」
小さい小さい極小サイズの塔の置き物、なくさないためにはキーホルダーとかにするのが良い気がするけど。
「ミニちゃんが生み出したのは良いけど、自分自身にマメキチを回収できなくなったというオチになった。ミニちゃんが背負っていたり、頭にのせていたりしていたけど、動きが制限されるから、俺が里子に出すことに決めた」
俺に預けることに決めた、ってことね。
手にのせたちっこいのがお辞儀しているようにも見える。そして、爺さんが持っている塔の置き物が嘆き悲しんでいるように見える。アレがミニちゃんか。。。親は里子に出すことを反対している様だぞ。
「まだまだやれることは少ないけど、連絡は取れる。身近な人物を見て勝手に成長していくから気をつけろ。爺さんのところのミニちゃんは爺さんに似てしまった」
なんか爺さんに似ることを歓迎していない口ぶりだね。
「それを言うなら、マメキチは俺に似るんじゃないか」
「残念になりそうで悲しい。是非とも反面教師にしてほしい」
正直な感想を本人に言うな。
「が、ビスタ、お前は俺と連絡を取りたいときに取りたいんだろ」
「じゃあ、神官殿のように左耳ピアスの飾りにするのはどうだ?」
レンがものすごく嫌そうな顔をしている。
俺がアスア王国の慣習を知らないと思うのか。
その顔、俺も傷つくぞ。神官殿は良くて俺はダメなのか。
「マメキチはミニちゃんから生まれたから、ククーのピアスのように大人しくしていない。すでにある程度の性格づけがされてしまっている。細い鎖をつけてやるから、マントをとめたり、アクセサリーとして身につけろ」
ヤレヤレ感を醸し出すな。
「独り立ちできて良かったなー、マメキチ」
レンが言うと、マメキチは喜んでいるようだ。外見は何も変わっていないのだが、なんとなく俺にもわかる。が、その親は子離れしていなさそうだぞ。
レンがチェーンをつけて俺のマントをマメキチでとめた。
そう、春になっても神聖国グルシアは寒い。まだまだマントの季節だ。
爺さんなんかは、春?何を言っているんだ、コレはまだまだ冬だろ、と言いたげだ。爺さん人形を通してじゃ寒さなんか伝わらなかったようだ。
これでも神聖国グルシアでは春なんだ。これを春と言い張らないと春という季節がないのだ。
「これでお前が聖都に行っても連絡が取れるな」
「俺の冒険者としての本拠地はシアリーの街のままだけどな」
「、、、は?」
「俺のダンジョンがシアリーの街の近くにあるのに、聖都で冒険者をやるわけがないだろう」
住まいは聖都、職場はシアリーの街なのか?
普通の人間には不可能なことだ。レンは普通の人間じゃないからなー。
自覚あるのかな?
「じゃあ、まだまだシアリーの街にいるのか」
「お前こそ、聖都の本部に呼ばれているのではないのか」
今はレンという大義名分がシアリーの街にいる。ギルド長なんかは英雄を野放しにしておくなと俺に口酸っぱく言っている。
レンの住まいが聖都に移ったら、俺にも聖都に移れと言うだろう。レンの場合、冒険者をシアリーの街でやると言っても、週に一回でも街に来ればいい方だ。聖都の方での出現率が高くなれば、俺に対するギルド長からの圧は高くなる一方だろう。
イーゼンとセンリがリンカを抑えている。
ルルリやその家族に迷惑をかけないように。
仲間三人は俺がシアリーの街からいなくなったら今後どう動くだろうか。
「、、、お前はまた残念なことをやろうとしているのか?今度はきちんと話し合え」
メイサ嬢との二の舞を踏まないように、仲間と向き合え。
レンの目が忠告してくれた。
宿屋の食堂で、ルルリの家族歓迎会が適当に開催された。
自由参加である。
宿泊しているのが大部分が冒険者なので、何でも騒ぎたいのだ。
ただ今回、食堂からは一品多めの夕食が提供された。珍しいこともあるものだ。
盛り上がるための酒代は自分持ちなのだが、レンが酒を一樽持って来た。早い者勝ちである。クセがある酒で飲む者を選びそうだが、宿泊している冒険者たちは喜んで飲んでいる。食堂に入り切らない者たちはグラスだけ借りて先に酒を飲んでいる。
「レンも食べていくのか?束縛さんは平気なのか?」
レンがシアリーの街で夜も行動していると心配になる。
冒険者に厳しい門限がある謎。
しかも、レンは英雄で、大の大人である。
束縛さんはレンを信用していないのか。。。行動を信用してないのか?
「夕食は作ってきたし、角ウサギたちもいる。爺さんたちがこの街に来た歓迎会だから、参加しないと爺さんが拗ねるだろ。そっちの方が面倒だ」
その通りだ。
ルルリは両親と一緒のテーブルで食事をして嬉しそうだ。家族団欒。
その横のテーブルのリンカは少し悲しそうだが。いつもルルリと同じテーブルで食事していたからな。リンカと共にイーゼンとセンリも同じテーブルだ。
で、爺さんは俺たちの前に座っている。ルルリとせっかく会えたのにー、と嘆いている。塔の置き物のミニちゃんと一緒に飲んで嘆いている。ああ、ソックリだ。レンが言った通りこいつらソックリだ。
マメキチはテーブルの上にちょこんと俺の近くにいる。小さくとも酒は飲むらしい。ミニちゃんと違って、小匙一杯ぐらいのものだが。
爺さんは爺さん人形を通してルルリとは会えていたんだから、団欒の時間は両親に譲れ。
「英雄よー、儂もあっちの席に座りたいんじゃが。ルルリと仲睦まじく食事がしたいんじゃが」
「爺さんは今まで人形でルルリのそばにいたんだから、ちったあ気を使え。これから先はずっと一緒にいるんだろうが」
レンも俺と同じことを考えている。
「それもそうだがー」
「そういや、爺さんがこっちに来たということは、聖教国エルバノーンの最凶級ダンジョンの英雄活動は?」
レンが英雄姿で活動する国として聖教国エルバノーンを選択したのは、爺さんがいるからだった。そして、今は英雄出現の噂は聖教国エルバノーンに集中している。
アスア王国が聖教国エルバノーンの英雄の噂は真実ではないと公式発表したにもかかわらず、他国から聖教国エルバノーンに訪れる要人は少なくならない。
「しばらくしたら縮小方向で考えている」
「そうか」
それが意味しているところを察せない俺ではない。
「もうそろそろ建国祭か」
「八年に一度の大祭だからな。この街でも盛大に祝う。聖都の方がさらに賑やかだが」
「いや、人込みは遠慮する」
このとき俺はレンだからな、としか思わなかった。
応援ありがとうございます!
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